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第十九話 晩餐の席

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 ミュラー伯爵夫人とその娘が領地に来たのでせっかくだから、と夕食時はリントン辺境伯爵領地内の貴族も数人招かれることになった。
 あらかじめ用意してきたドレスに着替えて、小さな晩餐会に顔を出す。
 あまりこういう晴れがましい席は得意ではないけれど、将来の辺境伯の妻ということで、領地の人も自分の人となりを知りたいのだろう。その気持ちがわかるから、平気な仮面を顔に貼り付けて、なんとかやり過ごすことに決めた。

「ミュラー伯爵夫人とそのご令嬢に挨拶申し上げます」

 そんなに人数が多いわけではないのに、もう誰が誰だかわからなくなってきた。
 きっと服やアクセサリーを変えられてしまったら、相手の名前を間違えて呼ぶ自信があるのだけれど。
 何かミスがあっても、デュークは相手の人を覚えていてフォローをしてくれているだろうことを期待して、自分をエスコートしてくれているデュークの腕をぎゅっと握った。

「深窓の御令嬢と噂のカリン様にお会いできて光栄です」
「まぁ、私には過ぎた呼ばれ方ですね」
 
 私、外ではどんな言われ方をしているの、と苦笑してしまう。
 きっとお姉さま辺りが、家から滅多に出ない出ない妹のことを、いい話に変換して流してくれていたに違いない。
 噂は噂を呼んで、どんどんと憶測が積みあがっていってしまうものだから、自分がどのように言われていたのかと思うといささか怖くなる。

「実物を見て、さぞがっかりなさったことでしょう」
「いえ、まさか。デューク様が羨ましいですよ。二人ともお似合いですし」

 まるでボディーガードのように隣に貼り付いているデュークを、その人は見上げる。その目は信頼に満ちていて、ああ、デュークは領地の人から愛されているのだな、と思われた。
 デュークを育てたこのリントンの土地の人の中で、自分も将来暮らしていくのだと思うと、少しばかり未来におじけづきそうになったけれど。

「お二人は幼い頃から交友がおありだったとか」
「ええ、まぁ」

 政略結婚が主流な貴族の婚姻だから、やはり幼い時からの知り合いのケースはそれほど多くない。やはり珍しいと思われているのだな、と思えば違う話だった。

「やはり、お互いを知っていての恋愛結婚っていいですわよね」

 ……恋愛結婚?
 曖昧にほほ笑んだ私が照れているのだと思ったのか、その人に羨ましいです、と言われてしまった。

 食事後も少し歓談を、と辺境伯夫人に促され、今度は客人は応接間の方に通される。
 皆で軽い酒やお茶を片手に話をするようだ。

「まだ話し足りないですし、カリン様もご一緒に」

 自分の方にもそう誘いを受けたが、大人の時間にまだ社交界デビュー前の自分が顔を出すのは、場に気を使わせるだろう。この辺りで切り上げるべきだ。

「申し訳ありません、少々疲れてしまったので、この辺りで失礼させていただきます」

 そう言ってデュークを見上げれば、デュークは優しい目をして頷いてくれる。

「じゃあ、もう戻ろうか?」
「はい」

 母たちにも部屋に引きあげることを告げて、ようやくその場を離れることができた。

「デュークは戻って話しててもいいですよ?」

 彼は社交界デビューをもう済ませているから、一人前の大人と同等だ。しかし彼は首を振る。

「いや、せっかくカリンがうちにいるんだから、傍にいたい」
「……もう誰も見ていないのですから、仲がいいふりをする必要ないじゃないですか」

 そして、彼の腕から手を離し、部屋に戻りますからここでいいです、と告げる。

「今日はありがとうございました。お疲れ様でした」

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