天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第6章 白陸軍人

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 虎白の国は天上界の南側領土の前衛に配置されていた。


その場所は冥府からの侵攻が最も多く一番最初に接敵する天上界でも一番危険な場所。


しかし虎白はその危険な領地で小国ながらも敵の侵攻を防ぎ続けていた。


そして兵力も徐々に増えていた。


太吉や健作、平蔵と言った下界から虎白の兵士として生き残っている者の他にも天上界からの補充兵も加わり武装勢力ではなく「国」になっていった。


そして虎白は自分の国を「白陸」と名付けて新たに軍服や国旗などを作成した。


白い軍服に赤い模様の入った鮮やかな軍服。


純白の旗に茶色い狐の印が入った国旗。


白陸の第一步。



「すいません。」



城門に1人の女性が現れる。



「止まれ。 何者だ?」



門兵が女性を止める。



「あの・・・この国の軍人になりたいんですが・・・」
「はあ? 見た所何の訓練もしていない様に見えるが。」
「はい・・・先日彼氏が死にました・・・私も彼の様な軍人になりたいんです・・・」


門兵は困った顔をする。



「ちょっと待っていろ。」



しばらく門の前で待っている。



「ああ君は確か。」
「狐様・・・覚えていてくださったんですね。」
「カインだったな。 すまないな・・・」
「いえ・・・彼も立派な軍人でした・・・」



虎白が出てきて女性を見つめる。



「改めまして私の名前はハンナ。 彼を奪った冥府軍を全滅させたいんです・・・」



虎白の隣で竹子が切ない表情を浮かべる。



「危険ですよ。 戦闘は。 あなたも生き残れるかはわかりませんよ・・・」



竹子が下唇を噛んでハンナを見る。



「死にません。 冥府が滅びるのを見るまでは。」
「わかった。 しばらくは竹子の部隊に入れてやれ。」
「う、うん。 じゃあこちらへどうぞ。」


ハンナは竹子に連れられて白陸軍へ入隊した。


「平蔵さん。」
「はは。 竹子様。」
「あなたの隊に彼女を入れてください。 名はハンナさんです。」
「かしこまった。」



平蔵にハンナを任せて竹子は城の中に戻っていった。



「ハンナです。 よろしくお願いします。」
「なんと・・・そこ元は戦を知らぬな。」
「は、はい・・・」



平蔵は驚いた顔をして太吉を見る。



太吉は目をそらして遠くを見る。



「う、うーむ。 ではせめて武器の持ち方でも覚えよ。」
「はい!! 頑張ります!!」



ハンナは平蔵の元で鍛錬を開始した。


その間も冥府軍は待ってはくれない。


弱い兵士は死ぬ。


単純で残酷な世界。


敵は来る。


虎白は12死徒の「魔呂」と言う者から執着されていて常に12死徒が白陸に攻めてきた。


そして12死徒が連れる直属の兵士。


死徒兵。


これこそが平蔵達が苦戦している精鋭。


白陸兵2人でやっと1人を倒せるぐらいの相手。


経験を積んできた平蔵や健作なら1人でも倒せるが他の白陸兵には手に負えない敵。



「おいハンナ。 構えは良くなってきたな。 成長が早いな。」
「敵は待ってくれませんもの。 早く戦いたい・・・」



ハンナは1日10時間も鍛錬した。


神通力が減ってフラフラになっても刀を離さなかった。



そんなある日。



「敵襲ー!!!」



冥府の侵攻。



「全隊は戦闘準備!!」
「虎白様が出てくるぞー!! 続けー!!」



虎白は小国の白陸を守るために先頭に出て戦った。


それに続く虎白の側近達。


竹子。


古くからそばにいる一番の側近。


平蔵や太吉、ハンナは竹子の部隊にいる。



優子。


竹子の妹で健作など元新政府軍を率いている。



莉久。


補充兵にまぎれていた虎白の故郷の狐の兵士。



甲斐。


元ミカエル兵団の天使長で冥府に独断で乗り込んで命令違反をしてからは虎白に仕えている。



夜叉子。


甲斐の副官。


今は虎白の側近の1人として活躍している。


山岳戦を得意として独自の山賊の私兵を隠し持っている。



お初。


同じく甲斐の副官から虎白に仕えている。


情報収集や撹乱工作、暗殺任務を担当している忍者。



ほとんどが女性。


しかし天上界では性別は関係ない。


神通力の高さこそが力になる。


ハンナは虎白の周りを守る美女を見て歓喜した。



「かっこいいー!! あんな美人なのに虎白様の側近を努めているんだあ!! 私も強くなりたいな。 いつか絶対に冥府を滅ぼす。 カインのために。」



