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第三話 ロナードの策略
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「今後の方針からすると、精神的に抉るのと、社会的にダメージを与えるのは同時進行にしていこう。婚約破棄までに時間がかかりすぎるとリンダの婚期に関わるかもしれないからな。相手の瑕疵で婚約破棄に持っていくのだから、リンダはなるべくふるまいに気を付けて」
紙を持ってくると、ロナードはカリカリとペンで目標と、それに向けてやらなければならないことを細分化して書いていく。
「じゃあ、作戦その1。リンダは美人になって」
「……今の私の美貌にご不満と?」
「僕は君に不満はないよ。ただ、男からしたら、自分の女だと思っていた奴が、自分以外の男の手で綺麗になったり、他の男のために綺麗になったと思うと腹が立つ」
「あ、わかる」
うんうん、とアレックスも腕組みしながら頷いている。
「綺麗になるというより、“男目線でわかりやすい、媚びた格好”ってのが正解かな。香りがどーのーとか爪の色がーとか言われても男には正直細かいところは通じないからね? 男にアピールするのなら露出が高い格好、派手めなメイク、そういう方がいいよ」
「え……ドレスで露出ってどうすれば……」
胸元が大きく空いたドレスはあるにはあるが、夜用だし。そしてそういうのはある程度膨らみがないと貧相に見えるのだ。
そして、言わずとしれたリンダはすっとんである。
「胸なんて詰め物でいくらでも盛れるでしょ? 後れ毛を出すようなアップが今流行しているし。そういうのも研究してね。それは君んちのメイドに言った方がいいか」
流行を押さえている男子……ロナードに女子力でリンダは既に負けている気がする。
「別に他にテレーゼという本命がいたとしても、君もキープしている……ヘンリーの心の中では君の扱いはそんな感じなんじゃないかな。侮っているんだと思うよ。あと、テレーゼを本命とも限らない。自分に言い寄ってきたのがテレーゼだから、遊び相手なのかもしれないし。だから、別に嫉妬心を煽って心を取り戻させたいわけではないけれど、お前が選ぶ立場じゃないんだよ、ということを分からせてやらないとな」
作戦を言いながら、くくく、とロナードが黒い笑いを漏らしている。
「そして僕たちは噂を流そう。リンダは最近綺麗になったって。そして、君が普段行かないような場所で、誰かと逢引きをしているようなのを見た、という話もするんだよ。普通の人間ならそれを聞いて、リンダと逢引きしているのはヘンリーだと思うはずだよ。婚約者なんだから。でもヘンリーがその噂を聞いて、それは自分ではないとわかるよな。ならばリンダが会っているのは誰だ? となるだろ」
ごくっとアレックスと二人で息を飲んで続きを聞き入る。
「そしてリンダはヘンリーに極力会わないでくれ。家に会いに来てもできる限り断って。そしてその後、綺麗になって幸せそうな君を見せるんだよ。ダメージ大きいだろうな」
「しかし、他の男の影があるような噂を流していいのか? リンダのイメージが悪くならないか?」
「あくまでも噂だ。目撃者も証人もいない。もし不都合ならリンダによく似た誰かだったとでも言えばいいさ」
噂に踊らされるヘンリーを想像すると面白いな、と笑うロナードを見れば、もしかしてこの人、ヘンリーのこと嫌いだったのでは、と思ってしまう。
しかし、よくもまぁ、こんな案を瞬時に思いつくもんだ。
「俺、ロナードを敵に回すのよすわ……」
「私も……」
二人して視線を交わし、頷きあってしまう。そして我らの知将は今度はアレックスの方を向いた。
「そしてアレックスなんだけど、君は状況としてテレーゼの浮気を知らない設定になっている。それと家の立場的にも強い。テレーゼが浮気者として君の家にふさわしくない女だ、と証明さえすればいいから君の破談は楽な話だ。あんなにいい婚約者なのに、なんで浮気なんかしたのかという同情票を集めるようにしてくれ。しかし、それでいて、テレーゼの心を掴まないように、あえて相手に嫌われるようにしてくれればいい」
「それ、難しいオーダーだぞ……」
頭を抱えるアレックスに、ううん、とリンダが首を振る。
「簡単よ。無神経なことを言えばいいんだから。今日は化粧のノリが悪いねとか、なんか太った? とかね。あと、あの子が気にしてそうなことをズケズケ言ったり。テレーゼの心証が悪くても、マメに彼女に会いに行ったり、プレゼントを渡していたりすれば周囲はそんなことわからないのだから、アレックスはテレーゼを大事にしている素晴らしい婚約者ってなるわよ。そうね……さしずめあの子なら、君は地味で根暗だけど、君のその根暗なところが好きなんだ、とでも言ってやったらいいかもね」
もし相手が本命だったら、君は奥ゆかしくて大人しくて、という風に言うべき言葉を、ちょっと変えるだけで罵倒になる。物は言いようといういい例だろう。
とりあえず言われたことをやってみて、お互い進捗報告をしよう、ということになった。
紙を持ってくると、ロナードはカリカリとペンで目標と、それに向けてやらなければならないことを細分化して書いていく。
「じゃあ、作戦その1。リンダは美人になって」
「……今の私の美貌にご不満と?」
「僕は君に不満はないよ。ただ、男からしたら、自分の女だと思っていた奴が、自分以外の男の手で綺麗になったり、他の男のために綺麗になったと思うと腹が立つ」
「あ、わかる」
うんうん、とアレックスも腕組みしながら頷いている。
「綺麗になるというより、“男目線でわかりやすい、媚びた格好”ってのが正解かな。香りがどーのーとか爪の色がーとか言われても男には正直細かいところは通じないからね? 男にアピールするのなら露出が高い格好、派手めなメイク、そういう方がいいよ」
「え……ドレスで露出ってどうすれば……」
胸元が大きく空いたドレスはあるにはあるが、夜用だし。そしてそういうのはある程度膨らみがないと貧相に見えるのだ。
そして、言わずとしれたリンダはすっとんである。
「胸なんて詰め物でいくらでも盛れるでしょ? 後れ毛を出すようなアップが今流行しているし。そういうのも研究してね。それは君んちのメイドに言った方がいいか」
流行を押さえている男子……ロナードに女子力でリンダは既に負けている気がする。
「別に他にテレーゼという本命がいたとしても、君もキープしている……ヘンリーの心の中では君の扱いはそんな感じなんじゃないかな。侮っているんだと思うよ。あと、テレーゼを本命とも限らない。自分に言い寄ってきたのがテレーゼだから、遊び相手なのかもしれないし。だから、別に嫉妬心を煽って心を取り戻させたいわけではないけれど、お前が選ぶ立場じゃないんだよ、ということを分からせてやらないとな」
作戦を言いながら、くくく、とロナードが黒い笑いを漏らしている。
「そして僕たちは噂を流そう。リンダは最近綺麗になったって。そして、君が普段行かないような場所で、誰かと逢引きをしているようなのを見た、という話もするんだよ。普通の人間ならそれを聞いて、リンダと逢引きしているのはヘンリーだと思うはずだよ。婚約者なんだから。でもヘンリーがその噂を聞いて、それは自分ではないとわかるよな。ならばリンダが会っているのは誰だ? となるだろ」
ごくっとアレックスと二人で息を飲んで続きを聞き入る。
「そしてリンダはヘンリーに極力会わないでくれ。家に会いに来てもできる限り断って。そしてその後、綺麗になって幸せそうな君を見せるんだよ。ダメージ大きいだろうな」
「しかし、他の男の影があるような噂を流していいのか? リンダのイメージが悪くならないか?」
「あくまでも噂だ。目撃者も証人もいない。もし不都合ならリンダによく似た誰かだったとでも言えばいいさ」
噂に踊らされるヘンリーを想像すると面白いな、と笑うロナードを見れば、もしかしてこの人、ヘンリーのこと嫌いだったのでは、と思ってしまう。
しかし、よくもまぁ、こんな案を瞬時に思いつくもんだ。
「俺、ロナードを敵に回すのよすわ……」
「私も……」
二人して視線を交わし、頷きあってしまう。そして我らの知将は今度はアレックスの方を向いた。
「そしてアレックスなんだけど、君は状況としてテレーゼの浮気を知らない設定になっている。それと家の立場的にも強い。テレーゼが浮気者として君の家にふさわしくない女だ、と証明さえすればいいから君の破談は楽な話だ。あんなにいい婚約者なのに、なんで浮気なんかしたのかという同情票を集めるようにしてくれ。しかし、それでいて、テレーゼの心を掴まないように、あえて相手に嫌われるようにしてくれればいい」
「それ、難しいオーダーだぞ……」
頭を抱えるアレックスに、ううん、とリンダが首を振る。
「簡単よ。無神経なことを言えばいいんだから。今日は化粧のノリが悪いねとか、なんか太った? とかね。あと、あの子が気にしてそうなことをズケズケ言ったり。テレーゼの心証が悪くても、マメに彼女に会いに行ったり、プレゼントを渡していたりすれば周囲はそんなことわからないのだから、アレックスはテレーゼを大事にしている素晴らしい婚約者ってなるわよ。そうね……さしずめあの子なら、君は地味で根暗だけど、君のその根暗なところが好きなんだ、とでも言ってやったらいいかもね」
もし相手が本命だったら、君は奥ゆかしくて大人しくて、という風に言うべき言葉を、ちょっと変えるだけで罵倒になる。物は言いようといういい例だろう。
とりあえず言われたことをやってみて、お互い進捗報告をしよう、ということになった。
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⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
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