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第23章 姫を守りし獣
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整列する3000の半獣族。
「メルキータは俺の兵に鍛えられてるからしばらくはニキータが指揮しろ。 竹子達の私兵に鍛えてもらえ。」
「えー白王隊も相手してよー!!」
「いきなりやっても何も学べないだろ。 数分で全滅するぞ。」
虎白の白王隊。
神族の狐のみで構成されている白王隊の強さは次元が違った。
メテオ海戦で冥府の精鋭の不死隊5万をたった3000で壊滅させている。
ろくに訓練もしていない半獣族3000が挑んでも何もできない。
虎白はまず大将軍の私兵達と訓練する事を勧めた。
そしてこの獣の軍団は虎白の指揮下から外れた。
メルキータやニキータが仕えているのは虎白の妻の優奈だ。
「じゃあニキちゃんの指揮下だし優奈姫様に挨拶しないとねー! 美桜や白雪にも見せよーっと!」
ニキータは嬉しくてたまらない。
念願だった半獣族だけの部隊。
しかしニキータはまだ知らない。
それがどれだけ困難な事なのか。
大きく知能面に劣る半獣族だけで戦いに勝つのは非常に困難だ。
戦術なしに勝てるほど戦いは甘くない。
強靭な身体と身体能力だけでどうにかできるのにも限界がある。
「じゃあ頑張れよ。 俺はレミのために天上界にいる不死隊を集めるんだ。 じゃあな。」
「バイバーイ!!」
そして虎白は去っていった。
「じゃあニキちゃんに続けー!!」
『ガルルルッ!!』
優奈が暮らす後宮へと向かう。
足並みも揃わずバラバラで走っていく。
それを目撃する白陸兵達からは失笑される。
しかしニキータは気にしない。
今はとにかく嬉しくてたまらないからだ。
後宮に着くと優奈に仕える猫の半獣族の美桜が迎える。
「ずいぶんとたくさん連れてきたにゃ。」
「見て見てー!! すっごいでしょー!! ニキちゃんが頑張って集めたんだよー!!」
「どうせ虎白が集めたにゃ。」
「そんな事ないもーん!! さあ訓練しないとねー!!」
ニキータは兵士達に模擬演習用の剣を持たせる。
そして各自がバラバラに振り回し始めた。
「にゃにもかもバラバラにゃ。」
「初日からそんな事無理だよー。 まずはみんな武器の使い方覚えないとねー!」
美桜は少し呆れた顔をして後宮に入ろうとする。
「あっ! 優奈姫様にゃー!! ニャーンッ!! ゴロゴロ。」
「あー美桜可愛いねーふふーん!」
「優奈姫様見てください!」
優奈が出てくるとニキータは得意げに兵士を紹介する。
驚いた顔をして兵士を見る。
「凄いねー!」
「ですです! しっかり訓練して優奈姫様をお守りしますよー!」
「ありがとうね。 でも怖かったら逃げていいんだよ?」
「それじゃ兵士の意味がありませんよー! 大丈夫ですよ! 半獣族は勇敢ですから!」
優奈は心配そうにニキータを見ている。
普通の女性の優奈には戦いがわからない。
かつてそんな優奈もメルキータやニキータ達と戦闘を経験した事がある。
優奈はその一回だけだが震えるほど怖かった。
心優しい優奈はあんな思いをこんなに可愛い皆にしてほしくなかった。
しかし元々皇女だったニキータや美桜は何度も実戦を経験している。
兵士の必要性をよくわかっている。
だから集めた。
だから訓練する。
ニキータ達はそれでも優奈を守りたかった。
それほどまでに優奈はニキータ達に愛情を注いでいた。
元々動物が大好きな優奈は半獣族が可愛くてたまらない。
宝物の様にニキータ達を可愛がった。
一緒にお風呂に入ってブラシで髪をとかしたり、食事を作ったり。
そんな優奈の姿に最初は懐かなかったニキータ達がどんどん優奈に惹かれていった。
