14 / 60
第14話 メイクレッスン
しおりを挟む
リリンが手をパンパンと叩いて皆の注目を集めた。
「これからメイクの練習をするので、集まってちょうだい」
心得ているのか、自分以外の人は作業の手を中断してまでリリンの元に集まっている。しかし私は意味が分からず首を傾げた。
「メイク?」
どうしてだろう?
そんなレティエに優しくリリンは微笑む。
「そう。ショー用のメイクの練習を練習しておくのよ。何かあった時にみんなで同じメイクができるようにね。もっとも当日は私がするつもりだけれど、もちろんレティエさんも練習しておいてくれると嬉しいわ」
リリンが色々な壺や皿な筆のようなものをたくさん目の前に広げだした。絵でも描く準備をしているかのようだ。
私がメイクをする時は侍女にやってもらうのだけれど、自分でもやれるようにと教えられてはいる。それはどちらかというと貴族のたしなみの部類で、やはり髪を整えたり衣装の準備をする専属の侍女の方が腕はいい。
しかし、白粉を筆で肌にのせるだけでなく、硬い綿を軽く持ち立てて叩き込むようにすると、こんなに肌の色が変わるのかと驚いた。そういうテクニックは家お抱えの侍女より、一時的なものでも美しさの究極を求めるプロ目線の方が上だと思わされた。
色々と顔に塗りたくられて、1つのアイテムが変わることで自分の雰囲気がどんどんと変わる。
私の顔はまるでキャンパスのようだと思った。
「やはり君はいいねえ」
同じようにメイクレッスンに参加していたセユンが仕上がりを見て、満足そうにうなずく。質の良い鏡を渡されて覗き込んで……そこに映る自分の顔を見て、これが私……と自分の顔に見とれるなんて初めての経験だった。
「いえ、リリンさんの腕がいいんだと思います」
「そうよ。私ってばメイクの腕もいいの。もっと褒めて。縫い物の仕事だけでなくこっちもさせられてる私の大変さをセユンさんはもっと崇めたててくれてもいいのよぉ」
ふふん、と胸をそらして威張るリリンにセユンはおどけて、いつもお世話になっております、と頭を下げている。そんな二人はどこか母子のようで、見ててほほえましい。大人しく品がいいと思っていたリリンは意外とお茶目なようだ。
リリンはそれでも、と改めて私の顔をじっと見つめてくる。その真剣な表情は、どこかで見覚えがあると思って気づいた。ああ、これはセユンが私を見つめる目だ。
「やはりレティエさんは特別ですね。メイク1つで面差しにまで変化つけられる存在はまれですよ。セユンさん、レティエさんをスカウトしてくださってありがとうございます。メイク担当としては相当楽です」
「そうだろ、そうだろ、もっと褒めて」
今度はセユンが胸を張っている。本当に仲良しだなぁ、この二人。
「そんなにメイクってドレス売るのに大事なことなんですか?」
しょせん、ドレスを売るためなのだから、メイク……というかモデルの顔なんてどうでもいいのでは、と思ってしまうのだが。私のそんな素人丸出しの言葉にそこの二人はぎょっとしたように『大事!』と声を上げた。
「変わる。舞台メイクと違って、サロンで行われるファッションショーはモデルと客は近い位置で見ることができるため、メイクを濃くしたり照明やスモークなどでごまかすわけにはいかない。ドレスは日常の延長で行われる社交の場で着るためのものだから、客が自分の身にひきつけてイメージしやすいメイクを仕上げないといけないんだよ」
そう、セユンがドレスとメイクの関係を力説すれば。
「私たちは結局は夢を売る職業なんですよ。そして人間ですから、どんな人にだって欠点は存在しますし、コンプレックスだってあります。それを補ったり長所を引き立てたりするのがメイクの力です。……お洒落はね、自分のためにするものなんです。綺麗になろうとする力は未来への希望です。このドレスを着ればこんな素敵になれる、という気持ちをさらに引き立てるのがメイクなんですよ」
リリンはニコニコしながらメイクの効用について説明してくれた。
「その点、レティエさんはきつい面立ちのメイクも、甘いナチュラルなメイクも、衣装の色を邪魔しないんですよぉ。ああ、もう服のために生まれてきたような人!!」
嬉しそうにリリンが言う言葉に、私は笑うしかない。
それだと服が人間の方を引き立てていないと言っているのだけど、そこに関しては触れないでおこう。モデルとしては誉め言葉なのだろうから。
「これからメイクの練習をするので、集まってちょうだい」
心得ているのか、自分以外の人は作業の手を中断してまでリリンの元に集まっている。しかし私は意味が分からず首を傾げた。
「メイク?」
どうしてだろう?
