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第70章 私兵共闘
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大乱戦となった天上門での戦いは熾烈を極めている。
第2陣、第3陣も投入されているが陣形は呂布軍の突撃によってぐちゃぐちゃになっている。
張遼の突撃を辛くも退けたルーナとペップ。
肩から血を流すルーナに駆け寄って傷口をペップが押さえている。
「私は心配いらないよ。 さあ獣王隊に戻りなさい。」
「いやあ戻るも何も・・・ほら。 そこには獣王隊もいるしほら進覇隊や美楽隊までいる・・・正規兵も肩に軍団の番号があるけど見てよ。」
「1、4、あれ2や6まで・・・レミテリシア様の第6軍団まで・・・どうなっているの・・・」
入り乱れる戦場で部隊は完全にバラバラとなっていた。
呂布軍を止めるためには、もはや陣形を立て直す時間すらなかった。
しかし誰かが指揮しなくてはならない。
私兵も正規兵も入り乱れるこの戦場で。
肩を押さえてルーナは立ち上がると叫んだ。
「私は白神隊少佐のルーナだ!!! 私より階級が低い者は私の元へ来い! この辺りの指揮権は私にある。」
「白神のルーナか。 俺は白陸第2軍団の大佐だ。 連隊とはぐれてもうわけがわからない。」
「では大佐殿。 混成軍を指揮してください。 周囲にいる全ての兵士をまとめるのです。」
優子の第2軍の大佐が竹子の白神隊の前線にいる。
階級の都合でルーナから大佐に指揮権が渡った。
混乱する下士官達が集まってきている。
しかし大佐も酷く混乱して指揮できる状況になかった。
「そもそもわけがわからない・・・いつの間にこんな所へ来てしまったんだ。 俺の大隊もバラバラで誰が生き残っているのか・・・」
「大佐ー!!!!!」
ルーナは叫んだ。
しかし間に合わなかった。
呂布軍の騎馬隊が戟を振り抜いて大佐は首から上が吹き飛んだ。
更に混乱する兵士達を見てルーナも険しい表情をしている。
「白神と第1軍だけなら上手く動かせるけど・・・今の大佐の様に混乱している上官がいると・・・」
「ああああ!!!! めんどくせえ!! ルーナ!! あんたが指揮を執れ!!! 上官だかなんだか知らねえけどよっ。 ルーナが一番冷静な将校だ!! いいからあんたが指揮するんだ!!!」
乱戦の中でペップが叫んでいる。
しかしこの状況。
ペップの言っている事は正しい。
階級は確かに大事だ。
だがこんな状況ではもはや階級を確かめている時間もない。
一番練度の高い冷静な将校が必要だ。
ペップの叫び声を聞いたルーナは高らかに叫んだ。
「周囲の兵士達!! 私の指揮下に入れ!! 将校は私の元に来い! 兵士の皆は隣にいる仲間を守りながら戦え。」
ルーナの声を聞いた兵士達は隊列を組み直した。
そして様々な部隊の将校がルーナの元へ集まってくる。
だがルーナは冷静だった。
将校達に隊列を組む10人単位の下士官を指揮させた。
陣形も単純。
「いいか将校。 10人の下士官を指揮しろ。 そして隊列は横に並べ。 そこの中尉。 10人連れて二列目に入れ。 そこの大尉も同じだ。」
「わかりました少佐殿。」
「少佐!!! 右の10人に指揮官がいません。 呂布軍に抜かれそうです!!!」
「ペップ!! 君が行きなさい。 こんな状況だ。 君も少尉なんだから彼らを束ねて!!」
ルーナの声を聞いたペップは将校のいない兵士の元へ走った。
呂布軍が強引に入り込もうとしている。
ペップは下士官を飛び越えて呂布軍の騎手の首に噛み付くと地面に落とした。
そして馬の剣を突き刺すと振り返り下士官達を見た。
