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第1話 生まれたよママ
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「俺の息子が死んだ・・・」
1994年春。
裕福な家庭に1人の男児が生を受けた。
名前は「祐輝」。
大きな体でミルクを飲み、スクスクと育っていった。
彼に父親「祐一」は息子の誕生の時も仕事をしていた。
彼の母親「真美」は愛する息子の出産を単身乗り越えた。
そして祐輝と共に退院して東京、新宿にある祐一の所有するビルへと帰った。
これは祐一と真美の家だ。
7階立ての大きなビルにはテナントが多数入っており、祐一は管理者として最上階に住んでいた。
新宿の景色が良く見えるビルで祐輝は育てられた。
それから数年が経ち、祐輝は5歳になった。
5歳ともなると物心も少し付いてきて会話もできる様になる。
祐輝には聞こえていた。
大好きな両親の怒鳴り声が。
「もうちょっと子供の事考えてよ!!」
「だから考えている。 金があれば好きな事なんでもさせてあげられるだろ。」
「お金も大事だけどこの子の時間も考えて!」
「子供との時間のためにも金が必要だろ。」
両親の口論の内容までは5歳の祐輝には理解できなかった。
しかし涙を流す真美の姿や怒る祐一の姿を幼いながら鮮明に記憶していた。
そしてそれから1年の月日が経ったある日の事だ。
「祐輝行くぞ。」
「どこへ?」
「行かねえのか?」
「い、行くよ。」
わけもわからないまま、祐輝は車に乗って公園に連れて行かれた。
車から降りると子供達の活気溢れる声が響いている。
祐一は黙って公園に入るとある男が話しかけてきた。
「祐一さん。 ご無沙汰しています。 息子さんですか?」
「祐輝ってんだ。」
「そうですか。 祐輝くん。 みんなと一緒に野球やろうか?」
「野球・・・」
祐一はいつの間にか買っていたグローブを祐輝に持たせると背中をボンッと押して公園の中へ入れた。
公園で活気溢れる声は新宿を拠点とする野球のクラブチームの練習の声だった。
小学生の祐輝は友達と学校の校庭で遊ぶ事はあったが野球はした事がなかった。
周りで野球をしている子供達は同じ小学校の同級生や先輩達だった。
しかし祐輝はその子供達とは仲が良くなかった。
だが1人だけ心許せる友達がいた。
「おー祐輝! 一緒に野球やろうぜー!」
「一輝・・・」
「大丈夫だよ。 俺とキャッチボールやろう!」
「う、うん・・・」
一輝がチームにいた事で祐輝の緊張は和らいだが周囲の子供達が祐輝を笑っている。
一輝も子供達もユニフォームを着ているが祐輝は半袖半ズボン。
それも当然だ。
父親の祐一は何も言わずに連れてきた。
恥ずかしいさを押し殺して祐輝は一輝とキャッチボールをした。
人生で初めてのキャッチボール。
しかしキャッチボールと言えたものではなかった。
一輝の投げるボールは速くて祐輝のグローブにかすりもしない。
小学校1年生の速いなんてせいぜい70キロ前後だが祐輝にはどうしようもない速さだった。
そして通過してフェンスに当たるボールを祐輝は拾って一輝に向かって投げるが当然、思った所へは行かない。
一輝はそれでも楽しそうにキャッチボールをした。
「はあ・・・はあ・・・」
「祐輝疲れた?」
「はあ・・・うん・・・」
「スポドリ飲みな!」
スポドリと言われても祐輝にはわからなかった。
一輝は水筒に入った「スポーツドリンク」を飲んでいたが祐輝は持っていなかった。
すると一輝が近づいてきて祐輝に渡した。
「俺の飲んでいいよ。 めっちゃ美味いよ!」
それは祐輝が初めて友達から貰った物だった。
その間も父親の祐一は何か言うわけでもなく、腕を組んで見ているだけだった。
祐輝はそれが嫌でたまらなかった。
ユニフォームも着ていなくて恥ずかしい。
野球も難しい。
言いたい事はたくさんあった。
その日は一輝とキャッチボールをして残りの練習は見学で終わった。
帰りの車で祐一は祐輝に聞いた。
「野球やるか?」
「難しかったし、あんまり楽しくなかった。」
「そうか。 じゃあ好きにしろ。 サッカーでもテニスでもやれ。 俺は付き合わない。」
