上 下
17 / 34

17話 ファミレスだとコーヒー1杯で1時間粘るタイプ。

しおりを挟む
 はー……ひでぇ目にあった。ヨハン君説教長すぎ!
 それにこれから会う奴も面倒くさそうだし、濃い一日になりそうだ。

「んじゃ、ブレイズちゃん。俺ちゃんネロと約束してっから」
「素直に行くのね。てっきりすっぽかすかと思った」
「まぁ他人の約束だったら破るが、一回ボコった相手だ。袖すり合った程度でも、一応顔合わさねぇと。本音を言えば行きたくはねぇんだがなぁ」
「妙な所で律儀な人。……貴方って、真面目なの? 不真面目なの? どっち?」
「俺は俺だ。自分のやりたい事を正直にやってるだけだよ」

 人間のクズでも流儀や美学はある、俺ぁそいつを曲げずに続けている。ただそれだけだ。

「ブレイズちゃん、わりぃけど先に外回り頼まぁ。すぐに合流すっからさ」
「はいはい。事情が事情なだけに、強く言えないわ。……ちょっとだけ、見直したわよ」
「なら今夜ご一緒に寝るのはどうだい?」
「お断りします」

 ちぇ、つれないねぇ。
 って事で、ネロとの会談に向かいますか。学食を指定していたな。

「やぁ、ハワード先生。来て頂いて嬉しいです」
「三十分だけしか取らねぇつっただろ。さっさと用件話せよ」

 そ、ネロとの会談だ。クーポン貰った以上出ねぇわけにはいかねぇしなぁ。
 しかし……学食のテラス、しかもコーヒーまで用意しているたぁ、随分な歓迎具合だぜ。

「先生はコーヒー党だと伺いましたので。ふふ、学食のカフェテリアですから、あまり期待はできませんが」
「親父から聞いたのか?」
「いいえ、僕独自に調べました」
「そいつは、感心だな」

 ま、ここのコーヒーは嫌いじゃねぇさ。専門店よか劣るのは仕方ねぇが、それでもまずまずのクオリティだしよ。

 ……ボディがくっきりして、豆の甘味が強い。酸味を抑えたフルーティな風味……コルドナ産か。読者諸君の世界だったら、コロンビアが近いんじゃねぇか?
 コーヒーを覚えるとモテるぜ野郎諸君、たまには大人ぶってみな。

「んで、俺様に相談事ってなんだよ?」
「はは、そんな堅苦しく構えないでください。ただ、父の事について教えてほしいだけです」
「カインの事か」
「ええ。両親と旅していた頃、二人がどのような冒険者だったのかを伺いたくて」
「そんなもん自分の親から聞けよ、なんで俺様がいちいち話さにゃならねぇんだ」
「昔から、両親と話す機会がない物で。先生はトークも切れますから、父と話すよりずっと面白くなりそうですし」

 まぁ、カインにユーモアセンスはねぇしな……その辺は俺の指導不足だぜ。

「しゃあねぇな、さわり程度でいいなら、話してやるよ」

 親父の事を、ネロの奴は随分熱心に聞いてくれたよ。
 特に、あんにゃろうの弱点を重点的に聞こうとしていた。なんつーか、それだけでネロが何を考えているのか、よく分かるぜ。

 カインは世間じゃ品行方正な勇者とか言われているが、あいつは単に頑固なだけだ。しかも無自覚に天然な所もある、俺様にとっちゃ苦手な人間なのさ。

 旅の中であいつがやらかした事を、俺様はそりゃあ正直に話してやったよ。

 コハクとの関係がラッキースケベで乳揉みした所から始まった事とか、意外に収集癖があって瓶の王冠を集めていたり、家事が壊滅的にへたくそで自活能力ゼロだったり。

 しかもコハクもコハクでセクハラ願望あるせいで、自分からカインを求めてたりしたんだよなぁ。俺ちゃんとヨハンが居る前で。ありゃ、生来の痴女だぜ。フ○○クだ。

 ま、コハクとのなれそめ聞いた時はしぶい顔されたがね。親のエロい話なんざ聞いても気持ち悪いだけか、ハハッ。

「父さん……なんで寝ぼけて母さんの服ひん剥けるんだ……しかも股間に顔ツッコむとか犯罪だろう……! それに母さんもなんで喜んでるんだよ!」
「それがカインクオリティって奴だ。コハクはとにかくあいつからセクハラ受け続けてたからな、惚れてなけりゃ速攻お別れよ」
「父の聞きたくない過去が聞けて何よりです。……思っていた弱点とは違いましたが、これはこれで使えそうですし」
「いやぁ、俺様の話は結婚した今じゃ笑い話にしかならねぇさ。むしろ痴話げんかのネタ振る事になりかねねぇし、止めときな」
「……我が親ながら、否定できない所が逆に恐いですね。それで、父の他の弱点は? どうすれば父を、捻り潰せるようになりますか?」

 おいおい、まだ聞こうってのか?
 こいつが話を振る度、やけに目がぎらつきやがる。ディジェとは違う、やけに敵意の強い目だ。
 ……初対面の時と、マジでキャラが違うな。
 小物感が消えたのはいいんだが、急に変わりすぎていて気味が悪ぃぜ。それになんだ? 微かだが威圧感も漂ってやがる。

 それはまぁ、それとしておくか。

「お前がどうしてカインの弱点を知ろうとするのか、理由は分かっている。だがな、あんまりてめぇの心に嘘を吐き続けたら、自分が苦しくなるだけだぜ」
「どういう意味ですか?」
「それは、自分がよく分かってんだろ。ネロ」

