天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第11章 後悔の号哭

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伝令の惨殺に気づいた虎白。


天上界内部に冥府の工作員が潜入している。


白陸では「厳戒令」が出されて国民の海外への旅行を禁止。


夜間の外出の禁止。


止む無く外出する場合は許可書と兵士が目の届く場所から離れない。


兵士は最低2人以上で行動する。


見知らぬ者を見かけた場合例え上官であっても身分証の提示を促す。


万が一拒否した場合、不審者とみなされて憲兵に引き渡される。



白陸軍が夜間の街を警戒する。



「気を落とすな。」
「落とすよ。 トーンにちゃんと気持ち伝えればよかった・・・」



リトは肩を落とし涙を流す。



「また会いたいよ・・・死ぬなんて思わなかった・・・優秀だったし・・・」



仲間が背中をさする。



「ねえねえ好きな人いる?」



リトは仲間の顔を見る。



「今は俺の事なんてどうでもいいだろ。」
「教えてよ!!!」
「いるよ。」
「その人にはちゃんと気持ち伝えた方がいいよ。 いつ死んでしまうかわからないからね。」



仲間は目を泳がせている。


青い髪の毛が夜風になびく。




「ま、まあな。 でもあれだ。 俺が守る。」
「は? 私の言っていた事わかっているの?」



リトは泣き顔のまま仲間を見る。



「わかっているよ。 だから俺は勝手に思りたい人を守るんだ。」
「ねえ。 ユーリク。」



ユーリクは青い髪の毛を触りリトから目をそらす。


リトの薄紫の美しい瞳が泣き顔でユーリクを見つめる。



「その人は誰?」
「ああ!? そりゃ誰だっていいだろ。 お前の知らないやつだ。」
「あっそ。」
「・・・」



ライフルを持って巡回に戻る。



「とにかくだ。 泣くな。」
「ねえユーリク。」
「ん?」
「もう泣かない。 その代わり今だけ。 5分だけでいいから。 思いっきり泣かせて。」



リトは手をモジモジさせながらユーリクを見る。



「ああ。 好きなだけ泣け。 そうしたらもう笑えよ。」
「うん・・・」



ユーリクとリトは監視塔に登り白陸の街を見渡す。



「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!! さようならあああああああああああああ!!!!!!!!!!! あなたの分まで強くなるからねえええええええ!!!!!! 大好きだったよおおおおおおお!!!!!! 小さい頃からずっと一緒にいてくれてえええええええ!!!!!! ありがとう!!!!」



リトの号哭はゴーストタウンとなった夜の白陸の街に響いた。


気持ちを伝えられなかった永遠の後悔となりリトの心を苦しめ続ける。


リトとトーンは第1の人生から一緒だった。


ある日親が連れて帰ってきた子犬がトーンだった。


リトの人生にはトーンとの思い出が溢れるほどあった。


第1の人生を終えたリトとトーンは天上界で再会したが、それは大層な美男子の半獣族となっていたトーンに恋心まで覚えていた。


だがトーンはもう到達点へと旅立った。


リトはとにかく泣いた。


大声で悲鳴にも聞こえる号哭をあげて愛犬であり、最愛の相手に別れを告げた。


ユーリクは隣でタバコを吸い、黙っている。




「おーい!! 今の叫び声なんだ!? 敵か!? 女の悲鳴だったぞ!!」



監視塔の下では白陸兵が慌てている。



「なんでもない!! いい夜だな! この美しい夜の力を借りてリトとあわよくばヤッてしまおうと思ったが嫌われた。」
「おいユーリク!! 強姦したら死罪だぞ!?」
「わかってるよ。 虎白様が一番嫌う事だよな。」
「そうだぞー。 銃の撃ち方より先に教えられた事忘れるんじゃねえぞー!」



白陸兵達は笑いながら持ち場に戻って行った。



「ありがとう。」
「いいんだ。 気にするな。」
「ねえユーリク。」



リトの薄紫の髪の毛は月明かりに照らされて美しく光る。



「お月様は女の子に酷い事するためにあんな美しいんじゃないの。 マジ最低。」
「い、いやちげーだろそこ!!! せめて言うならありがとう私のために。 お礼にどうぞ。 って胸元見せる所だろ!!」
「キモ。 マジ最低ー。」



