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第二十二話 馬車の中 1
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「リベラルタス、乗りなさい。ロジャーいいわね。貴方は私の隣に」
「ふぁ!?」
リベラルタスが馬車を前に目を白黒させている。
ロジャーはもう諦めたのか、リベラルタスに従うように、と指示を出している。
「王女様!?」
「いいから!王宮の方へ向かってゆっくり走らせて。リベラルタス、後で送らせますから安心なさい」
司法庁の入り口、馬車寄せのところで押し問答をしている場合ではない。
教会の時とは違って野次馬はいなかったが、リベラルタスと一緒にいるところは役人や通行人にも見られてしまっていることだろう。
それならせめて話す内容くらいは聞かれないようにしたい。
さすがに平民……というより身分差があるものと同じ馬車の隣同士に座るのは外聞が悪いので、隣はお付きに座らせるが。
しかし、向かい合わせに座るリベラルタスは、縮こまって、所在なさげだ。
「巻き添えを食わせて悪かったわね」
「姫!?」
王家の権威にかかわるので、王家の人間は他人に頭を下げてはいけない。
あったとしても王族同士か、血が近い公爵くらいだけで、どこからみても純正な平民のリベラルタスに謝罪をすることなんかありえない。まぁ、彼はもう特士だからいいということにしておこう。
……どちらにしろ後でロジャーに怒られるネタをまた作ってしまったけれど、王や王子ならともかく、王女の中でも側妃の娘で、一番身分の低い王女の自分なのだから、許してほしい。
ちなみにこの国は、母親の生家の身分も王族と結婚した時の王位継承権や王族の序列に関わるので、貴族でも同じ爵位の間で順位がある。
正妃には必ず他国の王族を招くので、その子は生まれた順で序列が決まるが。
今の王である父にはリーダルト公爵令嬢である母しか側妃がいないが、スピネルの家のスタイラス公爵家と母のリーダルト公爵家では、スタイラス公爵家の方が序列が上になる。
「私に過保護な者たちが、自分の息がかかっている場所に私を引き入れようとしたのがこの騒ぎの理由だったのです。どうも私の受け入れ先に難航してまして……」
「ああ……もしかして政治的な駆け引きでしょうか? 王族の方がいらっしゃるというだけで箔が着きますからね。護衛などもありますし、受け入れ先もそういうことを考慮すると、なかなか難しいのでしょう。王女様も自分の希望が通らないということになっていらっしゃるのではないですか? お立場のせいで。どうぞ気を落とさずに……」
リベラルタスは勝手に想像して勝手に合点しているが、半分くらいは結果として当たっているのが不思議だ。
本当に、私は王女だからこそ自分の希望が通らない。悲しい。
「しかし、今の時期にまだ希望先が決まらないなんて、どうすればいいのでしょう。このままでは陛下にお礼のご挨拶もできないですし。来月には叙任式がある予定でしょう? どうなるのでしょう……。我々以外の合格者の方がどうされているかも気になります」
「その辺りも一応確認してみましょう。」
あのてんてこまいでハイになっている兄たちに訊きに行くしかないのが面倒なのだが仕方がない。
話が少し落ち着いて、難しい顔をして考えこんでいたようなリベラルタスだったが、おどおどと声をかけてきた。
「王女様……僭越ながら、申し上げてよろしいでしょうか」
意を決したように顔を上げるが、しかし、そわそわと視線を左右に揺らし、ロジャーの目を意識しているようなリベラルタス。
ロジャーもリベラルタスの発言する内容に思い至らないのだろうか、首を傾げて、そして軽く頷き「申しあげよ」と一言告げる。
ロジャーの方がよほど私より風格がある気がする。一応ロジャーも貴族なのだけれどね。
「王女様と先ほどの……えっと、スタイラス公爵令息とは、どういったご関係かお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あ、スピネル様? ……私の婚約者ですわね」
今のところ一応は。
婚約破棄問題は棚上げになってるし、私が「夫と認めない」と言ってる状況だが、公的にはまだ婚約者だ。
私とスピネル様が婚約していることは別に隠していることではないが、普通は知らないことだろう。
しかし、いったんは腑に落ちたような顔をしていたリベラルタスだが、また難しい顔をしている。
「いつもあのような振舞をなさる方ですか? どうも噂で聞いていた、常に冷静沈着である方と、随分と違うように思えて……」
「そうですわね……違いますわね。なんか今日はいつもより感情的だったように思えましたわ」
「そうですか…………」
そしてまた馬車の中に沈黙が落ちる。
「私は平民ですし、とても信じられないかと思うんですが……」
ちらっちらっとなぜかリベラルタスがロジャーの方を見ている。
そしてロジャーはいぶかし気にその視線を受けていたが、激しく目を瞬かせて、そしてコクコク頷いている。
なんか二人で目で会話してない? この人達。
「……嫉妬、ですよね」
ぼそ、とリベラルタスが呟けば、我が意を得たりとばかりにロジャーが大きく頷いた。
「私もあのようなスピネル様を見たのは初めてでして、そうではないかな、と……」
「侍従様もそう思われました!? あの方がおっしゃっていた内容を考えると私もそうとしか思えなくて……でも私、王女様に初対面に近いような平民ですし、そう思われるようなことなんてあり得ないですし……」
二人が何か、符丁のような話し方で会話をしている。
なんの話だろう。
嫉妬?
誰が誰に? スピネル様が?
