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第42話 進化の冬

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祐輝の中学生活も1年生の冬を迎えた。


学校は冬休みになり、ナインズの練習が連日行われている。




「おーし。 お前ら。 地獄の冬だぞお。 進化するために気合い入れんかい!」



寒い冬でも佐藤コーチは燃えたぎっている。


野球界において冬とはまさに進化の時と言える。


選手達にとってはつまらない季節になる。


野球は冬になるとプレーをしなくなる。


それは怪我をするからだ。


ボールは基本的に触らない。


できてもバッティング練習だ。


ピッチャーが本職の祐輝は走り込みに専念するのだ。




「おーし。 じゃあとりあえず10周走れ。」




甲子園に出場した経験を持つ佐藤コーチ。


エースとして聖地甲子園に立った佐藤コーチは50歳を手前にしても貫禄と屈強な体を保っていた。


太ももは女性の3倍はあるだろうか。




「下半身をみっちり鍛えて速田の様な剛速球投げんかい!」




10時間の練習のほとんどが走り込み。


体幹トレーニングや筋トレを含む地味で過酷なトレーニングだ。


祐輝は休憩の5分間にたまらずボールを触っていた。


白球が愛おしくてたまらない。


ボールを持っておもむろにピッチャーマウンドへ行くと投球動作に入った。


そしてボールを投げた。




「祐輝っ!!!!! てめえコラッ!! こっちこんかい早く!!!!」




佐藤コーチの咆哮とも言える叫び声に驚きながら祐輝は慌ててピッチャーマウンドから走った。


まさに鬼の形相で怒り狂う佐藤コーチは祐輝の胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。


グラウンドは騒然となっている。





「なんで投げた!?」
「そ、その・・・」
「冬には絶対に投げるんじゃねえ!!!!」
「は、はい・・・」
「怪我したらどうするんだコラッ!!!!」





大切な体を思っての怒りだった。


一度怪我をすれば治すのは大変だ。


プロ野球界でも将来を期待されたが怪我に苦しんで引退する選手は大勢いる。


それほど野球での怪我は致命傷なのだ。


日頃からケアをしているプロ選手でさえ怪我はしてしまう。


未発達の体で中学生の祐輝が冬にボールを投げるとはそれほどまでに危険な事だった。





「大切にせんかい。 怪我して野球辞めた奴を何人も見てきたんだぞ。」
「すいません・・・」





特にピッチャーとは9人のポジションの中でも一番肩を酷使するポジションだ。


日頃から肩と肘へのケアは相当なものだ。


試合後、投球練習後のアイシングは必須であり、日常生活でも利き肩を下にして寝ない事やショルダーバッグを利き肩では背負わないなどとかなり神経質なまでに肩を大切にするのだ。


中でも知識のない素人に肩を触られるのは侮辱に等しい。


佐藤コーチはこの様に祐輝に教えてきた。


だからこそ冬にボールを投げてはいけない事を理解していなかった事に佐藤コーチは我慢ならなかった。


ここまで怒るのは祐輝の未来を期待しているからこそだ。




「お前を育てる責任がある。 野球人として。 俺がナインズのコーチであるかぎり絶対に許さんぞ。」
「はい。 すいませんでした。」




まさに鬼だ。


しかし愛のある鬼だ。


どれだけ厳しくても祐輝を思ってくれている。


考えると嬉しかった。




「祐輝がボール投げた連帯責任でもう10周走らんかい!!」




2年生に睨まれながら祐輝は走る。


中学1年の冬だ。


間もなくクリスマス。


年越しまで後少しだ。
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