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第46話 目当てのもの
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「クロエさん、貴方、ここには何しに来たんですか? 他の人にデザイン画を盗ませたのなら、貴方はここに来る必要なんてなかったですよね? 貴方の目的がセユンさんにダメージを与えたかったのなら、誰かにデザインを盗ませたのは単なる余禄で、もっと楽で確実な方法があるから来たんじゃありませんか?」
私が思わせぶりに自分の着ているドレスの胸の間を指さして見せる。
もちろん私はそこに谷間を作れるわけではないのだけれど、胸元……胸の隙間は手早くものを隠すのに最適な場所ではあって。そこに右手を突っ込んでから握りこぶしを取り出した。
「残念ながら貴方が欲しいもの、私、ここに持ってるんです。貴方より先にここにいた私がちゃんと保管してますから」
彼女が求めていたものが私の予想どおりなら、彼女は意識せずにいられないだろうと思えば、案の定食いついてきた。
鬼気迫る形相で私の手に取りすがろうとする。
「よこしなさい!」
「いやですよ。当たり前でしょう? これはちゃんと私からセユンさんにお返しします」
私は握りしめた右手を腹に押し当て、床の上に跪いて丸まった。
その私の身体をひっくり返そうとクロエは懸命だ。
私の肌に爪を立てて、腕をはがそうとするのに必死に抵抗をする。
「放しなさい! 貴方が私に敵うわけないとわかっているでしょう?」
「絶対、いやよっ……!」
やはりこれが目的だったか。
そう確信すると、私は覚悟を決めた。失神だけはしてはいけない。そう心に決めて。
先ほどの賊はデザインに関わるものだけを持っていった。その目的は今度行われるコンペで有利になるためだろう。
絵が描かれているものを全部持っていくように指示されていたのではないだろうか。もし賊に字が読めていたのなら、他の契約書なども金になりそうだと判断して持っていっただろうし。
そのことからも、あれはきっと字を読めず、あまり色々知らされていない本当の下っ端。金庫破りの能力はあっても、深く考えないような人物で、おそらくは平民から選ばれたのだろう。
それなら、その人物はこの価値に気づかない。
それの価値が分かるのは、それを知る存在だけだから。
金庫を自分で開くことができなかったクロエが賊に金庫を開けさせ、自ら盗みに来たのは伯爵家印璽。
サインだけで契約を済ますこの社会では、それ以外に印章を使うのなんて、手紙の封緘くらいなものだろうか。
印璽は領地を与えられた貴族のみが国王陛下より直々に与えられる高位貴族の証のようなものだ。
これを盗まれれば、そんな大事なものの管理すらできない人物だと、面子が命な貴族の社会で後ろ指をさされるだけでなく信用すら失い、権威を失墜させられる。
今までも印璽を紛失したり盗難されたことで、自殺まで追い込まれた貴族の存在は珍しくない。
埒が明かないと思ったのか、彼女は私の背中を強く蹴り、その反動で表を向けさせようとし始めた。
別に彼女に翻意させようなんて思ったわけではない。しかし言わずにはいられなかった。
「私は、貴方が羨ましかったのに……。セユンさんの側にずっといて、彼が幼い時も、少年の時も、青年になってからの彼もずっと見ていられた、貴方が。私はできなかった彼との時間を……一緒に過ごせて来れたのに。それだけで羨ましいのに……」
「うるさい!」
なりふり構わないクロエが椅子を掴もうとしているのが見えた。
私は低くなった体勢から咄嗟に彼女の足に飛びつく。
そしてパンツスーツの彼女のズボンの裾をまくり上げ、その足におもいきり噛みついた。
私がそんなことをしてくるなんて思わなかったのだろう。
「痛いっ!! 離して!!!」
私の髪を引っ張って頭を引きはがそうとするクロエに、私はそのままがっちりと食らいつく。パニックを起こしたクロエが私の後頭部を殴り始め、その衝撃で歯がぐらついたが、それを緩めなかった。
騎士になるための訓練を受けていた人と一般人がまともな力勝負で勝てるわけがない。顎がしびれ、息が苦しくなりだしたその時だった。
ガチャーン!!
