【完結】色素も影も薄い私を美の女神と誤解する彼は、私を溺愛しすぎて困らせる。

すだもみぢ

文字の大きさ
上 下
11 / 60

第11話 謎多き男と謎多きブティック

しおりを挟む
 家に帰ったら、ミレーヌは予想通り不機嫌だった。

「あの人、最低よ」

 そう言い捨てる言葉に私は首を竦めた。

「……否定はしないわね」

 彼女が言うところのあの人はセユンのことだろう。名前も口にしたくないのだろうか。
 確かに彼がミレーヌにとった態度は、他人に不愉快さを与えると思う。
 しかしミレーヌは、はっと何かに気づいたように、慌ててその可愛らしい首を振っている。
 
「違うのよ。私に対してはそれなりに礼にかなっていると思うの……。客人を放置するような無礼さは置いといてもね。いわゆる経営者の目で判断をしているというか……それはどうでもいいのよね。そうじゃなくて、許せないのはあの人が貴方を見る目よ」
「私を見る目?」
「なんていうか……モノとして見てる感じ」

 唇に指を当ててミレーヌは何かを考えるような顔をしている。言葉を探している時の表情だ。うまく感じたことを表現できないのだろうか。

「素材として見ているんでしょう? 私はモデルだから当然じゃないかしら」

 私は自分が感じていた言葉を先に言って助け船を出してみた。

「そうそう、それよ! 失礼じゃない? 女性をバカにしてるわ。あの人、顔は悪くないけど、対象外ね。貴方もああいう男とお付き合いするのはやめた方がいいわよ。レティエは男性に免疫ないからちょっと心配」
「何を言ってるのよ! そういう相手じゃないのよ?」

 他人の顔に対して評価を下すのもどうかと思うけれど、そこはつつかないでおこう。
 そもそも下級貴族では恋愛結婚が増えてるとはいえ、親の命じた通りに結婚するのが普通だというのをミレーヌは知っているくせに。
 
「気をつけてね」

 何を気を付ければいいのかわからないが、なぜかミレーヌに心配をされてしまった。確かにセユンは私を褒めすぎていると思う。
 それが何かの思惑があって私をおだてているとしたら、それは警戒に値する。
 彼が私を褒め殺しているようなところを彼女は見てないはずなのに、そういう不穏ななにかを見抜いているとしたらミレーヌは相当な慧眼けいがんの持ち主だ。
 多く人と触れてるせいか、ミレーヌの方が私より人を見る目は長けているだろうから、一応用心しよう。

「でもあの人、なんでブティックで働いているのかしらね。騎士でもしてそうな体つきしているのに」

 不思議そうに首を傾げるミレーヌ。その動きに合わせてその栗色の髪が揺れる。

「あ、それは私も思った」
「相当鍛えているわよ、あの身体は。手にも剣だこみたいなのできてたし……」
「そうなの!?」

 そこまでは見ていなかった。やはりミレーヌの観察眼は鋭い。
 
「女を素材としてしか見てないなら逆に安心安全かもしれないけれどね……。もしかしたら同性愛者かもしれないし。でも、言い寄られでもしたら、急所蹴って逃げるのよ!?」
「あ、うん……?」

 もっとも、あの体格に本気で襲われたら逃げ切れるとは思えないけれど。
 自分の目から見るセユンは、女性に無理強いなんてしなくても、本気で口説き落とせば誰でも落とせるのではないかとは思うのだけれど。リリンの話からするとかなりモテるようなのに。

「でも貴方、自分の身分に対しては警戒してね。男爵とはいえこの裕福なクローデット家のお嬢様だってばれたら、ああいうブティックはスポンサーを欲しがるものだから、伯父様の方にも渡りつけようとするでしょうし」
「それを言ったら、ミレーヌだって……」
「私は今でもパーマー家の暫定相続人であって、クローデット家とは別の家の者だもの」

 あっけらかんというミレーヌに、こういう時にどういう顔をしたらいいのかわからなくなる。
 家族であって、家族でないと笑顔で言う彼女に少し寂しく感じるのは私の感傷だろうか。
 ミレーヌの方は割り切っているようなのに。
 
「でも、新しくモデルを雇おうとしているくらいだから、プリメールってそれなりに売れてるブティックなんじゃないかしら……」
「確かにそうよね。まだ新しいブティックみたいだけど、この私が知らないなんて。店舗利用はともかくオーダーを利用するのには身分の制限がある格式が高いブティックなのかもしれないわ。それなら男爵家の後押しなんかいらないでしょうから、貴方が少々ヘマをしても大丈夫で気楽なのだけれど……でもそれが本当だとしたら、どれだけ太いパイプを上流階級との間に持ってるってことになるんだけれどね……」

 お洒落が好きなミレーヌは、王都中のブティックを全て制覇するレベルで利用している。
 もっともそれはクローデットの家が裕福だからこそできることでもあるのだが。

 セユンも謎だが、ブティックプリメールも謎めいている。
 どういうことなんだろう、と二人で首を傾げていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...