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第三話 自分がブスだと知った四年前

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「ステラの婚約が決まったぞ」
「どちらの家とでしょう?」
「スタイラス家だ」
「あら……」

 その日、久しぶりに側妃である母と会っていた。

 そしてそこにこれまた久しぶりに会う父王がやってきて、二人で話している。
 声を潜めていても丸聞こえだったので、二人とも当事者である私に隠すつもりはなかったのだろう。
 しかし話題になっている当の本人からしたら重要な話で。しかもどこの国へ、ではなく聞き覚えのある国内の貴族の名前があげられて耳を疑った。

「外国へ嫁がされると思っておりましたけど」

 釣り合いになるような王族が近隣の国になかったのだろうか、と教わっている世界地図や世界情勢を思い浮かべる。
 腹違いとはいえ自分の上と下にも姫がいて、上の方はもう嫁にいっていて、下はさらに現在9歳の自分より年下で。

 外交手段である王女が自国内で消費されるのなんて、出来が悪すぎて外交すらできないか、問題がありすぎると思われているの?と不安になってしまう。
 実際、猫を被るのはある程度できるが、外交的とはいいがたく、サロンを開いて社交をするくらいなら引きこもって本を読んでいたいくらいなのだが。
 しかし、自分の疑問はさっくりと無視をされてしまった。
 本人にも言えないような問題が、私の中にあったのだろうかと思うと、それがかえって不安にはなった。



 しかし、親が命じた婚約なら、それを反対することもできない。それが国王ならばなおさら。
 元よりそれにたてつくような気概も意志も存在していなかったので、謹んでお請けするしかなかった。



 とりあえず顔合わせということで呼ばれたら、初めて出会った相手は、感情を読み取らせない、どこかクールな男の子だった。
 自己紹介と簡単な挨拶をした後、気を使ったというより、他の話をするために親たちは下がっていく。そして侍女たちは、声が聞こえない場所で控えていた。
 物理的ではなく、空間的に二人きりで途方に暮れてしまう。

 間をもたせるためにどうすればいいのだっけ、とマナーの時間に習ったことを考えていたら、目の前の男の子が唐突に口を開いた。


「いいですか、ステラ姫。考え違いしないでいただきたい。我が公爵家は今さら王家と繋がりを得たいだなんて思っていません」


 不躾なことを言われて、目を丸くしてただ彼を見上げていたのを覚えている。

 そして、誰も言ってくれなかった現実を教えてくれたのだ。

「容姿に優れない姫君は、国内でしかるべき貴族が引き受けざるを得ないわけですしね。その役割が私だっただけです」

 雷が撃たれたような衝撃というのはこれのことだろう。
 誰もそれまで私に、客観的に見た自分の価値というものを直接教えてくれる人はいなかったのだ。

 私ってブスだったの!!!

 大体、血筋だけで結婚できるような家に生まれついているのである。
 別に容姿に恵まれてなくても誰も文句を言いようがないだろうと、その時に「あぁ、なるほど」と納得したのだ。

 そして同時に、自分の姉妹のことを考えた。
 実際に美貌で名高かったシルヴィア姉姫は国外に嫁がれた。
 となると、妖精のような妹のマリアンヌもいつか外国に行かざるを得ないのでは?(身内の欲目も多分に入っているのは気づいていない)
 私は【幸い】見てくれが悪かったから、この大好きな国から離れずにいることができるのか、と思えば笑みがこぼれた。

 なんたる幸運……!

 私はブスだから国外に嫁がなくてすむなんて!!
 どうして自分が国外の王族と婚約させられなかったか腑に落ちて、そしてしげしげと目の前の少年を見つめた。


 つまり……この少年の不機嫌さは私と結婚するからということに他ならないのだろう。
 誰かがしなくてはいけないとはいえ、爆弾処理を引き受けなくてはいけないなら、気分が悪いに違いない。気の毒に。

 一般論としては側室の姫とはいえ、王族の姫を降嫁させるのは貴族にとっては名誉なことだろうが、そこはそれ政治的ななんやかや、自分に知らない何かがあって、あからさまに望んでない婚約をこの人は押しつけられたのだろう。
 だからこそ、公爵の息子なのに王女である自分にこんな態度なのだろうと推察した。


 スタイラス家は宰相の一族である。
 私の母の実家でもあるリーダルト家が学者の一族と名高いのと同様に賢い筋で有名だ。
 それなりにプライドも高いだろうし、婚約者を持たされるとしても、きっと彼のいうようにもっと容姿の優れた誰かがよかったのだろう。

 ……なんて可哀想な人なのだろう。



 貧乏くじを引かされなければいけなかったその彼の環境に、心から同情してしまったのだった。
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