いつもお世話になっている優奈姫様の役に立ちたい。
出来る事は守る事だった。
ニキータは自覚し始めていた。
有能な指揮官にならなくてはいけないと。
自分や姉の選択で兵士も優奈も死んでしまうと。
ニキータは自分の手に初めて震えを感じた。
宮衛党基地。
大きな砦には半獣族のみがいる。
体の大きい象やゴリラの半獣族のために正門もかなり大きく設計されている。
「かいもーん!」
その大きな門がゆっくりと開く。
小さな体の可愛らしい女性が入ってくる。
「大きいね。 虎白から聞いて挨拶に来たけれど。 メルキータは訓練中よね。」
「わー!! 竹子ー!! ニキちゃんの基地へようこそー!!」
「立派な基地ね! 虎白から訓練の話を聞いたけれど。 白神隊と訓練する?」
「うんするするー!!」
上機嫌で尻尾をフリフリさせるニキータ。
竹子はニコリと微笑んで宮衛党の視察をする。
一応武器は持っているが兵士と言うよりは民兵の集団。
持ち方を知っているだけで扱い方は全く知らないと言ったところだ。
「そちらの準備ができているなら直ぐにでも!」
「ほんとー? ワオーンッ!! じゃあやろうやろう!」
「わかりました。 又三郎。」
「ははっ!! 入ってまいれ!」
すると足並みを揃えて見事に行進しながら白神隊が入ってくる。
そして竹子とニキータの横まで行進する。
「全体ー!! 止まれっ!」
ザッザッザッ!
「回れー右!!」
サッ。
「敬礼!!」
ニキータは目を見開いて驚愕する。
動きに一切のブレがなかった。
全員の神経が共有されているかの様に。
阿吽の呼吸。
敬礼したままピクリとも動かない白神隊に竹子が敬礼する。
「すっごー!! カッコいいー!! 宮衛党も負けてられないねー!!」
ニキータは宮衛党の兵士達を集める。
ゾロゾロと集まってきては何事かと話し声が絶えない。
「宮衛党ー敬礼!!」
「何やってるんすか? それ何すか?」
ビシッと敬礼する者やわけがわからずにキョロキョロする者。
とにかく一体感がなくそれぞれの動きをしていた。
竹子がクスッと笑うとその横で白神隊も一斉に笑う。
「これは先が長そうですね。 実戦投入には5年以上かかりますね。」
「えー!? 出たい出たいー!!!」
ニキータは子供の様にだだをこねる。
竹子の表情は一瞬ムッとしてまた優しい表情に戻った。
最前線で地獄の様な戦いを経験してきた竹子と白神隊。
戦場の過酷さをよく知っている。
目の前にいる獣達は実戦をまるで部活の試合ぐらいに思っている。
その姿勢に腹を立てた竹子だったが彼女は虎白の一番の側近を務める存在。
竹子が腹を立てた様には誰も見えなかった。
副官の又三郎でも。
しかし想いは一つ。
共に地獄を生き抜いた白神隊。
竹子同様にその場にいた全白神隊がイラッときたのだ。
態度に出した者は一人もいない。
「ふふ。 頑張って優秀な部隊にしようね! じゃあまずは行進からかな? 敬礼の仕方からかな? 又三郎どう思いますか?」
「そうですな。 まずは立ち方からかと。」
「あら。 ふふ。 そうですね!」
目の前に大将軍がいるにも関わらず片足に体重をかけて立っていたりそっぽを向いていたりしている。
白神隊はその間もピクリとも動かない。
「竹子様。 御免! すうー。 貴様らっ!!!! 気をつけっ!!!!!!」
まるで砲弾の様に轟く又三郎の叫び声。
驚いた半獣族は防衛本能でその場に気をつけをして動かなくなった。
耳を塞いだ竹子がニコリと笑う。
「素晴らしいですね又三郎。」
「こやつらには緊張感がありませんな。 獣ゆえに防衛本能を刺激すれば言う事を聞きましょう。」
竹子は笑いながら又三郎にうなずく。
「白神隊!! 駐屯地まで駆け足!!」
ザッザッザッザッ!!
