14 / 43
第十二話 合格おめでとう
しおりを挟む
聖堂教会は、各領地の1つ以上は必ずある、リャルド王国の宗教の要だ。
そしてここ王都の中には、大聖堂が存在している。
貴族の住むエリア、平民の住むエリアと住む箇所が分けられている王都の中で、聖堂教会の大聖堂は平民と貴族の住んでいるエリアのちょうど真ん中に位置していて、ここでだけは双方の行き来が自由とされている。
神の元の平等を謳っているのだ。
それでも王家の存在は特別なので、行く時は前もって先触れを出していくし、警備の問題もあって、王族が祈る場所は貴族、平民とは別の箇所となっている。
今回の訪問も一般信者の祈りの時間とずらしていたので、私が顔を出すことも快く受け入れてもらえた。
元々王家の人間がくるのは教会側にとっても箔が着くので歓迎してもらえるものだが。
王家の馬車は目立つので、王家の誰かが教会に来たのは、誰の目にもわかっただろう。
きっと大聖母様の公務と思われているのだろうけれど、滅多に見られない王族とあって、人が集まってきてしまった。
私の祈る場所までは人が入ってこられないので、人だかりといっても、一定の距離を置いて、遠巻きに見るという風だが。
少しの間だけだから、と、それなりの額を入れた献金袋を預けて人払いを頼んだ。
「ここに来るのも久しぶりね」
思わず呟いたら、ロジャーに咳払いをされた。
「仮病だのなんだので祈りの集いに参加しなかったのはどちら様でしたっけ?」
そういえばそうだったような、と笑って誤魔化した。
試験が終わった一か月前、試験の前までの数か月間、外に出たとしても何をしていたかなんてほとんど覚えていない。それくらい試験に集中していたからだ。
何度も来たことがある聖堂教会の大聖堂だが……丁寧に掃除はされているが古びていて、冬場は隙間風が入り寒い。
もし自分が修道女となったなら、ここを掃除したり磨いたりするのかと想像しながら見て回るが、それよりも今でさえ好奇心旺盛の人波が教会入り口に押し寄せているのだ。
この人目に慣れるまではずっとこういう状態で御勤めをするのだろうかと思うと、既に心が折れてきそうだ。
スピネルが誰かと結婚するまで修道院で待つというのが次善の策かと思ったが、それも難しそうな気がする。
これは大聖母の職を奪いに動き、真向から反対勢力と戦おうかなと、静謐な教会の中で物騒なことを考えてしまった。
その時だった。
一時的に封鎖された教会の入り口で、声が聞こえた。
「恐れながら、殿下に啓上したいことがございます」
何やら護衛と押し問答しているようだ。
直訴だろうか。
平民が多い場所では、近衛の静止が間に合わずに、直接声を掛けられることがある。
たかだか一王女である自分だとしても、王に取り次いでもらえればと期待する者もあるのだ。
「控えなさい。こちらは第二王女であらせられます」
侍女のミレンディアの鋭い声が静止を告げるが、声の主はそれでも下がろうとしない。
「それを存じあげた上でご本人に直接申し上げたいことがあるのです」
零れ落ちて聞こえる言葉に振り返った。
私に?
