青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第27話 チームプレイの大切さ

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地獄の様な合宿初日。


期間はたったの3日間だが永遠にも感じる。


高田コーチの特訓は過酷そのもの。


エルドは小太りのスラッガータイプ。


だからこそ走る事は苦手だった。


ピッチャーで日頃から走っている祐輝は一番にゴールしているがエルドが目標タイムに届かずに何度も何度も走っていた。


回数を重ねればその分疲労が溜まりタイムは悪化する一方だった。




「はあ・・・はあ・・・エルド頑張って走れよ・・・」
「はあ・・・知らねえよ・・・無理だよ・・・」
「ふざけんなよ。 お前のせいでずっと練習に入れねえじゃねえかよ・・・」
「祐輝なにー? 文句? 帰りますか? どうぞー出口はあちらですー!! お疲れ様でしたっ!!!」




祐輝の言葉を聞き逃さなかった高田コーチは更に3人の1年生に無理難題を押し付ける。


高田コーチが甲高い声で叫んだ言葉に祐輝は愕然とする。


それはエルドをおんぶして走れと言うのだ。


疲れているエルドは躊躇する事なく祐輝の背中に覆いかぶさった。




「重てえ・・・」
「はあ・・・あー助かるよ・・・」
「お前ふざけんな・・・」
「チームプレイができない人は野球やらなくて大丈夫でーす!!! 格闘技でもやってください!!!!」




エルドを背負ったまま祐輝はグラウンドの端から端まで走った。


30度の灼熱の中、祐輝は走り切るとエルドを振り下ろす様にして座り込んだ。


すると高田コーチが走ってきて甲高い声で叫んだ。




「座っていいなんて言ってませーん!!! はい走り直し!!」




合宿初日1時間経過。


苛立ちが限界に達した祐輝はエルドの背中を手で押して走った。


顔を上に向けてぜえぜえと荒い呼吸をして走るエルド。


健太はもはや放心状態。


祐輝だけが状況打開に奔走していた。


しかし1時間と少しが経過すると健太は倒れて動かなくなった。




「熱中症だ・・・」
「はーい健太君失格!! お水たくさん飲んでお休みなさいっ!!!」
「や、休めるの・・・」





健太は日陰で濡れたタオルを顔にかけて水を浴びる様に飲んでいた。


その光景を見たエルドは表情が崩れてその場に座り込んだ。


唖然として見ている祐輝は立ち上がらせようとエルドの手を引っ張った。


しかしエルドは動かない。





「ふざけんなって!! 立てよ仮病だろ!!」
「はーいエルド君失格ー!!! お休みなさいっ!!」
「や、やった・・・」
「おーい・・・マジかよお前ら・・・」
「祐輝どうするー? お休みなさいしますかー!?」




たった3人の1年生。


そのうち2人が脱落した今。


祐輝だけがグラウンドの外野に立っている。


2年生と3年生は練習しているのに。


高田コーチの「休む」という言葉が天の救いに聞こえる。


しかし祐輝は首を振った。




「やります。」
「おー珍しいねー!」




当然休みたい。


冷たい水を浴びる様に飲みたい。


しかしそれ以上に。


ここで休めば後悔する。


2年、3年生が練習しながら気の毒そうに見ているし恩師である佐藤コーチも遠くで見ている。


エースになれると言われた。


実の父親には期待もされなかったが初めて期待してくれた。


ここで挫ければ情けないザマだ。


祐輝は小刻みに痙攣する足を懸命に動かした。


外野の草を飛んでいるバッタがなんとも自由で羨ましい。


極限状態の祐輝はバッタにでさえ羨ましさを感じてしまう。




「じゃあ祐輝は1人になったからねー違う特訓でーすっ。」




高田コーチが次に行った特訓は激しく走った前半とは異なり地味で過酷なものだった。


それは捕球姿勢の維持だ。


ボールを捕球する際には中腰より更に腰を落として捕球する。


一瞬の姿勢だがしっかり足腰が鍛えられていないと9イニングという長い野球の試合はこなせない。


試合は1時間以上に渡るのが野球だ。


その長い試合で何度も打球が飛んでくる。


時には1つのエラーで試合の全てが終わる状況だってある。


だからこそ足腰をしっかり消えなくてはいけない。


それが捕球姿勢の維持という地味だが過酷な特訓だ。


走り続けて疲れた足は悲鳴を上げている。




「あああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
「はい頑張ってー! とりあえず5分行こうか!」
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」




灼熱の夏。


蝉の鳴き声が響く長野のグラウンド。


球児達は汗を流して白球を追いかける。


そのグラウンドの隅で1人。


捕球姿勢のまま悲鳴を上げている祐輝の中学1年の夏・・・
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