「俺は獣王隊の少尉だ!! 落ち着け兵士。 確実に呂布軍を倒すぞ。 そこの槍兵は槍を突き立てろ! 小銃兵は援護。 いいか。 ここで持ち堪えるぞ!!!」
ペップの指揮の元で10人の混成軍は呂布軍と戦った。
騎馬突撃してくる呂布軍の大軍は次々にペップ達を通過していく。
その光景に混乱する下士官に気がつくとペップは冷静に対処していた。
「放っておけ!! 抜かれた敵は後ろの味方が倒す!! いいか!! 俺達は一騎でも多くここで倒すだけだ!! 後ろは気にするな!!」
「はい少尉!! うわああああ!!!!!!」
「いいぞ!! さあ戦え!!!! ガルルルッ!!!!」
その光景をルーナ冷静に見ていた。
ルーナはある事に気がついたのだ。
ルーナはペップを見ていた。
「あの子。 模擬演習ではダメダメだったのに。 意外と冷静なのね。」
冷静に戦うペップを見てルーナは5年の修行の時に虎白と話した事を思い出した。
「なんですかそれは?」
「兵士にはな。 色んな種類の兵士がいる。 それは使う武器や種族の事じゃない。 兵士としての素質だ。」
「はい・・・つまり?」
「例えば指揮官にはお前の竹子の様に冷静に見極めて的確な指示を出す指揮官と優子や甲斐の様に戦場の空気で直感的に指揮できる指揮官がいる。」
それは兵士の心構えの話をしていた時の事だった。
真面目に話を聞くルーナや体で覚えていく進覇隊の大尉がいた時の事だ。
虎白は話しを逸して心構えから兵士の種類について話を始めた。
「こういった指揮官は両方とも有能だ。 それとは逆に盤上では有能でも戦場に出ると何もできなくなる指揮官がいる。 幸い俺の大将軍にはいないがな。」
「正規兵の将校にはいますか?」
「いるだろうな。 お前ら私兵の指揮官にはそうなってもらっては困る。 戦場では常に状況が変わる。 だからこそ完璧な手順なんてない。 わかるか?」
ルーナはその話しを真面目に聞いていた。
戦場を多く経験したルーナは何かピンと来ていた。
リトとハンナの事だ。
どちらかと言えばリトは本能的に動く事が多かった。
それに比べてハンナは冷静に状況を分析している。
近くで見ていたルーナだからこそ虎白の話しに興味があった。
「つまり虎白様。 指揮官は柔軟な頭が必要という事ですか? それか野生の本能的な?」
「そうだ。 しかし本能的な判断は生まれついてのものだ。 そして兵士。 兵士にも種類がある。」
「はい。」
「大きく分けて2つ。 訓練はしっかりできるが前線では震えてしまう兵士。 そして訓練では成績が悪いが前線の空気に刺激されて普段より冷静になる兵士だ。」
細かく言えば訓練でしっかりできて実戦でもできる兵士もいる。
何よりもそれが一番理想の形だ。
しかし中には例外が当然出てしまう。
虎白が話しているのはその「例外」の話だ。
「訓練と戦場はやはり違う。 ここにいるのは私兵の大尉。 お前らはメテオ海戦やアーム戦役を経験していると思う。 何度も冥府兵と戦った事もあるはずだ。 どうだった?」
ルーナは初陣の事を思い出していた。
恐怖で何もできなかったがリトに励まされた。
そしてハンナの話しを聞いた事があったが1人の冥府兵を殺すと正気を失い暴れ続けたとも聞いた事がある。
「ルーナいい顔しているな。 自分とハンナを思い浮かべたか?」
「え!?」
「正解だろ? そうだな。 ハンナは正気を失って暴れた。 これは訓練でできるが戦場では使えないタイプだったな。」
「なるほど・・・私と一緒だ・・・」
「初陣なんてそんなもんだろ。 大事なのはお前ら将校だ。 そんな兵士達を落ち着かせる事が大事だ。 部隊が機能しなくなったら終わりだからな。」
確かにハンナには平蔵や太吉がいて、ルーナにはリトがいてくれた。
どうしようもない恐怖の中でもリトは優しくて冷静だった。
自分に同じ事ができるのか?