 ははっ、押し黙りやがって。図星突かれたようだな。
 伊達に歳重ねてねぇんだよ、こっちは。読者諸君は知ってるよな、俺は多少話せば、相手の事が大体分かるってよ。

「ネロ、ここで何をしているんだ?」
「っと、話をすればなんとやらか」

 カインの奴が来やがった。でもってネロの奴、露骨に顔を険しくしたな。

「では先生、僕はここで。理事長も、さようなら」
「待ってくれネロ。……ハワード教諭から聞いたぞ、レヴィからカツアゲしていたようだな」

 っておいおい、それもう先月の話だろうが。
 足しげく学園に来てんのに、どうしてその話を今混ぜっ返すかね。相変わらずKYつーか。

「大賢者様から伺った話なら、誤魔化せないようですね。ええそうですよ、それがどうしました? 何か問題でも?」
「大ありだ、学園の理事長として看破する事は出来ない。……処分が遅くなったが、お前に生徒会長を務める資格はない。即刻退任しろ。説教はその後だ」
「ふん、処分が遅すぎるでしょう。むしろ今処分を下すのは、理事長としてもダメージがあるのでは? 学園のいじめを知っていながら、その対処が遅れた。学園のブランドに大きな傷がつきますよ。そうなれば、僕以外の生徒にどんな悪影響が出るかわかりませんがね」

 中々度胸あるなこいつ、親に対して真っ向からぶつかってやがらぁ。
 ただの開き直り、ともとれるがな。でもってカイン、なんでお前、ネロに言い返さねぇんだ? あんにゃろうの言い分は屁理屈だ、正論叩き込めば潰せんだろうに。

「少なくとも、今下手な混乱を招くのは止した方がよろしいのでは? 魔王出現の噂が出ている以上、生徒へ不安を与えては余計なストレスになってしまいますし」
「! ネロ、どうして魔王の事を」
「僕は貴方の息子ですよ? 貴方が話さなくても、僕は調べる事が出来る。何しろ、平和の象徴様の優秀な息子なんです。その程度の事も出来ないで、貴方の子供が務まりますか」
「……くっ」

 言い負かされてどうすんだ、馬鹿弟子。

「ともあれ、生徒会長と言う立場をぐらつかせたら、理事長様のお仕事にも影響が出ますよ。今は、見て見ぬふりをするのが賢明な判断ではありませんか?」
「だがな、ネロ。親として俺は、お前のやった事を」
「ならもっと早く時間を作ればよかっただけの話でしょう! ……声を荒らげて失礼しました。ともあれ、今理事長様と話す事は、何もありません」

 ネロの奴、帰っちまった。人呼び出しといて勝手に消えるたぁ、マジクソ度胸だけはあるぜ。ただ……。

「情けねぇ姿だな、カイン」
「みっともない所を、見せてしまいましたね。……親としては、失格です。ネロと会うと、どうしても父親と言うより理事長として接してしまうので……」
「そんだけじゃねぇだろ? てめぇ、ネロとまともに会話した事、あんのか?」
「……ここ数年は、全く」

 はぁ……俺様、頭痛くなってきたぜ。
 真面目なのはいい事だが、息子に対して経営者面すんのはダメだろうよ。

「子育てというのは難しいですね。昔は両親に抱いた不満を、自分の子供には抱かせまいと意気込んだ物ですが……いざ親になると思い通りに出来ない事ばかりです」
「へっ、少しは俺様の苦労がわーったか? 出来の悪い馬鹿弟子」
「はは、俺も師匠のように真っ直ぐ相手を見れればいいのですけど。今になって師匠のありがたみを噛みしめてますよ。こんな弱気な事を言えるのは、貴方だけですから」
「けっ、コハクに膝枕でもされて甘えてろ」

 どいつもこいつも、ファ○クすぎるぜ。てめぇで問題抱えやがって、馬鹿野郎。
 ……だがよぉ、ネロの奴は本心から嫌ってるわけじゃねぇはずだ。
 聡明な読者諸君は気づいているかもしれねぇが、俺との会話であいつは両親を、きちんと父さん母さんと呼んでやがった。

 少なくとも、その呼び方を俺の前でしてたって事はだ。奴の中にはまだ、親に対する情があるって事だろうよ。多感な思春期のせいで色々拗らせちまっているようだが、話している感じネロ自身は愛情深い性格、そう読み取れた。
 だが愛情深さがたたったせいだろうな。親父が仕事で帰ってこなくて寂しい。その気持ちが歪み、ねじれた結果、親父を憎まないと心を安定させられなくなったんだ。

 ネロ自身はそれを理解している、だが認めちまったら、自分の存在が崩れそうな気がする。そんなところか。いやはや、難しい年ごろだね。思春期ってのはよ。

「ネロは少なくとも、現時点で面突き合わすのは逆効果だろう。今はほとぼり冷めるまで離れときな」
「そうします。それと師匠、これを」
「あん? なんだこの書類」
「俺が集めた魔王に関する情報です。空振りもあるかと思いますが、頭の片隅にでも入れておいてください」
「生真面目すぎんだろ、せいぜい斜め読みさせてもらうわ」

 その勤勉さを少しは親子関係に向けとけ、馬鹿。
 って、気が付きゃ一時間経ってんじゃねぇかよ……ネロより俺様の方がはしゃいでたかもしんねぇな。

 けど、ま。なんだ。

 ネロの奴は、嫌いになりきれねぇな。カインの息子だからって言うのはあいつに失礼だが、俺にしてみれば甥っ子みたいな感じでね。生意気なガキほど、可愛く思えるもんさ。

 だからこそ、あいつの冷たいガッツが気になるんだよな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです

青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 その理由は、スライム一匹テイムできないから。 しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。 それは、単なるストレス解消のため。 置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。 そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。 アイトのテイム対象は、【無生物】だった。 さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。 小石は石でできた美少女。 Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。 伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。 アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。 やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。 これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。 ※HOTランキング6位

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...