初めて見る戦場。


怒号と剣戟が戦場に響く。


本気で自分を殺しに来る冥府軍。


ハンナは足が震えた。



「どうしよ・・・怖い・・・」
「無論だ・・・みんな怖い。」



太吉がハンナの横に来る。



「だからわしは戦が嫌いなんじゃ。 恋人の仇を討つために軍人になるなんぞ・・・」
「怖い。 でも逃げない・・・カインは。 もっと怖かったはず・・・私行きます!」



ハンナは刀を握り平蔵達に続いた。


冥府の一般兵が襲いかかってくる。



「死ねええええ!!!!! 天上界のクズどもが!!!」



冥府兵がハンナに斬りかかる。



「おいハンナ無理をするでない!! 味方から離れるな!! お前はまだ鍛錬不足だ!!」



平蔵が慌ててハンナの元に行く。



「お前達みたいなやつにカインは・・・なんか勇気が出てきた。 手も足も震えていない。」



ハンナは冥府兵の剣を受け止めると押し返して斜めに斬り裂いた。



「倒せた・・・初めて人殺しちゃった。」



倒れる冥府兵を見る。



「大丈夫か?? まだ来るぞ!! 怖いなら下がれ!! おい太吉早く来ぬか!!」
「いえ平蔵さん。 全然怖くない。 楽しい・・・あははっ!! 死んだ。 殺せる!!」



ハンナは笑いながら敵に向かっていく。


周りが見えなくなり単身で敵にのめり込んでいく。



「おいそれ以上前に行くな!! 隊列を守れ!!!」
「平蔵さん。」
「竹子様!!!」
「彼女危険ですね。 私が下げてきますので援護よろしくお願いします。」



平蔵の部隊の全体指揮をしている竹子が見かねてハンナを追いかける。



薙刀を持って敵を斬り倒していく。



「はははっ!!! 死ね死ね死ねええええええ!!!!!! カインを返せええええええ!!!!!!」
「いい加減になさい。 戻りますよ。」



もうわけがわからなくなっていた。


逃げる冥府兵の背中を斬り裂いて笑い、倒れる冥府兵の顔を踏みつける。


竹子がハンナの腕を掴むと竹子にも殴りかかった。


「第六感。」


ボンッ!!


ハンナの腹部を殴りハンナは吐血して竹子に担がれた。



「平蔵さん。 彼女は後方に下げてください。」
「申し訳次第もござらん・・・おい下げろ。」


気絶するハンナを後方に下げる。


「竹子様。 相変わらず物凄い身のこなし。 まるで攻撃が来るのをわかっているかの様だ。」



人間の秘められた第六感。


「なんとなく今ぶつかりそうだった」なんて事はきっと下界でもあるはずだ。


それは個人に秘められている第六感と言う力の片鱗。


天上界に来て神通力が上がるとこの力を手に入れられる。


攻撃の気配を事前に読み取り避ける。


自身の体を硬質化して攻撃を防ぐ事もできる。


使えば使うほど神通力を消耗するため強い神通力が必要とされる。



「ハンナは意識が戻っても前線に連れてくるな。」



平蔵はまた戦闘に戻っていく。



今回の戦闘でもなんとか12死徒を退けた。



しかし虎白も竹子もボロボロで死徒兵と戦った平蔵達も負傷者で溢れていた。



「あれ・・・私は。」
「起きたか。」
「あ、平蔵さん。 私は?」
「正気を失って単身敵に突入したのだぞ。」



キョトンとするハンナ。



「覚えていないのか?」
「は、はい・・・1人倒した事は覚えているんですが・・・」
「お前はその後15人もの冥府兵をたった1人で倒したのだ。」



驚き目を見開くハンナ。



「お前は危険だ。 たまたま敵も弱かったからよかったがもし敵に手練がいたら確実に死んでいた。」
「すいません・・・」
「お前を後方に下げるために竹子様がわざわざお前を救いにいったのだ。」
「え・・・」



ハンナはその時初めて自分が正気を失っていた事に気づいた。


殺しへの喜び。


死にゆく敵の顔を見て罪悪感ではなく快感を覚える。


今まで温厚な性格で彼氏と平穏に暮らしていただけの日々。


そんなある日彼氏が突然冥府に捕まり独りぼっち。


不安と恐怖に耐えていた日々。


そんなハンナが憎み続けていた冥府兵を殺した。


彼女の中で押し殺していた「何か」の糸が切れた。


ハンナはしばらく入院した。


心身の傷を癒やすために。


ハンナは退院してまた平蔵の部隊に戻った。


その間に虎白には新たな仲間が加わった。


鳥人族。


その族長鵜乱。


ハンナは白陸の空を飛ぶ鳥人族を見て驚きながら自分の部隊に戻る。




「もう平気なのか?」
「はい。 ご迷惑おかけしました・・・」
「いいか。 常に周囲の味方を思いやれ。 怖くても味方を信じろ。 お前と共に戦う大切な味方だ。」
「わかりました。」



