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14話 偉そうじゃない、偉いんです。

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「単勝一枚で100ゴールか。ケバブ二人分にしかならねぇのが悲しい所だぜ、とほほのほ」
「私が買ってあげたんだから文句を言わない。これでさっきの貸しは返したわよ」
「格安ケバブで完済できるわけねーだろ? 俺様の貸しはホテルでしっぽりむふふな事してようやぐぶっ!?」
「次言ったらレイピアで突き刺すからね」

 いや、リバーブローぶっ刺さってますブレイズちゃん……。

「けど、悔しいな。一度ならず二度までも、貴方なんかに助けられるなんて……ランキング1位なのに、私」
「俺様に言わせりゃ、次世代の勇者はまだまだ弱ぇよ。いくら人類の突然変異種と言われようが、二十歳そこそこの子供がなんでもかんでも出来るわけがねぇ。いきなりカインや俺様のようになるのは、無理があるぜ」
「否定したいけど、出来ないのが嫌になるな。貴方の人間性は認めないけど、実力だけはその、認めてあげてもいい、かな」

 上から目線だねぇ。ま、その態度を屈服させるのがまた快感なんだがなぁ。俺様、超がつくドSなのよん♪
 ドMの女性の読者諸君、俺様に調教され隊を結成してもいいんだぜ。……何? そんなのすぐに解散するって? そもそも入りたくない? 結成もしない? ……ホーリシット。

「ま、暫くは俺様の付き人になってんだ。当面の間は存分に守られてなよ。俺様の傍に居れば危険は断じてねぇからよ」
「そうはいかないわ! 私は一人で戦える、誰にも守られなくたって、私は一人で勝てる!」
「クリフォトごときにやられるようじゃ説得力に欠けるぜ」
「対策は学んだわ! 次は負けない、貴方なんかに頼らなくても、私は」
「家族を守れるんだ、ってか? 蒸発しちまったクソ親父の代わりに」

 お、顔色変わった。Bingoだったようだな。

 読者諸君よ、俺様の名誉のために言っておくが、サイコメトリーは使ってねぇぞ。ブレイズちゃんの態度から推理してカマかけただけだ。

 これでも、観察力はあってな。ランキング1位に固執している態度と、俺様に誰かの影を重ねている所から導き出したのさ。

 人間ってのは声色や態度で、人となりや背景が見えちまう。俺様と話す時は気を付けなよ、読者諸君。てめぇらの背景全部スケスケに見破っちまうぜ。

「……私の父親は、ギャンブル中毒でね。私や妹達、お母さんに暴力働いて、多額の借金を作った挙句、一人でどっかに逃げちゃったの」
「へ、スラムの人間より屑だなそいつは」
「そうでしょう? お母さんは頑張って働いて、私達を守ってくれたんだけど、元々体が弱くて、倒れてしまって……今じゃ病院暮らし。物語じゃお姫様達は、悲しんでいるだけで王子様が助けてくれるけど、現実にはそんな事なんて、起こらないでしょ?」
「そうだな」
「即答ね。元勇者パーティなら、「頑張れば奇跡は起こる」的な事を言うのかと思った」
「俺様は超リアリストだからな」

 それに、俺様はスラム育ちだ。頑張った所でどうにもならない事くらい、理解しているとも。

「だから、私が王子様にならなきゃダメなの。お母さんや妹達のために、お金を稼がないといけない。勇者ランキング1位なら、沢山のお金が手に入る。借金返済は勿論、お母さんの入院費も、妹達の学費も! 貴方みたいなちゃらんぽらんには、分からないでしょうけど」
「ま、そーだな。俺様、家族いねーし」

 ただ、熱いぜブレイズちゃん。真っ赤なガッツを持った勇者だ。ちっとだけだが、心が震えたよ。ちっとだけな。

「そんなら、なおさら自分を大事にしなきゃな。王子様と言えど無敵じゃねぇ、時には自分がお姫様になっていいんだぜ。そしたら、魔王の右腕を持った王子様が助けに来てくれるかもしんねぇぞ」
「そんなの、いらないわよ」

「へへ、つれないねぇ。俺様の右腕が届く範囲に居てくれりゃ、どんな時だって飛んでいくぜ。絶対無敵最強の大賢者様がよ」

 女性の読者諸君も、ピンチになった時は呼んでくれ。画面ぶち抜いて、俺様がいつでも駆け付けるからな。ただし野郎の読者共、お前らは自分でどうにかしろ。

「……偉そうな奴」
「偉そうじゃない、偉いのさ(`・ω´・)+。さて、ピロートークはここまでにしとこう。クリフォトからゲットした情報をまとめねぇとな」

  ◇◇◇

 って事で翌朝、カインとヨハンを交えての報告会で、昨日得た情報を伝える事にした。

「結論から言うと、クリフォトは噂の魔王が出した眷属の可能性が高ぇ。野郎は言ってやがった、「あの方の供物に充分だ」ってよ」
「察するに、相手は弱った魔王、そう捉えられますね。そして最悪の事態かもしれませんが……力が弱った魔王なら、人間界に顕現しやすくなる。俺が魔王の気配を感じ続けている事や、供物を人間界で捧げるという事から、もうこの世界に出てきている可能性が高そうです」

