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8話 ちょろくて甘くて優しい俺ちゃん

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 それにしても、金がねぇ。

 いきなりなんだと思うか読者諸君。まぁ聞けや。
 俺様は昨日、悩める子羊を救った自分を称えるべく、娼館で極上のチャンネーと最高のバーボンを頂いたわけだ。

 んでそのノリでカジノに乗り込んだんだが……大負けして財布が大寒波に見舞われたと。そんなあらすじなのですよ。

 いいか、俺はあの時べろんべろんに酔っ払ってたから負けたんだ。素面だったら有り金が二十倍、いや二百倍、いいや二千倍になってた所だからな。

 しかしどうすっか、今月の生活費無くなっちまった。今日の昼を乗り切る銅貨すらねぇ。
 ……確か冒険者って、実入りのいい依頼があったよな。

「よし、冒険者ギルドに登録してこよう」
「するな馬鹿」

「いでっ!? ヨハンてめぇ、本の縦で殴るな! せめて横にしろ!」
「ハワード勇者学園は副業禁止だ、というか業務時間中に出て行くなダメ親父」
「あのな、息子見れてねーのにダメ親父と言える立場かてめー」
「それに関しては反論できないけど……上司と言う立場上、あえて棚上げさせてもらうよ」

「てめこの……まぁ今日はカインが来るらしいからな、後でじっくりちくちくさせて頂くさ。ついでに給料の前借りも……」
「事情が事情だけに無理だろ絶対。金が欲しけりゃ武器でも質に入れろ」

「もう全部入れちまったよバーカ。しゃあねぇ、適当に学内回って落ちてる銅貨でも拾うか」
「……みみっちぃを通り越して惨め過ぎないか?」
「言ってろ。ん? なんか戦闘音が聞こえねぇか? 事件でも起こったっぽいな」

「いやこれは……丁度いい、ハワードさんも一度見ておきなよ、勇者の活躍を」

 へぇ、凶悪犯罪に出動する最高戦力さんのご活躍ねぇ。こいつは興味深い。
 てなわけで現場に直行。おーおー、派手にやってんなぁ。

『ぐるぅあああああっ!』

 相手は魔物に取りつかれた人間らしいな。蟻型の寄生虫に背中から触手で縛られて、意志を無視して操られてやがる。どっから湧いて出たんだ、あの魔物。

 見境なしに暴れては、人間やら建物やらをやたら滅多にぶっ壊してんな。見た感じ、戦闘レベル80って所か。街中に出る魔獣としてはかなり強いな。

 だがそれはそれとして。てめぇら、カジノぶっ壊したら俺様直々にぶっ殺すからなコラ。

「確かにありゃ勇者様じゃねぇと対処できねーな。んでその勇者様はいつ来るんだ?」
「もう来ているよ」

 らしいな、光の剣が飛んできやがった。聖属性の魔法プリズムスラッシュだな。

「皆さん、もう大丈夫です! 勇者が到着しました!」

 そーんな事言って登場してきたのは、いかにもな金の鎧を着たご立派な若造だ。魔石をたんまり付けた剣を担いでまぁ、はしゃいでやがんな。
 さて、お手並み拝見だ。どーすんだい、次世代の勇者さん。

「寄生型の魔獣か……なら、触手を切り払えば解放できる!」

 いちいち解説すんな、んなもん見りゃ分かる。

「ああやって、あえて自分を大きく見せようとしているんだ。勇者には、ランキングってのがあってね。そのランキングが高ければ高いほど収入や名声が手に入るのさ」
「派手なパフォーマンスで人気取ろうってわけか。競争心を煽って、勇者同士切磋琢磨させる腹みてぇだが……頭の悪い方法だぜ」

 頑張って一匹一匹、丁寧に魔獣を引きはがしてんなぁ。効率悪ぃぜ。あの手の魔獣は水に弱ぇ、水属性の魔法ぶっかけて動きが鈍った所を一網打尽にしちまえば二十秒で終わるぜ。

「あいつ、勇者のわりに魔獣の知識が薄いな」
「寄生型の魔獣なんて街中にはあまり出ないからね、それにあれだけ強い物となると、中々遭遇しないだろうさ」
「おいおい、勇者様は街の中しか動かねぇのかい? お外に出て働かねぇのか」
「行くは行くけど、まだ設立されて数年の若い組織だから、ベテランが居なくてね……」

 まぁ、てめぇらの子供世代が中心だからな。最年長はどう高く見積もっても二十歳か。

 まだ手探りが続くベンチャー組織、ねぇ。長続きすんのかこれ。けど馬鹿みてぇな力を持ったガキを収める箱がねぇと、ネロみてぇなアホンダラが変な事を考える危険もあるか。

 色々試験段階にある組織ってわけね、勇者と言う立場はよ。

「だけど彼らが出てきてから、犯罪率はぐっと減っているんだ。対人間の事件も担当しているからね。存在自体が犯罪の抑止力になっているのは確かだよ」
「ほーん。ま、一応世界の現状がわーっただけでも収穫だな。ただ、詰めの甘さだけは対策しとけ。来いヨハン」

 読者諸君、蟻んこってのはどっから湧いてくるか分かるかい? そ、蟻の巣だ。

 あの魔獣は、魔界から来た蟻型魔獣だ。って事は当然、奴らが出ている巣がどっかにある。

「Bingo、当たりだ」

 路地裏に次元の壁が空いてやがった。こいつを塞いどかねぇとまた同じ事件が起こるぜ。

「カインに伝えておけ、魔獣に対するマニュアル検めとけってな」
「はは、了解、師匠」
「って、カイン? てめ、いつの間にここへ来やがった」
「ついさっき、学園に行く途中でね。俺も勇者の活躍を見ていたんだけど、やっぱりどうしても、粗が出てしまうな」
「ふぅ……しょーがねぇ奴だ。おい、この穴てめぇが塞いどけよ」
「任せてくれ」

 おー、あっさりと穴封じやがった。てめーもそれなりに強くなったな、カイン。

「まだ巣はいくつかあるはずだ、一緒に対処してくれるかな、師匠」
「やなこった」
「特別手当だすから、即日給付で」
「喜んでやらせて頂きまっす社長!」

 いつもの事ながら、ちょろいぜ俺様。

  ◇◇◇

 学園に戻ってから金貰ったはいいがよ、アリの巣駆除で500ゴールとか、特別手当安すぎだろ。冒険者で高難度クエストやった方が実入りいいぜ。

「師匠に大金は渡せないよ。二十年前も俺達の旅費を何度も使い込んでたからね」
「バータレ、カジノや競馬で一発当てれば一生遊んで暮らせる金が」
「って言って、二ヶ月分の旅費が板チョコ一枚になったのが何回あったかな?」
「大体さ、ハワードさんなら魔法使えばギャンブル勝ち放題なんじゃ?」
「イカサマ使ったら楽しくねぇだろ、食うか食われるかのスリルがギャンブルの醍醐味よ」

 遊びに魔法を使うのは主義じゃねぇんだ。ま、相手がイカサマしたらやり返すがな、倍返しでよ。

「とりあえずてめぇらからの説教は終わりだ、こっからは俺様からの説教と行くぜ。なんだてめぇらのガキどもは。卑屈に卑劣、どっちも教育失敗してんじゃねぇかよ」

「ああ……ヨハンから報告は受けたよ。まさかネロが恐喝をしていたなんて……」
「年齢的に反抗期なようだが、てめぇのガキとは思えねぇ卑怯者だぜ。一体どんな育て方すりゃあんなになるんだ?」

「ネロが十二になる頃から、勇者学園の設立で忙しくなって。そこから碌に向き合う時間を作ってこれなかったのが、原因かな」
「僕も同じだ。頭じゃ分かっているんだけど、つい妻に甘えてしまって」
「けっ、嫁さん依存か。棚上げして言わせてもらうが、ダメ親過ぎるぜてめぇら」