白神隊はそのまま自分達の駐屯地まで走って行った。
ニキータは不満そうな表情。
又三郎が鬼の形相でニキータを睨む。
「ニキちゃんを睨まないでー!! 何で帰っちゃったのー!?」
「私達はいるよ。 まずは整列と行進の訓練だから兵達は帰ってもらったの。 彼らにも訓練があるからね。 さあ頑張ろうね!」
戦闘訓練がやりたかったニキータは不満でならない。
整列や行進ができなくても戦闘能力が高ければ問題ない。
ニキータにはわからなかった。
どうしてこんな事をしなくてはならないのかと。
これから始まるのは普段は優しい表情でおっとりしている可愛らしい大将軍の血反吐を吐く様な訓練の始まりだった。
ヘスタとアスタ姉妹。
サーバルの半獣族の双子の姉妹。
メテオ海戦の時に難民として避難している最中、冥府兵に襲われた所を虎白とメルキータに救われた。
それ以来姉妹はメルキータに仕えている。
瓜二つの顔。
小柄で細身の可愛らしい見た目。
上に長い耳がまた可愛らしい。
「でもニキータ。」
「竹子は百戦錬磨だし言う事を」
『聞くべき!!』
声がいつも一つになる。
双子として生まれて今日まで片時も離れる事なくいつだって一緒にいた。
考える事もやる事も全部同じ。
白陸軍の中央軍として幾多の死戦を勝ち抜いてきた竹子。
その竹子が整列や行進ができないのは不味いと言うのだからそれは素直に聞くべきだとニキータを説得する。
「もーわかったよー!!!」
竹子はそれでも優しく微笑んでいる。
「じゃあ頑張ろうね。 ふふ。 3列になって足並み揃えてね。」
宮衛党の兵士達はゾロゾロと隊列を組む。
「こ、こんな感じ?」
「うん。 じゃあ行進始め!」
ニキータが歩き出すと兵士達が歩く。
しかし思わず失笑してしまうほどにバラバラだった。
又三郎が呆れた顔で見ている。
竹子はニコリと笑う。
「はいやり直し。 もう一度。」
「えー難しいー!! せーのっ!」
そしてニキータが掛け声を出して歩くがそれでも足並みは揃わない。
「はいやり直し。」
「もーこんなの嫌だー!! 戦闘訓練やってえー!!」
「ふふ。 これの大切さを理解できないなら戦闘訓練をしても何も学べないよ。」
「なんでー!! ニキちゃんはお姉ちゃんが戻るまでに宮衛党を強くするのー!!」
おもちゃを買ってもらえない子供の様に駄々をこねる。
さすがの竹子も少しムッとして又三郎を見る。
呆れ顔の又三郎。
「こやつら体で覚えるしかありますまい。 一度思い知らせてやるのがよろしいかと。」
「兵の皆様には戻っていただいたのに。 後日に致しましょうか。」
「かしこまった。 すうー注目ー!!!!!」
ビクッ!!
