婚約破棄された公爵令嬢のお嬢様がいい人すぎて悪女になれないようなので異世界から来た私が代わりにざまぁしていいですか?

すだもみぢ

文字の大きさ
上 下
42 / 48
第二章 出会い

第17話 旅行計画

しおりを挟む
「セイラ先生、本当にお嬢様をそちらの別荘にお招きいただいてもよろしいのでしょうか?」

 あの日、リベラルタスから言われたことを、セイラ先生にも確認をとってみると、もちろんとばかりにうなずかれてしまった。

「直接、メリュジーヌ様に確認取りたいこともあるしね。私が空になったそちらのおうちに乗り込むわけにもいかないから、お嬢様をお招きしようと思ったのよ」

 家人がほぼいないのに、自分の家のように歩き回っていた某元婚約者を思い出す。
 普通ならば、このセイラ先生のような気づかいが当たり前だよなぁ。と思わず比べてしまった。
 本当のところ、使用人と大差ないような扱いを受けているメリュジーヌお嬢様だから、セイラ先生がいらしてももてなすこともできないので、彼女が家から出る方が助かるのは事実だ。

「もちろん、リリアンヌも別荘に来るんでしょう?」
「うーん……どうですかね」

 奥様たちの旅行の間に邸宅内でお留守番をするとしたら、人がいない機会を利用し、やっておかなければならない仕事もあるだろう。室内の模様替えとか大がかりな工事とか。
 それに駆り出さることを考えると、自分がそこから離れるわけにはいかないような気がする。

「なんとか抜け出せる隙を考えてみますが、お嬢様は奥様がいらっしゃらない一か月の間ずっと、別荘にいらっしゃることができると思いますが、私の場合はせいぜい1週間が関の山ってところですね」
「私の方もずっとお嬢様に掛かり切りになれるわけではないのよね。リオンの家から乳母を呼び寄せたり、リベラルタスはなるべくおいておくようにするわね。知ってる人なら安心でしょう?」
「まぁ、そうですね……」

 こちらが招待されていく立場だし、しかも、向こうにおける滞在費などもセイラ先生側に丸抱えしてもらうのだ。それに対していちいち文句をつけられるものではない。

「とりあえず、よろしくお願いしますね」

 少々の不安は残るものの、旅行というにはささやかな、でも、確かな外出は心が躍るものである。誰にもばれないように、私たちの方も準備を進めていこう。





 そして、季節は移り変わっていく。

 日を追うごとに気温が低くなっていく中で、公爵邸の方も旅行の準備が進んでいった。

 どんどんと寒くなっていくのに、お嬢様は服を新しく準備されることもない。存在自体がほぼ忘れ去られているお嬢様を、気遣う存在は誰もいないからだ。
 しかも成長されているので、去年の服をそのまま着ることもできない。
 幸いセイラ先生が気を使って服を差し入れてくれたり、お嬢様自身がセイラ先生から請け負った縫い物の仕事や、カードの販売益で服を買ったりできるようになったために、温かい上着などを準備することができた。
 そうでなかったら、秋とはいえ冷える屋根裏部屋では、凍えてしまっていただろう。あそこでは火などもろくに準備できないのだから。

 私がリリアンヌの中に入るまではどうしていたのだろう、とふと思う。

 正直いって、私が前のリリアンヌと実際に会うことができたら、嫌いなタイプだっただろうなと思ったりする。
 彼女がシシリーに取り入ってメリュジーヌお嬢様の傍にいたのを選んだのは英断だとしても、メリュジーヌ自身をちゃんと守り切れてなかったし。厳しい言い方をすれば、お嬢様に対して何の役にも立ってないよね? とも冷たく思ってしまう。もう少しやりようあったでしょ? なんて忌々しく思ってしまうからだ。

 しかし、それってリリアンヌは、この世界の常識の中で生まれて育っていたせいだから、と憐れむ部分もある。

 私は幸い現代の日本の社会で教育を受けることができた。
 そこで学んだ一番大事なことは、読み書きそろばんなんかではなく、「自分の力でもなんとかすることができる」という物の考え方ではなかろうか。
 知識より、自分に対して知恵と自信をつけるのが教育の実態だったんだなぁって、一応教育者だったのにこんな知らない世界にきて私はそれに初めて気づいた。

 そりゃ現代にだって、生まれながらのカースト制度がある国だったり、女性差別のひどい宗教だってあったりするのだから、そういう国に生まれなかった私は単に運がよかっただけだ。
 そして、たまたまそれから逃れられる『考え方』を知っていただけだから、この男尊女卑がまかり通るこの国で、保護者といえる大人がいない中で育ったリリアンヌが、メリュジーヌお嬢様を虐げる奥様からどうすれば守れるかを知らず、ただ黙って耐え忍んでたことを責めることはできない。

 だから、本当に手遅れになる前に、私をここに連れてこられてよかったね、とそちらの幸運を喜んだほうがいいだろう、うん。


 伯爵領への帰省旅行が近づいてくると、めったにない遠出に浮かれるシシリーに、私以外の専属メイドは二人とも彼女についていくことになったので、シシリーの部屋はどこか楽しいムードに満ちている。

「伯爵領に行ったら、どんなことが待っているかしら。エドガー様にお土産いっぱい買いたいわ」

 うきうきとしながら、服のコーデを試している。道中はこれ、向こうでこれ、と服をあらかじめ考えているようだ。

「道中気を付けてくださいましね。お土産は馬が疲れない程度に買ってください」
「リリアンヌもくればいいのに」

 シシリーが口を尖らせていうが、それはご免こうむりたい。シシリーからすれば、いつも髪をゆったりドレスを選んだりする自分がいたら楽なのはわかるが、私は私でここでやりたいことがあるのだから。

「シシリーお嬢様がいらっしゃらない間に、屋敷と部屋を整えておかなければいけないでしょう? 私の分も楽しんできてくださいね」
 
 そう適当に言ってごまかした。

 この地域は冬でも雪が降らない。
 乾いた風が吹き荒れるだけだからこそ冬でも移動ができるのだ。
 寒さの分、衣類の数が多くなり、馬車の数も増えていく。
 公爵家の旅行という見栄も含めて、大所帯での旅行支度は、昔、習った大名行列を連想してしまったが。

 そしていよいよ当日。
 居残り組総出でお見送りをした後に、私だけこっそりとその場を離れた。

 リオン子爵家の小さな馬車が、公爵邸から離れた場所で、目立たないように待っててくれているのだ。
 今度はメリュジーヌお嬢様を、家からこっそりと連れていく番である。

 目立つ金髪の髪をきっちりとショールで巻いて、メリュジーヌお嬢様はこっそりと部屋から出てくる。
 人数が少なくなっているし、もともとメリュジーヌお嬢様は奥様に会わないように暮らしているので、物静かに移動するのが巧みだ。
 誰にも会うこともなく、もちろんとがめられることもなく、出てくることに成功した。
 馬車の中をのぞきこむと、セイラ先生がいて、目が会えばウィンクをばっちり決めてくれた。こういうところは相変わらずである。

「メリュジーヌお嬢様も、行ってらっしゃいませ。こちらでのお仕事が済み次第、私もそちらに合流いたしますから」

 何度もくどいくらいにセイラ先生にお嬢様のことをお願いをして。お嬢様に対してはそう微笑んで、お嬢様が乗り込んだ馬車を見送ったのだが。


 生まれて初めて、メリュジーヌお嬢様と離れたその時にこそ、――思いがけない事件が起きてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...