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第十六話 嫉妬と苛立ち
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兄の時の婚約式は、まだ自分が小さかった時に行われていたので、あまり記憶になかった。
今回は次の自分の時のために、ちゃんと覚えておこうと思うが、周囲の方がプロなのだから、そんな必要もなさそうだな、と本職の神官の人達を見て思ってしまったが。
光で彩られた祭壇の中で跪く二人を後ろから見ていると、考えてはいけない思いが出てきそうになって、必死で思考をそらそうとした。
今日の姉は誰よりも美しく、その笑顔が美しければ美しいほど、違和感を感じてしまって。
どうして笑顔でいられるの?
デュークに少しでも感情は残ってないの?
あんなにお姉さまが自然な態度になれる存在は、デュークだけなんでしょう?
もう、終わってしまった間柄だから?
そんなに人って、簡単に感情を切り貼りできるものなの?
そう、しつこくほじくり返してしまうのは、自分の心が狭いせい。
私がデュークのことが好きならば、その好きだという気持ちが綺麗なものだけならいいのに。
私ばかりが好きで、想いが大きすぎて苦しくなる。
二人の中ではきっと終わって解決していて、こだわっているのはきっと自分だけ。
私の知らない二人の関係に邪推して、嫉妬をしている。
いつか姉がデュークへの愛を思い出して、戻ってくるかもしれないのに、一人で怯えている。
そうなったら私は、戦うこともできずに負けてしまうだろうから。
ずっとずっと――まばゆい光の中で考えるのは、そんな暗い感情。
自分で自分が怖くなる。
式が終わり、姉たちが先に見送られて出ていき、私たち招待客も席から移動する。
「カリン、行こう」
デュークから手を差し伸べられて、それに手を添えたら思った以上に強い力で握られて、体がびくっと反射的に震えた。自分の反応に驚いたのか、デュークの手から力が抜ける。
「あ、ごめん、手を握ってダメだったかな」
「いえ、いいですよ」
慌てて自分からデュークの手を握り返して立ち上がった。
彼が自分に優しくしてくれるのは、もしかして誰かに見せつけるためだろうか。
私とデュークが婚約していることを、そして仲がいいことを、誰ともしれない誰かに見せつけなければいけない、そんな義務で、こうして彼は振舞ってくれているのだろうか。
「ヨーランダ、綺麗だったね」
「……はい」
二人で手を繋ぎながら歩くと、彼が口を開く。
「でも俺は君をもっと綺麗な花嫁にするよ」
「……そうですか」
「信じてない?」
「いえ」
私の言葉が少ないことに気づいたのだろうか。デュークが不思議そうに私の方を見つめた。
「カリン?」
彼から自分を見られたくなくて、私は深く俯いて歩く。
知らない道を歩いて、転ばないように足元に気を取られているかのように。
デュークの歩幅が狭くなり、急に歩みがゆっくりとなった。私が歩きにくいのだろうと気を回してくれたようだ。
こういう風には気が使えるのにね、と少し彼に対して皮肉な気持ちになってしまった。
こんなに自分は沸点が低かっただろうかと思ってしまう。他の人だったならきっと耳を素通りした言葉が、デュークが発することだけは許せなく思えてしまう。
姉が綺麗なのはわかっている。
しかし、デュークが姉を褒めたというのが癇に障って仕方がないし、自分が気にしすぎなだけというのもちゃんとわかっているのだけれど。
もっと綺麗な花嫁に『する』ってどういうこと?
今のままでは足りないとでもいうの?
確かに私は色々と未熟だし、成熟したとしても貴方が比べている人に対して、劣るかもしれないけれど。
貴方が求める未来に、「カリン」という存在は不要なのかもしれない。
そう思うと、確かに今、手を繋いでいるというのに、彼が遠くに感じられた。
今回は次の自分の時のために、ちゃんと覚えておこうと思うが、周囲の方がプロなのだから、そんな必要もなさそうだな、と本職の神官の人達を見て思ってしまったが。
光で彩られた祭壇の中で跪く二人を後ろから見ていると、考えてはいけない思いが出てきそうになって、必死で思考をそらそうとした。
今日の姉は誰よりも美しく、その笑顔が美しければ美しいほど、違和感を感じてしまって。
どうして笑顔でいられるの?
デュークに少しでも感情は残ってないの?
あんなにお姉さまが自然な態度になれる存在は、デュークだけなんでしょう?
もう、終わってしまった間柄だから?
そんなに人って、簡単に感情を切り貼りできるものなの?
そう、しつこくほじくり返してしまうのは、自分の心が狭いせい。
私がデュークのことが好きならば、その好きだという気持ちが綺麗なものだけならいいのに。
私ばかりが好きで、想いが大きすぎて苦しくなる。
二人の中ではきっと終わって解決していて、こだわっているのはきっと自分だけ。
私の知らない二人の関係に邪推して、嫉妬をしている。
いつか姉がデュークへの愛を思い出して、戻ってくるかもしれないのに、一人で怯えている。
そうなったら私は、戦うこともできずに負けてしまうだろうから。
ずっとずっと――まばゆい光の中で考えるのは、そんな暗い感情。
自分で自分が怖くなる。
式が終わり、姉たちが先に見送られて出ていき、私たち招待客も席から移動する。
「カリン、行こう」
デュークから手を差し伸べられて、それに手を添えたら思った以上に強い力で握られて、体がびくっと反射的に震えた。自分の反応に驚いたのか、デュークの手から力が抜ける。
「あ、ごめん、手を握ってダメだったかな」
「いえ、いいですよ」
慌てて自分からデュークの手を握り返して立ち上がった。
彼が自分に優しくしてくれるのは、もしかして誰かに見せつけるためだろうか。
私とデュークが婚約していることを、そして仲がいいことを、誰ともしれない誰かに見せつけなければいけない、そんな義務で、こうして彼は振舞ってくれているのだろうか。
「ヨーランダ、綺麗だったね」
「……はい」
二人で手を繋ぎながら歩くと、彼が口を開く。
「でも俺は君をもっと綺麗な花嫁にするよ」
「……そうですか」
「信じてない?」
「いえ」
私の言葉が少ないことに気づいたのだろうか。デュークが不思議そうに私の方を見つめた。
「カリン?」
彼から自分を見られたくなくて、私は深く俯いて歩く。
知らない道を歩いて、転ばないように足元に気を取られているかのように。
デュークの歩幅が狭くなり、急に歩みがゆっくりとなった。私が歩きにくいのだろうと気を回してくれたようだ。
こういう風には気が使えるのにね、と少し彼に対して皮肉な気持ちになってしまった。
こんなに自分は沸点が低かっただろうかと思ってしまう。他の人だったならきっと耳を素通りした言葉が、デュークが発することだけは許せなく思えてしまう。
姉が綺麗なのはわかっている。
しかし、デュークが姉を褒めたというのが癇に障って仕方がないし、自分が気にしすぎなだけというのもちゃんとわかっているのだけれど。
もっと綺麗な花嫁に『する』ってどういうこと?
今のままでは足りないとでもいうの?
確かに私は色々と未熟だし、成熟したとしても貴方が比べている人に対して、劣るかもしれないけれど。
貴方が求める未来に、「カリン」という存在は不要なのかもしれない。
そう思うと、確かに今、手を繋いでいるというのに、彼が遠くに感じられた。
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