宮衛党は驚いて又三郎を見る。
「竹子様のご好意で明日。 貴様らと我らが白神隊が模擬演習を行ってやる。 今日は各々明日に向けて準備せよ!」
「わーいっ!! 竹子さっすがー!! ありがとうっ!!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶニキータ。
その隣で呆れ顔のヘスタとアスタ。
同じくメテオ海戦でメルキータに拾われた雪豹の半獣族のウランヌもまた渋い顔をする。
「お姉ちゃん!」
「アスタ。 明日は頑張ろうね!」
『絶対勝てないけどっ!!』
ヘスタとアスタは渋い顔のまま声を揃えて肩を落とす。
「まあ。 痛い思いをして経験するしか私達半獣族にはできないのかな。」
ウランヌも同じく浮かない顔。
ヘスタ達は後宮内の酒場でミルクを飲みながら話す。
ニキータの暴挙を止める手段はもはやない。
優しく微笑む竹子はさぞご立腹なはず。
「はあ。 困ったなあ。 竹子様の威圧感凄くなかった?」
「優しく微笑んでいたけれど。」
「実際の所は。」
『めっちゃ怒っていたっ!!』
ウランヌとヘスタ、アスタ姉妹だけは他の半獣族より物分かりがいい。
それはメテオ海戦で難民になった経験があるからだ。
迫りくる冥府軍から逃げる事しかできなかった。
ヘスタとアスタは一度反撃をしたが危うく殺される所を虎白とメルキータに救われた。
その経験がニキータにはない。
超大国ツンドラ帝国でずっとお姫様だったニキータ。
大抵の事は姉のメルキータに任せていた。
何不自由なく育ってしまった。
その代償をここに来て払う事になる。
「まあメルキータが不在の今はニキータが宮衛党の総帥。 大将が戦うって言うんだから私達が反対するわけにいかないよね。」
ウランヌはミルクを飲みため息をつく。
ヘスタとアスタもコップを両手で持って大事にミルクを飲み干すと同時にドンッと机に置く。
『出来る事をやろうっ!!』
「そうだね。 せめて美桜と白雪がいたら違うのに。」
猫の半獣族の美桜とホッキョクギツネの白雪。
彼女らは知能が高く多少だが戦術を知っている。
その賢さゆえに優奈の側近として後宮の内政に重視している。
軍部は皇女でありながら騎士としての訓練をしていたメルキータに任せていた。
もはや白神隊に全力で体当たりするしかない。
覚悟を決めたヘスタ、アスタとウランヌ。
可愛らしい肉球を合わせて明日の健闘を誓う。
「メルキータは俺の兵に鍛えられてるからしばらくはニキータが指揮しろ。 竹子達の私兵に鍛えてもらえ。」
「えー白王隊も相手してよー!!」
「いきなりやっても何も学べないだろ。 数分で全滅するぞ。」
虎白の白王隊。
神族の狐のみで構成されている白王隊の強さは次元が違った。
メテオ海戦で冥府の精鋭の不死隊5万をたった3000で壊滅させている。
ろくに訓練もしていない半獣族3000が挑んでも何もできない。
虎白はまず大将軍の私兵達と訓練する事を勧めた。
そしてこの獣の軍団は虎白の指揮下から外れた。
メルキータやニキータが仕えているのは虎白の妻の優奈だ。
「じゃあニキちゃんの指揮下だし優奈姫様に挨拶しないとねー! 美桜や白雪にも見せよーっと!」
ニキータは嬉しくてたまらない。
念願だった半獣族だけの部隊。
しかしニキータはまだ知らない。
それがどれだけ困難な事なのか。
大きく知能面に劣る半獣族だけで戦いに勝つのは非常に困難だ。
戦術なしに勝てるほど戦いは甘くない。
強靭な身体と身体能力だけでどうにかできるのにも限界がある。
「じゃあ頑張れよ。 俺はレミのために天上界にいる不死隊を集めるんだ。 じゃあな。」
「バイバーイ!!」