いや。
しなくてはならない。
「そしてもう一つの種類だ。 訓練では不真面目だったり異様に成績が悪い兵士だが戦場に出ると訓練が嘘の様に有能になる。 そういったタイプは実戦でしか成長できない。 あまり多いタイプではないが確かに存在する種類だ。」
「あ、あの。 虎白様。 そういったタイプが部下にいた場合どうすれば?」
「信じてやれ。 そいつの直感や行動を信じろ。 実戦で伸びるタイプの兵士は更に成長すると優子や甲斐の様な本能的に判断できる指揮官になれる。 つまりこれは才能だ。」
生まれついての才能。
ほとんどの者が過酷な訓練を経験して実戦で慣れていく。
しかし戦場でのみ成長できる者もいる。
ルーナは呂布軍と戦うペップを見てあの時の事を思い出した。
「本当にいるのね。 羨ましい。 大した才能だわ。」
大乱戦の戦場で更にルーナの元にはぐれた兵士が集まってくる。
ルーナは虎白の言葉を信じた。
間違いなくペップはあの日虎白が話していた類だ。
集まってきた兵士にルーナは言った。
「ここから少し右側で戦うジャガーの半獣族。 獣王隊の少尉がいる。 そこの10人はジャガーの少尉に合流しなさい。 ルーナに言われて来たと言いなさい。」
「了解です!」
ペップは合流した10人を含む20人の混成軍を指揮しながらも先頭で戦っていた。
混乱する事も畏怖する事もなく冷静かつ激しく戦っていた。
隣で倒れる味方が出ても冷静さは保てていた。
「落ち着けみんな。 しっかり協力しろ! 敵の騎馬隊の馬を狙え!! 落馬した騎手は二列目が殺せ!」
「了解です少尉!!」
火事場の馬鹿力とでも言うのか?
何か少しでも間違えれば呂布軍に首を跳ねられてもおかしくない状況だというのに。
訓練や模擬演習では失態続きだったのに。
ペップは冷静で勇敢だった。
これが生まれ持っての才能か。
しかしペップの活躍は広い戦場でほんの一部の事だ。
戦場全体では白陸軍の苦戦は否めない。
白神、獣王、進覇隊と各軍団はバラバラになり連携すら難しい。
大将軍は呂布の迎撃で手一杯。
300万もの騎馬隊の突撃は熾烈を極めていた。
ペップの部隊からも逃走する兵士が出始めていた。
「おいこら逃げるな!!!」
「も、もう無理だ!! こんなの止められるわけがない!!!」
「マズイな・・・兵士が足りない・・・」
白陸軍は奮戦したがいよいよ限界が迫っている。
何より大将軍が先頭で戦えない。
しかしそんな時だ。
戦場に響く美しい声。
黒い髪をなびかせて正覇隊を率いる大将軍。
レミテリシアは崩壊しかける白陸軍を立て直した。
彼女の声は全軍に響く。
そして彼女は驚く事に白神、獣王、進覇の3隊を1つにまとめさせて反撃の指示を出した。
各軍団の混成軍はレミテリシアが指揮した。
ペップはレミテリシアの指示に従う。
「よし! お前達はレミテリシア様の第6軍に合流しろ!! 俺は。 ルーナと一緒に私兵に戻るか。」
「ペップ! レミテリシア様の声を聞いたね!?」
「ああ!! やっぱりすげえよ! あの正覇隊の大将軍様は!!!」
「そうね。 又三郎大佐の元に戻る。 君もタイロン大佐の元に戻りなさい。」
こんな心強い事があるか?
大将軍レミテリシアの指揮の元で白神、獣王、進覇の私兵3隊が連携する。
ペップは溢れんばかりの高揚感に包まれた。
レミテリシアのカリスマ性。
それは絶望的な戦場で輝く。
彼女の声は全軍に勇気と希望を与えた。
「ルーナ! レミテリシア様は俺達3隊に共闘しろって言ったんだ! 行こうぜ!!」
「白神のルーナ少佐とお見受けする! 拙者は進覇の勝永少佐と申す!! 相乗りせよ!! 拙者の騎馬の後ろに乗れ!! そこの獣王はついて参れ!!!」
『了解!!!』
進覇の騎馬に乗り、白神隊が反撃する。
討ち損じた敵は獣王が駆逐する。
細かな打ち合わせなんて必要ない。
何故なら誰よりもお互いを知っている。
それだけ共に前線で力を合わせ、模擬演習でも戦ってきた。
今更何を打ち合わせする必要があるか?
何も怖くなかった。
あの大将軍レミテリシアが「行け」と言っている。
背中まで押してもらえた。
『3隊突撃いいいいい!!!!!!!!!!!』
3隊の私兵大佐が絶叫すると見事なまでに足並みが揃い反撃を開始した。
その破壊力の凄まじさときたら。
強力な呂布軍でさえも圧倒するほどに。
これが私兵だ。
これが3隊の力だ。
ペップはその先頭にいた。
白神と進覇の少佐の横にペップは立ち会えた。
「獣王の歩兵!! 遅れるでないぞ!!」
「ペップ! しっかり援護してね!」
「ああっ!! やってやろうぜ!!! 最高だああああ!!!! ガルルルルッ!!!!」
こんな事があるだろうか?