窓ガラスが派手に割れた音がした。それと同時に玄関の扉が開かれる音も同時にする。
片手には明かり、もう片方の手は剣を構えた、見知らぬ人達が部屋の中になだれ込んでくる。
「二人を引き離せ!!」
誰かに後ろから強引に腕をつかまれ、引っ張られた。もう大丈夫かと私は口を離して、されるがままになっていた。クロエの方も同じように屈強な男たちに肩を掴まれている。
「大丈夫か?!」
私の歯型が残った足から血を流したクロエ。
この状態だけ見たら私がクロエを襲っていたように思われそうだ。傷害罪の現行犯で捕まってもおかしくない。
飛び込んできた人たちも、この状況をどのように解釈すればいいかわからないようだ。
荒れ果てた室内。
開け放たれた金庫。
ケガをしている女二人。
室内が荒れているのは、セユンが散らかした部分が大きいのだが、そこは知らないだろうし。
眩暈でぐるぐる回る視界の中、私は床に手をついて身体を必死で支えていた。
(もうちょっと早くきてほしかった……)
そんな勝手なことを思いながら。
私が思わせぶりに自分の着ているドレスの胸の間を指さして見せる。
もちろん私はそこに谷間を作れるわけではないのだけれど、胸元……胸の隙間は手早くものを隠すのに最適な場所ではあって。そこに右手を突っ込んでから握りこぶしを取り出した。
「残念ながら貴方が欲しいもの、私、ここに持ってるんです。貴方より先にここにいた私がちゃんと保管してますから」
彼女が求めていたものが私の予想どおりなら、彼女は意識せずにいられないだろうと思えば、案の定食いついてきた。
鬼気迫る形相で私の手に取りすがろうとする。
「よこしなさい!」
「いやですよ。当たり前でしょう? これはちゃんと私からセユンさんにお返しします」
私は握りしめた右手を腹に押し当て、床の上に跪いて丸まった。
その私の身体をひっくり返そうとクロエは懸命だ。
私の肌に爪を立てて、腕をはがそうとするのに必死に抵抗をする。
「放しなさい! 貴方が私に敵うわけないとわかっているでしょう?」
「絶対、いやよっ……!」
やはりこれが目的だったか。
そう確信すると、私は覚悟を決めた。失神だけはしてはいけない。そう心に決めて。
先ほどの賊はデザインに関わるものだけを持っていった。その目的は今度行われるコンペで有利になるためだろう。
絵が描かれているものを全部持っていくように指示されていたのではないだろうか。もし賊に字が読めていたのなら、他の契約書なども金になりそうだと判断して持っていっただろうし。
そのことからも、あれはきっと字を読めず、あまり色々知らされていない本当の下っ端。金庫破りの能力はあっても、深く考えないような人物で、おそらくは平民から選ばれたのだろう。
それなら、その人物はこの価値に気づかない。
それの価値が分かるのは、それを知る存在だけだから。
金庫を自分で開くことができなかったクロエが賊に金庫を開けさせ、自ら盗みに来たのは伯爵家印璽。
サインだけで契約を済ますこの社会では、それ以外に印章を使うのなんて、手紙の封緘くらいなものだろうか。
印璽は領地を与えられた貴族のみが国王陛下より直々に与えられる高位貴族の証のようなものだ。
これを盗まれれば、そんな大事なものの管理すらできない人物だと、面子が命な貴族の社会で後ろ指をさされるだけでなく信用すら失い、権威を失墜させられる。
今までも印璽を紛失したり盗難されたことで、自殺まで追い込まれた貴族の存在は珍しくない。
埒が明かないと思ったのか、彼女は私の背中を強く蹴り、その反動で表を向けさせようとし始めた。
別に彼女に翻意させようなんて思ったわけではない。しかし言わずにはいられなかった。
「私は、貴方が羨ましかったのに……。セユンさんの側にずっといて、彼が幼い時も、少年の時も、青年になってからの彼もずっと見ていられた、貴方が。私はできなかった彼との時間を……一緒に過ごせて来れたのに。それだけで羨ましいのに……」
「うるさい!」
なりふり構わないクロエが椅子を掴もうとしているのが見えた。
私は低くなった体勢から咄嗟に彼女の足に飛びつく。
そしてパンツスーツの彼女のズボンの裾をまくり上げ、その足におもいきり噛みついた。
私がそんなことをしてくるなんて思わなかったのだろう。
「痛いっ!! 離して!!!」
私の髪を引っ張って頭を引きはがそうとするクロエに、私はそのままがっちりと食らいつく。パニックを起こしたクロエが私の後頭部を殴り始め、その衝撃で歯がぐらついたが、それを緩めなかった。
騎士になるための訓練を受けていた人と一般人がまともな力勝負で勝てるわけがない。顎がしびれ、息が苦しくなりだしたその時だった。
ガチャーン!!
窓ガラスが派手に割れた音がした。それと同時に玄関の扉が開かれる音も同時にする。
片手には明かり、もう片方の手は剣を構えた、見知らぬ人達が部屋の中になだれ込んでくる。
「二人を引き離せ!!」
誰かに後ろから強引に腕をつかまれ、引っ張られた。もう大丈夫かと私は口を離して、されるがままになっていた。クロエの方も同じように屈強な男たちに肩を掴まれている。
「大丈夫か?!」
私の歯型が残った足から血を流したクロエ。
この状態だけ見たら私がクロエを襲っていたように思われそうだ。傷害罪の現行犯で捕まってもおかしくない。
飛び込んできた人たちも、この状況をどのように解釈すればいいかわからないようだ。
荒れ果てた室内。
開け放たれた金庫。
ケガをしている女二人。
室内が荒れているのは、セユンが散らかした部分が大きいのだが、そこは知らないだろうし。
眩暈でぐるぐる回る視界の中、私は床に手をついて身体を必死で支えていた。
(もうちょっと早くきてほしかった……)
そんな勝手なことを思いながら。
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