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第一章 ここは私の知らない世界
第16話 小金稼ぎ
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「なんだろう、あの小屋みたいなの……」
それに気づいたのはリリアンヌの中に入ってからしばらくしてからだった。
西向きの二階のシシリーの部屋からは見えるのに、庭園から行こうとしてもなかなか見つからない場所がある。
何度も庭園を歩き回って、ようやくそこへの入り口を発見した。
背が高い木が目隠しのようになっていて、その裏側に道があるなんて、普通は気づかないだろう。
外壁がボロボロで、見た目は廃屋なのだけれど、作りはしっかりしているようだ。なんだろうと思って、扉を引っ張ろうとしたが、ドアが開かなかった。
「ホセおじさーん」
誰か教えてくれないかと探したら園丁のおじさんを見つけて呼び寄せる。
庭をフラフラ歩いている間にも庭師の人達とも仲良くなり、植物について話していたら知り合った人だ。
若い女の子と話す機会が少ないのか、庭師のおっさん集団は年齢層も高いが、娘のように可愛がってくれて話すのが楽しい。
「ここ、何が入っているんですか?」
ホセおじさんを呼び寄せて小屋に案内すると、ああ、と頷いていた。
「ここねー、裏で馬とか牛とか飼ってるだろ。そこの荷物の置き場だったんだよ。でも、薔薇園ができて行き来しづらくなって、もっと大規模な庭園になったから、新しい小屋を作ってそっちを利用するようになったんだ」
「へえ、じゃあ、ここの小屋って今、使ってないんですか?」
「そうだよ。こんなとこあったの忘れてたくらいだしね」
「じゃあ、下働きのメイドの物置小屋にしていいですかね。洗濯かごとか古いたらいとか置くための。かさばるのにあまり使わないものって置く場所困ってるんですよねえ……」
そう上目遣いでお願いしたら、別にいいよ、と頷いてくれた。
「ああ、奥様の許可を貰ってきたらいいよ」
「もちろん、そうします」
もちろん貰いに行ったりしないけどね!
これがメイドたちなら私の行動を疑うだろうけれど、呑気なホセおじさんたち園丁は、私と奥様の関係とかを知らないようだからね、ちょろい。
絶対あの奥様じゃ勝手に使ってても気づかないだろうし。
ということで、後で許可を取るということでホセおじさんから鍵も渡してもらった。
それからは、仕事の合間に中を掃除して、色々と私物を持ち込んだり、使い込んで薄くなった古いリネンを貰ってきたりして、それは完成した。
「ミレディ」
前はミレディが私を呼び出したけれど、今度は私の番。私が呼んだらミレディはどこかびくびくしているようだ。
着いてきて、と、命令して彼女を連れて庭に回る。高い木が目隠しになっているあの場を通り、そして小屋を指さした。
「あそこの小屋を使う権利を持ってるのよ、私」
そんな権利知らないけどね。でもその使用権を持っている庭師の承諾済みだ。
「この公爵邸の中で、彼氏と二人きりで【安心して】会う場所なんてなかなかないでしょ?」
安心して、を強調してしまう。だって私にばれてるくらいだからね。
鍵を開けて中を見せると、中は小じゃれた感じのワンルーム風になっている。いや、私がそうした。
中に保存されていた干し草はまだ十分使えたので、それをベッドに作り替えて。ハイジの世界のようだなと思ったけれど、これが意外と寝心地がいい。ただし結構重い。中はお嬢様手作りのカードを借りて飾ったりもしている。
「一回、1刻が5セルラーでお使いいただけますけど、いかがでしょう?」
これはいわゆる逢引用の場所……日本で言うならラブホテルのつもりだ。
日本円で言えば700円くらいの価値だろうか。
この後で値上げをするか、値下げをするかはわからないが、相手の財布具合を考えるとそんなに高く値段設定しても使ってくれないと思うから、これぐらいが適当かなぁ、と思う。
自分の給料から換算したけれど、ミレディは私より給料高そうな気もするけどね。奥様付き侍従だから。
ちなみに1刻というのは2時間くらい。
私がこの場所を提供した目的にすぐに気づいたのか、周囲をくまなく見つめている。
ドアや窓を見て、気密性というか防音性を意識しているようなのがさすがだと思った。
「なるほど、いいわね。明日、貸してくれる?」
「さっそくだね、何刻?」
「2刻分買っておくわ。昼過ぎから」
「了解。明日の昼前になったら鍵を渡すから、その時にお金と引き換えね。ただし汚したりしたら二度と使わせないからね」
「ありがとう。大丈夫よ」
うわあ、ミレディ、肉食獣のような目になってるよ。
中にはタオルとかも置いてあるから、万が一汚すようなことになっても、自分で掃除してくれるだろう。一応後で確認には来るけど。
「もし他にも貴方のような立場の人がいたら、貴方を通して私に声をかけるようにしてほしいわ。恋人たちの場所だから、恋人と使いたいという人以外に言わないでね。私の名前は決して出さないでよ? もしそうしてくれたら、ここをこれから貴方が使う時に割引するから」
そう保身をしながらもちゃっかりと宣伝を頼んでおこう。
こういうのって、同じことしている人なら感じる嗅覚みたいなのがあるだろうから、案外お互い恋愛悩み相談とかしてんじゃないかな、とも思うんだよね、知らんけど。
邸内恋愛してそうな人いるのは気づいているけど、誰か確定はしてないし、知られたくないだろうから気づかないふりをしておこうと思っている。
利用者がミレディ達しかなくて、あまりにも利用率が悪いようなら、他の手を考えればいいだけだし。