伝説となる猛反撃。
若き猛獣はその先頭を走ったのだ。
第2陣、第3陣も投入されているが陣形は呂布軍の突撃によってぐちゃぐちゃになっている。
張遼の突撃を辛くも退けたルーナとペップ。
肩から血を流すルーナに駆け寄って傷口をペップが押さえている。
「私は心配いらないよ。 さあ獣王隊に戻りなさい。」
「いやあ戻るも何も・・・ほら。 そこには獣王隊もいるしほら進覇隊や美楽隊までいる・・・正規兵も肩に軍団の番号があるけど見てよ。」
「1、4、あれ2や6まで・・・レミテリシア様の第6軍団まで・・・どうなっているの・・・」
入り乱れる戦場で部隊は完全にバラバラとなっていた。
呂布軍を止めるためには、もはや陣形を立て直す時間すらなかった。
しかし誰かが指揮しなくてはならない。
私兵も正規兵も入り乱れるこの戦場で。
肩を押さえてルーナは立ち上がると叫んだ。
「私は白神隊少佐のルーナだ!!! 私より階級が低い者は私の元へ来い! この辺りの指揮権は私にある。」
「白神のルーナか。 俺は白陸第2軍団の大佐だ。 連隊とはぐれてもうわけがわからない。」
「では大佐殿。 混成軍を指揮してください。 周囲にいる全ての兵士をまとめるのです。」
優子の第2軍の大佐が竹子の白神隊の前線にいる。
階級の都合でルーナから大佐に指揮権が渡った。
混乱する下士官達が集まってきている。
しかし大佐も酷く混乱して指揮できる状況になかった。
「そもそもわけがわからない・・・いつの間にこんな所へ来てしまったんだ。 俺の大隊もバラバラで誰が生き残っているのか・・・」
「大佐ー!!!!!」
ルーナは叫んだ。
しかし間に合わなかった。
呂布軍の騎馬隊が戟を振り抜いて大佐は首から上が吹き飛んだ。
更に混乱する兵士達を見てルーナも険しい表情をしている。
「白神と第1軍だけなら上手く動かせるけど・・・今の大佐の様に混乱している上官がいると・・・」
「ああああ!!!! めんどくせえ!! ルーナ!! あんたが指揮を執れ!!! 上官だかなんだか知らねえけどよっ。 ルーナが一番冷静な将校だ!! いいからあんたが指揮するんだ!!!」
乱戦の中でペップが叫んでいる。
しかしこの状況。
ペップの言っている事は正しい。
階級は確かに大事だ。
だがこんな状況ではもはや階級を確かめている時間もない。
一番練度の高い冷静な将校が必要だ。
ペップの叫び声を聞いたルーナは高らかに叫んだ。
「周囲の兵士達!! 私の指揮下に入れ!! 将校は私の元に来い! 兵士の皆は隣にいる仲間を守りながら戦え。」
ルーナの声を聞いた兵士達は隊列を組み直した。
そして様々な部隊の将校がルーナの元へ集まってくる。
だがルーナは冷静だった。
将校達に隊列を組む10人単位の下士官を指揮させた。
陣形も単純。
「いいか将校。 10人の下士官を指揮しろ。 そして隊列は横に並べ。 そこの中尉。 10人連れて二列目に入れ。 そこの大尉も同じだ。」
「わかりました少佐殿。」
「少佐!!! 右の10人に指揮官がいません。 呂布軍に抜かれそうです!!!」
「ペップ!! 君が行きなさい。 こんな状況だ。 君も少尉なんだから彼らを束ねて!!」
ルーナの声を聞いたペップは将校のいない兵士の元へ走った。
呂布軍が強引に入り込もうとしている。
ペップは下士官を飛び越えて呂布軍の騎手の首に噛み付くと地面に落とした。
そして馬の剣を突き刺すと振り返り下士官達を見た。
「俺は獣王隊の少尉だ!! 落ち着け兵士。 確実に呂布軍を倒すぞ。 そこの槍兵は槍を突き立てろ! 小銃兵は援護。 いいか。 ここで持ち堪えるぞ!!!」