そんなレティエに優しくリリンは微笑む。
「そう。ショー用のメイクの練習を練習しておくのよ。何かあった時にみんなで同じメイクができるようにね。もっとも当日は私がするつもりだけれど、もちろんレティエさんも練習しておいてくれると嬉しいわ」
リリンが色々な壺や皿な筆のようなものをたくさん目の前に広げだした。絵でも描く準備をしているかのようだ。
私がメイクをする時は侍女にやってもらうのだけれど、自分でもやれるようにと教えられてはいる。それはどちらかというと貴族のたしなみの部類で、やはり髪を整えたり衣装の準備をする専属の侍女の方が腕はいい。
しかし、白粉を筆で肌にのせるだけでなく、硬い綿を軽く持ち立てて叩き込むようにすると、こんなに肌の色が変わるのかと驚いた。そういうテクニックは家お抱えの侍女より、一時的なものでも美しさの究極を求めるプロ目線の方が上だと思わされた。
色々と顔に塗りたくられて、1つのアイテムが変わることで自分の雰囲気がどんどんと変わる。
私の顔はまるでキャンパスのようだと思った。
「やはり君はいいねえ」
同じようにメイクレッスンに参加していたセユンが仕上がりを見て、満足そうにうなずく。質の良い鏡を渡されて覗き込んで……そこに映る自分の顔を見て、これが私……と自分の顔に見とれるなんて初めての経験だった。
「いえ、リリンさんの腕がいいんだと思います」
「そうよ。私ってばメイクの腕もいいの。もっと褒めて。縫い物の仕事だけでなくこっちもさせられてる私の大変さをセユンさんはもっと崇めたててくれてもいいのよぉ」
ふふん、と胸をそらして威張るリリンにセユンはおどけて、いつもお世話になっております、と頭を下げている。そんな二人はどこか母子のようで、見ててほほえましい。大人しく品がいいと思っていたリリンは意外とお茶目なようだ。
リリンはそれでも、と改めて私の顔をじっと見つめてくる。その真剣な表情は、どこかで見覚えがあると思って気づいた。ああ、これはセユンが私を見つめる目だ。
「やはりレティエさんは特別ですね。メイク1つで面差しにまで変化つけられる存在はまれですよ。セユンさん、レティエさんをスカウトしてくださってありがとうございます。メイク担当としては相当楽です」
「そうだろ、そうだろ、もっと褒めて」
今度はセユンが胸を張っている。本当に仲良しだなぁ、この二人。
「そんなにメイクってドレス売るのに大事なことなんですか?」
しょせん、ドレスを売るためなのだから、メイク……というかモデルの顔なんてどうでもいいのでは、と思ってしまうのだが。私のそんな素人丸出しの言葉にそこの二人はぎょっとしたように『大事!』と声を上げた。
「変わる。舞台メイクと違って、サロンで行われるファッションショーはモデルと客は近い位置で見ることができるため、メイクを濃くしたり照明やスモークなどでごまかすわけにはいかない。ドレスは日常の延長で行われる社交の場で着るためのものだから、客が自分の身にひきつけてイメージしやすいメイクを仕上げないといけないんだよ」
そう、セユンがドレスとメイクの関係を力説すれば。
「私たちは結局は夢を売る職業なんですよ。そして人間ですから、どんな人にだって欠点は存在しますし、コンプレックスだってあります。それを補ったり長所を引き立てたりするのがメイクの力です。……お洒落はね、自分のためにするものなんです。綺麗になろうとする力は未来への希望です。このドレスを着ればこんな素敵になれる、という気持ちをさらに引き立てるのがメイクなんですよ」
リリンはニコニコしながらメイクの効用について説明してくれた。
「その点、レティエさんはきつい面立ちのメイクも、甘いナチュラルなメイクも、衣装の色を邪魔しないんですよぉ。ああ、もう服のために生まれてきたような人!!」
嬉しそうにリリンが言う言葉に、私は笑うしかない。
それだと服が人間の方を引き立てていないと言っているのだけど、そこに関しては触れないでおこう。モデルとしては誉め言葉なのだろうから。
0
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる