天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第59章 再び会わん

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エリュシオンは諦めなかった。


遂に三度目の出陣が決まった。


白陸軍は速やかに出陣した。


ハンナは何処か不安げな表情をしていた。


その様子にルーナが気がつくと近づいてきて顔をじっと見ていた。




「大丈夫ですか?」
「嫌な予感がする・・・敵がしぶとすぎる・・・アーム戦役の敵でさえも虎白様なら打ち破れた。」
「確かに。 随分と撃退に時間がかかっていますね。 それも仕方ありませんよ・・・あのディアボロ。 虎白様と同じ能力を持っていますもの・・・」




虎白の圧巻の第八感。


しかしその「時を操る能力」を事もあろうかディアボロまで持っている。


ディアボロ1人に虎白が苦戦した。


レギオンの皇帝は我らが白陸の皇帝に渡り合った。


ハンナはそれが気になって仕方なかった。


前回の戦いの様にディアボロが竹子や自分の前に現れたらどうしようか。


経験を積んだハンナは大体の敵と対峙しても負ける事はなかったが、ディアボロだけは別だった。


それが不安でならなかった。





「まあ少佐。 きっと虎白様が守ってくださいますよ。」
「信じているよ。 虎白様が負けるなんて思っていないわ。」
「私達を見捨てません。 虎白様・・・」





赤面していつもより女の子らしい声を出して虎白の名前を口にするルーナを見てハンナは不思議そうにする。


少しニヤけた表情で黙り込んでいる。


ハンナは目を細めて見ている。


気がついたルーナは慌てて下を向く。




「あなた虎白様と何か話したでしょ?」
「えっ!? い、いや・・・」
「惚れちゃったのね。」
「・・・・・・」
「まあ気持ちはわかるけれど。」





傷つく部下に優しく寄り添う虎白の姿勢は女子にはたまらなかった。


ハンナも何度も胸が締め付けられる様な気持ちになった。


キリッとした顔でこちらを見ている。


普段は鋭い瞳だが、自分を気遣ってくれる時だけはとても優しい目をしている。


何でも話を聞いてくれて、受け入れてくれる。


そしていけない事だとわかっているがついつい心の中で思ってしまう。


彼を自分だけのものにしたいと。




「少佐言わないでくださいよ。」
「大丈夫よ。 きっとルーナだけではないわ。 他の兵士達も同じ様に思っているわ。」
「少佐もですか?」
「うーん。 そう考えた事もあった。 でも私はそれ以上に竹子が好きでね。 竹子を守りたい。 その気持の方が強い。」




兵士が一国の皇帝に恋をするなどおかしい。


本来ならありえない。


しかし鞍馬虎白とはそういう男なのだ。


皇帝でありながら兵士達と笑顔で話す。


自分が皇帝だなんて気にもしていない。


地位なんかよりも兵士を大切にする。


ルーナは思った。




(虎白様・・・いけない事だとわかっています。 我が主の竹子様が心底愛する方があなたです。 竹子様の部下の私が虎白様に惚れるなんて・・・でも今は我慢してください。 それだけで私は頑張れるのです・・・)




決して口には出さない。


想いは胸の中で。


まるで祈るかの様に。


しかしそれこそが正しい事なのかもしれない。


虎白は神族だ。


祈られ、崇められる存在。


ルーナの中でも勝手に納得していた。


それが一番楽だった。




「ふう。 まあいいんです。 私は結婚したいとかそういうのじゃないんで。 ただ想っていたい。 それだけで気持ちが楽になります。」
「そう。 ならいいわ。 レギオンとの戦いに勝利してまた虎白様に褒められるといいね。」
「はい!」




白い旗の大軍の中で話す2人が向かう先は戦場。


会話の内容は年頃の女子の会話。


虎白が戦う理由。


それはこんな可愛らしい女子が握る物が武器ではなく、化粧品や恋する相手の手であってほしいと思って戦っている。


戦争がなくなればハンナもルーナもとっても可愛い女子。


街を歩けば男達が放っておかない。


声をかけられて華麗にかわしてほしい。


「私達には釣り合わないわ」と優雅に歩いてほしい。


そしていつか。


リトと健太の様に心から愛し合える相手に出会ってほしい。




「もう着くな。 いつか必ず幸せになれるさ。 我が兵士・・・いや。 我が愛する民達よ。」





虎白は広大なディノ平原を見渡している。


もう何度目か。


兵士に「生きてくれ」と心の中で叫ぶのは。


竹子や夜叉子、レミテリシアが布陣を始める中、遠くから上がる砂煙を見つめる虎白。


間もなく始まる。


この戦いを勝利に導けるか?