どうも誰かへの伝言ではなさそうだ。
私が近づいてきているのに気づき、はっとなったその者は、慌てて膝を着いて面を伏せる。そして声を掛けられるのを待っている。
縮こまって膝をつくその様子からは、彼の持つ赤い髪しか見えない。
その振舞だけでも相手は貴族と相対するのに慣れていることが分かった。見た目は平民のようではあったけれど。ただの平民だったら、貴族や王族に対する正しい礼の取り方を知らないだろうから。
「許します、面を上げなさい」
そういうと、嬉しそうに顔を上げる。つりあがった眉に垂れた目の、人の好さそうな好青年だ。
「自分はリベラルタスと申します。恐れながら殿下と同じく今年、帝国最高試験に合格を果たし、特士の身分を得られることになりました。今後、直接にお目にかかり、お話できる事はないかもしれないと思いましたので、このような無礼を働いてお目通りを願いましたことをお許しください」
そして、相手はにこっとほほ笑む。雰囲気が緩み、ぱっと花が咲いたようだった。
「殿下、この度は、合格おめでとうございます。……以上であります!」
言いたいことは言った、というように、彼は頭をまた下げた。
そしてここ王都の中には、大聖堂が存在している。
貴族の住むエリア、平民の住むエリアと住む箇所が分けられている王都の中で、聖堂教会の大聖堂は平民と貴族の住んでいるエリアのちょうど真ん中に位置していて、ここでだけは双方の行き来が自由とされている。
神の元の平等を謳っているのだ。
それでも王家の存在は特別なので、行く時は前もって先触れを出していくし、警備の問題もあって、王族が祈る場所は貴族、平民とは別の箇所となっている。
今回の訪問も一般信者の祈りの時間とずらしていたので、私が顔を出すことも快く受け入れてもらえた。
元々王家の人間がくるのは教会側にとっても箔が着くので歓迎してもらえるものだが。
王家の馬車は目立つので、王家の誰かが教会に来たのは、誰の目にもわかっただろう。
きっと大聖母様の公務と思われているのだろうけれど、滅多に見られない王族とあって、人が集まってきてしまった。
私の祈る場所までは人が入ってこられないので、人だかりといっても、一定の距離を置いて、遠巻きに見るという風だが。
少しの間だけだから、と、それなりの額を入れた献金袋を預けて人払いを頼んだ。
「ここに来るのも久しぶりね」
思わず呟いたら、ロジャーに咳払いをされた。
「仮病だのなんだので祈りの集いに参加しなかったのはどちら様でしたっけ?」
そういえばそうだったような、と笑って誤魔化した。
試験が終わった一か月前、試験の前までの数か月間、外に出たとしても何をしていたかなんてほとんど覚えていない。それくらい試験に集中していたからだ。
何度も来たことがある聖堂教会の大聖堂だが……丁寧に掃除はされているが古びていて、冬場は隙間風が入り寒い。
もし自分が修道女となったなら、ここを掃除したり磨いたりするのかと想像しながら見て回るが、それよりも今でさえ好奇心旺盛の人波が教会入り口に押し寄せているのだ。
この人目に慣れるまではずっとこういう状態で御勤めをするのだろうかと思うと、既に心が折れてきそうだ。
スピネルが誰かと結婚するまで修道院で待つというのが次善の策かと思ったが、それも難しそうな気がする。
これは大聖母の職を奪いに動き、真向から反対勢力と戦おうかなと、静謐な教会の中で物騒なことを考えてしまった。
その時だった。
一時的に封鎖された教会の入り口で、声が聞こえた。
「恐れながら、殿下に啓上したいことがございます」
何やら護衛と押し問答しているようだ。
直訴だろうか。
平民が多い場所では、近衛の静止が間に合わずに、直接声を掛けられることがある。
たかだか一王女である自分だとしても、王に取り次いでもらえればと期待する者もあるのだ。
「控えなさい。こちらは第二王女であらせられます」
侍女のミレンディアの鋭い声が静止を告げるが、声の主はそれでも下がろうとしない。
「それを存じあげた上でご本人に直接申し上げたいことがあるのです」
零れ落ちて聞こえる言葉に振り返った。
私に?
どうも誰かへの伝言ではなさそうだ。
私が近づいてきているのに気づき、はっとなったその者は、慌てて膝を着いて面を伏せる。そして声を掛けられるのを待っている。
縮こまって膝をつくその様子からは、彼の持つ赤い髪しか見えない。
その振舞だけでも相手は貴族と相対するのに慣れていることが分かった。見た目は平民のようではあったけれど。ただの平民だったら、貴族や王族に対する正しい礼の取り方を知らないだろうから。
「許します、面を上げなさい」
そういうと、嬉しそうに顔を上げる。つりあがった眉に垂れた目の、人の好さそうな好青年だ。
「自分はリベラルタスと申します。恐れながら殿下と同じく今年、帝国最高試験に合格を果たし、特士の身分を得られることになりました。今後、直接にお目にかかり、お話できる事はないかもしれないと思いましたので、このような無礼を働いてお目通りを願いましたことをお許しください」
そして、相手はにこっとほほ笑む。雰囲気が緩み、ぱっと花が咲いたようだった。
「殿下、この度は、合格おめでとうございます。……以上であります!」
言いたいことは言った、というように、彼は頭をまた下げた。
2
お気に入りに追加
4,694
あなたにおすすめの小説
私は何も知らなかった
まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。
失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。
弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。
生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません
りまり
恋愛
私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。
そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。
本当に何を考えているのやら?
今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074
もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる