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第64話 勝負の行方

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快音と共に飛び去った打球はライナーでフェンスに直撃してホームランを逃れた。


ランナーは2人帰って2対0だ。


そして越田に続く5番、6番打者から三振を取りベンチに戻ってくる。


どうせ怒られて代えられると諦めていたが鈴木監督はもはや試合自体がどうでもよくなり、携帯をいじっている。


困り顔の健太を横目に祐輝は「勝手にやろうぜ。」と鈴木監督に聞こえる距離で話していた。


ナインズの攻撃は3人であっさりと終わり、キングスの猛攻が始まる。


祐輝は力投していたがエラーやファアボールが積み重なり1本のヒットでランナーが帰ってくる始末だ。


2回で5対0だ。


中学野球にはコールドといって10点差がつくと強制的に試合を終了されてしまう。


つまりあと5点取られるまでに1点でも取らないと試合が終わる。


しかし祐輝には特に興味もなかった。


マウンド上でじっと見つめるのは越田との第二打席。


第一打席ではフェンス直撃になり勝負はまだ決まっていない。


祐輝はランナーを背負っていると言うのにまたしてもワインドアップで投げ込んだ。


初球は渾身のストレートだ。


越田はフルスイングしたがバットにかすってファールだ。


悔しそうに祐輝を見ると打席の地面を少し蹴って穴を掘るようにしている。


穴を掘り、足をしっかりと固定している。


祐輝のストレートをホームランにするために全力でスイングしなくてはならないからだ。


そして2球目。


ワインドアップから投げられたのはカーブだ。


ふんわりと越田の顔元に来たかと思えば変化して真ん中低めに決まった。


「ストライクッ!」という声がグラウンドに響く中で越田は悔しそうにしていた。


「やっぱあいつカーブ苦手だな。」とマウンド上でつぶやくと健太からのサインに首を振った。


最後はどうしてもストレートで三振を取りたかった。


ツーストライクノーボールで祐輝は渾身のストレートをインコース真ん中へ投げた。


越田もこれでもかというほど力強くスイングすると今まで聞いたこともない様な快音がグラウンドに響き渡り、打球は見事にフェンスを越えた。


完璧なホームランだ。


越田は表情を変える事もなくベースを一周してホームインした。


これで6対0だ。


そしてその後に連打を受けて一点取られてしまったが何とかベンチに戻ってきた。


残すところは3点だ。


だが失笑してしまうほどにナインズの攻撃は一瞬で終わり、速田の圧倒的なピッチングに戦意喪失していた。


キングスの猛攻に備えてマウンドに立つ祐輝はこれが越田との最後の打席になるとわかっていた。


ホームランを打たれたままで試合が終われば越田の勝ちだ。


次で何としても三振を取らなくてはならない。


打順は3番の速田からだ。


健太のサインはカーブを要求している。


しかしここに来て祐輝はカーブのサインに対して首を縦に振った。



「ランナーが出られると邪魔だからなあ。」



越田との勝負にこれ以上の邪魔はいらないと祐輝はカーブで速田を抑えるつもりだった。


ゆったりとしたフォームから投げ込まれたカーブは同じピッチャーである速田でも「おお?」と驚いた表情をしてしまうぐらい変化量が良かった。


あっという間にツーストライクに追い込むと3球目もカーブで勝負した。


速田は何とかバットにかすらせたが内野ゴロになった。


セカンドがあたふたと捕球してギリギリでアウトにできた。


そしていよいよ越田との勝負だ。


打席に入ると越田はバットを祐輝に向かって指している。


これはホームランを予告する行為だ。


ニヤリと笑った祐輝はストレートを全力で投げ込んだ。


快音と共に特大ファールを放ち、2球目も祐輝はストレートを投げた。


バットにかすってバックネットに当たる。


またしてもツーストライクノーボール。


祐輝はマウンド上で悩んでいた。



「ストレートで男らしく勝負するか。 それとも苦手とわかっているカーブで確実に三振取って今日は引き分けにするか。」



そして祐輝はサインにうなずいてゆっくりと振りかぶった。
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