捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

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32話 暴かれる正体

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 どうにか国境を越えて、都市国家アリーゼへたどり着いたな……ここまで、苦労したぜ。
 あそこに見えるは第四都市ベルゼンだ。あそこへ逃げ込めば、俺は全てをリセットできる。勇者として、悠々自適に過ごさせてもらうとしようか。
 さてと、門番が二人見えるな。ま、この聖剣が何よりの身分証だ。ヴァリアントを見せれば無条件で通してくれるだろう。

「はい止まって。君は旅人かい? 街に入りたくば、通行手形を見せてもらえるかな」
「そんな物はない。こいつを見れば、俺が誰か分かるだろ?」

 ヴァリアントを見せると、門番の表情が曇った。
 なんだ、どうしたんだ? アリーゼは隣国の影響を受けていない国だ、俺の噂なんて届いていないはずなんだが……。

「勇者アース……申し訳ないが、君を入れるわけにはいかないな」
「何だと? なぜだ!」
「君の評判は聞いているよ、街と民、そして仲間を見捨てて、甚大な被害を出した人間だと。悪いけど、そんな問題児を街へ入れるわけにはいかない」
「魔王軍がここへ押し寄せてくる危険がある、元の国へ戻るんだ、君の居場所はここにはない。出て行ってくれ」
「このっ……!」

 結局ここでもか。ここでもこの俺を、勇者をないがしろにするのか……。
 ふざけるな! 俺は勇者だ! 人間なら、勇者の言う事に従わなければならないんだ!
 どいつもこいつも俺をコケにして、馬鹿にして……我慢の限界だ!

「いいから入れろ、俺は勇者だ、道端の木偶ごときが口ごたえするな」
「規則なんだ。門番として危険な奴を入れるわけにはいかないんだ」
「そうか、なら無理やり入れさせてもらおうか」

 という事で門番を切り捨てる。袈裟斬りにされた門番は倒れ伏した、ざまぁみろ。

「お前っ! なんて事を!」
「おせぇよ、バーカ」

 もう一人も切り捨て、障害がなくなった。これで大手を奮って街に入れるな。

「止まりなさい!」

 と、耳元を矢が飛んできた。続いて、大剣が振り下ろされる。
 剣を避けて距離を取ると、冒険者の男女が俺に立ちふさがった。続々と冒険者どもも集って、取り囲んでくる。

「お前、何者だ。いきなり門番を斬っただろう!」
「俺を通さないこいつらが悪い。というかお前ら誰?」
「ロイド・リミット。ベルゼンのゴールドランク冒険者だ」
「同じくゴールドランク冒険者、ミスティ・ローザよ」
「大した肩書だが、それで俺を威嚇したつもりか? 邪魔だ、どけ。俺を街に入れろ」
「犯罪者を街に入れるわけがないだろう、それ以上進めば潰すぞ!」

 ロイドとかいう奴が剣を振り上げる。随分な得物のようだが、聖剣の敵じゃあないな。ま、少し遊んでやるか。
 真正面からロイドの剣を受け止め、押し合ってみる。流石はゴールドランク冒険者、パワーだけなら俺に並ぶようだ。
 だが俺にとっては大した相手じゃない、とっとと片づけてやるか。

 と、ロイドが急に力を抜いた。

 バランスを崩して膝をついてしまう。そこへミスティの矢が無数に飛んできた。
 すぐに立ち上がって避けるも、わざと逃げ道を残されたか、ロイドの豪快な一振りが襲ってきた。無理な姿勢で飛んだ分、避けられないな。
 横っ腹に大剣がめり込み、吹っ飛ばされる。いい連携だ、勇者である俺に一撃を食らわせるとはね。

「今だ、畳みかけるぞ!」

 冒険者どもが一斉に向かってきた。少し侮っていたようだな、そのせいで余計なダメージを受けてしまった。
 まぁいい、サービスとしておこう。
 この程度の痛み、なんともない。とっととゴミ掃除をしようじゃないか。
 ヴァリアントを握り、冒険者どもを返り討ちにしていく。誰一人俺に触れる事もできず、なぎ倒されていくばかりだ。
 魔法を使われても、聖剣の力で全部吸収して俺には届かない。雑魚が集ったところで、勇者に勝てるわけがないんだよ、クズが。

「格の違いを見せてやるよ、食らえ、「メテオスウォーム」!」

 隕石を降り注ぎ、冒険者に止めを食らわせる。クレーターまみれになった現場には、ボロボロの木偶どもが倒れ伏していた。

「皆! くそ、行くぞミスティ!」
「ええ! こんな奴を街に入れるわけにはいかない、何としてでも防がないと!」

 隕石から逃れたロイドとミスティが、俺に立ち向かってきた。大した連中だ、そうだ。

「お前達、俺のパーティに入れよ。前までの役立たずたちより役に立てそうだからな、俺直々にスカウトしてやるよ」
『断る!』
「そうか、なら終わりだな」

 俺の誘いを断ったんだ、当然覚悟はできているだろう?
 ロイドをヴァリアントで切り捨て、ミスティを蹴り飛ばす。ロイドは倒れ伏し、ミスティは城壁に叩きつけられた。
 いい気味だ、俺に歯向かうからこうなるのさ。丁度いい、ベルゼンの人間全員に俺の存在を知らしめてやる。その上で全員俺に従わせて、俺だけの街に変えてやろう。

