6 / 28
第六話 イメージチェンジ
しおりを挟む
「ようやく、お嬢様が花開く時が来ましたわ!」
侍女のローラが私以上にはしゃいでいる。落ち着いて、と笑いながらそれを見ている他の侍女たちも心なしかウキウキしているように見える。
「私の魅力を最大限に引き出すための知恵を出してほしいのよ。傍から見てもイメチェンしたのがわかるように」
帰るなりそう頼んだら、侍女たちは張り切ってドレッサーからあれでもない、これでもない、とドレスを出してきたり、髪飾りやアクセサリーを取り出してきた。
自分はそれなりにオシャレに気遣ってきたつもりだったけれど、彼女たちを見ていると、どうも私の努力も気合もまだまだだったようだ。
もう夜だし、後は家でのんびりするだけだというのに、侍女たちは私のメイクからやり直し、今後の練習をし始めるようだ。
「お嬢様は眉の形をきつい山形にするのがお好みのようですが、もう少しなだらかな形にするのがいいと思いますよ?」
侍女の中でもメイクにこだわりを持つアマンダがそういうと、他の侍女もうんうん、と容赦なく同意してくる。
みんな、そう思っていたのならもっと早くそう言って欲しかった!
「だってそれだと私の眉の形に添わないんですもの」
「それならいっそ、眉を剃ってしまったらいかがですか?」
「剃る!?」
「ええ、別に誰に素顔を見せるというわけでもないでしょう? 美を優先するならそうするべきです。むしろ、化粧をした顔がお嬢様の顔なんです」
訳のわからない説得を受けて、眉を1本1本抜かれたり、一部を剃られたりして、今まで見た事のない顔になっていく。私の不安がわかるのか、全部剃られたりはしなくてほっとしたけれど。
「ところでどのようなイメージに変身したいんですの?」
「そうね……大人っぽい感じにしてくれるかしら。男性受けするような」
「でも、どうして大人っぽく? 今のお嬢様でも十分可愛らしいですのに」
「ヘンリー様を見返したい……と言ったらわかってくれるかしら?」
元々ヘンリーの家のメイドが我が家の侍女たちに密告し、そこからヘンリーの浮気は発覚した。
そして浮気調査に出かけた私が帰ってくるなりこんなことを言いだしているので、何か察するものがあったのだろう。それ以上深く聞いてこなかった。
「大人っぽくですわね? 確かにリンダ様ならその路線は大きなイメージチェンジになるでしょう。リンダ様の場合細い腕と首が魅力なので、なるべく髪型は優雅に見えるようにいたしましょう」
「ドレスも、子供っぽい飾りは取ってしまいましょうか」
「ドレスの色も染め直しした方がいいですわね」
淡い、どこか子供っぽいイメージが強かったドレスを、強い印象が残る濃く鮮やかな色に、と打合せをする。
「何着かは新しいドレスをオーダーなさった方がいいと思います。デザイナーを呼びましょうか?」
「三着も買えばいいかしら。でもそんなに一気に買い直したりして、怒られないかしら……」
「身長が伸びてしまって着られなくなったとでもおっしゃればよいですよ」
知恵をつけてくるメイド達も同罪だ。しかし。
「旦那様にお嬢様がおねだりすれば大丈夫ですよ」
「……私もそう思うわ」
今までおねだりして買ってもらえなかったものが思い至らない……。だからこそ申し訳なくて、うかつに父にねだれないのだが。
うちの父は言われるままに金を出すのが愛だと思っている節がある。そして、ちゃんと娘を愛していると思っているのだろう。
「明日は、ヘンリー様がいらっしゃる日ですわよ」
婚約者同士なのだから、と週に1度のペースで私の家で会うということをさせられている。
それがちょうど明日だったことを言われて初めて思い出した。
「そうね、でも支度はしなくていいわ。会うつもりないから」
「喧嘩でもなさったのですか? それならこちらからお断りの手紙を出した方が」
「ううん、単にちょっと会いたくない気分なだけ。それも駆け引きの1つよ」
私がロナードから言われている内容を偉そうに言うと、侍女たちは黙ってなるほど、と頷いたが。
しかし、次の日、ヘンリーは連絡1つよこさず家に来なかった。やはりというかなんというか。
「お忘れになっているのかしら」
そう当惑する侍女たちに、私はすまして肌の手入れを続けさせる。
「そうね、そうかもしれないわね」
あんなところを婚約者に見られて、家に来るだけの度胸はなかったようだ。
しかし約束があったはずなのに、それをすっぽかすのはいただけない。それを責めるくらいはしておくべきだろう。
夜になってから、私は机に座り、カードにペンを走らせた。
「これを、侯爵家に送ってちょうだい」
そして一文だけ書いたカードをヘンリーの元まで持って行かせる。
『アナルトーの花はたとえ飽きたとしても手入れしないといけないものだとお分かりですよね?』
一応自分たちは婚約者同士なのだから、それなりの態度は見せた方がいいんじゃないの? という嫌味だ。
来たらきたで会うつもりはないけれど、来もしないというのは相手の過失だ。
この話は大げさに騒いで、父の耳に入れておくべきかもしれない。
侯爵家という家格に惹かれて娘を嫁がせようとしていたとしても、我が家に侮辱を受けているという風になったら、プライドの高い父は不愉快に思うだろうから。父の怒りを煽ってみようかと思う。
そう思っていたら、即座に反応があった。
「お返事の手紙と、お花が届いております」
詫びのつもりだろうか。
大慌てで用意したのだろうと思うと少し溜飲が下がった。
どこの女に用意させたのかはわからないが、なかなか小洒落たブーケにしているガーベラの花束を見ながら鼻で嗤った。
侍女のローラが私以上にはしゃいでいる。落ち着いて、と笑いながらそれを見ている他の侍女たちも心なしかウキウキしているように見える。
「私の魅力を最大限に引き出すための知恵を出してほしいのよ。傍から見てもイメチェンしたのがわかるように」
帰るなりそう頼んだら、侍女たちは張り切ってドレッサーからあれでもない、これでもない、とドレスを出してきたり、髪飾りやアクセサリーを取り出してきた。
自分はそれなりにオシャレに気遣ってきたつもりだったけれど、彼女たちを見ていると、どうも私の努力も気合もまだまだだったようだ。
もう夜だし、後は家でのんびりするだけだというのに、侍女たちは私のメイクからやり直し、今後の練習をし始めるようだ。
「お嬢様は眉の形をきつい山形にするのがお好みのようですが、もう少しなだらかな形にするのがいいと思いますよ?」
侍女の中でもメイクにこだわりを持つアマンダがそういうと、他の侍女もうんうん、と容赦なく同意してくる。
みんな、そう思っていたのならもっと早くそう言って欲しかった!
「だってそれだと私の眉の形に添わないんですもの」
「それならいっそ、眉を剃ってしまったらいかがですか?」
「剃る!?」
「ええ、別に誰に素顔を見せるというわけでもないでしょう? 美を優先するならそうするべきです。むしろ、化粧をした顔がお嬢様の顔なんです」
訳のわからない説得を受けて、眉を1本1本抜かれたり、一部を剃られたりして、今まで見た事のない顔になっていく。私の不安がわかるのか、全部剃られたりはしなくてほっとしたけれど。
「ところでどのようなイメージに変身したいんですの?」
「そうね……大人っぽい感じにしてくれるかしら。男性受けするような」
「でも、どうして大人っぽく? 今のお嬢様でも十分可愛らしいですのに」
「ヘンリー様を見返したい……と言ったらわかってくれるかしら?」
元々ヘンリーの家のメイドが我が家の侍女たちに密告し、そこからヘンリーの浮気は発覚した。
そして浮気調査に出かけた私が帰ってくるなりこんなことを言いだしているので、何か察するものがあったのだろう。それ以上深く聞いてこなかった。
「大人っぽくですわね? 確かにリンダ様ならその路線は大きなイメージチェンジになるでしょう。リンダ様の場合細い腕と首が魅力なので、なるべく髪型は優雅に見えるようにいたしましょう」
「ドレスも、子供っぽい飾りは取ってしまいましょうか」
「ドレスの色も染め直しした方がいいですわね」
淡い、どこか子供っぽいイメージが強かったドレスを、強い印象が残る濃く鮮やかな色に、と打合せをする。
「何着かは新しいドレスをオーダーなさった方がいいと思います。デザイナーを呼びましょうか?」
「三着も買えばいいかしら。でもそんなに一気に買い直したりして、怒られないかしら……」
「身長が伸びてしまって着られなくなったとでもおっしゃればよいですよ」
知恵をつけてくるメイド達も同罪だ。しかし。
「旦那様にお嬢様がおねだりすれば大丈夫ですよ」
「……私もそう思うわ」
今までおねだりして買ってもらえなかったものが思い至らない……。だからこそ申し訳なくて、うかつに父にねだれないのだが。
うちの父は言われるままに金を出すのが愛だと思っている節がある。そして、ちゃんと娘を愛していると思っているのだろう。
「明日は、ヘンリー様がいらっしゃる日ですわよ」
婚約者同士なのだから、と週に1度のペースで私の家で会うということをさせられている。
それがちょうど明日だったことを言われて初めて思い出した。
「そうね、でも支度はしなくていいわ。会うつもりないから」
