【完結】色素も影も薄い私を美の女神と誤解する彼は、私を溺愛しすぎて困らせる。

すだもみぢ

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第6話 おばあ様の思い出

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「うーん、働き先が別になっちゃったし……計画変更しなきゃいけないかしら」
「でも貴族の家を探すんだったら、モデルとしてあちこちに行く立場の方が探しやすいかも……あまり顔がばれないように気を付けないとだけど、貴方は今までもあまりパーティーとかに出歩いていないからきっとクローデット家のレティエってわからないと思うし」
「……友達がいないということを婉曲で言ってくれてありがとね……」

 私が勤めたいのは半世紀以上続く古い家門の貴族の家のみ。その家のメイドとなって潜り込み、そこには外から子供が潜りこめる庭がないか、その庭には青銅でできた天使の像がないかを探すのが私の目的だった。
 もしその家になかったとしてもメイドとして知り合いを増やして、他の家の情報をなるべく得ようとも思っていた。
 
「お父様にはくれぐれも内緒にしておいてね」
「わかってるわよ。おばあ様のためだし」
「約束よ」
「もちろん」

 ふっくらとした頬で優しい笑顔の持ち主だった私たちのおばあ様の姿を脳裏に思い浮かべる。そんな彼女だったが、今や病気でだいぶおもやつれしてしまっていた。
 親に反抗らしいことをしたことのない娘が、叱られるのを覚悟で冒険をしようと思ったのも、いつ神に召されるかわからない祖母のためだった。

 その話を聞いたのは私も小さくて、ミレーヌがまだ家にいなかった頃のことだ。
 ソフィアおばあ様は父方の祖母で、ミレーヌの父親の母親でもあるから、私とミレーヌの共通の祖母でもある。
 彼女は長年連れ添ってきたおじい様が亡くなった後は田舎の屋敷に引き込んで、一人静かに暮らしている。
 本が好きな方で、その家には町の図書館より本の数が多いかもしれない。
 私はあの家の薄暗い書庫の落ち着く空気が好きだった。
 そこに住むのは年寄りだけなのに子供むけの絵本も多くどうしてだろうと思っていたら、彼女は読んだ本を全て大切にとっておいているようだった。その本を父や叔父も読み、そして私やミレーヌも読んで育ったのだ。
 その家に縁がある人が、何かあるとそこに集まって癒されてまた日常に帰る……そんな落ち着いた空間が、ソフィアおばあ様のおうちだった。 
 
 幼い頃から本を読むのが好きだったおばあ様は、本より外で遊ぶ方が好きだった息子たちに嘆いていたと笑いまじりに話してくれたことがある。そして彼女の血を引いたのか彼女の影響を受けてか、本好きに育った私を誰よりも喜んで可愛がってくれた。
 女の子同士のお話よ、と内緒話のような秘密のお話も教えてくれて、その中の1つを私が忘れられず、外に仕事を求めたきっかけになった。
 
「本当にねえ、そこは素敵な場所だったのよ」

 そう言って、懐かしそうに目を細めるおばあ様を覚えている。

 周囲に自分のような貴族がいない良家の一人娘で、外に一人で出してもらえなかった幼い頃のおばあ様。
 六歳になった頃、今、私が住んでいる王都に連れてこられたことがあったという。
 なにを見ても珍しいのに、危ないからと屋敷の中でしか過ごすことを許されず。ある日、どうしても我慢しきれなくて親の目を盗んで屋敷を飛び出したそうだ。
 しかし土地勘がない場所で迷子になってしまい、とある場所に入り込んでしまったという。
 そこは色とりどりの花が咲き乱れ、青銅の天使のような像がある素敵な場所。
 泣いてばかりの子供のおばあ様をなだめ、おばあ様の家を大人たちに探してもらっている間、そこにいた男の子はおばあ様を慰めるために絵本を読んでくれたのだとか。
 その絵本は妖精の王と恋をする姫君のお話で、庭園の美しさとお話の内容の景色が繋がったようで、その世界に一息に連れ込まれてしまったという。
 その後で大人になって自由がきくようになってから、そこを探そうとしてもその場所を見つけることができず、あの時に聞いたお話が載った絵本すら見つけることができなくて、おばあ様のその物語は心の奥でしまい込まれるままになったとか。
 
 それを聞いて、もしかして、その人に出会った男の子はおばあ様の初恋の人なのかもしれないと思ったら勘ぐりすぎだろうか。
 貴族の娘は自由に恋愛することができないし、身近に異性を置くことすらも身内以外にはほとんどない。使用人だって未婚の娘の側に男を配置することはないのだ。
 だから、それは勝手な邪推かもしれないけれど、恋愛小説に憧れる年頃の娘にとっては、ロマンスにも聞こえたのかもしれない。

 おばあ様が身体を悪くしてしまったと聞いて、孫として何かできないかと思った時に、真っ先に思い浮かんだのはあの物語の事。
 これは勝手な思いかもしれないけれど、あの場所を見つけ出して教えたら彼女は喜ぶのではないかと思って、いてもたってもいられなくなったのだ。
 おばあ様は私にとって特別な人だったから。
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