戦場で自分勝手な行動は許されない。


常に仲間との距離を意識しなくてはならない。


単身敵に飛び込むなんて勇敢でも何でもない。


その1人を救うために大勢死ぬ事だってある。


ハンナは身を持ってそれを実感した。


基地へ戻ると鍛練を続けた。


冥府の侵攻はいつでも脅威だったが別の脅威が虎白を襲っていた。


それは南側領土とは無縁の天上界の北側領土の国主。


ノバ・プレチェンスカと言う男。


彼は虎白の白陸に妹が亡命した事を引き抜き行為と見なし模擬演習を仕掛けてきた。


模擬演習とは天上軍同士の戦闘の事。


実弾や真剣を使わない戦死者の出ない戦闘。


しかし模擬演習で負けると敗戦国は戦勝国の講話条件を飲まなくてはならない。


ノバからの条件は白陸領の女性全員の引き渡し。


虎白の大切な側近も兵士のハンナ達も全員ノバのツンドラ帝国に連れて行かれる。


白陸はこれを断固拒否した。


それに激怒したノバは大軍を連れて白陸に攻め込んできている。


ハンナ達兵士は城に立て籠もりツンドラ軍を待ち構える。


しかしその時。


「冥府軍襲来!!! 12死徒魔呂出現!!!!」


模擬演習を開戦する直前に冥府軍からの侵攻。


天上界の法律「天上法」では「模擬演習時に冥府からの侵攻にあった場合即座に停戦して冥府軍撃退に共闘する事。」と言う法がある。


ツンドラ軍は白陸攻略を中断して魔呂と死徒兵に対峙する。


ピー!!!!!


『うわああああああ!!!!!!!』


最新式の機関銃を装備する冥府軍相手にツンドラ軍は槍だけで突撃した。



ダッダッダッー!!!!!


冥府の機関銃が次々とツンドラ兵を殺していく。


ハンナや平蔵はそれを気の毒そうに城から見ていた。


「平蔵さん助けなくていいんですか? 彼ら一応味方ですよね?」
「虎白様から命令は下されていない。 動くな。」
「こんなの。 戦闘じゃなくて虐殺だよ・・・」



ハンナの言う通りツンドラ軍は一方的に殺されていた。


そして退却してくるツンドラ兵を事もあろうにツンドラ兵が射殺した。



「戻ってくる卑怯者は撃つ。 最後の血の一滴が流れ出るまで戦え!!!」



こうして2時間あまりでツンドラ軍はほぼ壊滅して白陸攻略を断念して冥府軍に尻尾を巻いて逃げていった。


ここからが白陸の正念場。


2万の白陸軍に対して敵は80万の大軍勢。


しかし逃げる場所はない。


覚悟を決めた様に平蔵は刀を抜く。



「これはいかにするおつもりだ虎白様・・・」
「わしは死にとうない。」



太吉は果が見えないほどの冥府の大軍に震えていた。


「かかれー!!!!」
『おおおおおおおお!!!!!!!!!!』


大地が揺れるほどの冥府軍の進撃。


白陸軍は迎え撃つ。


城内に流れ込んでくる冥府軍を必死に食い止める。


「ハンナ、太吉!! 離れるなよ!!!」
「おい!! あんたら竹子様の兵士だな?」
「そうだがそこ元は?」
「俺は優子様の隊の健作ってもんだ!! この辺りはもう滅茶苦茶だ。 一緒に戦おう!」


敵も味方も入り乱れる大乱戦。


部隊はバラバラになり優子指揮下の健作が平蔵達の元へ迷い込んできた。



「俺の部下も何人か連れている。 お互い生き残ろう!!」



平蔵と健作は密集して互いの背後を守りあった。



「ええい。 一体何人倒れた・・・」
「いくらでも入ってくる。 倒してもきりがない。」



兵士達は次々に倒れて命を落としていく。


その時12死徒魔呂が現れる。


加入したばかりの鵜乱と鳥人族は魔呂と死徒兵に向かっていく。


バタッ!!


平蔵達の前に羽を撃たれた鳥人族が落ちてくる。


「お、おい大丈夫か?」
「羽を撃たれただけだ。 飛べないなら君たちと一緒に戦うだけだ。 ピイイイイ!!!!」


鳥人は鳥特有の甲高い声を出して闘志をむき出しにしていた。


その時。


「魔呂一騎討ちだ。」


虎白は魔呂に一騎討ちを挑んだ。


戦闘は一時的に止まり兵士達は負傷兵の手当に奔走した。


「鳥の御仁。 貴殿も手当なされよ。」
「いいや。 鞍馬様が一騎討ちをする。 決闘を見逃すわけには行かない。 手当なんてしない。」



虎白と魔呂が壮絶な一騎討ちを行っている。


お互いの武器がかすって出血している。


そして2人は同時に倒れ込んだ。


「相打ちか!?」
「魔呂様を。 よくも。 かかれー!!!!」


魔呂が倒れた事により冥府軍は襲いかかってきた。


白陸軍も応戦した。


その時だった。


ムクッと魔呂が立ち上がった。


そして刀を虎白に突き刺して肩に担ぎ撤退していった。


戦場は騒然となり側近の莉久の叫び声が響いた。


平蔵達は状況が理解できず騒然としていた。



「こ、これは。 負けたのか。」



冥府軍は攻撃を止めて冥府へ撤退していった。


瀕死の虎白を連れて。


平蔵もハンナも太吉も健作もこの死闘をなんとか生き延びた。


しかし白陸兵は半数以上が戦死して国主の虎白は冥府に捕まった。


事実上白陸は崩壊した。


ミカエル兵団の駐屯軍が到着してミカエル兵団に吸収される形になった。


平蔵達兵士はただそれに従うしかなかった。
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