天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第76章 狐の息子

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「あれで良かったのですか父上。」
「ああ。 あれでお前のためにタイマン張れないならそれまでだった。」




狐とは恐ろしいものだ。


白斗は最初からそのつもりでペップに近づいた。


虎白の指示通りに。


帝都の本城から夜叉子の領土を見つめている。




「いいもんですね。 友情って。 俺はペップが好きですよ。」
「まあお前も俺に追いつかなくてはと焦っているみたいだが。 そんな事は考えなくていい。 お前にはお前の道が必ずある。 それに導くために親がいるんだ。 そんな焦らなくていい。」
「父上の親父様もそうでしたか?」
「親父かあ・・・」




虎白は目を細めて遠くを見ている。


自分にとっての父親とは?


鞍馬家は長男天白を皇帝として成り立っている。


我々兄弟に父はいたのか?


何も覚えていない。


気がつけば兄弟で成り立っていた。


それとも人間として生きた24年間での父か?




「俺は。 父に育てられた覚えはねえ。 だが何人も父の様に俺を育ててくれた存在はいた。」
「申し訳ありません。」
「いやいい。 ここからが大事だ。 俺が人間として生きた24年の間に父はいた。 だがあいつは俺に何も教えてくれなかった。 人間として生きていく方法を。 だがそのたびに父とは違う誰かが向き合ってくれた。」




血縁者ではない誰かが真剣に向き合ってくれた。


時には怒り、時には褒めてくれた。


そして人として、男としてどうあるべきなのかも教えてくれた。




「いいか白斗。 俺はお前の親だが何よりも味方だ。 お前がしようとする事は応援したいし力になりたい。 俺を超えようとしなくていい。」
「父上がどれほどの人生を歩まれたかは俺には計り知れません。 今の俺にはその言葉の重みもわかりません・・・」
「それでいい。 焦らなくていい。 男ってのはなあ。 バカで不器用なぐらいでいい。 お前は魅力的だ。 純粋で向上心がある。」




虎白の言葉は深く優しかった。


しかし若き白斗にはその深さがまだわからない。


白斗にとって虎白は自分が白陸を継ぐために超えなくてはならない壁だった。




「しかし父上は賢く冷静です。 それ故に多くの者が父上に従うのでは?」
「ヒヒッ。 賢いのは夜叉子だってそうだ。 冷静なのは竹子もな。 俺がみんなに担いでもらっているのはなあ。 みんなを守りたいって気持ちを正直に伝えているからだ。」「そういうものでしょうか・・・」
「いつかわかるさ。 とにかく嫁を探しに行くんだろ?」




白斗はどうしても腑に落ちなかった。


若さ故に理解できないのだ。


カリスマ性というものに。


いくら賢くていくら戦いが強くても。


人を率いるカリスマ性がなければ大衆は動かない。


呂布の様に強くてもウィッチの様に賢くても。


虎白のカリスマ性には勝てない。


かつてアルテミシアという傑物が虎白と互角に渡り合った。


そしてその妹レミテリシアは偉大な姉の血が流れているという事を先の戦闘で証明した。


しかしカリスマ性とは生まれついてのものだ。


だがそれでいい。


レミテリシアの血がカリスマ性に恵まれている様に白斗にだってそのカリスマ性がある。




「お前は俺の子だ白斗。 仲間を信じて戦えばいつか必ず理解できる。 嫁にだってお前の愛が伝わる。」


若き皇太子にはまだ難しい。


まだ20歳だ。


焦る事はない。



「父上。 まだ時間ありますよね?」
「ペップか?」
「あいつは俺の友達ですから。」
「いいぞ。」




白斗は帝都を飛び出して夜叉子の領土へと向かった。 


白斗はどうしてもペップに会いたかった。


それはペップも同様だった。




「さすがに三度目はないかあ・・・」
「おーいペップー!」
「またいたああああああ!!!!!!!」




飛び上がって白斗に抱きつくと顔をペロペロと舐めている。


嬉しそうに白斗はペップを抱きしめると落ち着きを取り戻して会話を始めた。


いつものベンチに座って空を見ている。


大将軍春花の航空機や鵜乱の鳥人が飛んでいる。


夕焼けの美しい天上界白陸の空だ。




「俺のために父上とタイマン張ってくれてありがとう。」
「虎白様に怒られた?」
「ま、まあな。 皇太子なのに気軽に出歩くなってさ。」
「そっかあ。 じゃあもう会えない?」
「ひひっ。 護衛をつければ問題ないさ。」




安堵した表情でニコリと笑うペップを見て白斗は顎をシクシクとなでている。


日頃は気を張っているペップも白斗の前ではおっとりだ。


不思議なまでに。


「なんだかお頭に甘えている様な気分になるんだよなあー。」
「え? お頭って? 夜叉子姉ちゃん!? 俺があ!?」
「うん! 安心するんだなあ!」
「バカ言えー。 俺と夜叉子姉ちゃんじゃ格が違うだろお。」



それは白斗本人では気づけない。


何故なら自覚している者なんてほとんどいないのだ。


カリスマ性というものは。


虎白もレミテリシアも戦場では必死で戦後の家族との時間も自分と家族のため。


それが兵士を勇気づけてまた戦おうと思わせているとは本人は思っていない。


白斗も大事な友達のためを思っていただけだ。


しかしペップには嬉しくて安心するのだ。


問題児で生意気なペップ。


成長してきたが上官からは冷たい視線。


夜叉子やサガミ中尉の様に理解してくれる存在は少ない。


白斗は数少ない自分を思ってくれる存在だ。




「ペップの気持ちはわかる。 俺も同じだ。」
「偉大な背中・・・だから突然怒ってきた虎白様に腹が立ったよ。 やっぱり俺達の気持ちなんて理解できないよな・・・」
「・・・・・・そんな事はないさ。 父上の言っている事は正しい。 だから護衛をつけてまた会いに来るさ。 俺達は友達だものな。」



