天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第69章 猛獣の初陣

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天上門。


白く巨大な門を抜けると眼前に広がる黒い群れ。


冥府の魔将呂布が率いる大軍。


その全員が騎馬隊だ。


爆音といえる軍馬の蹄の音が天上軍を圧倒する。


夜叉子と獣王隊は第2陣にいた。


前方には竹子と白神隊そして優子と美楽隊が待ち受ける。


第2陣から戦況を見つめるペップは何処か自身ありげだった。




「第1陣にはあのルーナがいるんだ。 冥府の連中がどれほどか知らねえがどうせお頭の所までは来れねえぜ。」
「油断はダメだよー! 私は来る気がするよー。 相手は馬で突撃してくるんだしねー。」





自慢気にルルは呂布軍を見ている。


しかし模擬演習で白神隊の強さを知ったペップは想像もできなかった。


あの白神隊を蹴散らせる相手なんているものかと。


視力の優れている半獣族は肉眼で第1陣の戦闘を見ていた。


ルーナの姿も見えている。


そして呂布軍の先頭を走る男の存在に絶句した。


赤い馬にまたがり2メートルほどの身長がある。


そして長く鋭い戟を片手で振り回している。


頭には虫の触覚の様な被り物をしている。


顔はまさに鬼の形相。


白神隊が戦闘に入った。


しかしその男は白神隊を軽々と蹴散らして進んでいる。


ペップはその「鬼神」の存在を知らなかった。


冥府の事なんて何も知らなかった。


ペップが見ている男こそが恐らく人類でも最強の男であろう。


彼の名は呂布。


攻め込んできている呂布軍の総大将だ。





「な、なんだあいつ・・・白神があんな簡単に・・・」




ペップは居ても立っても居られなくなっていた。


隊列から少し前に出ていた。


体が無意識に進んでしまう。


上官の中尉に首根っこを掴まれて戻されるが落ち着きがない。


あの白神隊や美楽隊が簡単に吹き飛ばされている。


呂布の横にいる女も戟を振り回している。


一体なんだというのか。




「なんでだよ・・・あんなに強かったじゃねえかよ・・・なんであんな連中に負けてんだよ・・・」
「それだけ相手が強いんだ。 少尉。 勝手な真似は許さないからな。」
「おかしいだろ・・・ルーナは俺が何しても勝てなかったのに・・・なんでこんな所で俺達は動かないんすか? 行きましょうよ白神隊に協力しましょうよ!!」





ペップは興奮が収まらない。


初めての戦場だが彼は怯えるどころか興奮していた。


まるで部活でもしているかの様に。


口を開いて舌を出して荒い呼吸をしているペップは今にも勝手に動いてしまいそうだ。


肉眼で見ているのはルーナの存在。





「今だルーナやっちまえ!!」




しかしルーナが相手にしているのは呂布だ。


因縁の敵なのだ呂布は。


白神隊の顔とも言えるハンナを討ち取った張本人。


ルーナは何がなんでも討ち取りたかった。


まるで歯が立たない。


呂布は相手にもせずに進んでいる。


吹き飛ばされて倒れたルーナは仲間に抱きかかえられて少し下がったが、立ち上がり呂布を追いかけている。


ペップは我慢ができなかった。




「ガルルルルッ!!!」
「お、おい少尉!! 小隊を置いて何処へ行くんだー!!!!」




獣王隊は動かない。


第2陣と第1陣の間には間隔が空いている。


第1陣の直ぐ後ろには甲斐と進覇隊が布陣している。


ペップは進んだ。


進覇隊を通り越して第1陣の乱戦の中に単身飛び込んだ。


怒る上官の中尉の腕を掴んで首を左右に振るのは軍曹のルルだ。




「無駄なんです。 ペップは昔からあんな感じなので・・・」
「馬鹿言え! 許されると思っているのか?」
「いいえ。 でも。 やりたい様にやらせてあげたいです。 指揮は私が執りますから。」