ああ、もしかして特士という身分に対する嫉妬かな?
それならとても納得ができる。
「ふぁ!?」
リベラルタスが馬車を前に目を白黒させている。
ロジャーはもう諦めたのか、リベラルタスに従うように、と指示を出している。
「王女様!?」
「いいから!王宮の方へ向かってゆっくり走らせて。リベラルタス、後で送らせますから安心なさい」
司法庁の入り口、馬車寄せのところで押し問答をしている場合ではない。
教会の時とは違って野次馬はいなかったが、リベラルタスと一緒にいるところは役人や通行人にも見られてしまっていることだろう。
それならせめて話す内容くらいは聞かれないようにしたい。
さすがに平民……というより身分差があるものと同じ馬車の隣同士に座るのは外聞が悪いので、隣はお付きに座らせるが。
しかし、向かい合わせに座るリベラルタスは、縮こまって、所在なさげだ。
「巻き添えを食わせて悪かったわね」
「姫!?」
王家の権威にかかわるので、王家の人間は他人に頭を下げてはいけない。
あったとしても王族同士か、血が近い公爵くらいだけで、どこからみても純正な平民のリベラルタスに謝罪をすることなんかありえない。まぁ、彼はもう特士だからいいということにしておこう。
……どちらにしろ後でロジャーに怒られるネタをまた作ってしまったけれど、王や王子ならともかく、王女の中でも側妃の娘で、一番身分の低い王女の自分なのだから、許してほしい。
ちなみにこの国は、母親の生家の身分も王族と結婚した時の王位継承権や王族の序列に関わるので、貴族でも同じ爵位の間で順位がある。
正妃には必ず他国の王族を招くので、その子は生まれた順で序列が決まるが。
今の王である父にはリーダルト公爵令嬢である母しか側妃がいないが、スピネルの家のスタイラス公爵家と母のリーダルト公爵家では、スタイラス公爵家の方が序列が上になる。
「私に過保護な者たちが、自分の息がかかっている場所に私を引き入れようとしたのがこの騒ぎの理由だったのです。どうも私の受け入れ先に難航してまして……」
「ああ……もしかして政治的な駆け引きでしょうか? 王族の方がいらっしゃるというだけで箔が着きますからね。護衛などもありますし、受け入れ先もそういうことを考慮すると、なかなか難しいのでしょう。王女様も自分の希望が通らないということになっていらっしゃるのではないですか? お立場のせいで。どうぞ気を落とさずに……」
リベラルタスは勝手に想像して勝手に合点しているが、半分くらいは結果として当たっているのが不思議だ。
本当に、私は王女だからこそ自分の希望が通らない。悲しい。
「しかし、今の時期にまだ希望先が決まらないなんて、どうすればいいのでしょう。このままでは陛下にお礼のご挨拶もできないですし。来月には叙任式がある予定でしょう? どうなるのでしょう……。我々以外の合格者の方がどうされているかも気になります」
「その辺りも一応確認してみましょう。」
あのてんてこまいでハイになっている兄たちに訊きに行くしかないのが面倒なのだが仕方がない。
話が少し落ち着いて、難しい顔をして考えこんでいたようなリベラルタスだったが、おどおどと声をかけてきた。
「王女様……僭越ながら、申し上げてよろしいでしょうか」
意を決したように顔を上げるが、しかし、そわそわと視線を左右に揺らし、ロジャーの目を意識しているようなリベラルタス。
ロジャーもリベラルタスの発言する内容に思い至らないのだろうか、首を傾げて、そして軽く頷き「申しあげよ」と一言告げる。
ロジャーの方がよほど私より風格がある気がする。一応ロジャーも貴族なのだけれどね。
「王女様と先ほどの……えっと、スタイラス公爵令息とは、どういったご関係かお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あ、スピネル様? ……私の婚約者ですわね」
今のところ一応は。
婚約破棄問題は棚上げになってるし、私が「夫と認めない」と言ってる状況だが、公的にはまだ婚約者だ。
私とスピネル様が婚約していることは別に隠していることではないが、普通は知らないことだろう。
しかし、いったんは腑に落ちたような顔をしていたリベラルタスだが、また難しい顔をしている。
「いつもあのような振舞をなさる方ですか? どうも噂で聞いていた、常に冷静沈着である方と、随分と違うように思えて……」
「そうですわね……違いますわね。なんか今日はいつもより感情的だったように思えましたわ」
「そうですか…………」
そしてまた馬車の中に沈黙が落ちる。
「私は平民ですし、とても信じられないかと思うんですが……」
ちらっちらっとなぜかリベラルタスがロジャーの方を見ている。
そしてロジャーはいぶかし気にその視線を受けていたが、激しく目を瞬かせて、そしてコクコク頷いている。
なんか二人で目で会話してない? この人達。
「……嫉妬、ですよね」
ぼそ、とリベラルタスが呟けば、我が意を得たりとばかりにロジャーが大きく頷いた。
「私もあのようなスピネル様を見たのは初めてでして、そうではないかな、と……」
「侍従様もそう思われました!? あの方がおっしゃっていた内容を考えると私もそうとしか思えなくて……でも私、王女様に初対面に近いような平民ですし、そう思われるようなことなんてあり得ないですし……」
二人が何か、符丁のような話し方で会話をしている。
なんの話だろう。
嫉妬?
誰が誰に? スピネル様が?
ああ、もしかして特士という身分に対する嫉妬かな?
それならとても納得ができる。
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