白斗は立ち上がると伸びをして大きくあくびをした。


そして大きく息を吸ってから吐くとペップの頭をなでた。


真剣な眼差しでペップを見ている。




「まだ俺達は未熟だ。 でもいつか父上や夜叉子姉ちゃんの様に偉大になれるさ。」
「うん。 俺は頑張るよ。」
「ああ。 俺が白陸を継いだらお前は獣王隊を継げ。」
「そんな日が来るといいなあ。」
「目標を持つ事は大事だ。 今は遠くても諦めずに進めば必ず手に入るさ。」




大望を志す2人は真剣な眼差しで抱き合った。


虎白とタイマンを張っても夜叉子に慰められても。


やはり2人の背中は大きく、遠かった。


立場は違えど同じ悩みを抱える白斗はペップにとって心の支えだった。


それは白斗も同様だ。



「じゃあな!!」
「うん! お嫁さん連れて帰ってきたら紹介してくれええ!!」
「おう!」



白斗は帝都へ歩いていく。


ペップは嬉しそうに兵舎へと戻っていった。


その光景を見つめる2人。




「ふっ。」
「可愛いなあ。 あいつら。」
「そうだね。 あんたの息子は優しい子だね。」
「ヒヒッ。 純粋だからな。 あいつらの幸せを守るのが俺らの仕事だな。」
「ふっ。 結果的に戦争のない天上界になる?」




虎白と夜叉子は顔を見合わせている。


戦争のない天上界。


まだ見ぬ大望。


叶えられるのか?


だが諦めるわけにはいかない。


何人もの帰らぬ英雄達と約束したのだ。


まだ生きている者達を守る事が約束へと繋がる。




「さあ帰るよ。 竹子が魚の切り身買ってきてたよ。」
「今日は焼き魚かなあ? 煮魚かなあ?」
「ふっ。 あんたが頼めばどっちも作ってくれるでしょ。」
「なあ夜叉子はどっちがいい?」
「いいから帰るよ。」



楽しげに2人は帰っていった。


白斗は帝都への帰り道に立ち寄った場所がある。


日が沈み月の神が仕事を始めた。


月明かりが照らしている。




「勇者の丘。 父上と共に戦って戦死した兵達の墓だ・・・」




通称ためらいの丘。


多くの英雄達が到達点へ行った。


ここは到達点へと繋がる場所だ。


英雄達の遺品が埋葬されている。


白斗はためらいの丘を1人で歩いている。




「視線を感じるな。 でも悪い気配はない。 まるで見守られている。」




これも遺伝子のせいか。


白斗の第六感はルーナに負けないほどに鋭かった。


墓石の前に誰かが立っている様な感覚を感じながら白斗は歩いていた。



「白神隊平蔵。 メテオ海戦似て戦死。」
「・・・虎白様!?」
「はっ!?」
「いかが致した?」
「お、俺はその・・・」




墓石の前で神経を集中すると聞こえてくるドスの効いた渋い声。


驚いた白斗は目を見開いている。


到達点にいる平蔵の意識と繋がった。




「何奴!? 虎白様ではないな。」
「お、俺は鞍馬虎白の息子で白斗って言います。」
「な、なんと!! 左様であったか! 拙者竹子様に仕えており申した平蔵と申しまする。」
「ど、どうも。」
「おいハンナ! こちらへ来い! 虎白様のご子息が来られておるぞ!!」




白斗はその場に座り込んだ。


白神隊戦没者と書かれる大きな石碑の周りにある多くの墓石。


第六感を集中させればさせるほど到達点の様子が浮かぶ。


平蔵が高らかに笑っている。




「ええええええ!!!!! 虎白様誰と!? 竹子だよね!? 違うの!?」




透き通る声だが驚きが隠せずに声を大きくしている。


ハンナの声だ。


平蔵が笑うと次々に声が増えていく。




「いきなり驚いたらご子息様が驚くよハンナー。」
「だってリトー驚くでしょそりゃー!」
「まあ確かに・・・」




白斗は当然彼らを知らない。


竹子と共に戦った英雄達だ。


しかし強い第六感を宿す白斗にはわかった。


到達点から伝わる凄まじい神通力の気配を。



「残念ながら俺は竹子姉ちゃんの子供じゃありません。 母上は別の方です。」
「そっかー。 じゃあ優奈姫様かな!?」
「今は確かに実子扱いをしてくださっていますが・・・産みの母は違うのです。」
「虎白様って・・・奥さん多いのね。」
「こらリト止めなさいよっ!」
「あ、す、すいません殿下。」




白斗は夜空を見上げる。


確かに自分の母は何をしているのか。


虎白も話してくれない。


しかし今はそれよりも白神の英雄達と話したかった。




「俺の母上なんて今はいいです。 それより白神の皆さん。 俺はいつか白陸を継ぎます。 でも・・・父上は次元が違う・・・俺なんかで継げるでしょうか・・・」
「おーこれは急にシビアな質問ですねー。」
「こらリトってば!」




昔からそうだ。


リトはサバサバとしている。


これも彼女の良さだ。


申し訳無さそうにハンナが謝罪しているのも懐かしい。


白斗には新鮮な時間だった。




「まあなれるんじゃないんですか?」
「もうちょっと真面目に考えてあげなさいよリト!」




白斗は今夜はこの場所にいると決めた。
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