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3 金は持ち主を裏切らない

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 まず制服の手入れをして、それから脱いだ黒髪のカツラを梳かして手入れが終わると、今度はローレルは自分の自毛の方を梳かし始める。
 それはとても長く、この国では珍しい銀色の髪で、腰を優に越える。
 さらさらのストレートのその髪をこまめに梳いて手入れをしているのは、別にローレルが特別お洒落に気を使う男子というわけではない。
 ローレルは櫛に絡まる長い髪を丁寧に指でとり、質のよい紙に挟んで癖がつかないように巻き付けた。

「お前、何してんの?」

 センシがローレルの仕草を見て不思議そうな顔をしている。

「抜け毛集めてんだよ」

「うわ、キモ」

「どあほ! 魔術師の体の一部は落ちてもしばらくは魔力を帯びるから、これは魔道具に作り変えることができるんだよ」

「へ? そうなの? すげー。爪とか血とかでもできんの?」

「爪は伸ばすの危ないし、短いからだめだな。長い間、保持してると魔力を帯びるから髪くらいしか条件に合わない」

「そうなのか」

 そうか、こいつこんなでも一応魔術師でもあるしな、とセンシが自分の思い込みを反省したところに。

「あと、俺くらい長くて染まりやすい色だと、カツラ屋にも高く売れるしな」

 へっへっへ、とゲスな笑いを見せるローレルに、聞くんじゃなかった! とセンシは天をあおぐ。

「そっちが本命かよ! 魔道具どこいった! いつもなんでそんなに髪長くしてるんだと思ってたよ」

「長ければ長いほど、その分高く買い取ってもらえるんだよ。しかも、あんまり長くすると生え変わりで自然に抜け落ちるしさ。長い髪を作れるのも才能の一種」

 ほら、長い髪は美人の証拠っていうだろ? と、ローレルはさらりと自分の自慢の髪を撫でてセンシに見せびらかす。

「こんな長い髪の毛作れるって、俺の毛根優秀じゃね?」

「酷使しすぎて将来禿げなければいいな」

「こんな丹精込めて手入れしてんのに!」

 農作業の話をしているようだ、と二人のやり取りを聞いているアリクは呆れて口がきけない。

「ま、髪を売るのは基本、あまり肉体労働してない人だよなー。仕事の邪魔になるから髪を伸ばせないし」

 お前らも将来かつらを作る時は、髪を売ってる人の苦労も知れよ!?
 そう、びしっとセンシとアリクの二人を指さすローレルに、どうでもよさそうに二人の視線が刺さった。
 あと、かつら買う立場には極力なりたくない。

「殿下……貴方、下働きしてますよね?」

「あ、うん。でも普段俺はカツラでまとめて保護してるから、俺の髪はつやっつやだぞー」

 ローレルは外に出る時はカツラをかぶっているが、髪が細くて量が少なめなのでカツラの中に押し込めきることができたが、そうでなければとてもそんなことはできなかっただろう。
 実際の髪が長いから普段の所作でもカツラの髪を気遣って、女らしい仕草にすることもできる利点もあるような。
 まだ15歳のローレルは男にしては背が低く、女性としても平均的な身長の方だろうけれど、女らしさは見た目だけではないのだ。

「髪まで集めて小銭稼がなきゃいけないほど、金に困ってんのか? ここ、三食昼寝付きだろ?」
 
 センシが可哀想な子を見る目でローレルを見る。
 外に出る機会がないローレルになんで金が必要なのかがわからない。そんなセンシをローレルは鼻で笑う。

「わかってないなー、センシは。いいか? 筋肉は裏切る時は来るかもしれないが、金は持ち主を裏切らないんだぞ」

「亡くなったお母さまが知ったら悲しむセリフですね。育て方を間違ったと」

 アリクが呆れて口を出したが。

「大丈夫、大丈夫、誰が育ててもきっと俺はこんなもん」

 けらけら笑いながら、ローレルは窓の外を見た。
 王宮の高いところにあるこの塔からは街の大時計も見えるのだ。

「ああっと、仕事の時間だ」

「まだ働くのか?!」

 どんだけ仕事好きなんだよ! と呆れてセンシが怒鳴る。

「違う。俺は仕事が好きなんじゃない。金が好きなんだ」

 そうローレルはとてもいい笑顔で窓から出て行った。高い塔の上から。
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