32 / 32
エピローグ
しおりを挟む
ある休日の、昼下がり。浩二は墓地に向かっていた。
沢山の花を用意して、線香を持って。大切な幼馴染の所へ、遊びに来ていた。
高校に入学してから、色々な事があった。結衣が居なくなってから、心の時計はずっと止まっていたが、最近ようやく動くようになった。
ずっと抱えていた憎しみは、すぐに解決できる物ではない。だけど今は、背中を押してくれる人のおかげで、その感情を素直に受け入れられる。
だから、もう一度話したくなった。あの時のように、面と向かって話せはしないけど、聞いてもらいたい話が、沢山あるから。
ゆっくりと歩き、結衣の墓所へ着くと、そこには先客が居た。
浩二の背中を押してくれた先生、ばるきりーさんが。
「居たんだ、先生」
「む、浩二」
ばるきりーさんは、にこやかに迎えた。結衣の墓には、ばるきりーさんが持ってきたであろう花が、墓石が埋まるくらいに山ほど供えられていた。
「すごいなこれ。全部先生が?」
「うむ。今月の給料を全額つぎ込んだ。仇を取れた事のお祝いにな」
「おいおい、贅沢すぎるだろ」
相変わらずどこか振り切れている。けど、ばるきりーさんらしい。
浩二は花を供え、手を合わせた。ばるきりーさんも隣に跪いた。
「ありがとな、先生」
「急にどうした」
「色々さ。改めて、お礼が言いたくなったんだ。天木の事、俺の事、他にも沢山、先生は助けてくれただろ。それが、嬉しかったんだ。これだけ親身になってくれた人は、初めてだったから。それに……天木にもう一度合わせてくれた。もう、感謝以外何も出来ないよ」
「気にするな。私はただ、そうしたかっただけだ」
「先生だから?」
「それもある。だがそれ以上に、ばるきりーさん個人としてやりたいと感じた。ようは、ただのお節介さ」
ばるきりーさんは微笑み、そう答えた。
「礼を言うなら、天木結衣にするといい。君を大きく変えてくれたのは、紛れもなく彼女だ。ここまでのいい女、そうそう居ないだろう」
「……そうだな、いい女、だよ」
浩二は昔を懐かしみ、話をした。
「内気で、弱っちそうに見えるけど、実際は芯の強い奴だったんだ。けどその芯の強さが、かえって心に負担をかけてたんだろうな」
「かもしれん」
ばるきりーさんは立ち上がった。
「しかしそれは、君にも言える事だぞ、浩二。君も芯は強いが、そのせいで心に負担をかけやすい。今は平気でも、これから先、心を乱すような事柄はいくらでも起こるだろう。社会で生きるのは、理不尽の繰り返しだからな。
だからこそ、人は教師を求めるのだろうな。生き辛く、苦しい事ばかりだからこそ、心の支えとなる存在が必要だ。教師は心の支えとして、非常に大きな存在感を持っている。故に人は、心のよりどころとして、教師を欲するのだろう」
「そうかもしれないな。で、何が言いたいんだ?」
「私は君の拠り所だ。そう言いたいだけだ。私は君の教師だ。何があろうと、私はずっと、君の味方だ。今後も君は、いくつもの障害にあたる事だろう、心が折れるような事にも、遭い続けるだろう。
そんな事が続いて、辛くなったら、いつでも私を頼ってくれ。君の心は、私が守る。君はこれからもずっと、私の生徒なのだからな」
「……そうさせてもらうよ」
浩二は、小さな笑顔を向けた。
そう、壁を乗り越えても、また次の壁が待ち構えている。浩二の物語はここで終わりではない、これからもずっと、命がある限りいつまでも続いていく。
その中で辛くなる事も、苦しくなる事もあるだろう。挫折を味わい、涙が流れる時もあるだろう。そうして心が悲鳴を上げたら、躊躇わず、この先生に頼っていこう。
神話の世界から飛び出してきた、おかしいけれど、最高の先生を。