戦場では兵士が命を落とす。


しかし極稀に。


戦場に出ると大きく成長する者がいる。


虎白や竹子など大将軍達がその典型だ。


そしてハンナやリト、ルーナといった者達もその類だった。


今ここに。


また何か変わりそうな者がいる。


第1陣。


呂布軍の圧巻の突撃は何をしても止められなかった。


ルーナは劣勢の中で何か活路を必死に見出していた。




「呂布はいい。 周りの兵士を狙え。」




この破壊力は呂布本人もさることながら周りの兵士達も進覇隊に匹敵する強さだった。


まるで進覇隊が300万もいる様だった。


ルーナは全軍に呂布兵の掃討を指示したがルーナは呂布を見ていた。




「ハンナ少佐の仇・・・」




呂布は竹子と優子すら圧倒して進んでいた。


ルーナはその場所へ向かった。


平蔵の槍を自在に操って周囲の呂布軍を刺して馬から落としていく。


そして呂布を攻撃範囲に捉えると槍を背中に戻してハンナと自分の剣を抜いた。




「行きましょう少佐。 うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


呂布に斬りかかるが戟を一振りされるとまた吹き飛んだ。


背中から地面に落下すると吐血した。


それでもルーナは立ち上がった。


既に周囲には呂布軍が襲いかかってくる。


背中から平蔵の槍を取り出すと呂布軍と戦い始めた。


そんな時ペップは現れた。




「ルーナッ!!!」
「はっ!? 君は! どうしてこんな所にいるの!? 獣王隊は第2陣よ!!」
「お前何してんだよ!! あんなに強かったのになんであのデカイ人間に負けてんだよ!!」
「うるさいな。 早く戻りなさい!!」
「俺があのデカイ人間ぶっ殺してやるよ!! ガルルルルッ!!」





ペップは呂布軍を倒して進んでいく。


ルーナは驚いた表情でペップを追いかけた。


第1陣の陣形は既に崩壊して大乱戦となっている。


ルーナの周りには美楽隊の兵士までいた。


そんなめちゃくちゃな状況でペップ1頭を追いかけるのは困難だった。


この乱戦の中でたった1頭の半獣族を探す。




「白神、美楽聞け!!」
『ははっ!』
「この乱戦の中に獣王の兵士が1頭だけ紛れ込んでいる。 訓練不十分な兵士だ。 見つけ次第、後方に戻せ!!」
『ははっ!!!』




ペップは大乱戦の中で呂布を追いかけている。


獣王隊で地獄の訓練をしていたペップには呂布軍ですら弱く感じていた。


元々人間より遥かに屈強な半獣族だ。


ペップの戦いは凄まじかった。


呂布軍の騎馬隊を相手に馬の首に噛み付いて騎兵ごとなぎ倒している。


しかし興奮しているせいか隙だらけだ。




「これ!! その方は獣王だな? 後方に下がらぬか!!」
「うるせえ!! 俺はここで戦うんだよ!!!」
「何をたわけた事を!! 皆の者! 獣王がおったぞ! 守れい!!」




白神隊に発見されたがペップは後方に戻るつもりはなかった。


それどころか次々に呂布軍を倒している。


気がつけば白神隊はペップを後方に下げるどころか援護していた。


ルーナはそれを黙認して呂布を追いかけた。




「見つけだぞデカイ人間!!! ぶっ殺してやる!! ガルルルルッ!!!!」




ペップは呂布を見つけると一目散に走った。


四足歩行になって飛びかかった。


すると呂布の愛馬赤兎馬がペップに気がつくと前足でペップの顔を蹴った。




バキッ!!




「ぐっはっ・・・」



地面に倒れ込んだペップを赤兎馬が踏み潰そうと二本足で立っている。


そしてペップの顔目掛けて振り下ろす。




「はああああああああああああ!!!!!」
「ヒヒヒヒーンッ!!!!」





ルーナが赤兎馬の横腹を刺したが痛がっているだけで倒す事はできなかった。


赤兎馬は呂布を乗せて走り去った。


倒れるペップを立ち上がらせるとルーナは怒りを顕にした。




「逃げられたじゃない!! せっかくまた攻撃できる距離まで近づけたのに!!」
「鼻が折れた・・・」
「生きてるだけ感謝しなさい!!! お願いだから後方に戻って!!! 戦い方も違うし、あなたは未熟なんだから迷惑なの!!!」
「ルーナ後ろ!!!」




ペップはルーナを抱きしめて押し倒した。


間一髪の所で戟をかわした。


立ち上がるとその者はルーナとペップを見ている。




「我が名は張遼だ!!!」
「なんだこいつ?」
「呂布軍の将軍よ・・・」
「2人まとめてかかってこい!!!!」
「やるしかねえな。」
「絶対に気を抜かないで・・・相当強いはずよ。」





ルーナとペップは呂布軍の将軍張遼と対峙していた。


馬の上から戟を振り回す張遼を相手にルーナは懸命に戦っていた。



「さっきから呂布様を狙っているのは貴様だな。 猛獣まで連れおって。」
「ペップは下がってなさい。」
「いいや。 俺もやるぞ。」




張遼はルーナとペップ相手にも余裕を見せていた。


呂布軍は次々に進んでいく。


気がつけば甲斐と進覇隊まで乱戦に加わっていた。


呂布軍の猛攻を前に白陸軍が苦戦している状況だ。


そしてルーナとペップの前にいるのはその将軍張遼だ。


ルーナが槍で突き刺すと張遼は戟で受け止めて反撃する。


同時にペップが飛びかかったがそれすらも片腕で地面にペップを叩きつける。


顔色一つ変えない張遼を前にルーナは険しい表情をしている。




「この程度で。 我らが主を討ち取れるわけがないだろー!!!!」
「黙れ。」
「ルーナ相手にするな。 どうせ殺すんだ!!」





立ち上がるペップもう一度張遼に飛びかかった。


張遼は戟を振り抜いてペップの顔をかすめた。


出血するペップだがまるで怯まない。


初陣でここまで戦えるのは称賛に値するが戦場は甘くない。


生きるか死ぬかだ。


目の前にいるのはかの有名な張遼だ。




「ガルルルルッ!!!」




何度も立ち向かったが張遼には傷一つ与える事ができなかった。


やがてペップの神通力も減ってきて息切れをしている。


ルーナもボロボロだった。


過酷な訓練も実戦も経験してきた。


しかし世界には格の違う相手がいくらでも存在した。


それがこの張遼だ。





「はあ・・・ペップ君はもう限界よ。」
「ああ・・・はあ・・・はあ・・・まだまだ・・・お前と戦った時の方がずっと苦しかったね・・・」
「嬉しい事言ってくれるね・・・じゃあ倒そうこの将軍を・・・」



ルーナは槍を戻して剣を2本抜いた。


偉大なハンナの思いが込められた剣だ。


ギュッと握って第六感を集中させる。


すると張遼の動きが少しゆっくりに見え始めた。


戟を振り抜く一瞬だけ張遼は大きく振りかぶる。


その一瞬しかない。


ペップが飛びかかった。


張遼は振りかぶった。


ルーナは剣を前に突き立てて飛び込んだ。





「はああああああああああああ!!!!!!!!」
「くっ!?」




ルーナの剣は張遼の腹部をかすめた。


初めて顔を歪めた。


しかし寸前で体を少し避けた事で致命傷にはならなかった。





「やるな小娘。」
「はあ・・・はあ・・・」



張遼の表情は変わった。


余裕の表情は消えて物凄い表情で睨んでいる。


やっと本気になったという事か。


ルーナは怖気づく事はなかった。


フラフラのペップも同様に。


しかしそんな中、戦況を変える事が起きた。


乱戦の中から聞こえる白陸軍の歓声。


進覇隊の旗が上下に動いて歓喜している。




「甲斐様が呂玲を倒したぞー!!!!!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!』
「な、なんだと!? 玲様が・・・」




張遼は慌てて現場に向かおうとしていた。


しかしペップが逃すまいと飛びかかる。


鬼の形相で振り返るとペップに向けて渾身の一撃を振り抜いた。


だがペップには攻撃は当たらなかった。




「追わなくていい・・・戦況が変わる・・・第2陣も来る・・・」
「る、ルーナ!!!」





剣で受け止めているが張遼の攻撃の重さにルーナの剣は自身の体に刺さっている。


血を流すルーナだったが腰に差すリトの拳銃を取り出して張遼に向かって放った。


すると張遼はこの至近距離にしても戟で弾丸を弾いて見せた。


しかし確かに張遼の戟にヒビが入ったのが見えた。


そしてその場を後にした。


大将軍甲斐の活躍で戦況が変わり始める。


戦いは続く。
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