彼女達の幸せを願うなら勝つしかない。


遂に現れた。


レギオン軍の大軍勢が次こそは勝利すると。




「うわあ。 すごい数ね。」
「我々の3倍はいますかね。」
「まあいつもの事ね。」
「はい。」




天上軍が兵力で上回った戦いなんて今までになかった。


メテオ海戦もアーム戦役も虎白がいなければ勝てなかった。


彼はいつだって大軍を凌駕してきた。


だから今回だって大丈夫。




「大好きな虎白様がついているもね? ルーナ?」
「や、止めてくださいよ・・・」




赤面して両手で顔を隠している。


少し呆れた表情で目を細めるハンナだったが、吹き出して笑っている。


いよいよ決戦は近い。


それが最後の笑顔となった。


もう笑えない。


次に笑う時は勝った時だ。



「さあ来るよ。 行こうか!」
「はい! 我ら白神は無敵!」




ハンナとルーナがいる中央軍。


都督竹子と大将軍優子が率いる白陸軍の要はこの戦いで何度も崩された。


「無敵の中央軍」と呼ばれた精鋭だったがレギオンの強さは中央軍が無敵ではないと証明した。


汚名返上に士気が上がる中央軍に対峙するレギオン軍。


睨み合い、必ず決まった開戦の声が響く。


美しく透き通る声が開戦の合図だ。




「撃てー!!!」




竹子の一声から始まる。


射撃を受けたレギオン軍は一気に流れ込んでくる。


剣を抜いたハンナとルーナ。


竹子が2人にうなずく。




「白神隊突撃!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!!』





戦況は天上軍有利で進んだ。


レギオンは新手を次々に投入したがその全てを蹴散らし続けた。


左翼軍夜叉子がまたしても敵の将軍を討ち取った。


右翼軍のレミテリシアも敵を撤退させて中央軍に合流しようとしている。


何時間も続く死闘の中で天上軍は勝利への活路を見出し始めた。





「第七感!!」
「第六感。」




ハンナが敵を蹴散らしてルーナが銃撃を剣で見事に弾いている。


全兵士がレギオンを圧倒していた。


ディアボロも現れない。


しかしそんな時。



ガッシャーーーン!!




何人もの白神隊が吹き飛んだ。


ハンナとルーナはその先を見た。


赤い馬にまたがりこちらに爆走してくる男。


虫の触覚の様に長い被り物が威圧感を更に増す。


長く太い戟を片手で振り回している。


一体何者なのだ。


精鋭の白神隊が簡単に吹き飛んでいる。


すると竹子が叫んだ。




「又三郎! ハンナ! あの者を止めます! 一緒に来なさい!」




ハンナは慌てて竹子の近くに来た。


心配そうに見つめるルーナにうなずきその場を任せた。


竹子とハンナ達はその男に挑んだ。





「行きますよ!」




しかしルーナは次の瞬間感じた。


まるで線香花火が消える様に。


美しかったが消えると暗闇。


なんとも虚しい感覚。


線香花火の様に光るハンナの命の気配が消えていく感覚。




「少佐危ない!!!!!」




ルーナは絶叫した。


天下無双と呼び声高いその男。


呂布奉先。


ハンナ達が飛びかかった相手は人類でも最強の男。


そして。



グサッ!




「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





呂布はハンナを貫いて捨てる様に地面に叩きつけるとそのまま爆走していった。


白神隊は防円陣を展開してハンナの周囲を守った。


竹子とルーナは駆け寄った。




「ハンナっ!!! ダメよ! 逝かないで・・・」
「少佐っ!!! いやあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「た、竹子・・・ごめんね・・・先にリトの元へ行くみたい・・・うう・・・でも悔しいよ・・・虎白様や竹子が創る世界を見たかったよ・・・」