そして虎白は去っていった。
「じゃあニキちゃんに続けー!!」
『ガルルルッ!!』
優奈が暮らす後宮へと向かう。
足並みも揃わずバラバラで走っていく。
それを目撃する白陸兵達からは失笑される。
しかしニキータは気にしない。
今はとにかく嬉しくてたまらないからだ。
後宮に着くと優奈に仕える猫の半獣族の美桜が迎える。
「ずいぶんとたくさん連れてきたにゃ。」
「見て見てー!! すっごいでしょー!! ニキちゃんが頑張って集めたんだよー!!」
「どうせ虎白が集めたにゃ。」
「そんな事ないもーん!! さあ訓練しないとねー!!」
ニキータは兵士達に模擬演習用の剣を持たせる。
そして各自がバラバラに振り回し始めた。
「にゃにもかもバラバラにゃ。」
「初日からそんな事無理だよー。 まずはみんな武器の使い方覚えないとねー!」
美桜は少し呆れた顔をして後宮に入ろうとする。
「あっ! 優奈姫様にゃー!! ニャーンッ!! ゴロゴロ。」
「あー美桜可愛いねーふふーん!」
「優奈姫様見てください!」
優奈が出てくるとニキータは得意げに兵士を紹介する。
驚いた顔をして兵士を見る。
「凄いねー!」
「ですです! しっかり訓練して優奈姫様をお守りしますよー!」
「ありがとうね。 でも怖かったら逃げていいんだよ?」
「それじゃ兵士の意味がありませんよー! 大丈夫ですよ! 半獣族は勇敢ですから!」
優奈は心配そうにニキータを見ている。
普通の女性の優奈には戦いがわからない。
かつてそんな優奈もメルキータやニキータ達と戦闘を経験した事がある。
優奈はその一回だけだが震えるほど怖かった。
心優しい優奈はあんな思いをこんなに可愛い皆にしてほしくなかった。
しかし元々皇女だったニキータや美桜は何度も実戦を経験している。
兵士の必要性をよくわかっている。
だから集めた。
だから訓練する。
ニキータ達はそれでも優奈を守りたかった。
それほどまでに優奈はニキータ達に愛情を注いでいた。
元々動物が大好きな優奈は半獣族が可愛くてたまらない。
宝物の様にニキータ達を可愛がった。
一緒にお風呂に入ってブラシで髪をとかしたり、食事を作ったり。
そんな優奈の姿に最初は懐かなかったニキータ達がどんどん優奈に惹かれていった。
いつもお世話になっている優奈姫様の役に立ちたい。
出来る事は守る事だった。
ニキータは自覚し始めていた。
有能な指揮官にならなくてはいけないと。
自分や姉の選択で兵士も優奈も死んでしまうと。
ニキータは自分の手に初めて震えを感じた。
宮衛党基地。
大きな砦には半獣族のみがいる。
体の大きい象やゴリラの半獣族のために正門もかなり大きく設計されている。
「かいもーん!」
その大きな門がゆっくりと開く。
小さな体の可愛らしい女性が入ってくる。
「大きいね。 虎白から聞いて挨拶に来たけれど。 メルキータは訓練中よね。」
「わー!! 竹子ー!! ニキちゃんの基地へようこそー!!」
「立派な基地ね! 虎白から訓練の話を聞いたけれど。 白神隊と訓練する?」
「うんするするー!!」
上機嫌で尻尾をフリフリさせるニキータ。
竹子はニコリと微笑んで宮衛党の視察をする。
一応武器は持っているが兵士と言うよりは民兵の集団。
持ち方を知っているだけで扱い方は全く知らないと言ったところだ。
「そちらの準備ができているなら直ぐにでも!」
「ほんとー? ワオーンッ!! じゃあやろうやろう!」
「わかりました。 又三郎。」
「ははっ!! 入ってまいれ!」
すると足並みを揃えて見事に行進しながら白神隊が入ってくる。
そして竹子とニキータの横まで行進する。
「全体ー!! 止まれっ!」
ザッザッザッ!
