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1 しけたお祭りとスーパーボール
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「ねえ、スーパーボールすくいってこういうのだったっけ……?」
「思ってたんと違う……」
雄介と瑛太郎は顔を見合わせた。
目の前のビニールプールの中には水が張ってないし、渡されたのはポイではなくて家庭科室にあるオタマだ。
ごろごろと転がっている色とりどりのスーパーボールを1回だけすくって紙コップに入れる。
それがここではスーパーボールすくいと呼ぶようだ。
まるで白玉団子をよそうみたいにおたまですくいあげ、紙コップの中に入れたスーパーボールを見てうめいていた。
せめて水をいれてほしかった……。
小5の二人ではさすがに難易度が低すぎて悲しくなってくる。
「これ、ポイを用意する金がなかったんだよね、きっと」
「だよね。水道代もケチったんだろーなぁ」
二人が不満そうに囁き合っていたら、お店役のおばさんににらまれた。
「やってから文句言うんじゃないよ! あ、すくったスーパーボールは気にいったやつを1つだけもってっていいから、あとは返してね」
「返すの!?」
「余ったやつは、今度は児童館のバザーで使うんだよ」
「それ、余ったんじゃなくてまき上げてるだけじゃん!」
1回100円も払ったのに。
このお祭りのためのお小遣いは500円しかもらえなかったのに、そのうちの100円も投資してスーパーボール1個しか手に入れられないなんて、詐欺だと雄介はふくれた。
今日は地域の夏祭りだ。本当に久しぶりのお祭りで、二人とも夏休みが始まる前からずっと楽しみにしていた。
昔は毎年やっていたはずなのだが、ここ十数年で二年に一度、三年に一度、と開催される頻度がどんどん減っていったらしい。
元は神社で行われてたらしいけれど、今は場所が雄介の通う小学校の校庭に変わったし、出店も小学校のPTAや地元商店街の有志だ。
予算が削られているらしくて、町内中につるされていた提灯は節電対策を兼ねて取りやめになっているし、お神輿も担ぎ手不足ということで中止になってしまった。
スピーカーで流していた祭囃子のみが、祭りらしい雰囲気を漂わせている。
二人で受け取ったスーパーボールを手の中に転がしながら、次の出店もどきに足を向けるが。
「なんか、どこもしみったれてるよね……」
「予算がないんだよ」
悟ったようなことを言ってしまう。
焼き鳥は肉が小さいし、かき氷も氷を削った山が低い。
まだマシなのはアメリカンドックだろうか、と全部の出店を回って値段と商品を見比べてから買うことにしたが、冷めてべしゃっとしてしまっていて、あまり美味しくなかった。
せめて元をとろうと無料のケチャップとマスタードをばしゃばしゃかけて食べたが、口の周りを汚すだけになってしまうし。
この状況を知っていたのか、友達があまり来ていないのも寂しかった。
今は夏休み中だから普段のように友達に会えなかったから、このお祭りで会えるのを楽しみにしていたのに。
祭りの会場内にいてもまるで楽しめず、どちらからともなく、帰るか、となってしまった。
二人でアスファルトにスーパーボールを叩きつけながら遊んでいたが、帰りしな瑛太郎が雄介に手の中のスーパーボールを押しつけてきた。
「これ、雄介にやるよ」
「え、なんで?」
「うち、スーパーボールの持ち込み禁止なんだ」
持ち込み禁止とはどういうことだろう。
不思議に思って瑛太郎の顔をまじまじと見れば、すぐに瑛太郎が答えを教えてくれた。
「まだ妹小さいから、口に入れちゃうと危ないし」
「あー」
なるほど。わかったような顔をして手の中の瑛太郎のスーパーボールを見る。空色のそのスーパーボールは遊んだ名残りで既にあちこちすり減っていて名誉の勲章ができていた。
「俺が小さい頃にこれを口に入れて喉に詰めてから、母ちゃんのトラウマになったらしくてさー。それでスーパーボール禁止になったんだよなー」
「そりゃなるだろうよ! 生きててよかったな!」
親の方はトラウマになったらしいのに、本人はけろっとスーパーボールで遊んでいるのはきっとその事を覚えていないからだろう。
聞いてるこっちの方がなんか怖くなってきた。
かといってスーパーボールを手放そうと思わないけれど。
「まあいいや。もらうよ」
「ん」
瑛太郎の方は家族のお土産に、とポップコーンをコンビニエンスストアで買い求めると、じゃあな、と帰っていった。きっと今買ったポップコーンは妹の腹に全て収まるのだろう。
瑛太郎の妹に会ったことはないけれど、オンラインゲームで瑛太郎と遊ぶと、彼のマイク越しに声だけ聞こえているので知っている気になっている。
その様子を聞いているだけでも仲がいいのだろうな、と思わされて、ひとりっ子の雄介はいつも羨ましかった。
「僕も帰るか……」
歩きながらスーパーボールをアスファルトの上に投げる。
最初のうちは手加減して投げていたそれだが、本気で投げたらどれくらい跳ねるのだろうと思えば試したくもなる。
周囲に誰もいないのを見計らって、雄介は思い切り道路に叩きつけてみた。
ぼぐっ!!
