天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第15章 犠牲の上に

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戦死者多数。


不死隊の戦闘能力の高さの前に白陸軍は崩壊寸前。


戦場で愕然とするリト。



「仲のいいみんなが死んじゃった。 ユーリクもみんなも・・・」



リトの悲しみなんて知った事ではないと言わんばかりに味方は倒れて怒号がリトの号哭をかき消した。


竹子の軍団は敵の猛攻になんとか耐えている。


しかし戦況を変える何かがないと戦死者で溢れてしまう。


竹子は奮戦しながら倒れる味方を見る。



「申し訳ない・・・」



周囲には不死隊が迫る。



「このままでは崩壊してしまう。」



西の援軍として来て最前線で奮闘するも冥府軍の精鋭の戦闘能力の高さに苦戦している。


それは白陸軍の全軍が苦戦していた。


しかし竹子達中央軍の背後から虎白の本軍が前進してくる。


中央軍を崩壊させまいと踏ん張る太吉。


自分の師団と共に戦い竹子を支える。



「皆踏ん張れ!! 間もなく虎白様の軍団が来るぞ!!」



まるで平蔵が乗り移った様に。


臆病者の太吉はもはやいない。



「第1大隊は右に!! 第2、第3大隊は中央から押し込め!! まだ諦めるな!! 二人一組になって戦うのだ!! 1人ではこの敵には勝てんぞ!!」
「太吉様!! 新手が来ます!!」




太吉の視線の先には小銃を持った不死隊。



バババーン!!



前に銃を乱射しながら迫ってくる。



大勢の白陸兵が倒れる。



「接近戦でこの戦闘能力・・・そのうえ射撃までしてくるのか・・・」



下唇を噛んで迫る不死隊を見る太吉。



「太吉。」
「竹子様!!」
「あの敵の新手は危険ですね。 私が止めます。 付いてきてください。」
「かしこまった。」



竹子は太吉と少数の兵士を連れて新手に向かう。



「第七感。」



シュッ!!



目にも止まらない速さで敵に果敢に飛び込んでいく。


しかし不死隊はそれに反応してくる。


竹子の攻撃を受け止める。


それでも竹子の攻撃は緩む事はない。



「いやあああ!!!!」



次々に不死隊の新手を倒していく。



「一掃しました。 全隊このまま進みます。 本軍の到着まであと少しです。 頑張ってください。」




太吉はその強さに圧倒される。


しかし少し不可解であった。



「竹子様。 本軍の到着まで耐え抜くのではなく前進?」



兵士想いで無理をさせたがらない性格の竹子が強引に全軍を前に進ませる。



「焦っておられるのか・・・それとも取り乱しておられるのか・・・」



竹子が敵の新手を倒した事で中央軍の士気は上がっていた。


しかし太吉だけは竹子の動きに不自然さを感じた。




竹子殿。

この倒れる味方の数。

無念さか。

意地になっておられる。

勝利へ。

勝たねば死した味方が無駄になると。

確かに。

この戦を終えねば平蔵達も。

何人倒れても進まれるのだな。

かしこまった。

お供致す。

はは。

わしも変わったものよ。

誰かのために戦う事か。

存外悪くないな。





「うわああああああああああ!!!!!!!!!! いくぞ皆の者!!! 倒れた味方は我らに思いを託した!! 死する覚悟で戦え!! 我らはここで散るか勝利して帰るかだ!! 撤退はない!! 進め!! 勝つのだ!! 倒れた味方が見ているぞ!! 恥じなき様身命を賭して戦え!!! おおおおおおおお!!!!! 平蔵!! 見ておれ!!! そなたのおかげじゃああああ!!!!!!」





太吉の咆哮。


周囲にいる兵士に聞こえた。


あの臆病者の太吉が。


死ぬ覚悟。


竹子のために。


倒れた味方のために。


まだ立っている味方のために。


虎白のために。


白陸のために。


傷だらけの太吉だがその顔は今までに見た事のないほど清々しく輝いていた。


虎白の本軍が見えてきている。


前線で戦う兵士達にも肉眼で本軍の兵士の顔がわかるほどにまで。


徐々に足を早める本軍。



「怯むなー!!! 間もなく本軍が来るぞ!!!」



血と汗に塗れる太吉。


その直ぐ近くで竹子も奮戦する。


白くて綺麗な顔には血が付いている。



「やっと本軍が来ますね。 味方の仇を討っていただきましょう。」
「ええ。 されどまだ戦いは終わってませぬ。 気を抜かれるな。」
「ふふ。 ご立派になりましたね。 平蔵もきっと褒めてくれますよ。」