ペップの指揮の元で10人の混成軍は呂布軍と戦った。
騎馬突撃してくる呂布軍の大軍は次々にペップ達を通過していく。
その光景に混乱する下士官に気がつくとペップは冷静に対処していた。
「放っておけ!! 抜かれた敵は後ろの味方が倒す!! いいか!! 俺達は一騎でも多くここで倒すだけだ!! 後ろは気にするな!!」
「はい少尉!! うわああああ!!!!!!」
「いいぞ!! さあ戦え!!!! ガルルルッ!!!!」
その光景をルーナ冷静に見ていた。
ルーナはある事に気がついたのだ。
ルーナはペップを見ていた。
「あの子。 模擬演習ではダメダメだったのに。 意外と冷静なのね。」
冷静に戦うペップを見てルーナは5年の修行の時に虎白と話した事を思い出した。
「なんですかそれは?」
「兵士にはな。 色んな種類の兵士がいる。 それは使う武器や種族の事じゃない。 兵士としての素質だ。」
「はい・・・つまり?」
「例えば指揮官にはお前の竹子の様に冷静に見極めて的確な指示を出す指揮官と優子や甲斐の様に戦場の空気で直感的に指揮できる指揮官がいる。」
それは兵士の心構えの話をしていた時の事だった。
真面目に話を聞くルーナや体で覚えていく進覇隊の大尉がいた時の事だ。
虎白は話しを逸して心構えから兵士の種類について話を始めた。
「こういった指揮官は両方とも有能だ。 それとは逆に盤上では有能でも戦場に出ると何もできなくなる指揮官がいる。 幸い俺の大将軍にはいないがな。」
「正規兵の将校にはいますか?」
「いるだろうな。 お前ら私兵の指揮官にはそうなってもらっては困る。 戦場では常に状況が変わる。 だからこそ完璧な手順なんてない。 わかるか?」
ルーナはその話しを真面目に聞いていた。
戦場を多く経験したルーナは何かピンと来ていた。
リトとハンナの事だ。
どちらかと言えばリトは本能的に動く事が多かった。
それに比べてハンナは冷静に状況を分析している。
近くで見ていたルーナだからこそ虎白の話しに興味があった。
「つまり虎白様。 指揮官は柔軟な頭が必要という事ですか? それか野生の本能的な?」
「そうだ。 しかし本能的な判断は生まれついてのものだ。 そして兵士。 兵士にも種類がある。」
「はい。」
「大きく分けて2つ。 訓練はしっかりできるが前線では震えてしまう兵士。 そして訓練では成績が悪いが前線の空気に刺激されて普段より冷静になる兵士だ。」
細かく言えば訓練でしっかりできて実戦でもできる兵士もいる。
何よりもそれが一番理想の形だ。
しかし中には例外が当然出てしまう。
虎白が話しているのはその「例外」の話だ。
「訓練と戦場はやはり違う。 ここにいるのは私兵の大尉。 お前らはメテオ海戦やアーム戦役を経験していると思う。 何度も冥府兵と戦った事もあるはずだ。 どうだった?」
ルーナは初陣の事を思い出していた。
恐怖で何もできなかったがリトに励まされた。
そしてハンナの話しを聞いた事があったが1人の冥府兵を殺すと正気を失い暴れ続けたとも聞いた事がある。
「ルーナいい顔しているな。 自分とハンナを思い浮かべたか?」
「え!?」
「正解だろ? そうだな。 ハンナは正気を失って暴れた。 これは訓練でできるが戦場では使えないタイプだったな。」
「なるほど・・・私と一緒だ・・・」
「初陣なんてそんなもんだろ。 大事なのはお前ら将校だ。 そんな兵士達を落ち着かせる事が大事だ。 部隊が機能しなくなったら終わりだからな。」
確かにハンナには平蔵や太吉がいて、ルーナにはリトがいてくれた。
どうしようもない恐怖の中でもリトは優しくて冷静だった。
自分に同じ事ができるのか?
