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第93章 受け継がれる思い

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進覇隊は赤軍の包囲の中でも果敢に応戦していた。


必死なのは赤軍だって同じ。


鬼の面をつけた騎馬武者を相手に刺し違える様に飛びかかっていく。


なんとか騎手を馬から引きずり下ろせれば勝機はある。


赤軍は1人が騎手の足にしがみつくと共に転がる様にして騎手を地面に叩き落とす。


だが愛馬が主を守るために赤軍の頭部を簡単に踏み潰す。


すると別の赤軍兵士が馬の胸元に銃剣を突き刺すと次々に殺到する兵士が進覇隊を串刺しにしていた。


宰相甲斐が赤軍の女性将校と戦闘をしている間、進覇隊は必死に背後を守り続けた。


平助と風香もその地獄の中で甲斐を守っていた。




「ヒヒーンッ!!」
「大事なないか!?」
「跳弾が当たりました・・・」
「風香っ!!」




跳弾が顔をかすり血を流す風香を気にかけながらも迫る赤軍を槍で必死に倒していた。


間もなく本軍が到着する。


時間にすれば数分だ。


だがこの地獄で数分とは永遠に感じるほど長いものだ。


進覇隊は自慢の速度が活かせない。


それに比べて赤軍は歩兵ばかりだ。


優位なのは赤軍だ。


平助は地獄を見渡すと抑えきれない感情を爆発させた。




「各々方!! その程度かあああ!!!!!」




突然の絶叫に瞬きほどの一瞬だけ沈黙したが直ぐに怒号が響き渡った。


進覇隊の仲間は耳だけを平助に傾けていた。


「その程度か」とは聞き捨てならぬ。


我らを侮るか。


平助は愛馬の上で咆哮を上げながらも仲間に向かって絶叫していた。





「ただの騎兵と侮られてなるものか!!! 我らは剣の剣先ぞ!!! 死しても誉れを汚されてなるものか!!! 各々方!! この地獄で真の鬼と化そうぞ!!」





宰相甲斐の背後を守りどこまでも進み、通る道の全てに覇を唱えるが如し。


それが我ら進覇隊なるぞ。


地獄から這い出てきた鬼の如し。


敵兵の死に目にその絶望を焼き付けよ。




「我ら進覇隊を侮るなっ!!!!!」




討ち死に上等。


悔やむのは誉れを汚される事のみ。


疲弊しているはずなのに一斉に奮起した進覇隊は本軍の到着まで圧倒的破壊力で持ちこたえた。


不利な状況においても臆する事なく己の誉れのために主の名誉のために。


地獄から這い出てきた鬼達はその恐怖を赤軍に叩き込んだ。




「甲斐様!! 本軍到着にござる!!!」
『おおおおおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!!!!』




完全包囲された状況で数万の赤軍に襲われたにも関わらずたった6000名の進覇隊だけで踏ん張った。


獣王隊攻撃に加わった赤軍将兵は進覇隊の奮戦を目の当たりにして戦慄した。


「一体どれだけこの練度の部隊がいるのか」と。


だがここで折れないのが赤軍の恐ろしい所だった。


苦戦している進覇隊に息を吹き返させたのは平助だった。


それを見ていた赤軍の女性兵士は平助を狙っていた。

平助は仲間と共に鬼と化していた。


そこに近づく赤軍の女性兵士。


至近距離で機関銃を乱射すると愛馬の風香が倒れ込んだ。


吹き飛んだ平助は立ち上がり刀を抜いたが既に遅かった。


銃剣が鎧を貫いていた。




「グハッ。」
「押しきれそうだったのに鼓舞しやがって。 同志の犠牲が無駄になるだろ。」
「退けぬのは双方変わらぬな・・・」
「そうだな。」




平助を刺してその場に押し倒すととどめを刺すために銃口を平助の顔に向けていた。


「待たれよ」と平助は鎧からジャガーのお守りを出した。


女性兵士は受け取ると平助の頭部に向けて引き金を引いた。




「第1大隊は第2大隊と交代しろ!! 再突撃の準備だ。」




女性兵士の所属する第1大隊は後方に下がり弾薬を補給して再突撃の準備を始めた。


「ルニャ?」と不思議そうに呼びながら近づいてくる同志にジャガーのお守りを見せた。


平助が死ぬ前にルニャに渡したジャガーのお守りを同志と不思議そうに見ていた。


「敵が死ぬ前に渡してきた。 何だこれ?」
「お守りか?」
「だが何故私に?」
「さあな。」




ルニャは不思議そうに胸ポケットに入れると再攻撃の準備を続けた。


直ぐ前方では同志が戦っている。


早く加わらなくては。


ルニャはまだ若い兵士だったが、長く赤軍の兵士として従軍していた。


大英帝国やフランス帝国とも戦闘の経験がある練度の高い兵士だった。


白い肌に茶色い髪の毛を束ね直すとウシャンカをかぶって前線へと歩き始めた。




「さあ行こう。 同志が待っている。」




ルニャは前線へと向かった。


ジャガーのお守りには血がたくさんついていた。


これは何処から来たのかと考えたが死にゆく騎兵が渡してきたという事は敵にとって大切なお守りなんだと考えた。


銃剣を前に向けて走り始める赤軍の中でルニャが一つだけ疑問だったのは自分に渡してきた事だった。



(敵に渡したのは何故だ。)



