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第二十一話 話が通じない

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「平民風情がここで私の婚約者に何をしている。ステラ様の護衛は何をしているんだ。近衛兵を呼びなさい」
「スピネル様!?」
「……王族に対する無礼を許すわけにいかない」

 近衛兵なんて呼ばれたら、平民のリベラルタスなんて、問答無用でこの場で斬殺されてしまうかもしれない。
 近衛兵は王族の命を守るために緊急時には誰をも切り捨てても許される特権を持っているのだから。リベラルタスは真っ青になってしまっている。

 大体、手を出すとは何を言っているのだろう。どう見ればそんな腑抜けた状況に見えるのか。

「何をおっしゃっているのですか。ただ私とお話をしていただけでしょう? それにこの者は今年の特士のリベラルタスです」

 私の声が聞こえてないのか、スピネル様は冷ややかにリベラルタスを見つめている。
 いや、これは睨んでいる?
 なんかキャラが変わっておりませんか?
 スピネル様はもっと物静かで感情がそれほど豊かでない人だと思っておりましたが、こんなに明確に怒りを表に出されるとは。
 話を変えようと私は必死に口を挟む。

「それより、司法庁にこちらのリベラルタスが希望を出しているとのことですが。先日の私への話はなかったことでよろしいんですわよね?」
「リベラルタスと言ったか。お前はステラ様とどうしてここで同席をしている」

 私の言ったことをさっくりと無視して、スピネルがリベラルタスに詰問をしている。

 そんなきつく、人を射殺しそうな目で見るのはやめてあげてほしい。
 しかもなぜ、怯え切っているリベラルタスに訊くのだろう。私に訊けばいいのに。

「以前から私と面識を得てるのです! 面会を取れずに困っているようなので私が同席を許しました。それ以上の詮索は私が許しませんよ、スタイラス侯爵令息、スピネル殿!」

 私が彼に言ったことは、この人の頭からさっぱり離れているのだろうか。
 さすがに話しを聞いてくれない彼に頭にきて、上から言うことにした。
 私が権力を誇示するように命じることはめったにない。しかし身分から言ったら私の方が彼より高いのだ。

 そうしたら、ギッとにらみつけるような彼の視線がこっちを向いた。
 冷たい目に射抜かれ、ひっと一瞬背筋が伸びてしまう。無茶苦茶怖い。

「……っ、姫はこの者の方を、私より重用なさるのですか!?」
「は? 平民といえど、この者は特士。国の宝でしょう? 貴族に命じられてどうこうする身分ではありません。貴方こそ弁えなさい」

 身分を嵩に着て押し切ろうとしているのはスピネルだろうに。道理にかなっていなくてそういうのは好きではないから、私はリベラルタスに味方するだけだ。

「特士だから……それならば私も特士になればよいのですね」
「なぜそうなるのですか!」

 私にやり込められたのが悔しいのだろうか? スピネルがなぜこんな子供が駄々をこねるように、リベラルタスに突っかかるのかわからない。
 私がかばうせいか、スピネルの怒りというか憎しみがリベラルタスの方に向いていく。
 八つ当たりされている理由がわからないリベラルタスはスピネルの視線を受けて、蒼白を通り越して今にも泡をふいて倒れそうだ。

「スタイラス家の公爵位を継ぐものが特士になるなんておやめください! 仕事にさしさわります」

 この人の頭脳と意志を通そうという頑固さなら、本気でやり遂げそうで怖いんだけれど。

 司法庁勤務だからといって、ずっと国内にいるわけではない。外国に視察など出かけるし、法にかかわる勉強会や学会も外国であったりする。彼の場合、未来の王の近侍としても王の用事で国外に出たりすることもあるだろう。
 特士には彼は立場的になれない人だ。

「とにかく、法にかかわる司法庁の者が、法を遵守せずに特士に圧力をかけようとしただなんてもっての他ですわよね。私はそういうの大嫌いなんですけれど」

 誰かさんのおかげで、未来の予定もふいになっているし! これ以上他の人に迷惑をかけるなと睨む。

「特士に圧力?」

 スピネルがそれを聞いてわずかに眉を顰める。

「何を白々しいことを言っているのです。どうせ貴方の差し金でしょう? 司法庁には、金 輪 際 、絶 対 に 、私は希望を出さないのでそのつもりで。このリベラルタスのことをよろしくお願いしますわよ、スピネル様。それと、この件でリベラルタスが不利益をこうむらないように、私からお父様にお願いしてディライト卿に伝えますからね!」

 ディライト卿はスピネルの上官でもある、司法庁トップだ。
 今度、この話を握りつぶしたらタダではおかない。お兄様の方にもしっかりと釘を刺さないと。

 これ以上いると話がややこしくなってしまいそうで、スピネル様に礼をすると、彼が引き留めそうになるのも振り払って、強引にロジャーとリベラルタスを連れてその場を後にした。


 ……正直を言うと逃げ出した。だって怖かったから。
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