いや。
しなくてはならない。
「そしてもう一つの種類だ。 訓練では不真面目だったり異様に成績が悪い兵士だが戦場に出ると訓練が嘘の様に有能になる。 そういったタイプは実戦でしか成長できない。 あまり多いタイプではないが確かに存在する種類だ。」
「あ、あの。 虎白様。 そういったタイプが部下にいた場合どうすれば?」
「信じてやれ。 そいつの直感や行動を信じろ。 実戦で伸びるタイプの兵士は更に成長すると優子や甲斐の様な本能的に判断できる指揮官になれる。 つまりこれは才能だ。」
生まれついての才能。
ほとんどの者が過酷な訓練を経験して実戦で慣れていく。
しかし戦場でのみ成長できる者もいる。
ルーナは呂布軍と戦うペップを見てあの時の事を思い出した。
「本当にいるのね。 羨ましい。 大した才能だわ。」
大乱戦の戦場で更にルーナの元にはぐれた兵士が集まってくる。
ルーナは虎白の言葉を信じた。
間違いなくペップはあの日虎白が話していた類だ。
集まってきた兵士にルーナは言った。
「ここから少し右側で戦うジャガーの半獣族。 獣王隊の少尉がいる。 そこの10人はジャガーの少尉に合流しなさい。 ルーナに言われて来たと言いなさい。」
「了解です!」
ペップは合流した10人を含む20人の混成軍を指揮しながらも先頭で戦っていた。
混乱する事も畏怖する事もなく冷静かつ激しく戦っていた。
隣で倒れる味方が出ても冷静さは保てていた。
「落ち着けみんな。 しっかり協力しろ! 敵の騎馬隊の馬を狙え!! 落馬した騎手は二列目が殺せ!」
「了解です少尉!!」
火事場の馬鹿力とでも言うのか?
何か少しでも間違えれば呂布軍に首を跳ねられてもおかしくない状況だというのに。
訓練や模擬演習では失態続きだったのに。
ペップは冷静で勇敢だった。
これが生まれ持っての才能か。
しかしペップの活躍は広い戦場でほんの一部の事だ。
戦場全体では白陸軍の苦戦は否めない。
白神、獣王、進覇隊と各軍団はバラバラになり連携すら難しい。
大将軍は呂布の迎撃で手一杯。
300万もの騎馬隊の突撃は熾烈を極めていた。
ペップの部隊からも逃走する兵士が出始めていた。
「おいこら逃げるな!!!」
「も、もう無理だ!! こんなの止められるわけがない!!!」
「マズイな・・・兵士が足りない・・・」
白陸軍は奮戦したがいよいよ限界が迫っている。
何より大将軍が先頭で戦えない。
しかしそんな時だ。
戦場に響く美しい声。
黒い髪をなびかせて正覇隊を率いる大将軍。
レミテリシアは崩壊しかける白陸軍を立て直した。
彼女の声は全軍に響く。
そして彼女は驚く事に白神、獣王、進覇の3隊を1つにまとめさせて反撃の指示を出した。
各軍団の混成軍はレミテリシアが指揮した。
ペップはレミテリシアの指示に従う。
「よし! お前達はレミテリシア様の第6軍に合流しろ!! 俺は。 ルーナと一緒に私兵に戻るか。」
「ペップ! レミテリシア様の声を聞いたね!?」
「ああ!! やっぱりすげえよ! あの正覇隊の大将軍様は!!!」
「そうね。 又三郎大佐の元に戻る。 君もタイロン大佐の元に戻りなさい。」
こんな心強い事があるか?
大将軍レミテリシアの指揮の元で白神、獣王、進覇の私兵3隊が連携する。
ペップは溢れんばかりの高揚感に包まれた。
レミテリシアのカリスマ性。
それは絶望的な戦場で輝く。
彼女の声は全軍に勇気と希望を与えた。
「ルーナ! レミテリシア様は俺達3隊に共闘しろって言ったんだ! 行こうぜ!!」
「白神のルーナ少佐とお見受けする! 拙者は進覇の勝永少佐と申す!! 相乗りせよ!! 拙者の騎馬の後ろに乗れ!! そこの獣王はついて参れ!!!」
『了解!!!』
進覇の騎馬に乗り、白神隊が反撃する。
討ち損じた敵は獣王が駆逐する。
細かな打ち合わせなんて必要ない。
何故なら誰よりもお互いを知っている。
それだけ共に前線で力を合わせ、模擬演習でも戦ってきた。
今更何を打ち合わせする必要があるか?
何も怖くなかった。
あの大将軍レミテリシアが「行け」と言っている。
背中まで押してもらえた。
『3隊突撃いいいいい!!!!!!!!!!!』
3隊の私兵大佐が絶叫すると見事なまでに足並みが揃い反撃を開始した。
その破壊力の凄まじさときたら。
強力な呂布軍でさえも圧倒するほどに。
これが私兵だ。
これが3隊の力だ。
ペップはその先頭にいた。
白神と進覇の少佐の横にペップは立ち会えた。
「獣王の歩兵!! 遅れるでないぞ!!」
「ペップ! しっかり援護してね!」
「ああっ!! やってやろうぜ!!! 最高だああああ!!!! ガルルルルッ!!!!」
こんな事があるだろうか?
伝説となる猛反撃。
若き猛獣はその先頭を走ったのだ。
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