沢山の花を用意して、線香を持って。大切な幼馴染の所へ、遊びに来ていた。
高校に入学してから、色々な事があった。結衣が居なくなってから、心の時計はずっと止まっていたが、最近ようやく動くようになった。
ずっと抱えていた憎しみは、すぐに解決できる物ではない。だけど今は、背中を押してくれる人のおかげで、その感情を素直に受け入れられる。
だから、もう一度話したくなった。あの時のように、面と向かって話せはしないけど、聞いてもらいたい話が、沢山あるから。
ゆっくりと歩き、結衣の墓所へ着くと、そこには先客が居た。
浩二の背中を押してくれた先生、ばるきりーさんが。
「居たんだ、先生」
「む、浩二」
ばるきりーさんは、にこやかに迎えた。結衣の墓には、ばるきりーさんが持ってきたであろう花が、墓石が埋まるくらいに山ほど供えられていた。
「すごいなこれ。全部先生が?」
「うむ。今月の給料を全額つぎ込んだ。仇を取れた事のお祝いにな」
「おいおい、贅沢すぎるだろ」
相変わらずどこか振り切れている。けど、ばるきりーさんらしい。
浩二は花を供え、手を合わせた。ばるきりーさんも隣に跪いた。
「ありがとな、先生」
「急にどうした」
「色々さ。改めて、お礼が言いたくなったんだ。天木の事、俺の事、他にも沢山、先生は助けてくれただろ。それが、嬉しかったんだ。これだけ親身になってくれた人は、初めてだったから。それに……天木にもう一度合わせてくれた。もう、感謝以外何も出来ないよ」
「気にするな。私はただ、そうしたかっただけだ」
「先生だから?」
「それもある。だがそれ以上に、ばるきりーさん個人としてやりたいと感じた。ようは、ただのお節介さ」
ばるきりーさんは微笑み、そう答えた。
「礼を言うなら、天木結衣にするといい。君を大きく変えてくれたのは、紛れもなく彼女だ。ここまでのいい女、そうそう居ないだろう」
「……そうだな、いい女、だよ」
浩二は昔を懐かしみ、話をした。
「内気で、弱っちそうに見えるけど、実際は芯の強い奴だったんだ。けどその芯の強さが、かえって心に負担をかけてたんだろうな」
「かもしれん」
ばるきりーさんは立ち上がった。
「しかしそれは、君にも言える事だぞ、浩二。君も芯は強いが、そのせいで心に負担をかけやすい。今は平気でも、これから先、心を乱すような事柄はいくらでも起こるだろう。社会で生きるのは、理不尽の繰り返しだからな。
だからこそ、人は教師を求めるのだろうな。生き辛く、苦しい事ばかりだからこそ、心の支えとなる存在が必要だ。教師は心の支えとして、非常に大きな存在感を持っている。故に人は、心のよりどころとして、教師を欲するのだろう」
「そうかもしれないな。で、何が言いたいんだ?」
「私は君の拠り所だ。そう言いたいだけだ。私は君の教師だ。何があろうと、私はずっと、君の味方だ。今後も君は、いくつもの障害にあたる事だろう、心が折れるような事にも、遭い続けるだろう。
そんな事が続いて、辛くなったら、いつでも私を頼ってくれ。君の心は、私が守る。君はこれからもずっと、私の生徒なのだからな」
「……そうさせてもらうよ」
浩二は、小さな笑顔を向けた。
そう、壁を乗り越えても、また次の壁が待ち構えている。浩二の物語はここで終わりではない、これからもずっと、命がある限りいつまでも続いていく。
その中で辛くなる事も、苦しくなる事もあるだろう。挫折を味わい、涙が流れる時もあるだろう。そうして心が悲鳴を上げたら、躊躇わず、この先生に頼っていこう。
神話の世界から飛び出してきた、おかしいけれど、最高の先生を。
0
お気に入りに追加
36
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる