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第9話 お前は人間じゃねえ

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学校に呼び出された勝と祐輝の親は深刻な顔をしている。


どうして仲良くできないのか。


祐輝と勝もその場にいた。




「どうして喧嘩したの? タイガースの仲間じゃない。」




勝の母親が言った。


すると勝は泣きそうな顔をして母親の腕にしがみついた。


目を細める祐輝はずっと勝を睨んでいた。




「ゆ、祐輝君がいきなり殴ってきたんだ・・・他にも一輝君とかたくさん連れてきた・・・とっても怖かったよママ・・・」
「はあ?」
「ほら。 また怒ってる・・・」
「すいませんうちの子が・・・」




真美は直ぐに謝った。


本当の事は全て勝に作り変えられた。


監督の息子ってだけで勝の言う事は正当化された。


祐一と監督も勝に味方する。




「うちの馬鹿息子が迷惑かけちまったな。」
「まあ男の子の喧嘩ですからね・・・でも祐輝。 どうして勝ばかりと喧嘩するんだ?」
「そ、それは。」
「僕が監督の子供だからっていじめてくるんだ!」




祐一は祐輝の胸ぐらを掴んだ。


もはやこの状況で何を言っても信じてもらえない。


祐一なんかが自分を信じてくれるはずもない。


もう何も言わなかった。


話し合いは祐輝の両親が謝罪する事で終わった。


部屋から出て家に帰ろうとした時、祐輝は勝を見た。


すると勝はあざ笑うかの様にニヤニヤとしていた。


怒りを押さえて祐輝は祐一の車に乗ろうとした。




「乗るな。 車は人間が乗る乗り物だ。 お前は人間じゃねえ。 赤い血がお前に流れているとは思えない。 歩いて帰れ。」
「ちょっと! なんて事言うの! 祐輝おいで。」
「いい。 歩く。」




誰も味方はいない。


そう思って祐輝は歩いて帰った。


帰り道に一輝の家に前を通った。


一輝の父親は警察官だ。


警察官の寮に暮らす一輝と家族。


一輝は二階から祐輝が通るのをずっと見ていた。




「祐輝ー!!」
「あ。」




急いで二階から降りてくると一輝の後ろには父親の浩一もいた。


心配そうに一輝が駆け寄ると浩一は祐輝の頭をなでた。


驚いた表情で祐輝は浩一を見ている。


優しく微笑む浩一。




「一輝から聞いたよ。 おじさんは祐輝の事を知っているからね。 友達を助けるために戦ったんだよね。」
「で、でも勝が嘘ついて俺が悪い事になった・・・父さんも帰って来るなって言ってる・・・」
「そっか。 じゃあ今日は一輝の部屋に泊まりなさい。 ご飯も食べてね。」




それは祐輝が味わった事のない男からの優しい言葉だった。


浩一は練習の時は一輝に厳しく指導をしている。


しかし練習が終わると一輝はいつも浩一の自転車の後ろに乗って楽しげに帰っていく。


祐輝はずっと疑問だった。


一輝と一緒に風呂に入った祐輝は風呂の中でつぶやいた。




「父さんの事好き?」
「え? 好きだよ! 怖いけどね。 祐輝のおじちゃんだって優しいじゃん。」
「そんな事ない。 俺は父さんに必要とされてない。 今日も人間じゃないって言われた。」
「そ、そんな・・・」




一輝は学校でも浩一の警察官としての功績などを得意げに話している。


同級生も父親の自慢をしている。


天敵の勝でもそうだ。


監督であり、立派な社会人の父を自慢している。


それに比べて自分の父親はどうか?


何が自慢できる?


そもそも仕事は何をしているのかもわからない。


裕福な事に変わりないが一体どうしてか?




「父さんってそういうものかな・・・」
「うん・・・俺の父ちゃんはいつも悪い人捕まえたりしてカッコいいよ。 いつか俺もそうなりたいなあ。」
「一輝は野球上手いんだから野球選手になればいいよ。」
「へへへ。 そうだね。 祐輝は将来何になりたい?」




その問いに答えられなかった。


大人になってなりたいもの。


道標となるはずの父親は得体が知れない。


野球選手なんて大それた夢。


かと言って何が得意なのかもわからなかった。


祐輝は一輝が羨ましかった。


父親を誇りに思い、夢があった。


自分にはとてもできなかった。


父親に対してある感情と言えば「一緒にいて恥ずかしい」だった。




「夢なんてない。 俺はこの先どうなるかもわからない。」
「そ、そっか・・・今日は母ちゃんのカレーだよ! 美味しいからたくさん食べようぜ!」
「うん!」




お腹いっぱいにカレーを食べた。


一輝の家庭は初めて経験する温かい家だった。
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