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第二話 家族会議
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「……まさか、ステラ様がそんなことを企んでいたとは」
「こんなことになるなら、帝国最高試験など受けさせるのではなかった」
私の教育係件、お付きの侍従であるロジャーと父が頭を寄せ合って嘆き合っている。
スピネル様は喜んでくれるかと思ったのに、険しい顔をしたまま立ち尽くした後、そのまま何も言わずにフラフラと帰ってしまったし。
そして私の方はといえば、さっそく家族会議が始まってしまった。ある意味想定内ではあったけれど……なぜか尋問のようになってしまっているこの状態を憂う。
「帝国最高試験はこのリャルド王国の国民なら誰でも受験資格がありますし……」
「そういうことを言っているのではない!」
あまりにも家族の皆が深刻な顔をしているので、混ぜっ返したら怒られてしまった。どうやら本気で参っているらしい。
しかし、なぜ娘がこういうことを言い出すと思わなかったのだろうか。
私が住むリャルド王国は、一つの帝国に属している。そして、その帝国内ではお互い交流して文化や知識などを共有している。
その知識程度を計るものの1つが、私が受けた試験だ。
合格率は年によって違うが、全受験者数の中でも1~4%しか合格できないという最難関を誇り、しかも帝国共通語と言われるこの国では公には話されていない言語で受験をしなくてはならないというのもさらに難易度を上げている。
しかし帝国最高試験の合格者は、『特士』と呼ばれ特別な資格が与えられる。
実はこの国、リャルド王国では、職業の自由があまり保証されていない。
自分が就きたい仕事があった場合は、まず紹介を得なければならない。そこからしてハードルが高いのだ。
だから基本は親の仕事を継ぐことが多いし、コネがなかったらなりたい職業になれない。
しかし、帝国最高試験の合格者は自分で好きな仕事に就くことが可能になる。
その人の保証人には王家がなってくれるからだ。基本、特士から就職希望を出された団体は、それを拒否できないことになっている。
王家を敵に回したいと思う人はあまりいないだろうから、それはそうなのだろうけれど。
実際、王家の保証などなくても合格者は優秀さに折り紙がついている状況なのだから、喜んで迎え入れられることが多いようだけれど。
その優秀な人材、特士の勧誘はできない決まりにもなっている。
金を積んでスカウトするくらいならまだしも、例えば試験の合格者の近親者などを拐かして強引に引き込むという手口なども過去にあったようだからだ。
私が合格したこの試験は、そんな過去を持っていた。
父や兄は私が合格を目指したのは、単なる帝国最高試験合格者という名誉を私が欲しかっただけだと思っていたようで、だから今になってこんな大騒ぎをしているのだろう。
とはいっても、四年越しのこの執念を簡単に思ってもらっては困る。
「で、なんで特士になった途端に婚約解消の話を出したんだ? ずっとそう思っていたのか?」
蜂蜜色の髪をかき混ぜながら、兄が不思議そうに聞いてくる。彼らからしたら突飛な話だったのだろうから。
「私は修道院に入るつもりですから」
「お前が言う修道院に入るというのはあれだろ? 聖堂教会の大聖母となるということなんじゃないのか? あれは確かに代々王家に連なる女子が受け継ぐということになってはいるが、単なる名誉職だ。なんで帝国最高試験を通ったお前がわざわざそんなのにならなきゃならないんだ? 確かに特士に希望する職種を拒絶する権限はないけどさぁ……」
カルマリン兄様はそちらが理解できないとひたすら首をかしげている。
「お前は修道女になりたいのか?それとも……」
ようやく私の真意に気づいたような兄が、なんともいえないような顔をして、私の顔をじっと見つめてきた。
「スピネルと婚約解消したかったのか?」
それに対して私が答える言葉はない。
ただ黙ってニコニコとしながら、兄王子を見つめるだけだ。
だって『私が』婚約破棄したかったわけではないのだから、そう言ってしまっては嘘になる。
そう、私と結婚したくないのはスピネル様の方だ。
この計画を思いついたのは私が9歳の時。