拳をギュッと握り太吉は平蔵の事を思い浮かべる。




いつでも励ましてくれたな。

たった1人の赤備えのこのわしを。

味方と思い、受け入れてくれたな。

誰かのために戦う。

やっとわかった。

お前に最後に言われたあの言葉。

竹子様を頼む。

随分と時間がかかってしまった。

しかしな。

相わかった。

これからも竹子様をお守りする。

そう言っても。

あの御方はご自分の身は守れる。

しかし違うのだな。

守るとは。

竹子様の力になる事も守るという事じゃな。

有能な指揮官となり竹子様の軍団を師団長として率いる事もお守りするという事じゃな。

見ておるか平蔵。

わしには1万もの兵がおる。

他の師団長達も竹子様のために戦っておるわ。

この場にお前がいない事が残念でならぬ。

いつの日かまた会えたら。

ゆっくりと聞かせてやるわ。

お前がいなくなった「それからの事」をな。









バーンッ!!!!!




「!!!!!」




バタッ



竹子の髪がなびく。



隣で倒れる。




驚き竹子は横を向くと隣にいた太吉がいない。


下を向くと太吉が倒れている。



「そ、そんな・・・」
「ぐわああっ!! だ、大事ない!! 兜に守られたわ!!」



太吉の兜には穴が空いている。


しかし弾は太吉の頭部にまで届かなかった。


兜を脱ぎ太吉は周囲を見る。




「危ない所じゃった・・・」
「驚きましたよ。 狙撃ですかね。」



竹子は目をつぶり第六感で狙撃兵の気配を感じ取る。



「いや。 流れ弾ですね。 よかった。」
「竹子様もお気をつけなされ。」
「そうですね。」



そして迫ってくる不死隊と交戦する。



背後から歓声が聞こえる。




「虎白様だあああ!!!!!!!!」




竹子と太吉は振り返る。




「ふふ。 もう。 遅いよ。」
「やっとじゃ。 後方部隊の元まで本軍がたどり着いたようじゃ。」



士気が跳ね上がる中央軍は残った力を振り絞り不死隊を若干だが押し返した。



それでも不死隊は崩れない。



紛れもない精鋭。



負ける気なんてさらさらない。


その通りだ。


不死隊は冥府でも死闘を勝ち抜いてきた。


不死隊を良く思わない冥府軍だって大勢いる。


その強さから嫉妬されるのか。


脅威と思われているからか。


襲われる事は少なくなかった。


しかし不死隊は今日まで精鋭であり続けた。


近寄る外敵を駆逐し続けた。


文字通りの百戦錬磨。


それに加え圧倒的な主への忠誠心。


豊富な経験と厚い忠誠心で不死隊は鬼に金棒。


一体どんな者がこの精鋭を率いているのか。


太吉は疑問に思った。




「信玄公にも勝るか。 ひょっとしてはあの虎白様よりも・・・」



狂信的なまでに挑んでくる不死隊に太吉はつい、過去のひ弱な太吉が出てしまった。


スパッスパッスパッ!!



3人の不死隊があっという間に倒れる。



「中央軍良く耐えた。 決着付けるぞ。 俺達はこの不死隊を突破する。 中央軍は残党を掃討しつつゆっくりと俺達の後に続け。」



太吉の視線の先には虎白が2本の刀を持って涼しい顔をしている。



「本軍!!! 俺に付いて来い!! 中央軍の奮戦を無駄にするな!!! 勝つぞ!!」
『おおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!!』