「私は恋する人の味方なのよ」
そう嘯いて。手の中の鍵をちゃりん、と回した。
それに気づいたのはリリアンヌの中に入ってからしばらくしてからだった。
西向きの二階のシシリーの部屋からは見えるのに、庭園から行こうとしてもなかなか見つからない場所がある。
何度も庭園を歩き回って、ようやくそこへの入り口を発見した。
背が高い木が目隠しのようになっていて、その裏側に道があるなんて、普通は気づかないだろう。
外壁がボロボロで、見た目は廃屋なのだけれど、作りはしっかりしているようだ。なんだろうと思って、扉を引っ張ろうとしたが、ドアが開かなかった。
「ホセおじさーん」
誰か教えてくれないかと探したら園丁のおじさんを見つけて呼び寄せる。
庭をフラフラ歩いている間にも庭師の人達とも仲良くなり、植物について話していたら知り合った人だ。
若い女の子と話す機会が少ないのか、庭師のおっさん集団は年齢層も高いが、娘のように可愛がってくれて話すのが楽しい。
「ここ、何が入っているんですか?」
ホセおじさんを呼び寄せて小屋に案内すると、ああ、と頷いていた。
「ここねー、裏で馬とか牛とか飼ってるだろ。そこの荷物の置き場だったんだよ。でも、薔薇園ができて行き来しづらくなって、もっと大規模な庭園になったから、新しい小屋を作ってそっちを利用するようになったんだ」
「へえ、じゃあ、ここの小屋って今、使ってないんですか?」
「そうだよ。こんなとこあったの忘れてたくらいだしね」
「じゃあ、下働きのメイドの物置小屋にしていいですかね。洗濯かごとか古いたらいとか置くための。かさばるのにあまり使わないものって置く場所困ってるんですよねえ……」
そう上目遣いでお願いしたら、別にいいよ、と頷いてくれた。
「ああ、奥様の許可を貰ってきたらいいよ」
「もちろん、そうします」
もちろん貰いに行ったりしないけどね!
これがメイドたちなら私の行動を疑うだろうけれど、呑気なホセおじさんたち園丁は、私と奥様の関係とかを知らないようだからね、ちょろい。
絶対あの奥様じゃ勝手に使ってても気づかないだろうし。
ということで、後で許可を取るということでホセおじさんから鍵も渡してもらった。
それからは、仕事の合間に中を掃除して、色々と私物を持ち込んだり、使い込んで薄くなった古いリネンを貰ってきたりして、それは完成した。
「ミレディ」
前はミレディが私を呼び出したけれど、今度は私の番。私が呼んだらミレディはどこかびくびくしているようだ。
着いてきて、と、命令して彼女を連れて庭に回る。高い木が目隠しになっているあの場を通り、そして小屋を指さした。
「あそこの小屋を使う権利を持ってるのよ、私」
そんな権利知らないけどね。でもその使用権を持っている庭師の承諾済みだ。
「この公爵邸の中で、彼氏と二人きりで【安心して】会う場所なんてなかなかないでしょ?」
安心して、を強調してしまう。だって私にばれてるくらいだからね。
鍵を開けて中を見せると、中は小じゃれた感じのワンルーム風になっている。いや、私がそうした。
中に保存されていた干し草はまだ十分使えたので、それをベッドに作り替えて。ハイジの世界のようだなと思ったけれど、これが意外と寝心地がいい。ただし結構重い。中はお嬢様手作りのカードを借りて飾ったりもしている。
「一回、1刻が5セルラーでお使いいただけますけど、いかがでしょう?」
これはいわゆる逢引用の場所……日本で言うならラブホテルのつもりだ。
日本円で言えば700円くらいの価値だろうか。
この後で値上げをするか、値下げをするかはわからないが、相手の財布具合を考えるとそんなに高く値段設定しても使ってくれないと思うから、これぐらいが適当かなぁ、と思う。
自分の給料から換算したけれど、ミレディは私より給料高そうな気もするけどね。奥様付き侍従だから。
ちなみに1刻というのは2時間くらい。
私がこの場所を提供した目的にすぐに気づいたのか、周囲をくまなく見つめている。
ドアや窓を見て、気密性というか防音性を意識しているようなのがさすがだと思った。
「なるほど、いいわね。明日、貸してくれる?」
「さっそくだね、何刻?」
「2刻分買っておくわ。昼過ぎから」
「了解。明日の昼前になったら鍵を渡すから、その時にお金と引き換えね。ただし汚したりしたら二度と使わせないからね」
「ありがとう。大丈夫よ」
うわあ、ミレディ、肉食獣のような目になってるよ。
中にはタオルとかも置いてあるから、万が一汚すようなことになっても、自分で掃除してくれるだろう。一応後で確認には来るけど。
「もし他にも貴方のような立場の人がいたら、貴方を通して私に声をかけるようにしてほしいわ。恋人たちの場所だから、恋人と使いたいという人以外に言わないでね。私の名前は決して出さないでよ? もしそうしてくれたら、ここをこれから貴方が使う時に割引するから」
そう保身をしながらもちゃっかりと宣伝を頼んでおこう。
こういうのって、同じことしている人なら感じる嗅覚みたいなのがあるだろうから、案外お互い恋愛悩み相談とかしてんじゃないかな、とも思うんだよね、知らんけど。
邸内恋愛してそうな人いるのは気づいているけど、誰か確定はしてないし、知られたくないだろうから気づかないふりをしておこうと思っている。
利用者がミレディ達しかなくて、あまりにも利用率が悪いようなら、他の手を考えればいいだけだし。
「私は恋する人の味方なのよ」
そう嘯いて。手の中の鍵をちゃりん、と回した。
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