「回れー右!!」
サッ。
「敬礼!!」
ニキータは目を見開いて驚愕する。
動きに一切のブレがなかった。
全員の神経が共有されているかの様に。
阿吽の呼吸。
敬礼したままピクリとも動かない白神隊に竹子が敬礼する。
「すっごー!! カッコいいー!! 宮衛党も負けてられないねー!!」
ニキータは宮衛党の兵士達を集める。
ゾロゾロと集まってきては何事かと話し声が絶えない。
「宮衛党ー敬礼!!」
「何やってるんすか? それ何すか?」
ビシッと敬礼する者やわけがわからずにキョロキョロする者。
とにかく一体感がなくそれぞれの動きをしていた。
竹子がクスッと笑うとその横で白神隊も一斉に笑う。
「これは先が長そうですね。 実戦投入には5年以上かかりますね。」
「えー!? 出たい出たいー!!!」
ニキータは子供の様にだだをこねる。
竹子の表情は一瞬ムッとしてまた優しい表情に戻った。
最前線で地獄の様な戦いを経験してきた竹子と白神隊。
戦場の過酷さをよく知っている。
目の前にいる獣達は実戦をまるで部活の試合ぐらいに思っている。
その姿勢に腹を立てた竹子だったが彼女は虎白の一番の側近を務める存在。
竹子が腹を立てた様には誰も見えなかった。
副官の又三郎でも。
しかし想いは一つ。
共に地獄を生き抜いた白神隊。
竹子同様にその場にいた全白神隊がイラッときたのだ。
態度に出した者は一人もいない。
「ふふ。 頑張って優秀な部隊にしようね! じゃあまずは行進からかな? 敬礼の仕方からかな? 又三郎どう思いますか?」
「そうですな。 まずは立ち方からかと。」
「あら。 ふふ。 そうですね!」
目の前に大将軍がいるにも関わらず片足に体重をかけて立っていたりそっぽを向いていたりしている。
白神隊はその間もピクリとも動かない。
「竹子様。 御免! すうー。 貴様らっ!!!! 気をつけっ!!!!!!」
まるで砲弾の様に轟く又三郎の叫び声。
驚いた半獣族は防衛本能でその場に気をつけをして動かなくなった。
耳を塞いだ竹子がニコリと笑う。
「素晴らしいですね又三郎。」
「こやつらには緊張感がありませんな。 獣ゆえに防衛本能を刺激すれば言う事を聞きましょう。」
竹子は笑いながら又三郎にうなずく。
「白神隊!! 駐屯地まで駆け足!!」
ザッザッザッザッ!!
白神隊はそのまま自分達の駐屯地まで走って行った。
ニキータは不満そうな表情。
又三郎が鬼の形相でニキータを睨む。
「ニキちゃんを睨まないでー!! 何で帰っちゃったのー!?」
「私達はいるよ。 まずは整列と行進の訓練だから兵達は帰ってもらったの。 彼らにも訓練があるからね。 さあ頑張ろうね!」
戦闘訓練がやりたかったニキータは不満でならない。
整列や行進ができなくても戦闘能力が高ければ問題ない。
ニキータにはわからなかった。
どうしてこんな事をしなくてはならないのかと。
これから始まるのは普段は優しい表情でおっとりしている可愛らしい大将軍の血反吐を吐く様な訓練の始まりだった。
ヘスタとアスタ姉妹。
サーバルの半獣族の双子の姉妹。
メテオ海戦の時に難民として避難している最中、冥府兵に襲われた所を虎白とメルキータに救われた。
それ以来姉妹はメルキータに仕えている。
瓜二つの顔。
小柄で細身の可愛らしい見た目。
上に長い耳がまた可愛らしい。
「でもニキータ。」
「竹子は百戦錬磨だし言う事を」
『聞くべき!!』
声がいつも一つになる。
双子として生まれて今日まで片時も離れる事なくいつだって一緒にいた。
考える事もやる事も全部同じ。
白陸軍の中央軍として幾多の死戦を勝ち抜いてきた竹子。
その竹子が整列や行進ができないのは不味いと言うのだからそれは素直に聞くべきだとニキータを説得する。