 流石カインだ。僅かな情報から結論を見出す。俺様が唯一認めた男なだけはあるぜ。

「そして情報を得ようとした途端、誰かがクリフォトをぶっ殺した。確かに魔王は、情報操作のために口封じの呪いを眷属にかけているもんだ。だが昨日のあれは違う。明らかに何者かが、あの場で意図的に殺しやがった」
「魔王が直接手を下したとか?」

「それは考えにくいよ、ヨハン。何しろ相手は師匠だ、ちょっとした気配でも察知してしまう。魔王が直接出て来れば、即座に対処してしまうさ」
「まぁな。ただなぁ、この件には気になる事がある。カインがずっと魔王の気配を感じているのに、俺様が感じられねぇってのはどう言う事だ?」

「やはりまだ、気配が?」

「おう。俺様の感度はてめぇよりビンビンよ、なのに、魔王なんてでけぇ気配を持つ存在を未だに感知出来ねぇってのは、ちょっと説明付かねぇぜ」
「そこが不気味な所だな……ハワードさんの目をかいくぐれるのに、カインには見つかっている。なんか、ちぐはぐだよ」

「正直、心当たりもねぇしな。魔界で戦った魔王は、全員もれなくぶっ殺した。殺した魔王が蘇生する事はない、って事は魔界の抗争に負けた奴が、人間界に迷い込んだ。そう推理すんのが、現状自然な落としどころだろう」

「確かに。今後の方針も、師匠が得た情報を元に修正していきましょう。そして、街の人は勿論、生徒達にも気づかれないよう事を進めましょう。世界は希望に満ちていなければならない、僅かでも絶望の姿を見せるのは、平和の象徴である勇者として絶対許せません」

「その通りだ。人々は、何も知らなくていい。魔王なんて脅威は、子供世代の記憶から無くさないと。僕達の役目だな」
「真面目な奴らだぜ。ま、俺様は俺様で引き続き、好きにやらせてもらうがね」

 堅苦しい仕事なんざまっぴらだ。そーいうのは、てめーらに任せるよ。

「ところで、ハワードさん。ブレイズがまだ来てないみたいだけど、聞いてない?」
「毎朝寄る所があるんだってよ、その内来るんじゃね?」
「……ふふっ」

 んだよカイン、気味悪い笑い声出しやがって。

「お、遅れました! すみませんカイン様、ヨハン様!」
「やぁブレイズ。何かあったのかい?」
「そ、それが……何から話せばいいのか……!」

「借金でもなくなったのかな? 確か今朝の新聞の一面は……「悪徳金融壊滅!? 突然の企業崩壊の謎」だった気がするんだけど。ねぇ師匠」

 へー、そいつはすげぇな。確かに借金踏み倒すんなら、金融業者その物を潰しちまえば楽だもんな。だって返す先が無くなっちまうんだもん、どこにも返す場所がねーんなら、返す必要ねーもんなー。

「それだけじゃなくて……お金が全部戻ってきたんです。私だけじゃなくて、その闇金業者から、借金していた人達全員に、お金が……」

 ほー、とんだ鼠小僧が居たもんだ。金融業者襲って金強奪したんなら、全部自分の懐に入れちまえばいいのによぉ。

「あとは、病気だったお母さんが退院できるとか、かな?」
「そうなんです! 今朝お見舞いに行ったら、急に元気になっていて、それも以前より体がずっと丈夫になっていて……カイン様、どうしてそんなに、私の事を知っているんです?」
「さぁ、勇者だからかな。ね、師匠」

 だぁから、知らねぇって。まぁ確かに? 病弱な熟女が急に元気になるなんて不思議現象? 魔王みてーなすげー力がねーと実現できねーかもしんねーけど?

「し、信じられない事が沢山起こっていて、私、困ってて……なんで、こんな奇跡が……」
「……ははっ! 大方、どっかのマジシャンが適当やらかしたんじゃない? な、ハワードさん」
「よかったな、ブレイズ。頑張ってた君に、王子様が救いの手を伸ばしてくれたんだよ。ね、師匠」
「俺様、しーらねっと」

 勇者ってのは、不便だよなぁ。誰か一人に肩入れしちまったら、俺も私もって次々に甘えてくる馬鹿が出てくる。立場上、誰に対しても平等じゃねぇとダメだから、どうしても助けたい奴を助けられない事態が起こっちまう。

 けど魔王様は自由だぜ? 馬鹿を切り捨てて、気に入った奴だけを自分のモンに出来ちまうんだ。依怙贔屓上等、不平等でいいと思わねぇか読者諸君。魔王様は心が震えた時にだけ、好き勝手にふるまっていい特別な存在なのさ。

「……貴方、もしかして……」
「これから一限が始まっちまうな、ヨハン、てめぇも授業あんだろ?」
「そうだった。じゃ、一旦ここで。カイン、ブレイズ」
「きっちり仕事してくれよ。俺も予定があるから、退散するよ」
「ま、待って……待ってよもう!」

 おっと、追いかけてきちゃダメよブレイズちゃん。
 そしたら俺様、今夜はOKのサインと受け取ってホテルに連れ込んじゃうからね♡
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