天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

文字の大きさ
上 下
9 / 99

第9章 犠牲

しおりを挟む
 隣に立つ課長に視線を向ける。  
 課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。 
 江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。 

「あった! やっぱりここだったんだ」  
 江里菜が独り言のように言った。 

「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」  
 江里菜がドアに向かって歩き出した。 

「あの、佐々木さん」 
「何ですか?」  
 江里菜が振り向いた。 

「見えない?」  
 視線を課長の方に向けた。  
 課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。 

「何を?」  
 江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。 

「佐々木さん、本当に見えないの?」 
「だから何をです?」  
 江里菜が眉を寄せる。 

「えーと、その課長……」 
「課長?」 
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」  
 江里菜が凄い勢いで肩を払った。 

「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」 
「びっくりした。じゃあお先に」  

 江里菜がオフィスを出て行った。  

 課長がこっちを向いた。 

「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」 
「なんでですか?」 
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」 
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」 
「うーん、そうか」  
 課長がポリポリと頭をかく。 

「後はあれかな」  
 課長が小声で言った。 

「あれ?」 
「いや、何でもない」 
「何です? 気になります」 
「いや、いいんだ」 
「教えて下さい」 
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」  
 急に課長が上司の表情をした。 
 渋々パソコンに向かった。  
 課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...