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第1話 出会い
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「大きなお屋敷だなぁ……」
ずっしりとしたモナード伯爵家の紫檀製のドアは長い年月を耐えてきた証拠の独特の黒い艶が出ている。
それだけでも風格が漂い、入ろうとする者を排除しようとでもいうかのように。もちろんここにいる私ことレティエ・クローデットに対してもそうだ。
しかし私は勇気を振り払いドアノッカーを手にしてコンコンと打ち付ける。そして1つ、大きく深呼吸をした。
着慣れない型のワンピースは、自分をできる女風に見せてくれているだろうか、と心配しながらスカートを心持ち引っ張った。
ドアが開いたら元気よく挨拶をしよう。
そして、メイドの応募を見て面接にきたことを伝えて……ああ、どこの紹介所で募集告知を見たかも言わないと。昨日の夜から何度も練習をしたから大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせれば聞かせるほど、ダメな気がしてならなかったが。そう思ってため息をついていたら。
バタン!!
重いはずのそのドアが軽々と開き、中からぬっと大きな人影が現れた。
いざ! と練習の成果を披露しようと息を吸ったが……私の昨晩の努力は一生封印されることになった。
相手を見て驚きで言葉を失ってしまったからだった。
私の視界を覆うような大きな身体。大きいだけでなく服の上からも一目でそれは戦う身体であると分かる。
濃い栗色の髪の毛とハシバミ色の目に太い眉。頭1つ半分ほど上から見下ろされて驚いた。こう見えても自分は女性の中では背が高い方だ。男性に比べたら相対的に背が低くはなるが、ここまで自分より背が高い男性に遭ったのは初めてかもしれない。何より、父以外の男性にこんなに近づいたのも初めてだったのだが。
驚いたのは相手の身体の大きさ故ではない。相手の服装が予想外だったのもある。
ドアを開けるのはお仕着せを来たメイドかフットマンか、それらに類する使用人だと思っていた。しかし、自分の目の前に立っているのは、彼の身体に合わせたような仕立ての服で、しかもその布地も上質だし出来もいい。手入れも行き届いていて、彼自身が着道楽でもない限り、それを管理している人の存在をあらわしていた。つまり。
もしかして、この家のご主人様一家の誰か?
紹介されたここモナード家は伯爵家。出てきたのは男性。となると相手は爵位を持っている貴族の可能性がある。
相手の年齢的にも、もしかしたら伯爵本人かもしれない。
失礼があったら首が飛ぶかもしれなくて慌てて礼を取ろうとしたが、濃い眉の下の切れ長の目が睨むかのように自分を見つめていて、遅かっただろうかと顔から色を失った。しかし。
「見つけた……君こそ俺の理想だ」
目の前の男の唇から漏れた言葉を聞き取り損ねた。いや、ちゃんと聞いていたとしても理解できなかっただろうけれど。
「え?」
「頼む。人助けだと思って、来てくれ!」
唐突に腕をがしっと掴まれて、ひっと怯えで喉の奥で声がひきつった。
咄嗟に腕を振り払おうとしてしまったが、びくともしない。よく考えればこの家門は近衛に取り立てられるほど優秀な騎士を排出する武芸に特化した家門だったはず。彼がこの家の男性だとしたら、自分ごときが力で敵う相手ではない。
「あ、あのっ 私っ」
これから面接があることをなんとかして相手に伝えようとしたが、彼はぐいぐいと引っ張っていく。屋敷の中に連れ込まれるのかと思いきや、彼は自分を外へと連れていかれた。
半ば引きずられるように歩いていくと、屋敷の敷地内ではあるが離れた場所に小さな建物が見えてきた。蔦が白い壁に絡みついているところを見るとあまり使われている建物ではなさそうだが、二階建てのその建物はしっかりした作りのようだ。
「クロエ! この子どう?」
ずっしりとしたモナード伯爵家の紫檀製のドアは長い年月を耐えてきた証拠の独特の黒い艶が出ている。
それだけでも風格が漂い、入ろうとする者を排除しようとでもいうかのように。もちろんここにいる私ことレティエ・クローデットに対してもそうだ。
しかし私は勇気を振り払いドアノッカーを手にしてコンコンと打ち付ける。そして1つ、大きく深呼吸をした。
着慣れない型のワンピースは、自分をできる女風に見せてくれているだろうか、と心配しながらスカートを心持ち引っ張った。
ドアが開いたら元気よく挨拶をしよう。
そして、メイドの応募を見て面接にきたことを伝えて……ああ、どこの紹介所で募集告知を見たかも言わないと。昨日の夜から何度も練習をしたから大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせれば聞かせるほど、ダメな気がしてならなかったが。そう思ってため息をついていたら。
バタン!!
重いはずのそのドアが軽々と開き、中からぬっと大きな人影が現れた。
いざ! と練習の成果を披露しようと息を吸ったが……私の昨晩の努力は一生封印されることになった。
相手を見て驚きで言葉を失ってしまったからだった。
私の視界を覆うような大きな身体。大きいだけでなく服の上からも一目でそれは戦う身体であると分かる。
濃い栗色の髪の毛とハシバミ色の目に太い眉。頭1つ半分ほど上から見下ろされて驚いた。こう見えても自分は女性の中では背が高い方だ。男性に比べたら相対的に背が低くはなるが、ここまで自分より背が高い男性に遭ったのは初めてかもしれない。何より、父以外の男性にこんなに近づいたのも初めてだったのだが。
驚いたのは相手の身体の大きさ故ではない。相手の服装が予想外だったのもある。
ドアを開けるのはお仕着せを来たメイドかフットマンか、それらに類する使用人だと思っていた。しかし、自分の目の前に立っているのは、彼の身体に合わせたような仕立ての服で、しかもその布地も上質だし出来もいい。手入れも行き届いていて、彼自身が着道楽でもない限り、それを管理している人の存在をあらわしていた。つまり。
もしかして、この家のご主人様一家の誰か?
紹介されたここモナード家は伯爵家。出てきたのは男性。となると相手は爵位を持っている貴族の可能性がある。
相手の年齢的にも、もしかしたら伯爵本人かもしれない。
失礼があったら首が飛ぶかもしれなくて慌てて礼を取ろうとしたが、濃い眉の下の切れ長の目が睨むかのように自分を見つめていて、遅かっただろうかと顔から色を失った。しかし。
「見つけた……君こそ俺の理想だ」
目の前の男の唇から漏れた言葉を聞き取り損ねた。いや、ちゃんと聞いていたとしても理解できなかっただろうけれど。
「え?」
「頼む。人助けだと思って、来てくれ!」
唐突に腕をがしっと掴まれて、ひっと怯えで喉の奥で声がひきつった。
咄嗟に腕を振り払おうとしてしまったが、びくともしない。よく考えればこの家門は近衛に取り立てられるほど優秀な騎士を排出する武芸に特化した家門だったはず。彼がこの家の男性だとしたら、自分ごときが力で敵う相手ではない。
「あ、あのっ 私っ」
これから面接があることをなんとかして相手に伝えようとしたが、彼はぐいぐいと引っ張っていく。屋敷の中に連れ込まれるのかと思いきや、彼は自分を外へと連れていかれた。
半ば引きずられるように歩いていくと、屋敷の敷地内ではあるが離れた場所に小さな建物が見えてきた。蔦が白い壁に絡みついているところを見るとあまり使われている建物ではなさそうだが、二階建てのその建物はしっかりした作りのようだ。
「クロエ! この子どう?」
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それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
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