上 下
2 / 43

第二話 家族会議

しおりを挟む
「……まさか、ステラ様がそんなことを企んでいたとは」
「こんなことになるなら、帝国最高試験など受けさせるのではなかった」

 私の教育係件、お付きの侍従であるロジャーと父が頭を寄せ合って嘆き合っている。
 スピネル様は喜んでくれるかと思ったのに、険しい顔をしたまま立ち尽くした後、そのまま何も言わずにフラフラと帰ってしまったし。

 そして私の方はといえば、さっそく家族会議が始まってしまった。ある意味想定内ではあったけれど……なぜか尋問のようになってしまっているこの状態を憂う。

「帝国最高試験はこのリャルド王国の国民なら誰でも受験資格がありますし……」
「そういうことを言っているのではない!」

 あまりにも家族の皆が深刻な顔をしているので、混ぜっ返したら怒られてしまった。どうやら本気で参っているらしい。
 しかし、なぜ娘がこういうことを言い出すと思わなかったのだろうか。



 私が住むリャルド王国は、一つの帝国に属している。そして、その帝国内ではお互い交流して文化や知識などを共有している。
 その知識程度を計るものの1つが、私が受けた試験だ。
 合格率は年によって違うが、全受験者数の中でも1~4%しか合格できないという最難関を誇り、しかも帝国共通語と言われるこの国では公には話されていない言語で受験をしなくてはならないというのもさらに難易度を上げている。

 しかし帝国最高試験の合格者は、『特士』と呼ばれ特別な資格が与えられる。

 実はこの国、リャルド王国では、職業の自由があまり保証されていない。
 自分が就きたい仕事があった場合は、まず紹介を得なければならない。そこからしてハードルが高いのだ。
 だから基本は親の仕事を継ぐことが多いし、コネがなかったらなりたい職業になれない。

 しかし、帝国最高試験の合格者は自分で好きな仕事に就くことが可能になる。
 その人の保証人には王家がなってくれるからだ。基本、特士から就職希望を出された団体は、それを拒否できないことになっている。
 王家を敵に回したいと思う人はあまりいないだろうから、それはそうなのだろうけれど。


 実際、王家の保証などなくても合格者は優秀さに折り紙がついている状況なのだから、喜んで迎え入れられることが多いようだけれど。
 その優秀な人材、特士の勧誘はできない決まりにもなっている。
 金を積んでスカウトするくらいならまだしも、例えば試験の合格者の近親者などを拐かして強引に引き込むという手口なども過去にあったようだからだ。

 私が合格したこの試験は、そんな過去を持っていた。


 父や兄は私が合格を目指したのは、単なる帝国最高試験合格者という名誉を私が欲しかっただけだと思っていたようで、だから今になってこんな大騒ぎをしているのだろう。
 とはいっても、四年越しのこの執念を簡単に思ってもらっては困る。


「で、なんで特士になった途端に婚約解消の話を出したんだ? ずっとそう思っていたのか?」

 蜂蜜色の髪をかき混ぜながら、兄が不思議そうに聞いてくる。彼らからしたら突飛な話だったのだろうから。

「私は修道院に入るつもりですから」
「お前が言う修道院に入るというのはあれだろ? 聖堂教会の大聖母となるということなんじゃないのか? あれは確かに代々王家に連なる女子が受け継ぐということになってはいるが、単なる名誉職だ。なんで帝国最高試験を通ったお前がわざわざそんなのにならなきゃならないんだ? 確かに特士に希望する職種を拒絶する権限はないけどさぁ……」

 カルマリン兄様はそちらが理解できないとひたすら首をかしげている。

「お前は修道女になりたいのか?それとも……」

 ようやく私の真意に気づいたような兄が、なんともいえないような顔をして、私の顔をじっと見つめてきた。

「スピネルと婚約解消したかったのか?」

 それに対して私が答える言葉はない。
 ただ黙ってニコニコとしながら、兄王子を見つめるだけだ。
 だって『私が』婚約破棄したかったわけではないのだから、そう言ってしまっては嘘になる。

 そう、私と結婚したくないのはスピネル様の方だ。



 この計画を思いついたのは私が9歳の時。

 忘れもしない、私とスピネル様が初めて出会った、王家の庭でのお茶会の後のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は何も知らなかった

まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。 失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。 弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。 生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。    

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ
恋愛
伯爵令嬢リコリスは嫌われていると知りながら婚約者であるルシウスに常日頃からしつこく付き纏っていた。 ある日我慢の限界が来たルシウスに突き飛ばされリコリスは後頭部を強打する。 その結果自分の前世が20代後半喪女の乙女ゲーマーだったことと、 この世界が女性向け恋愛ゲーム『花ざかりスクールライフ』に酷似していることに気づく。 顔がほぼ見えない長い髪、血走った赤い目と青紫の唇で婚約者に執着する黒衣の悪役令嬢。 前世の記憶が戻ったことで自らのストーカー行為を反省した彼女は婚約解消と不気味過ぎる外見のイメージチェンジを決心するが……?

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

処理中です...