本軍の猛攻。


中央軍と死闘を続けた不死隊は魔力が弱り始める。


そこに万全の状態の虎白が率いる本軍が攻め込む。


流石の不死隊も崩れ始める。


虎白や甲斐。


不死隊をあっという間に倒せる者が先頭に立って進む。


竹子と優子の中央軍にその後を追う力はもう残っていない。


ゆっくりと進み、不死隊の生存者を排除していった。



「本当に敵ながらお見事な兵士達でした・・・どんな方が彼らを率いているのでしょうか。」



竹子は倒れる不死隊を見ている。



「ぐぐ・・・」



不死隊が竹子の足を掴む。



「驚いたっ!! まだ息があるのですね。」



竹子は自分の足を掴む不死隊の手を優しくなでて離す。


「敵ながらあっぱれでした。 こちらの被害も相当なものです・・・どうか安らかに。」



そして竹子は薙刀で不死隊の背中を刺す。



「こんな戦いはいつまで続くのかな・・・」
「竹子様。 中央軍の被害状況を確認しています。」



太吉が竹子と話す。



「顔色が優れませんな。」
「誰かのために戦えと焚き付けた私がこんな事言うの本当に申し訳ないんですけど。 一体いつまで続くんでしょうね。 こんな事・・・」



驚いた顔で竹子を見たが空を見て優しく微笑む。



「鞍馬様が天上界を統一なさったら終わるやも知れませんな。」
「ふふ。 ではずっと先になりますね。 冥府軍はどうなさるので?」
「連中も鞍馬様なら滅ぼす事でしょう。 この戦いも鞍馬様は勝利なさる。 山本勘助様の様に賢く、山県昌景様の様にお強い。 そして信玄公の様に懐が大きい。」



竹子がくすっと笑う。



「神様を人間と比べても勝てませんよ。」
「ははっ!! 確かに。 格の違うお方だ。 鞍馬様は。」



2人は大空を見て微笑む。


鳥人部隊が虎白の本軍を追いかけて飛んでいく。


「私達も行きましょう。」
「左様ですな。」




その時だった。





「うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「竹子様!!!!!」




グサッ!!




「おのれええっ!!!!」



スパッ!!



生き残っていた不死隊が息を潜めて竹子の首を狙っていた。



太吉はとっさに竹子をかばった。



そして。



戦場に倒れ込む。


大量の血を流して。



「い、いや・・・そんな・・・もう戦いは終わりますよ!! しっかりしてください!!! 衛生兵!! 急いで来てください!!!」



太吉は大空を見る。



竹子は必死に太吉の傷口を押さえる。




「もう助かりますまい。 わしにしては上出来じゃった・・・誰かのために死ぬ事がこんなにも誉れと思えるとは・・・与平。 ラルク。 平蔵・・・やっとわかったぞ・・・」



衛生兵が来る。



「太吉様。 これは・・・臓器が貫かれている・・・竹子様・・・申し訳ありません・・・」



悲痛の表情で衛生兵は他の負傷者を見に行く。



「太吉。 介錯致しますか・・・」
「はっはっは・・・お美しいのに武士ですなあ・・・わしは武士らしくない・・・長年死ぬ事を恐れていた・・・介錯はいりませぬ。 このまま逝かせてくだされ・・・最後にお一つ聞いていただけませぬか?」
「何でも。」
「手を・・・握っていてくだされ・・・」



竹子はがっしりと太吉の手を握る。


かつて平蔵の最期に居合わせた太吉が握ったように。





「平蔵が待っていますよ。 先程の話。 必ずや。」
「天上界の統一ですかな・・・」
「戦のない天上界を。」
「はっは・・・それはわしも見てみたかったのお・・・必ずや叶えて・・・くださ・・・」



眠る様に安堵した表情。



竹子は我慢していた。



太吉が逝くまでは。



「うう・・・はい・・・必ず!」



大粒の涙が零れ落ちる。


女の子座りをして両手で顔を押さえる。


静かに眠る太吉。



「姉上ー!!」
「うう・・・」
「えっ!? 太吉・・・そっか。」
「それだけなの・・・?」



竹子の妹の優子が太吉を見る。



「幸せ者ですよ。 太吉は。 姉上に見取られて。 新納なんて・・・」
「ごめんね優子。 いいの。 おいで。」



優子と竹子は太吉の前でシクシク涙を流す。





後に「メテオ開戦」と呼ばれる死闘は総大将の虎白が敵大将のアルテミシアを討ち取った事により終結した。



大勢の犠牲と共に。


しかし戦いは終わらない。


竹子は太吉との約束のためにこれからも戦う。










































「マジかよ太吉さんがねー! 偉いっすよ!」
「はっはっは!!! そうかお主がな!! あっぱれよ!!」
「とっさじゃった。 全てお前達のおかげじゃ。」
「ようやった。 さあ!! 飲め!! もう戦わなくてよいのだ!!」
「長かったの。 しかし。 悪くない生涯じゃった。」
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