考えながら走っていくと目の前には白い制服に身を包んだ白陸軍が同志を撃滅しようとしていた。


ルニャは1人の心臓目掛けて銃剣を刺すと盾の様にして前に押し出してから蹴って倒すと機関銃を乱射した。


数人の白陸兵が倒れると更に迫る兵士に向かって銃剣を振り抜いた。


すかさず腰に装備していた手榴弾を投げると白陸兵が大勢吹き飛んだ。




「怯むな同志!! ユーリ同志が戦っているぞ!!」




ルニャは強かった。


白陸軍の正規兵では相手にならなかった。


次々に倒して進むとユーリの姿を捉えた。


「援護しなくては」と小声で発すると近くにいた同志を数人呼びつけて「ユーリ同志の援護に行くぞ」と促した。


ルニャはユーリの近くに行くと迫る進覇隊や白神隊といった私兵すらも倒していた。


するとユーリがルニャの存在に気がついた。




「素晴らしいぞ同志。 名前は?」
「ルニャ・イワンビッチ軍曹です。」
「そうかルニャ。 頼りにしているぞ同志。」
「背後はお任せを。」




長年の憧れだったユーリに褒められたルニャは奮起した。


そして白陸軍を次々に倒していった。







ルニャは生粋の愛国者だ。


ユーリから頼られた事は人生で最高の栄誉だった。


戦場にいてもルニャは落ち着いていた。


脳裏で流れる国家は自分を勇気づけてくれる。




「世界で唯一無二。 神に守られし祖国。」




ロシア正教を深く信仰しているルニャはミカエル兵団への信仰心も同時に持っていた。


しかし近頃のミカエル兵団は動きがなく、今回の白陸侵攻に対してもミカエル兵団の加勢を祈っていたが動きはなかった。


「神は見ておられる」と考えたルニャは神にも同志にも恥じない戦いをすると誓っていた。




「大天使ミカエル様が見てらっしゃる。 ユーリ同志を守れと仰せになっている。 私に力をお与えください。」




ルニャは力がみなぎっていた。


神やユーリから「期待外れだった」と言われるのが恐ろしくてたまらなかった。


一歩でも下がれば同志が死ぬ。


それも恐ろしい。


考えるだけで気が狂いそうになる恐怖を思えば目の前にいる白陸軍を倒す事なんて造作もない。


神に与えられし戦闘力があるじゃないか。





「常にミカエル様のご加護があり、私には与えられし力がある。 ユーリ同志に近づく異邦人共を根絶やしにしてやる。」




ユーリの守護天使にでもなるかの勢いで戦うルニャの強さは常軌を逸していた。


いよいよ白神隊や進覇隊が本格的にルニャを狙い始めた。


「あの女を狙い撃て!」と声が聞こえてもルニャに恐怖心はなかった。


逃げて帰ればどれだけの方々の期待を裏切るのか。


自分だけが特別ではない。


同志の皆が神から力を与えて頂いている。


だから皆が勇敢で強いのだ。


白陸の者共にこの素晴らしさがわかるものか。




「我らの祖国に入る事は許さない。 聖地を汚す事は絶対に許さない。」




ルニャの覚悟は凄まじかった。


しかし次の瞬間。


目の前に槍を回転させながら一瞬で飛び込んできた女がいた。


白陸軍の制服とは少し異なっている。


肩には狐が桜を咥える印がある。


それは丞相竹子の私兵白神隊だ。


しかもかなり上の階級の将校だ。


ルニャに襲いかかったのは将軍ルーナだった。




「さっきから随分元気ですね。」
「同志のためなんでな。 失せろ異邦人。」





名前は似ていても性格はかなり異なっている。


ルニャとルーナは武器を交えた。


だが相手が悪かった。


鞍馬虎白に「第六感の申し子」とまで言われたルーナはルニャの攻撃を平然と避けている。


そして槍で一突きされるとその場に倒れた。


自分の死を悟ったルニャはジャガーのお守りをルーナに渡そうとしたが直ぐ後ろにいた同志達がルーナに襲いかかった。





「ルニャを運べ!!」




ルニャは前線後方に運ばれていった。
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