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第十二話 合格おめでとう

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 聖堂教会は、各領地の1つ以上は必ずある、リャルド王国の宗教の要だ。
 そしてここ王都の中には、大聖堂が存在している。
 貴族の住むエリア、平民の住むエリアと住む箇所が分けられている王都の中で、聖堂教会の大聖堂は平民と貴族の住んでいるエリアのちょうど真ん中に位置していて、ここでだけは双方の行き来が自由とされている。

 神の元の平等を謳っているのだ。

 それでも王家の存在は特別なので、行く時は前もって先触れを出していくし、警備の問題もあって、王族が祈る場所は貴族、平民とは別の箇所となっている。
 今回の訪問も一般信者の祈りの時間とずらしていたので、私が顔を出すことも快く受け入れてもらえた。
 元々王家の人間がくるのは教会側にとっても箔が着くので歓迎してもらえるものだが。

 王家の馬車は目立つので、王家の誰かが教会に来たのは、誰の目にもわかっただろう。
 きっと大聖母様の公務と思われているのだろうけれど、滅多に見られない王族とあって、人が集まってきてしまった。
 私の祈る場所までは人が入ってこられないので、人だかりといっても、一定の距離を置いて、遠巻きに見るという風だが。
 少しの間だけだから、と、それなりの額を入れた献金袋を預けて人払いを頼んだ。

「ここに来るのも久しぶりね」

 思わず呟いたら、ロジャーに咳払いをされた。

「仮病だのなんだので祈りの集いに参加しなかったのはどちら様でしたっけ?」 

 そういえばそうだったような、と笑って誤魔化した。
 試験が終わった一か月前、試験の前までの数か月間、外に出たとしても何をしていたかなんてほとんど覚えていない。それくらい試験に集中していたからだ。

 何度も来たことがある聖堂教会の大聖堂だが……丁寧に掃除はされているが古びていて、冬場は隙間風が入り寒い。

 もし自分が修道女となったなら、ここを掃除したり磨いたりするのかと想像しながら見て回るが、それよりも今でさえ好奇心旺盛の人波が教会入り口に押し寄せているのだ。
 この人目に慣れるまではずっとこういう状態で御勤めをするのだろうかと思うと、既に心が折れてきそうだ。

 スピネルが誰かと結婚するまで修道院で待つというのが次善の策かと思ったが、それも難しそうな気がする。
 これは大聖母の職を奪いに動き、真向から反対勢力と戦おうかなと、静謐な教会の中で物騒なことを考えてしまった。


その時だった。


一時的に封鎖された教会の入り口で、声が聞こえた。

「恐れながら、殿下に啓上したいことがございます」

 何やら護衛と押し問答しているようだ。

 直訴だろうか。
 平民が多い場所では、近衛の静止が間に合わずに、直接声を掛けられることがある。
 たかだか一王女である自分だとしても、王に取り次いでもらえればと期待する者もあるのだ。

「控えなさい。こちらは第二王女であらせられます」

 侍女のミレンディアの鋭い声が静止を告げるが、声の主はそれでも下がろうとしない。

「それを存じあげた上でご本人に直接申し上げたいことがあるのです」

 零れ落ちて聞こえる言葉に振り返った。

 私に?
 どうも誰かへの伝言ではなさそうだ。
 私が近づいてきているのに気づき、はっとなったその者は、慌てて膝を着いて面を伏せる。そして声を掛けられるのを待っている。
 縮こまって膝をつくその様子からは、彼の持つ赤い髪しか見えない。

 その振舞だけでも相手は貴族と相対するのに慣れていることが分かった。見た目は平民のようではあったけれど。ただの平民だったら、貴族や王族に対する正しい礼の取り方を知らないだろうから。

「許します、面を上げなさい」

 そういうと、嬉しそうに顔を上げる。つりあがった眉に垂れた目の、人の好さそうな好青年だ。

「自分はリベラルタスと申します。恐れながら殿下と同じく今年、帝国最高試験に合格を果たし、特士の身分を得られることになりました。今後、直接にお目にかかり、お話できる事はないかもしれないと思いましたので、このような無礼を働いてお目通りを願いましたことをお許しください」

 そして、相手はにこっとほほ笑む。雰囲気が緩み、ぱっと花が咲いたようだった。

「殿下、この度は、合格おめでとうございます。……以上であります!」

 言いたいことは言った、というように、彼は頭をまた下げた。
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