 男ってのはダメねぇ。女性の読者諸君、男ってのは女に面倒事押し付ける生き物だから、結婚相手はきちんと見極めろよ? 特に俺様みたいな奴には気ぃ付けな。

「特にネロとは寮生活になってから、一度も会えてないな。ちゃんと腰を据えて話したいとは思ってるんだけど、いざ会うと親と言うより、理事長として接してしまってね」

「はー……他の生徒と平等にしてんのは、てめーらしいがな。親ならたまには子供と過ごせ。生きてガキと話せる間は、関係修復できるんだからな」

 俺様みてーに、クソッタレでも親が居ない奴には二度とできねー事だからよ。

 意外に思ってる読者諸君には、教えといてやるよ。俺ぁ家族ってもんに憧れがある。

 何しろクソガキの頃から、一人きりで生きてたもんでね。幼気な子供ながら思ってたもんよ、親が居りゃあなってな。

 本音を言えば、俺も誰かに守ってもらいたくてよ。親の温かみってのを、一度でも感じたかったよ。

 だから、ま、家族絡みの問題にはつい首を突っ込んじまう性質なのさ。俺様が持ってない大事なもんを持ってる凡愚共が、自分からそいつを手離しちまうのが見てらんねぇの。

「ヨハンも今日は定時で帰れ、仕事は俺様がやってやる。あのクソガキは実家通いなんだろ」
「え、でもハワードさんに出来るの?」
「出来るわ、大賢者様なめんじゃねー」

 少しだけ書類見たが、あの程度なら十分で全部片づけられるわ。何しろ俺様は、超がつく天才だからな。

 ちっ、もうちっとがみがみ言ってやるつもりだったんだが……俺ちゃん、つくづく甘い奴だぜ。

  ◇◇◇

「あっ、先生、先生! お昼ご飯まだやか?」

 四限も終わってさー昼飯、って所で、レヴィにナンパされる俺様。

 このマセガキ、バケットなんか持って俺ちゃんの所に来やがってな。読者諸君も展開読めたろ? 次にこいつは、

「先生んお弁当持っちきよったんたい、食べてくれまっしぇんか?」

 と言う! 一字一句正解とか、流石俺様だぜ。

「賄賂渡しても成績上げてやんねーぞ」
「違いましゅ。昨日あげなにチップ貰っち、なんも返しゃなかんは……そいに先生、金欠ばってん聞きたばいから」

 ……ヨハン辺りか? 俺様の情けねー情報流しやがって、フ○ッ○野郎。

 ただ、俺様としても節約できるところはしておきたい。ありがたくいただくぜ。

「中庭で、ご一緒しとらんか?」
「やだよ、なんで俺様が乳臭いガキと昼飯食わにゃならんのだ」

「ば、ばってんうち、友達居なくて。ずっち雪隠でお弁当食べよったから、誰かばつのうてお昼食べるんに憧れてて……ぐすん……」
「すぐに泣くんじゃねぇカス、俺様は泣き虫と飯を食う趣味はねぇんだよ! いつもみてぇに独りで便所メシ食ってろ!」

 って言ってたのにどーして中庭に居るの俺ちゃん、どーして隣にレヴィが居るの俺ちゃん! どーしてこいつとメシ食う羽目になってんの俺ちゃーん!?

 勘違いすんなよ読者ども、俺ぁガキに泣かれて折れるような根性なしじゃねぇ、このボケが泣き止まなくてうるせーから仕方なく付き合ってやってんだよ!

 ちっ、ホーリシットだ!

 あ? んだよ中庭に居るガキども、見せもんじゃねぇぞ? それ以上俺様を見ていたら全員もれなくぶん殴って早退させてやるぞコラ。

「ははっ、ちょっと脅せばクモの子散らすみてぇに逃げ去ってくな。これで落ち着ける」
「先生、えずかたい……ばってん口悪かばってん、優しい人。うちはそー思いましゅ」

「はっ、俺が優しくすんのはベッドの上のチャンネーだけだ。野郎とガキは嫌いでね。こんなのはこれっきりだと思えやタコ」

 昼飯食ったらさっさと撒いちまおう。さて中身は……。

「ケバブじゃねぇか。それとサラダに、リンゴはウサギさんにしてやがる。他にも色々入ってんな」
「うちの作ったんたい。お世話になりよったお礼、したばいいから」

 なんとなくサイコメトリー使ったんだが、こいつ朝五時から起きて仕込みをしてやがった。



 ……重 い わ!



 胃もたれさせるつもりかてめぇ! しかも悔しい事に美味ぇし、ケバブが俺様の好物だからちくしょう!

「初めて学校で、誰かばつのうて食べれたとたい。先生、いりのっちうやね。また明日も、よござすか? お弁当作るけんから」
「勝手にしろ。だが俺様だけじゃなくて、他のガキとも食いやがれ。いつまでも俺に甘えてんじゃねぇぞ」

 てめぇでてめぇの友人くらい作れや、俺様に近寄ってくるんなら、他の連中に歩み寄る事くらいできんだろうが。

「ここに居たか、先生」
「い、委員長?」

 しかも追加で面倒な奴が出てきやがった。ヨハンの息子ディジェだ。

「んだよ、今日は千客万来だな。何の用だ」
「……単刀直入に言うよ、俺に戦い方を教えてくれ」
「はっ、やなこった」

 急に来るなり頭を下げる度胸は認めてやる、だが俺ぁ野郎に物事教えてやるほどお人よしじゃねぇんだよ。

「俺様も暇じゃねぇんだ、どうしててめぇの鍛練に俺様が駆り出されなきゃならねぇの?」

「俺、先生の事は認めるよ。先生は俺達以上に強い、なにしろ、あのネロをあっさり倒したんだ。今まで見てきた大人の中で、一番強いし……俺達を、見てくれる人だって思ったんだ」

「上から目線なのが気に入らねぇな、そもそもどうして強くなろうとする。理由は?」
「先生も見ただろ、Aクラスの態度。俺達Dクラスは、皆落ちこぼれで、大人からも見下されてる。親父だって現状が分かってるはずなのに、何もしないし……!」

 おいヨハン、思った以上にお前の息子、こじれてんぞ。

「特に一年のDクラスは、一番下っ端で、一番見下されているんだ。こんなの、許していいわけがない。クラス委員になった以上、俺が先頭に立って戦わないといけないんだ。レヴィだって、そう思うだろ?」
「う、うん。うち……じゃなくてわ、私も、思う、よ」
「だろ。それには、ネロより強くならなきゃならない。そのためにも、先生! 俺を鍛えてくれないか!?」
「だぁから、嫌だって言ってんだろうが」

 サビ残なんざまっぴらごめんだっつってんだろうが、蒙古斑も取れてねぇ青二才が偉そうな正義感振りかざしてんじゃねぇ。
 いいか、俺はやんねぇ、ぜってーてめぇの訓練なんざしねーからな!
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