婚約破棄された公爵令嬢のお嬢様がいい人すぎて悪女になれないようなので異世界から来た私が代わりにざまぁしていいですか?

すだもみぢ

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第二章 出会い

第6話 闇の中で光る石

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 私を通してお嬢様にマナーを教える方法は、それなりに進めることができた。

 やはり、普段、奥様に見つからないように急いで食べることに主眼を置いているので、メリュジーヌお嬢様の食べ方は貴族の食べ方に比べると姿勢や持ち方などが崩れていて、どことなく品がなく見えていた。
 それでも本人の意識のおかげで、とてもよくなった……と思う。私視点では。
 しかし、貴族からはどう思われるかはわからない。
 セイラ先生に会わせたいなぁ……。
 こういう時、本当の意味で貴族ではない自分の限界を感じる。

 意識をして奥様たちの食事風景を見ているが、やはり、なんだかんだいって正しくカトラリーを使っているようだ。
 ただし、その使われている食器の種類が少ないために、食べ終えた後に置く場所などを間違えてないだけな気がする。 
 他所で違うパターンを出されたらどうするのだろう。
 シシリーの授業でも、この先、このような高度な礼儀作法を扱うものが増えていくのだろうか。
 あんなにやる気がなくても貴族として育てられて、きちんと教育を受けているシシリーの方が、公爵令嬢であるメリュジーヌお嬢様よりどんどんと先に進んでいきそうで、焦ってしまう。

 そうではあるけれど……。


 最近、お嬢様が変わった。


 以前は針と糸にばかり興味を示していたのに、最近は本を好んで読まれるようになった。
 私が図書室からこっそりと持ち出して与えた本は、次の日には読み終わっているようだ。単に読むだけではなく、何度も読み返していたりもしているようで。

 おかげで私が図書室に通う頻度が増え、ますます警備の人達と仲良くなっている。
 あんまり頻繁にしすぎて、ゾムさんにとうとう「本、そんなに読んでるのかい?」と、訊かれてしまった。
 私が本をもっていつも出入りしているのを、ちゃんと見ていたようだ。
「私ではないんです。お嬢様に頼まれて。あ、でもあまり本を読んでお勉強しなくなったらダメだって怒られるので、奥様には内緒ですよ?」
「そうかそうか、偉いねえ」

 私がシシリー付の専属メイドだとわかっているなら、お嬢様というのはシシリーだと勘違いしてくれるだろう。
 本が好きなお嬢様の内緒のお使いだと。
 一緒に私の分の本を借りているのは、言わなくていい情報なだけだ。
 お嬢様は綺麗な絵がついているものを好むが、私は歴史書や資料ばかりに目を通している。
 断じて好きなわけではないけれど、必要な知識だと思うから必要がない。

 しかし、たとえそれが興味本位だとしても、ゾムさんはまだ偉い。
 もう一人の若い人の方の警備の人の方が職務がザルすぎるのがどうしてくれよう。あの人、立ってるのが仕事だと思っているような気がする。不法侵入している立場なのに不安すぎる。

 それはともかく。

 二人で同じ本を読んで、その感想を話し合ったりする時間も増えていった。

「私、このお話が好きなの」

 お嬢様が教えてくれた本は、この国ではよく語られている神話をモチーフにした絵本のようだ。

 昔々、暴れまわっていた悪い怪物を封じた洞窟があった。この国のお姫様がその怪物が再び封印を解いて暴れまわれないように生贄となってその洞窟を訪れる。
 生贄として捧げられたお姫様は、その怪物をいつしか心から愛するようになって、ずっと仲良く暮らしていくというお話。

 別に怪物は人間にもならないし、怪物を退治する勇者も現れないという、教訓もいまいちわからない。
 子供むけにしては珍しいなぁ、と逆に印象が深かった。

 お嬢様は怪物とお姫様の関係より、そこに出てくるアイテムが気になるようだ。

「この話って闇の中でも光る石が出てくるじゃない。多分、宝石をイメージされているのだろうけれど、実際にそういう伝説が元々ここにはあるのよ。ほら、レーンの山の洞窟に」

 怪物とお姫様が住む洞窟は光る石があり、闇の中でもその光を頼りに暮らしている描写がある。
 私はなんとなくヒカリゴケの光のようなものを想像していたのだけれど。

 この屋敷から数刻馬車で行ったところには山があって、その中には隣国に繋がる洞窟があるらしいのは郷土史を読んで知ってはいたのだけれど、その中に暗闇でも光る石が出てくるとは。

 闇の中で光る石……蓄光性のある石だったら、お菓子の家のヘンゼルとグレーテルに出てきたあの石かなぁ、とも思うけど、完全に闇の中で光っているのだったら、それは放射能出してんじゃないの?
 夢を持って語るお嬢様にそんなことを言えないけど。

「ちょっと行ってみてみたいですね、それ」

 実際ラジウムとは思えないけれど、光る石なんてあったら面白そうだな、と好奇心丸出しで言ったら。

「ダメよ! 危ないから洞窟の中には入っちゃ」

 ……叱られてしまった。

「そんな、ちょっとだけですって。隣国まで行く不法侵入みたいなことしませんよ」

 隣国との国境に山があって、そこに洞窟があるというのなら、そういう密入国を疑われて処罰される人もいそうだと思って先回りして言ったのに、メリュジーヌお嬢様はなんとも言えない顔をしている。

「違うわよ、言われているのを忘れたの? 海から繋がる河が、あの洞窟の中に繋がっていて、あそこを終着点としているから干満で水没するのを。入り組んでて水をため込む穴がいくつもあるから、変なタイミングで水が吐き出されてくるし。満潮じゃないからと安心して中で遊んでたりしたら、その鉄砲水でさらわれるって」

 海から水が流れ込むということは、土地が低いのか。ここは内陸部だと思っていたけれど、海にも近いのかな? と、地理とか地形とかが分からなくなる。

 しかしそのことは本には書かれていなかった。きっと地元に口伝として残っているようなものなのだろう。

「そういえばそうでしたね……」

 知ったかぶりをしてごまかすが、リリアンヌの知識としてもそれは欠落しているみたいだ。
 単に興味がなくて知っていたのに忘れてしまったのか、それとも、リリアンヌの記憶は完全ではないのか。
 もしその石がラジウムみたいなものだとしても、そういう地理的要因で今まで被爆者が出なかったのかもしれないが。

「洞窟の中に入らないにしろ、あのあたりはピクニックとかにうってつけですから、遊びには行ってみたいですよね」
「いいわねえ。きっと楽しいわ」

 お嬢様は近くの街にすら足を延ばすこともできない。
 ずっとこの家に閉じ込められているようなものだ。
 奥様がいなくなる隙を見て、家の中を歩き回るので精一杯だ。

 太陽の光を受けて、その金色の髪を輝かせて笑う彼女を見てみたい。
 
 そう願っていたのだが、そのチャンスは意外と早く巡ってくることになった。
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