くぐもったような音がして、思った以上に跳ね上がったスーパーボールは左右の家の二階部分くらいまで飛んでしまった。
「あ、いけね!」
周囲は街灯とかもあまりない場所。
夏だけどさすがに7時を過ぎるような時間は暗くなっている。しかもしぶちんなお祭りのせいで提灯もつるされていないのだ。
スーパーボールのように小さなものは、一度見失ったら、きっと見つけられなくなってしまうだろう。
雄介は慌てて跳ねていったそれを追いかけた。
「思ってたんと違う……」
雄介と瑛太郎は顔を見合わせた。
目の前のビニールプールの中には水が張ってないし、渡されたのはポイではなくて家庭科室にあるオタマだ。
ごろごろと転がっている色とりどりのスーパーボールを1回だけすくって紙コップに入れる。
それがここではスーパーボールすくいと呼ぶようだ。
まるで白玉団子をよそうみたいにおたまですくいあげ、紙コップの中に入れたスーパーボールを見てうめいていた。
せめて水をいれてほしかった……。
小5の二人ではさすがに難易度が低すぎて悲しくなってくる。
「これ、ポイを用意する金がなかったんだよね、きっと」
「だよね。水道代もケチったんだろーなぁ」
二人が不満そうに囁き合っていたら、お店役のおばさんににらまれた。
「やってから文句言うんじゃないよ! あ、すくったスーパーボールは気にいったやつを1つだけもってっていいから、あとは返してね」
「返すの!?」
「余ったやつは、今度は児童館のバザーで使うんだよ」
「それ、余ったんじゃなくてまき上げてるだけじゃん!」
1回100円も払ったのに。
このお祭りのためのお小遣いは500円しかもらえなかったのに、そのうちの100円も投資してスーパーボール1個しか手に入れられないなんて、詐欺だと雄介はふくれた。
今日は地域の夏祭りだ。本当に久しぶりのお祭りで、二人とも夏休みが始まる前からずっと楽しみにしていた。
昔は毎年やっていたはずなのだが、ここ十数年で二年に一度、三年に一度、と開催される頻度がどんどん減っていったらしい。
元は神社で行われてたらしいけれど、今は場所が雄介の通う小学校の校庭に変わったし、出店も小学校のPTAや地元商店街の有志だ。
予算が削られているらしくて、町内中につるされていた提灯は節電対策を兼ねて取りやめになっているし、お神輿も担ぎ手不足ということで中止になってしまった。
スピーカーで流していた祭囃子のみが、祭りらしい雰囲気を漂わせている。
二人で受け取ったスーパーボールを手の中に転がしながら、次の出店もどきに足を向けるが。
「なんか、どこもしみったれてるよね……」
「予算がないんだよ」
悟ったようなことを言ってしまう。
焼き鳥は肉が小さいし、かき氷も氷を削った山が低い。
まだマシなのはアメリカンドックだろうか、と全部の出店を回って値段と商品を見比べてから買うことにしたが、冷めてべしゃっとしてしまっていて、あまり美味しくなかった。
せめて元をとろうと無料のケチャップとマスタードをばしゃばしゃかけて食べたが、口の周りを汚すだけになってしまうし。
この状況を知っていたのか、友達があまり来ていないのも寂しかった。
今は夏休み中だから普段のように友達に会えなかったから、このお祭りで会えるのを楽しみにしていたのに。
祭りの会場内にいてもまるで楽しめず、どちらからともなく、帰るか、となってしまった。
二人でアスファルトにスーパーボールを叩きつけながら遊んでいたが、帰りしな瑛太郎が雄介に手の中のスーパーボールを押しつけてきた。
「これ、雄介にやるよ」
「え、なんで?」
「うち、スーパーボールの持ち込み禁止なんだ」
持ち込み禁止とはどういうことだろう。
不思議に思って瑛太郎の顔をまじまじと見れば、すぐに瑛太郎が答えを教えてくれた。
「まだ妹小さいから、口に入れちゃうと危ないし」
「あー」
なるほど。わかったような顔をして手の中の瑛太郎のスーパーボールを見る。空色のそのスーパーボールは遊んだ名残りで既にあちこちすり減っていて名誉の勲章ができていた。
「俺が小さい頃にこれを口に入れて喉に詰めてから、母ちゃんのトラウマになったらしくてさー。それでスーパーボール禁止になったんだよなー」
「そりゃなるだろうよ! 生きててよかったな!」
親の方はトラウマになったらしいのに、本人はけろっとスーパーボールで遊んでいるのはきっとその事を覚えていないからだろう。
聞いてるこっちの方がなんか怖くなってきた。
かといってスーパーボールを手放そうと思わないけれど。
「まあいいや。もらうよ」
「ん」
瑛太郎の方は家族のお土産に、とポップコーンをコンビニエンスストアで買い求めると、じゃあな、と帰っていった。きっと今買ったポップコーンは妹の腹に全て収まるのだろう。
瑛太郎の妹に会ったことはないけれど、オンラインゲームで瑛太郎と遊ぶと、彼のマイク越しに声だけ聞こえているので知っている気になっている。
その様子を聞いているだけでも仲がいいのだろうな、と思わされて、ひとりっ子の雄介はいつも羨ましかった。
「僕も帰るか……」
歩きながらスーパーボールをアスファルトの上に投げる。
最初のうちは手加減して投げていたそれだが、本気で投げたらどれくらい跳ねるのだろうと思えば試したくもなる。
周囲に誰もいないのを見計らって、雄介は思い切り道路に叩きつけてみた。
ぼぐっ!!
くぐもったような音がして、思った以上に跳ね上がったスーパーボールは左右の家の二階部分くらいまで飛んでしまった。
「あ、いけね!」
周囲は街灯とかもあまりない場所。
夏だけどさすがに7時を過ぎるような時間は暗くなっている。しかもしぶちんなお祭りのせいで提灯もつるされていないのだ。
スーパーボールのように小さなものは、一度見失ったら、きっと見つけられなくなってしまうだろう。
雄介は慌てて跳ねていったそれを追いかけた。
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