「もーわかったよー!!!」
竹子はそれでも優しく微笑んでいる。
「じゃあ頑張ろうね。 ふふ。 3列になって足並み揃えてね。」
宮衛党の兵士達はゾロゾロと隊列を組む。
「こ、こんな感じ?」
「うん。 じゃあ行進始め!」
ニキータが歩き出すと兵士達が歩く。
しかし思わず失笑してしまうほどにバラバラだった。
又三郎が呆れた顔で見ている。
竹子はニコリと笑う。
「はいやり直し。 もう一度。」
「えー難しいー!! せーのっ!」
そしてニキータが掛け声を出して歩くがそれでも足並みは揃わない。
「はいやり直し。」
「もーこんなの嫌だー!! 戦闘訓練やってえー!!」
「ふふ。 これの大切さを理解できないなら戦闘訓練をしても何も学べないよ。」
「なんでー!! ニキちゃんはお姉ちゃんが戻るまでに宮衛党を強くするのー!!」
おもちゃを買ってもらえない子供の様に駄々をこねる。
さすがの竹子も少しムッとして又三郎を見る。
呆れ顔の又三郎。
「こやつら体で覚えるしかありますまい。 一度思い知らせてやるのがよろしいかと。」
「兵の皆様には戻っていただいたのに。 後日に致しましょうか。」
「かしこまった。 すうー注目ー!!!!!」
ビクッ!!
宮衛党は驚いて又三郎を見る。
「竹子様のご好意で明日。 貴様らと我らが白神隊が模擬演習を行ってやる。 今日は各々明日に向けて準備せよ!」
「わーいっ!! 竹子さっすがー!! ありがとうっ!!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶニキータ。
その隣で呆れ顔のヘスタとアスタ。
同じくメテオ海戦でメルキータに拾われた雪豹の半獣族のウランヌもまた渋い顔をする。
「お姉ちゃん!」
「アスタ。 明日は頑張ろうね!」
『絶対勝てないけどっ!!』
ヘスタとアスタは渋い顔のまま声を揃えて肩を落とす。
「まあ。 痛い思いをして経験するしか私達半獣族にはできないのかな。」
ウランヌも同じく浮かない顔。
ヘスタ達は後宮内の酒場でミルクを飲みながら話す。
ニキータの暴挙を止める手段はもはやない。
優しく微笑む竹子はさぞご立腹なはず。
「はあ。 困ったなあ。 竹子様の威圧感凄くなかった?」
「優しく微笑んでいたけれど。」
「実際の所は。」
『めっちゃ怒っていたっ!!』
ウランヌとヘスタ、アスタ姉妹だけは他の半獣族より物分かりがいい。
それはメテオ海戦で難民になった経験があるからだ。
迫りくる冥府軍から逃げる事しかできなかった。
ヘスタとアスタは一度反撃をしたが危うく殺される所を虎白とメルキータに救われた。
その経験がニキータにはない。
超大国ツンドラ帝国でずっとお姫様だったニキータ。
大抵の事は姉のメルキータに任せていた。
何不自由なく育ってしまった。
その代償をここに来て払う事になる。
「まあメルキータが不在の今はニキータが宮衛党の総帥。 大将が戦うって言うんだから私達が反対するわけにいかないよね。」
ウランヌはミルクを飲みため息をつく。
ヘスタとアスタもコップを両手で持って大事にミルクを飲み干すと同時にドンッと机に置く。
『出来る事をやろうっ!!』
「そうだね。 せめて美桜と白雪がいたら違うのに。」
猫の半獣族の美桜とホッキョクギツネの白雪。
彼女らは知能が高く多少だが戦術を知っている。
その賢さゆえに優奈の側近として後宮の内政に重視している。
軍部は皇女でありながら騎士としての訓練をしていたメルキータに任せていた。
もはや白神隊に全力で体当たりするしかない。
覚悟を決めたヘスタ、アスタとウランヌ。
可愛らしい肉球を合わせて明日の健闘を誓う。
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