「喧嘩でもなさったのですか? それならこちらからお断りの手紙を出した方が」
「ううん、単にちょっと会いたくない気分なだけ。それも駆け引きの1つよ」
私がロナードから言われている内容を偉そうに言うと、侍女たちは黙ってなるほど、と頷いたが。
しかし、次の日、ヘンリーは連絡1つよこさず家に来なかった。やはりというかなんというか。
「お忘れになっているのかしら」
そう当惑する侍女たちに、私はすまして肌の手入れを続けさせる。
「そうね、そうかもしれないわね」
あんなところを婚約者に見られて、家に来るだけの度胸はなかったようだ。
しかし約束があったはずなのに、それをすっぽかすのはいただけない。それを責めるくらいはしておくべきだろう。
夜になってから、私は机に座り、カードにペンを走らせた。
「これを、侯爵家に送ってちょうだい」
そして一文だけ書いたカードをヘンリーの元まで持って行かせる。
『アナルトーの花はたとえ飽きたとしても手入れしないといけないものだとお分かりですよね?』
一応自分たちは婚約者同士なのだから、それなりの態度は見せた方がいいんじゃないの? という嫌味だ。
来たらきたで会うつもりはないけれど、来もしないというのは相手の過失だ。
この話は大げさに騒いで、父の耳に入れておくべきかもしれない。
侯爵家という家格に惹かれて娘を嫁がせようとしていたとしても、我が家に侮辱を受けているという風になったら、プライドの高い父は不愉快に思うだろうから。父の怒りを煽ってみようかと思う。
そう思っていたら、即座に反応があった。
「お返事の手紙と、お花が届いております」
詫びのつもりだろうか。
大慌てで用意したのだろうと思うと少し溜飲が下がった。
どこの女に用意させたのかはわからないが、なかなか小洒落たブーケにしているガーベラの花束を見ながら鼻で嗤った。
6
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
メカ喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。
百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」
私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。
この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。
でも、決して私はふしだらなんかじゃない。
濡れ衣だ。
私はある人物につきまとわれている。
イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。
彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。
「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」
「おやめください。私には婚約者がいます……!」
「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」
愛していると、彼は言う。
これは運命なんだと、彼は言う。
そして運命は、私の未来を破壊した。
「さあ! 今こそ結婚しよう!!」
「いや……っ!!」
誰も助けてくれない。
父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。
そんなある日。
思いがけない求婚が舞い込んでくる。
「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」
ランデル公爵ゴトフリート閣下。
彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。
これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。

幼馴染が恋をしたら、もれなく巻き込まれました
mios
恋愛
幼馴染が恋をした。相手には婚約者がいて、しかも彼女とは別に秘密の恋人とやらがいる。子爵令嬢でしかない幼馴染には絶対に絡まない方が良い人物であるが、彼女の行動力のおかげで、思わぬ方向に話は進んでいき……
※タイトルに誰視点かをつけてみました。読み易くなればよいのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる