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第三話 インフルエンサー見習い誕生
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「はぁ?」
インフルエンサーってなに? インフルエンザの聞き間違い?
いや、そうだとしても文章の意図が取れないし!
なんかさらっと簡単そうに大変なこと言い出したよ、この人。
「それって私にファンを装えってことですか?」
意味がわからない。
この二木本くんのファンの数が少なすぎて、こういう水面下でファンの水増しをしろってこと?
もしかして、世の中そういうことやってること多いのかな。大人の世界って怖いね。
確かに他の人のプロフィール欄に、〇〇ちゃん推しとか書かれているのを見たことがある。
自分のプロフィールにそう書くだけなら、恥ずかしいがそんなに難しいことではない。しかし。
このアイドルとこのおじさん、どういう関係なのだろう。
「あと、三カ月以内にフォロワーを一万人にしてくれ。それが、俺の愛車を壊したのをチャラにする条件だ」
「え? えええええええ!?」
絶叫しかけて慌てて口をふさいだ。お店に迷惑かけてないよね、と周囲を見たが、幸い誰もこちらを見ていなかった。
フォロワーってあれですよね、あれ。自分のことを興味あると思ってくれる、奇特な人ってやつですよね。陰キャには関係ないですけど。
大体2年くらい私もアカウントを持ってはいるが、友達もいないし、知らない人が話しかけてこないように鍵をかけているのだけど。
自分自身だって20人くらいしかフォローしてないし、フォロワー自体が5人もいない。そのフォロワーもたぶん、自動の相互フォローとかいうやつで、フォロワー数を増やしたい人なんだろうなと思う。
そんな使い方しかしてない人間だから、そんな雲の上のような数は見たことがなかったし、自分がそうしようと気にすることもなかったのだ。
「そ、それ無理でしょ!?」
「無理なんて言ってる余裕はないよ。じゃなかったら、俺のベンツの修理費と、君の診察代払ってよね。君、保険証もってなかったから、さっきの実費だったからね」
「私の保険証は自宅にあるから持ってきますし払います!」
うう、財布が痛い。
「それでも外車の修理代は残るよね」
追い打ちを掛けないでほしい。
私が恨みがましく「どうしろと」と目で訴えているのを、にこにこと見つめ返された。この鬼畜め。
「逃げようとしても、ドラレコもあるし、君の制服覚えたから高校に問い合わせることもできるよ。二木本航大くん……ファンにはニッキーと呼ばれているのだけれど、彼の情報を君に流してあげるから、それをファン視点から君のSNSに流すのが条件だ。出る番組とか、それの感想とかもちゃんと忘れずに」
「感想ということは、エアチェックもしなくちゃダメじゃないですか。うち、テレビないんですよ!」
「あらら、今時こんな子いるなんてね」
今時の子はテレビを見ないのを知らんのか。うちは貧しすぎてどこぞの受信料を払うこともできないから、最初から要らないかと処分したのだけれど。だってテレビあるだけで色々来てうるさいし。空っぽの部屋を見るとみんな済まなそうな顔をして逃げ帰っていくのを見るのも結構快感だったりする。何かを失っていく気がするが。
「それに関して必要なものなら経費だ。俺が負担しよう」
「さらに借金が増えるじゃないですか!」
「ははは」
気持ちよさそうに笑わないでほしい。
しかし、こうなったらやらなければならないだろう。
「あのー、借金の利子ってどうなるんですか?」
「そうだねー、3か月って期限つけてんだから、その利子は無利子にしといてあげるよ。それからのは後で考えようか」
なんなんだろう、この遊ばれている感。
三カ月で万垢なれなかったら、闇金なみに利子ついて、借金のカタに臓器でも売られてしまいそう。
「顔出しはしなくてはいけないんですか!?」
「顔にはスタンプ押していいけれど、せっかくJKというブランド持っているんだから、それも利用した方がいいんじゃないの?」
やだよ、風俗じゃあるまいし。それに、私のクソダサセンスで何をどうしろというのだろう。ジョシコーセーがみんな可愛いと思わないほしい。
私が飲食店のバイトに採用決まったのは、今時の女子高生とは全然違ってメイクを一切しないというど真面目なところなんだからな。成績は普通だけど!
「メイクの方法、美容についてのアカウントで、元々はひどかったのに、これがこんなに変わった、みたいなリアルタイムレポをしていく感じにすれば、親近感で好感度上がりやすいんじゃない? 今がひどすぎるからね」
「露骨にダメ出しされた……」
女としてもうダメかもしれない。嘘だけど。
自分を着飾るのにまるで興味がないんだよね……頑張るしかないのかなぁ。使える手段は全部使うしかないし。
それからは、なんか打合せみたいな感じになってしまった。
「動画の方もやって相互で認知を高めていく感じで行くのもいいかも」
「できる限りツイートして、写真も投稿して」
「無駄な勉強をしている暇なんてないよ。授業中に集中して勉強しててね。空いてる時間は全部これにつぎ込んでね」
色々とまぁ、言いたいことを言ってくるマドカさん。
言う方はタダでいいなぁ、やるのは私なんだけど。
「じゃあ、一週間後に進捗を教えてもらうことにしようか。またこの喫茶店で報告会しようね」
「はぁ……」
なんか考えただけで疲れてきたよ。容赦なくマドカさんに連絡先を交換させられる。ここで抵抗しても無駄だとわかったので、大人しく従ったが。
半分溶けたようなチョコレートパフェの味は、全然わからなかった。マドカさんと別れた後は、そのままよろよろと帰路につく。
本当に、何がどうなっているのかわからない。
ただ、私の運命も未来も手の中の、このスマートフォンの中にあるということだけが分かった。
そして、帰りながら思い出した。
「ああ、卵!!!」
もう今から買いに行っても激安セールに間に合わない。
私はがっくりと肩を落とした。
インフルエンサーってなに? インフルエンザの聞き間違い?
いや、そうだとしても文章の意図が取れないし!
なんかさらっと簡単そうに大変なこと言い出したよ、この人。
「それって私にファンを装えってことですか?」
意味がわからない。
この二木本くんのファンの数が少なすぎて、こういう水面下でファンの水増しをしろってこと?
もしかして、世の中そういうことやってること多いのかな。大人の世界って怖いね。
確かに他の人のプロフィール欄に、〇〇ちゃん推しとか書かれているのを見たことがある。
自分のプロフィールにそう書くだけなら、恥ずかしいがそんなに難しいことではない。しかし。
このアイドルとこのおじさん、どういう関係なのだろう。
「あと、三カ月以内にフォロワーを一万人にしてくれ。それが、俺の愛車を壊したのをチャラにする条件だ」
「え? えええええええ!?」
絶叫しかけて慌てて口をふさいだ。お店に迷惑かけてないよね、と周囲を見たが、幸い誰もこちらを見ていなかった。
フォロワーってあれですよね、あれ。自分のことを興味あると思ってくれる、奇特な人ってやつですよね。陰キャには関係ないですけど。
大体2年くらい私もアカウントを持ってはいるが、友達もいないし、知らない人が話しかけてこないように鍵をかけているのだけど。
自分自身だって20人くらいしかフォローしてないし、フォロワー自体が5人もいない。そのフォロワーもたぶん、自動の相互フォローとかいうやつで、フォロワー数を増やしたい人なんだろうなと思う。
そんな使い方しかしてない人間だから、そんな雲の上のような数は見たことがなかったし、自分がそうしようと気にすることもなかったのだ。
「そ、それ無理でしょ!?」
「無理なんて言ってる余裕はないよ。じゃなかったら、俺のベンツの修理費と、君の診察代払ってよね。君、保険証もってなかったから、さっきの実費だったからね」
「私の保険証は自宅にあるから持ってきますし払います!」
うう、財布が痛い。
「それでも外車の修理代は残るよね」
追い打ちを掛けないでほしい。
私が恨みがましく「どうしろと」と目で訴えているのを、にこにこと見つめ返された。この鬼畜め。
「逃げようとしても、ドラレコもあるし、君の制服覚えたから高校に問い合わせることもできるよ。二木本航大くん……ファンにはニッキーと呼ばれているのだけれど、彼の情報を君に流してあげるから、それをファン視点から君のSNSに流すのが条件だ。出る番組とか、それの感想とかもちゃんと忘れずに」
「感想ということは、エアチェックもしなくちゃダメじゃないですか。うち、テレビないんですよ!」
「あらら、今時こんな子いるなんてね」
今時の子はテレビを見ないのを知らんのか。うちは貧しすぎてどこぞの受信料を払うこともできないから、最初から要らないかと処分したのだけれど。だってテレビあるだけで色々来てうるさいし。空っぽの部屋を見るとみんな済まなそうな顔をして逃げ帰っていくのを見るのも結構快感だったりする。何かを失っていく気がするが。
「それに関して必要なものなら経費だ。俺が負担しよう」
「さらに借金が増えるじゃないですか!」
「ははは」
気持ちよさそうに笑わないでほしい。
しかし、こうなったらやらなければならないだろう。
「あのー、借金の利子ってどうなるんですか?」
「そうだねー、3か月って期限つけてんだから、その利子は無利子にしといてあげるよ。それからのは後で考えようか」
なんなんだろう、この遊ばれている感。
三カ月で万垢なれなかったら、闇金なみに利子ついて、借金のカタに臓器でも売られてしまいそう。
「顔出しはしなくてはいけないんですか!?」
「顔にはスタンプ押していいけれど、せっかくJKというブランド持っているんだから、それも利用した方がいいんじゃないの?」
やだよ、風俗じゃあるまいし。それに、私のクソダサセンスで何をどうしろというのだろう。ジョシコーセーがみんな可愛いと思わないほしい。
私が飲食店のバイトに採用決まったのは、今時の女子高生とは全然違ってメイクを一切しないというど真面目なところなんだからな。成績は普通だけど!
「メイクの方法、美容についてのアカウントで、元々はひどかったのに、これがこんなに変わった、みたいなリアルタイムレポをしていく感じにすれば、親近感で好感度上がりやすいんじゃない? 今がひどすぎるからね」
「露骨にダメ出しされた……」
女としてもうダメかもしれない。嘘だけど。
自分を着飾るのにまるで興味がないんだよね……頑張るしかないのかなぁ。使える手段は全部使うしかないし。
それからは、なんか打合せみたいな感じになってしまった。
「動画の方もやって相互で認知を高めていく感じで行くのもいいかも」
「できる限りツイートして、写真も投稿して」
「無駄な勉強をしている暇なんてないよ。授業中に集中して勉強しててね。空いてる時間は全部これにつぎ込んでね」
色々とまぁ、言いたいことを言ってくるマドカさん。
言う方はタダでいいなぁ、やるのは私なんだけど。
「じゃあ、一週間後に進捗を教えてもらうことにしようか。またこの喫茶店で報告会しようね」
「はぁ……」
なんか考えただけで疲れてきたよ。容赦なくマドカさんに連絡先を交換させられる。ここで抵抗しても無駄だとわかったので、大人しく従ったが。
半分溶けたようなチョコレートパフェの味は、全然わからなかった。マドカさんと別れた後は、そのままよろよろと帰路につく。
本当に、何がどうなっているのかわからない。
ただ、私の運命も未来も手の中の、このスマートフォンの中にあるということだけが分かった。
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