【完結】色素も影も薄い私を美の女神と誤解する彼は、私を溺愛しすぎて困らせる。

すだもみぢ

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第14話 メイクレッスン

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 リリンが手をパンパンと叩いて皆の注目を集めた。

「これからメイクの練習をするので、集まってちょうだい」

 心得ているのか、自分以外の人は作業の手を中断してまでリリンの元に集まっている。しかし私は意味が分からず首を傾げた。

「メイク?」

 どうしてだろう?
 そんなレティエに優しくリリンは微笑む。

「そう。ショー用のメイクの練習を練習しておくのよ。何かあった時にみんなで同じメイクができるようにね。もっとも当日は私がするつもりだけれど、もちろんレティエさんも練習しておいてくれると嬉しいわ」

 リリンが色々な壺や皿な筆のようなものをたくさん目の前に広げだした。絵でも描く準備をしているかのようだ。
 私がメイクをする時は侍女にやってもらうのだけれど、自分でもやれるようにと教えられてはいる。それはどちらかというと貴族のたしなみの部類で、やはり髪を整えたり衣装の準備をする専属の侍女の方が腕はいい。 
 しかし、白粉を筆で肌にのせるだけでなく、硬い綿を軽く持ち立てて叩き込むようにすると、こんなに肌の色が変わるのかと驚いた。そういうテクニックは家お抱えの侍女より、一時的なものでも美しさの究極を求めるプロ目線の方が上だと思わされた。
 
 色々と顔に塗りたくられて、1つのアイテムが変わることで自分の雰囲気がどんどんと変わる。
 私の顔はまるでキャンパスのようだと思った。
 
「やはり君はいいねえ」

 同じようにメイクレッスンに参加していたセユンが仕上がりを見て、満足そうにうなずく。質の良い鏡を渡されて覗き込んで……そこに映る自分の顔を見て、これが私……と自分の顔に見とれるなんて初めての経験だった。

「いえ、リリンさんの腕がいいんだと思います」
「そうよ。私ってばメイクの腕もいいの。もっと褒めて。縫い物の仕事だけでなくこっちもさせられてる私の大変さをセユンさんはもっと崇めたててくれてもいいのよぉ」

 ふふん、と胸をそらして威張るリリンにセユンはおどけて、いつもお世話になっております、と頭を下げている。そんな二人はどこか母子のようで、見ててほほえましい。大人しく品がいいと思っていたリリンは意外とお茶目なようだ。
 リリンはそれでも、と改めて私の顔をじっと見つめてくる。その真剣な表情は、どこかで見覚えがあると思って気づいた。ああ、これはセユンが私を見つめる目だ。

「やはりレティエさんは特別ですね。メイク1つで面差しにまで変化つけられる存在はまれですよ。セユンさん、レティエさんをスカウトしてくださってありがとうございます。メイク担当としては相当楽です」
「そうだろ、そうだろ、もっと褒めて」

 今度はセユンが胸を張っている。本当に仲良しだなぁ、この二人。

「そんなにメイクってドレス売るのに大事なことなんですか?」

 しょせん、ドレスを売るためなのだから、メイク……というかモデルの顔なんてどうでもいいのでは、と思ってしまうのだが。私のそんな素人丸出しの言葉にそこの二人はぎょっとしたように『大事!』と声を上げた。

「変わる。舞台メイクと違って、サロンで行われるファッションショーはモデルと客は近い位置で見ることができるため、メイクを濃くしたり照明やスモークなどでごまかすわけにはいかない。ドレスは日常の延長で行われる社交の場で着るためのものだから、客が自分の身にひきつけてイメージしやすいメイクを仕上げないといけないんだよ」

 そう、セユンがドレスとメイクの関係を力説すれば。
 
「私たちは結局は夢を売る職業なんですよ。そして人間ですから、どんな人にだって欠点は存在しますし、コンプレックスだってあります。それを補ったり長所を引き立てたりするのがメイクの力です。……お洒落はね、自分のためにするものなんです。綺麗になろうとする力は未来への希望です。このドレスを着ればこんな素敵になれる、という気持ちをさらに引き立てるのがメイクなんですよ」
 
 リリンはニコニコしながらメイクの効用について説明してくれた。

「その点、レティエさんはきつい面立ちのメイクも、甘いナチュラルなメイクも、衣装の色を邪魔しないんですよぉ。ああ、もう服のために生まれてきたような人!!」

 嬉しそうにリリンが言う言葉に、私は笑うしかない。
 それだと服が人間の方を引き立てていないと言っているのだけど、そこに関しては触れないでおこう。モデルとしては誉め言葉なのだろうから。
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