「え、じゃあ野球やる。」
そして祐輝の野球人生は始まった。
1994年春。
裕福な家庭に1人の男児が生を受けた。
名前は「祐輝」。
大きな体でミルクを飲み、スクスクと育っていった。
彼に父親「祐一」は息子の誕生の時も仕事をしていた。
彼の母親「真美」は愛する息子の出産を単身乗り越えた。
そして祐輝と共に退院して東京、新宿にある祐一の所有するビルへと帰った。
これは祐一と真美の家だ。
7階立ての大きなビルにはテナントが多数入っており、祐一は管理者として最上階に住んでいた。
新宿の景色が良く見えるビルで祐輝は育てられた。
それから数年が経ち、祐輝は5歳になった。
5歳ともなると物心も少し付いてきて会話もできる様になる。
祐輝には聞こえていた。
大好きな両親の怒鳴り声が。
「もうちょっと子供の事考えてよ!!」
「だから考えている。 金があれば好きな事なんでもさせてあげられるだろ。」
「お金も大事だけどこの子の時間も考えて!」
「子供との時間のためにも金が必要だろ。」
両親の口論の内容までは5歳の祐輝には理解できなかった。
しかし涙を流す真美の姿や怒る祐一の姿を幼いながら鮮明に記憶していた。
そしてそれから1年の月日が経ったある日の事だ。
「祐輝行くぞ。」
「どこへ?」
「行かねえのか?」
「い、行くよ。」
わけもわからないまま、祐輝は車に乗って公園に連れて行かれた。
車から降りると子供達の活気溢れる声が響いている。
祐一は黙って公園に入るとある男が話しかけてきた。
「祐一さん。 ご無沙汰しています。 息子さんですか?」
「祐輝ってんだ。」
「そうですか。 祐輝くん。 みんなと一緒に野球やろうか?」
「野球・・・」
祐一はいつの間にか買っていたグローブを祐輝に持たせると背中をボンッと押して公園の中へ入れた。
公園で活気溢れる声は新宿を拠点とする野球のクラブチームの練習の声だった。
小学生の祐輝は友達と学校の校庭で遊ぶ事はあったが野球はした事がなかった。
周りで野球をしている子供達は同じ小学校の同級生や先輩達だった。
しかし祐輝はその子供達とは仲が良くなかった。
だが1人だけ心許せる友達がいた。
「おー祐輝! 一緒に野球やろうぜー!」
「一輝・・・」
「大丈夫だよ。 俺とキャッチボールやろう!」
「う、うん・・・」
一輝がチームにいた事で祐輝の緊張は和らいだが周囲の子供達が祐輝を笑っている。
一輝も子供達もユニフォームを着ているが祐輝は半袖半ズボン。
それも当然だ。
父親の祐一は何も言わずに連れてきた。
恥ずかしいさを押し殺して祐輝は一輝とキャッチボールをした。
人生で初めてのキャッチボール。
しかしキャッチボールと言えたものではなかった。
一輝の投げるボールは速くて祐輝のグローブにかすりもしない。
小学校1年生の速いなんてせいぜい70キロ前後だが祐輝にはどうしようもない速さだった。
そして通過してフェンスに当たるボールを祐輝は拾って一輝に向かって投げるが当然、思った所へは行かない。
一輝はそれでも楽しそうにキャッチボールをした。
「はあ・・・はあ・・・」
「祐輝疲れた?」
「はあ・・・うん・・・」
「スポドリ飲みな!」
スポドリと言われても祐輝にはわからなかった。
一輝は水筒に入った「スポーツドリンク」を飲んでいたが祐輝は持っていなかった。
すると一輝が近づいてきて祐輝に渡した。
「俺の飲んでいいよ。 めっちゃ美味いよ!」
それは祐輝が初めて友達から貰った物だった。
その間も父親の祐一は何か言うわけでもなく、腕を組んで見ているだけだった。
祐輝はそれが嫌でたまらなかった。
ユニフォームも着ていなくて恥ずかしい。
野球も難しい。
言いたい事はたくさんあった。
その日は一輝とキャッチボールをして残りの練習は見学で終わった。
帰りの車で祐一は祐輝に聞いた。
「野球やるか?」
「難しかったし、あんまり楽しくなかった。」
「そうか。 じゃあ好きにしろ。 サッカーでもテニスでもやれ。 俺は付き合わない。」
「え、じゃあ野球やる。」
そして祐輝の野球人生は始まった。
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