陰キャ貧乏女子高生の成り上がり~借金回避するためにはフォロワー一万人をゲットせよ!~

すだもみぢ

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第六話 美容院

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 マドカさんの車に乗せられている間、私の頭の中に流れていたのは「ドナドナ」という歌だった。
 昨日はこの人の運転する車にぶつけられ、今日はこの人の運転する車に乗ってる。
 ……こんなことを他人に説明しても「何を言ってるの」と言われて信じてもらえなさそうだ。

「ここ、なんですか?」

 そして連れてこられた場所は、どう考えても私には縁がない場所だった。

「美容院だけど? 入って。経費で落とすから」
「経費って!? 私がカットするんですか!? それがなんで経費なの!?」
「専属契約しているモデル&アシスタントということで書類作るから、サインして。君は未成年だから親にも許可取らせてね。カッティングの腕で相当見た目変わるよ。眉も整えてもらってね」
 歩きながら早口で私に説明をすると、マドカさんはドアを開けた。

「いらっしゃーい」
「あ、マドカさん、どうもー」

 私を連れて中まで入り込むと、シャンプーはなしで、即カットに入って、と指示をする。

「ごめんね、急に。この子をよろしく。時間ないからカラーリングは今日はなし。後日改めて連れてくる」
「了解~」
「それと一通り、メイクの仕方も教えてやって」
 
 ここは異世界か!? と思うレベルで周囲の空気からして違っている。なんかいい匂いがするし。少し熱っぽいような匂いがするのは、焦げた髪の毛の匂いだろうか。
 室内なのに帽子をかぶっているお兄さんに、「木下です、よろしく~」と爽やかに挨拶されて頭を下げた。
 うーん、手が綺麗なお兄さんだな。しかもこういうお仕事をされているせいか、とてもオシャレ。オシャレということはわかるけど、何がどうオシャレなのかはわからないけれどね。
 鏡の前に座らされてから、私の髪の毛をあちこち触っていたそのお兄さんは変な顔をしている。

「髪の毛、どこで切ってるの? 1000円カット?」
「自分で切ってます」

 そういうとなぜだろう、絶句されている気がする。前髪はともかく、後ろの毛が自分で切ると揃わなくて困るんだよね。縛って誤魔化しているけれど。

「えっと、お風呂上りにブローしてる?」
「してません。自然乾燥です。うち、ドライヤーないし」
「肌も少し荒れてるみたいだけど……化粧水あってないんじゃない?」
「化粧水使ってないです」
「高校生にもなって、化粧水の1つもつけてないの? 日焼け止めは!?」

 大きなお世話だ。世の中の女子のみんながみんな、オシャレに興味あると思うなよ。

「試供品もらえた時だけ使ったりはするかな? あと保健室からもらったワセリンを塗ったりはしてますね。顔より手が優先ですが」

 家事をするようになったら手荒れがひどくなったのでワセリンを使うようになった。本当は人気の青缶のハンドクリームを使いたいのだけれど、あれを買う余裕は我が家にはない。

「化粧水なんて使うの月に1,2本だし、100均にだって今時売ってるよ!? お肌気にしてあげようよ!」
「月何百円も美容に使うくらいなら、ブスのままで結構です!」

 私がきっぱりと言い切ったら、お兄さんは絶句してしまった。

「世の中にこんな子がいるなんて……」
「逆に考えてみればいいんだよ。0円でどこまで化けられるか。プチプラどころかプライス0なオシャレと美容法を追究してみる?」

 椅子に座って面白そうに私たちを見ているマドカさん。

「ムダ毛も眉も処理してない、顔のマッサージもパックはおろか、化粧水すらつけてない、ここまでダサい素材、滅多に手に入らないよね? 今時」

 なんという言い草、失礼だな!!
 迂闊に動くと耳でも切られそうで怖いので動かないけど、マドカさんを睨んでやりたい。

「日焼け止めクリーム使ってないのに元の肌質は白くていいし、顔立ち自体は整っているんだから、そういうのを売りにしようよ」
「あの、さっきからなんの話を……」
「え? 君の動画配信のお手伝い?」
「はぁ?!」
「マドカさんから聞いたよ。君、フォロワー1万人にする約束してるんでしょ? そういうの僕好きだから、協力したいんだよね」

 え、なんかそういう話、昨日から言われてたけど、やっぱり動画方面もやる方向性なの?
 陰キャに向かないことをなんでやらせようとするかなぁ。というより、陰キャっていう存在を知らないんじゃない? この人たち。

「君の髪の毛の量多いから、下手に伸ばして縛るより、ショートボブの方がいいと思うよ。君は顎のラインも綺麗だしそっちの方が似合うと思う。時間あったらヘアパックとカラーリングするから来てね。それとマドカさんはこの子にドライヤープレゼントすること」
「はいはい」

 ドライヤー要らない!! 無駄に電気代払いたくない!
 そう言える雰囲気ではないけれど。

 カッティングが終わった後は顔を剃ったり顔の手入れの仕方とメイク方法を教えられた。顔がなんかぺたぺたして、気持ちが悪い。

「やばい、バイトの時間に響きそうだ。急ごう。送ってくからバイト先の電話番号教えて」 
 急いで店を出ながらマドカさんに聞かれるままに教える。
 うお、カーナビに店の電話番号入れると、勝手に目的地までのルートを出してくれるのか。すごいな。
 そして、無駄にバイト先の情報まで、マドカさんに与えてしまったことにいまさら気づいた。私のバカあ!

「これ」

 車の中で、紙袋に入ったものを押し付けられた。

「なんですか?」
「君用のラップトップPCとポケットWi-Fi。スマホだけでは今後、絶対しんどくなるからね」

 頬が引きつった。うわぁ、この人ガチでサポートする気だ。
 むしろ、逃がしてくれないんかい。

「で、親ごさんだけど……」
「あの、うち、シングルマザーで母しかいないんですよ」

 えい、もう話すしかないだろう。諦めて事情を話してしまおう。

「君んちシングルマザーなのか? それならなおさらちゃんとご挨拶しておかないと、心配されそうだね」

 ……確かにそうだろうな。いきなりセミロングからショートボブに髪型が変わって帰ってきて、パソコンなんて持たされてるんだし。

「ふふふ、高校生の母親なら40代~50代。まだまだ女ざかり……」
「…………」

 やめんか、変態。確かに女子高生には興味ないとは言っていたけど、この人、熟女好きの方だったか。

「人の親、口説かないでくださいね!」
「いや、冗談冗談、じゃ、セッティングよろしくね」

 センスの悪い冗談だな! セッティングいうな。合コンじゃないんだから。

「母とは……話せないと思いますよ。病気なんです」
「お母さん、病気ってどういう感じなの?」
「うーん、本人病院に行きたがらないし……」

 言葉を濁すが、マドカさんはふーん、と何を考えているかわからない顔をして、前を向いて運転をしている。


 一気に情報が頭に入ってきたせいで、もう、何がなんだかわからない。昨日から覚えることが多すぎて熱を出しそうだ。
 あれか? 普通の人みたいな生活を送ってないから、神様がサボっていたツケだと罰を与えられているんだろうか。

 バイト先に着くまで、お互いなぜか無言になった。
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