忘れもしない、私とスピネル様が初めて出会った、王家の庭でのお茶会の後のことだった。
「こんなことになるなら、帝国最高試験など受けさせるのではなかった」
私の教育係件、お付きの侍従であるロジャーと父が頭を寄せ合って嘆き合っている。
スピネル様は喜んでくれるかと思ったのに、険しい顔をしたまま立ち尽くした後、そのまま何も言わずにフラフラと帰ってしまったし。
そして私の方はといえば、さっそく家族会議が始まってしまった。ある意味想定内ではあったけれど……なぜか尋問のようになってしまっているこの状態を憂う。
「帝国最高試験はこのリャルド王国の国民なら誰でも受験資格がありますし……」
「そういうことを言っているのではない!」
あまりにも家族の皆が深刻な顔をしているので、混ぜっ返したら怒られてしまった。どうやら本気で参っているらしい。
しかし、なぜ娘がこういうことを言い出すと思わなかったのだろうか。
私が住むリャルド王国は、一つの帝国に属している。そして、その帝国内ではお互い交流して文化や知識などを共有している。
その知識程度を計るものの1つが、私が受けた試験だ。
合格率は年によって違うが、全受験者数の中でも1~4%しか合格できないという最難関を誇り、しかも帝国共通語と言われるこの国では公には話されていない言語で受験をしなくてはならないというのもさらに難易度を上げている。
しかし帝国最高試験の合格者は、『特士』と呼ばれ特別な資格が与えられる。
実はこの国、リャルド王国では、職業の自由があまり保証されていない。
自分が就きたい仕事があった場合は、まず紹介を得なければならない。そこからしてハードルが高いのだ。
だから基本は親の仕事を継ぐことが多いし、コネがなかったらなりたい職業になれない。
しかし、帝国最高試験の合格者は自分で好きな仕事に就くことが可能になる。
その人の保証人には王家がなってくれるからだ。基本、特士から就職希望を出された団体は、それを拒否できないことになっている。
王家を敵に回したいと思う人はあまりいないだろうから、それはそうなのだろうけれど。
実際、王家の保証などなくても合格者は優秀さに折り紙がついている状況なのだから、喜んで迎え入れられることが多いようだけれど。
その優秀な人材、特士の勧誘はできない決まりにもなっている。
金を積んでスカウトするくらいならまだしも、例えば試験の合格者の近親者などを拐かして強引に引き込むという手口なども過去にあったようだからだ。
私が合格したこの試験は、そんな過去を持っていた。
父や兄は私が合格を目指したのは、単なる帝国最高試験合格者という名誉を私が欲しかっただけだと思っていたようで、だから今になってこんな大騒ぎをしているのだろう。
とはいっても、四年越しのこの執念を簡単に思ってもらっては困る。
「で、なんで特士になった途端に婚約解消の話を出したんだ? ずっとそう思っていたのか?」
蜂蜜色の髪をかき混ぜながら、兄が不思議そうに聞いてくる。彼らからしたら突飛な話だったのだろうから。
「私は修道院に入るつもりですから」
「お前が言う修道院に入るというのはあれだろ? 聖堂教会の大聖母となるということなんじゃないのか? あれは確かに代々王家に連なる女子が受け継ぐということになってはいるが、単なる名誉職だ。なんで帝国最高試験を通ったお前がわざわざそんなのにならなきゃならないんだ? 確かに特士に希望する職種を拒絶する権限はないけどさぁ……」
カルマリン兄様はそちらが理解できないとひたすら首をかしげている。
「お前は修道女になりたいのか?それとも……」
ようやく私の真意に気づいたような兄が、なんともいえないような顔をして、私の顔をじっと見つめてきた。
「スピネルと婚約解消したかったのか?」
それに対して私が答える言葉はない。
ただ黙ってニコニコとしながら、兄王子を見つめるだけだ。
だって『私が』婚約破棄したかったわけではないのだから、そう言ってしまっては嘘になる。
そう、私と結婚したくないのはスピネル様の方だ。
この計画を思いついたのは私が9歳の時。
忘れもしない、私とスピネル様が初めて出会った、王家の庭でのお茶会の後のことだった。
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