赤面するユーリクを見もせずにリトは監視塔を降りていった。




「なんだよあいつ。 でもよかった。 泣き止んだな。 明日から頑張れよ。 お前の事は俺が勝手に守る。」



そしてまたタバコに火を付けた。



「ねー何してんのー? 早く降りて来なよー変態さん。」
「ゲホッゲホッ!! う、うるせーよ!! 今いくよ。」



そしてまた2人は巡回に戻った。


兵士達は命令に従い寝る間を惜しんで夜間の警備につく。


戦えと言われたら戦う。


しかし兵士達は物言わぬ道具ではない。


仲間が死ねば悲しい。


そして悔しい。


それでも彼らが虎白の命令に従い戦う理由。


大切な仲間のため。


そして信じている。


虎白が正しいと。


天上史に残る「キリス戦線」を勝利した白陸軍は味方の犠牲を乗り越えて勢いに乗っていた。



「次の出陣が決まった。」



太吉はラルク達部下に話す。



「いつですか?」
「3日後だ。 周辺の南軍も敵を押し返した。 南軍総出で反撃するらしい。」



師団長になった太吉は兵士達よりも早く虎白の決定を知る。



「はあ・・・次は一体何人死ぬのか・・・」
「また弱気な事を・・・俺よりずっと強いんですからしっかりしてください。」



ラルクが太吉を睨む。


太吉はすっと目をそらして遠くを見る。




「兵士の命を預かっているのだ。 戦いがなければ兵士は死なない。」
「全員兵士になった時から死ぬ事を覚悟しています。」
「お前とは永遠にわかり合えぬな。」



席を立ち太吉は胸元に入れている紙を取り出す。


それを机の上にぼんっと置く。




「これは?」
「今回の進撃の布陣図だ。 我ら白陸軍は中央にマケドニアとの本軍。 これは虎白様と我々だ。」




ラルクは目を見開き驚く。




「虎白様の直轄の指揮下に!? なんて名誉な事だ・・・」
「まあな。 しかし問題はここからだ。」



虎白直轄。


王を守る近衛兵の様な役目。


白陸軍の総大将の虎白が倒れたら白陸軍は一気に崩壊する。


何がなんでも虎白を守らなくてはならない。


ラルクはその名誉に心が踊った。


しかし太吉は不安げな顔をしていた。




「今回は白陸全軍が様々な場所に潜伏する。 そして少数で奇襲攻撃をする。」
「へー。 また大胆な作戦ですね。」
「関心している場合ではないぞ。」



太吉が地図を指差す。



「ここが恐らく敵の総大将がいるであろう場所だ。」



その場所は太吉達の前方。



「つまり虎白様は他の白陸軍で敵の両翼を崩した後に我々で敵本陣に突入するおつもりだ・・・」



情けない表情の太吉とは逆にラルクは抑えきれない興奮を必死に殺していた。



「てっきり甲斐様の師団の仕事だと思っていた・・・そうか!! 俺達か!!」



チラりとラルクを見て太吉はため息をつく。



「どうなるかはわからない。 だが今の所ではこれが作戦になっている。 虎白様が動き出すまでは莉久様の師団と共に待機だ。」
「なんだ。 別の師団もいるのか・・・」



口を尖らせてそっぽを向く。



「莉久様は虎白様の古くからの側近。 当然だ。」
「で、あんたも虎白様の古くからの兵士だったから近くに置かれているわけだ。」



太吉はこれ以上何も言わなかった。


虎白の本軍に組み込まれた本当の理由。


それは太吉が虎白に頼られていなかったからだ。


虎白は太吉が弱気な発言を続けている事も知っていた。


そして実力もラルク達よりはるかに強い太吉だが竹子や甲斐、夜叉子達といった側近には遠く及ばなかったからだ。


第六感。


第五感の上の力。


全ての人間に秘められている力。


周囲の気配の察知。


体の硬質化。


そして第七感。


これも全ての人間に秘められているがほとんどの人間が習得する事なく生きている。


身体能力を向上させて動きを早める。


命の危険を感じた時に機転の効く行動を思いつく。


普通に生きていればありえない様な力。


「神」がかっている。


しかしその脅威的な力をほとんどの師団長が習得していた。


太吉はその力がなかった。


万が一何かあった時に自分の身を守れないと虎白に判断された。


太吉達は虎白を守っているのではない。


虎白と莉久に守られているのだった。


それを知っている太吉。


しかし目の前では喜ぶラルク。


言うに言えず黙り込んでいた。



「無理だけはするでないぞ。」
「虎白様の目に留まるチャンスだ!! 俺は出世して虎白様の側近になる。」
「はあ・・・」



子供の様にはしゃいで太吉の部屋を出る。



「のお平蔵・・・お主ならなんとする? 与平・・・お主ならラルクを褒めるのか・・・」



太吉は全く気乗りしなかった。


それでも時間はすぎる。


刻一刻と出撃の時間は迫る。


椅子に座りもう一度布陣図を見て部下が死なない最善の動きを考え直す。


広大な平原に並ぶ大軍勢。


天上界南側領土を任された南軍。


虎白の召集に応じた有志達が決戦の地アスティノ平原に集まる。


太吉は虎白の本軍として戦況を見極める。


周囲に布陣する天上軍は各持ち場で奮戦している。


戦況が不利になると各地に潜伏している白陸の伏兵の強襲を受ける。


一進一退の戦況は徐々に天上軍へ傾く。


開戦前夜に虎白が夜襲をかけた事もあり、冥府軍は思い通りの戦いができずに苦戦している。



そして決めては。



ドッカーン!!!!!



白陸空軍の爆撃。


敵の戦力を多数葬り戦況は更に天上軍へ傾く。


全ての戦域で天上軍が押し出す。


太吉はその光景を唖然として見ている。



「我が主ながら・・・なんと恐ろしい事を・・・」




焼け死ぬ冥府兵。


ポッカリと大きな穴が地上に空いてバラバラになっている冥府兵の無残な亡骸。


天上軍の士気が上がる中、太吉は恐れていた。



「わしがもし敵だったら・・・恐ろしい・・・」
「おー!! 白陸万歳!! 春花様お見事ー!!!」



太吉とは逆にラルクは大興奮していた。


そんな時。


莉久が太吉にうなずく。


太吉は自分の兵士を虎白の本陣の陣幕の前に整列させる。



「いよいよかー!! ゾクゾクするぜっ!!」



そして陣幕が降りる。


鎧兜を付けた虎白が堂々と立つ。


馬に乗りゆっくりと進む。


それに続く兵士達。


太吉はその勇敢な男の背中を見て思う。



いつもじゃ。

この瞬間が一番怖いのじゃ。

今まさに死する戦いに身を投じる。

怖いに決まっている。

なのに何故だ。

こうも堂々としていられるのだ。

虎白様。

平蔵。

与平。

そしてラルク。

この者達は死するのが怖くないのか。



徐々に足を早める虎白と兵士達。


太吉もそれに続く。


そして周囲を見渡すと四方から奇襲のために潜伏していた他の白陸軍も合流する。


敵にどんどん接近して緊張が高まる。


心臓を握り潰されそうな緊迫した空気が太吉を襲う。


戦っていないのに呼吸が上がる。


落ち着いて呼吸を整える。


そして覚悟を決める。



「絶対に死ぬものか!! 生き延びる覚悟ができたぞ。」



ラルクがチラリと見て笑う。


そして遂に接敵する。



『おおおおおおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおー!!!!!!!!!!!!!!!』



怒号と剣戟が絶えず響き渡る。


双方容赦のない殺戮が続く。


太吉と同じ師団長達は次々に敵を斬り倒して進んでいく。



「はあ・・・はあ・・・太吉さん!! 俺達は遅れている!! 急がないと!!」
「わかっておる。」



眼前に立ちはだかる冥府兵。


それもただの冥府兵じゃない。


総大将を守る選りすぐりの精鋭。


髑髏のお面をした戦士達。



不死隊。



白陸軍は不死隊の戦闘能力の高さの前に苦戦していた。


3人で1人の不死隊を倒すのがやっとだった。



「太吉さん!! こいつらめちゃくちゃ強い・・・」



太吉も何太刀も打ち合いなんとか倒している。


他の師団長は何食わぬ顔で倒して進んでいく。



「・・・・・・」



その力の差に太吉は黙る。



「太吉さん!!!」



太吉が考え込んだその一瞬。



「ゲホッ・・・や、やられた・・・防げなかった・・・」
「ら、ラルク!!!」
「悔しい・・・死にたくない・・・白陸で偉くなりたかった・・・虎白様の目に止まりたかった・・・」



倒れるラルクを手当する暇もなく不死隊が襲いかかる。



「おのれええええ!!!!!!!」



死闘は続いた。


しかし敵本陣まで辿り着いた虎白と魔呂が総大将を討ち取り戦は大勝利に終わった。


虎白は南側領土を救った英雄とされた。








太吉はラルクの墓の前に立つ。



「お前もか・・・誰かのために死ねるのか・・・自分の命を一番に思うわしのために何故お前が死なねばならんのだ・・・お前の想いはこの太吉が受け継ぐ。 白陸でもっと名を挙げるぞ。 お前の様に誰かのために生きてみせるぞ・・・すまなかったああああああああ!!!!!!!!!!!!」



あの一瞬。


命を守ろうと戦っている太吉と命を捨ててでも誰かのために戦っていた他の師団長達との間にできた「差」を悔やんだその一瞬。


そのせいで大切な部下が自分の「差」のために死んだ。


太吉の後悔の号哭は響いた。


その背後で白い花束を持った虎白が立っている。



「それでも生きろ。 太吉。 出直そう。」
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