第六感が強い竹子やルーナにはわかる。


命の気配が消えていく事に。


それでも諦められなかった。


どうか生きてほしいと。





「私を置いていかないで・・・」
「うう・・・ごめんね・・・」




竹子の手を握って泣いているハンナ。


しかしその手が徐々に弱っていく。


ハンナの腹部にはあまりにも大きい穴が空いている。


流れ出る血の量が回復は絶望的と促している。


苦しそうにも必死に最後の言葉を竹子に訴える。




「楽しかったよ・・・本当に・・・うう・・・寂しいよ・・・」
「ハンナ・・・だ、大丈夫・・・リトや平蔵が待っているよ・・・」
「うう・・・平蔵さんは褒めてくれるかな・・・」
「も、もちろんよ・・・私も誇りに思っている・・・最高の副官よ・・・」




嬉しそうに笑うハンナは今にも逝ってしまいそうだった。


竹子はとても我慢できなかった。


泣かずに見送りたいが不可能だった。


涙が止まらない。


乗り越えた壁も、楽しかった思い出もハンナとは数え切れないほどあった。


ハンナは手探りでルーナの手を握る。




「ルーナ・・・あなたが少佐になりなさい・・・竹子をお願いね・・・竹子ったら寂しがり屋だから・・・私がいないと・・・しん・・・ぱ・・・・・・・・・」




竹子がハンナに抱きついて泣いている。


ルーナはすっと立ち上がった。


そして静かに敬礼している。


涙が止まらない。


それでも立派に敬礼していた。


周囲の白神隊にも第六感を扱える兵士が大勢いる。


ハンナを守るためにレギオンと戦っているが泣きながら戦っている。


又三郎は馬にまたがり指示を出しているふりをしていた。


武士とは思えないほど泣いていた。


ハンナに背を向けて敵と向き合っていたが、顔は涙でグシャグシャ。


長きに渡って白神隊を支えたハンナの最期。


本陣の虎白にもわかった様だ。


白王隊とレギオンが交戦を始めた。


呂布の突撃に応戦している。


しかし竹子やルーナにはそれどころじゃなかった。


眠る様に穏やかに目をつぶっているハンナから離れられない。




その後戦いは終わった。



竹子は最後までハンナから離れなかった。




「平蔵やリトによろしくね・・・先に待っていてね・・・」




ためらいの丘にある「白陸軍戦没者」と書かれた墓地にハンナは埋葬された。


隣には「リト少尉」と書かれた墓標。


ハンナの墓から動けない竹子の背中を優しくなでる虎白。


しかし虎白自身も動けなかった。




「はあ・・・ハンナ・・・お前まで・・・後は任せろ。 お前との約束。 必ず果たすからな。 ゆっくり休めよ。 リト達によろしくな・・・」
「うう・・・虎白・・・」
「竹子・・・今日はずっとここにいよう・・・ハンナが到達点に辿り着くまでな・・・」




何時間もその場で泣いた。


すると背後から黒い着物姿で白い花束を持って歩いてきた。


虎白や竹子には声をかける事なく花束を供えて手を合わせると夜叉子は帰っていった。


夜叉子が供えた白い花は珍しい天上界の花。


花言葉は「再び会わん」だった。


夜叉子からの無言のメッセージだ。


その花言葉は様々な捉え方ができる。


ハンナへ向けて先に待つリト達に再び会うという意味か。


残された虎白や竹子。


少しだけだが話した事のある夜叉子達がいつの日か到達点で再び会おうと言っているのか。


虎白はその花を知っていた。


そして涙が止まらなかった。




「ハンナ・・・また会おうな・・・」




























白く何もない道を抜けると眩い光に包まれる。


何も見えず眩しそうにしていると手をギュッと握られた。


何年ぶりだろうか?


懐かしい感触に嗅ぎ慣れた匂い。


甘くていい匂い。




「お疲れ様。」
「あ、会いたかったよお・・・」
「私もだよ。 ほら平蔵さんが迎えに来ているよ。」




抱きついて安堵している。


するとその先から現れた師匠の姿。


初めて見る笑顔だった。




「良くやった!!!! 本当に良くやったあああああ!!!!!」
「お、お久しぶりです・・・私は立派に務められましたかね・・・」
「無論じゃあ! 誰もが認めておる! ここにいる者も残った者もな。 もう十分じゃ。 ゆっくり安め。」





駆け寄ってくる家族達。


師匠に同期にライバル。


そして兄妹。


誰よりも大好きなリト。


涙を拭いてハンナは来た道を振り返った。


そして一礼する。





「お世話になりました・・・先にここで待っています・・・私は元気です!」
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