「そのためには見せしめが必要だな」

 ロイドを殺せば、否応なしに俺の力を知るだろう。俺の命令を聞かなければどうなるのか、教えてやらないとな。
 というわけで、死ねよ。ゴールドランク冒険者さん。

「何をしているかぁっ!」

 剣を振り下ろす直前、怒号がとどろいた。
 赤髪の女が剣を受け止め、俺の腹に拳を叩き込む。凄まじい衝撃に視界が揺れ、胃がよじれて嘔吐してしまった。
 なんて一撃だ、一瞬体が砕けたのかと思ったぜ……。

「無事かロイド殿!」
「あ、ああ……なんとかな……」
「気を付けて、あいつ、強すぎるわ……シュウ君は?」
「……置いてきた。彼には、荷が重い相手だ」

 赤髪の女は腰を落とし、拳を握りしめた。黙っていればいい女なのに、俺に歯向かうとはな。愚かな奴だ。
 しかし、あいつ何者だ? さっき、生身の腕でヴァリアントを受け止めていたな。人間じゃできない芸当だ。
 まぁ、どうでもいい。
 俺に歯向かう奴は、女であろうと殺すだけ。勇者に歯向かう奴は全員、悪人なのだからな。

  ◇◇◇

 シュウが戻る前に、何としてもアースを倒さねばならない。
 彼にとって勇者は、自身の心をズタズタに引き裂いた男。会えばシュウに余計な傷を増やすことになる。
 シュウをこれ以上傷つけるわけにはいかない、彼と私の居場所を、奴に奪われてなるものか。
 私が奴を討つ! 魔王として必ずや、勇者を退けてくれる!
 アースを弾き飛ばし、更にジャジメントを叩き込んでやる。だがビームは障壁によって阻まれ、吸収されてしまった。
 聖剣の力、ドレインマジックか。厄介な……これでは、魔法を封じられた。

「この魔法……それに威力……お前、人間じゃないだろう。というか、お前もどこか見た事がある気がするな……ああ、思い出した」

 アースは邪悪な笑みを浮かべた。
 覚悟していた事だ、暴かれたくなければ、出て行かなければよかった話だ。
 だが、目の前で世話になった恩人が殺されかけた。なのに、出て行かぬわけにはいかない。甘んじて受け入れよう、

「お前、魔王エルザだな!」

 ……この、終焉を告げる暴露を。

「魔王、だって? どういう事だ」
「どうもこうも! そいつは魔王エルザ! この俺、勇者アースが討伐すべき悪人だ! なんて事だ、まさか一発逆転の鍵がこんな所にいたとはな!」
「……魔王エルザ、話は聞いた事があるわ。冷酷無比な女魔王だって話、だけど……」

 ロイドとミスティの、私を見る目が変わっていく。わかっていた事だ、こうなるのは。
 私は世間では、悪政を敷いた魔王と広まっている。受け入れがたき事実であろう。
 だが、だとしても、我が身分が暴かれたとしても……この街の者を守りたかった。
 私達の大事な居場所となった、ベルゼンの心温かな者達を、救いたかったのだ。

「おいお前ら! この勇者アースに手を貸せ、こいつは悪人だ、殺さなきゃならない奴だ! こいつを殺せば、莫大な報奨金がもらえるぞ! 俺もはれて国へ帰れる、全部チャラになるどころか元通りだぜ! おい木偶の坊、お前も手を貸せ。そうしたら俺への無礼は許してやるよ」

 高笑いするアースに、私は憤った。
 人の大切な場所を平気で踏みにじる所業、こちらも我慢の限界だ。

「ぬかせ、下郎が。たかが己の私利私欲のためだけに、これだけの者達を傷つけた挙句、今度は手を貸せ? 勇者だから何をしてもよいと、何をぬかしても良いと思っているのか? 随分都合の良い頭をしているようだな、その頭蓋に詰まっているのは脳みそではなくババロアか?」
「はぁ? 魔王が何を……」
「私を罵りたければ、いくらでも罵声を浴びせるがいい。皆の者も、私を追い出したくばしてもかまわん。最後に私は、けじめをつけて去るとしよう」

 私は魔王だ。どれだけ離れようとも、その肩書から逃れる事は出来ぬ。なればこそ、我が誇りにかけて、後始末をつけねばならない。
 勇者により多くの者が傷ついた、ロイドとミスティも、無用な怪我を負ってしまった。私が居たから、勇者アースがここへ来てしまったのだ。全ては私の責任だ。

「貴様をここへ招いてしまった以上、私が貴様を排除する。私に居場所を与え、優しさを与えてくれた恩人達のため、ベルゼンを守るために、我が力を奮うとしよう! ここは我が大事な世界、この都市の人々全てが、私が守るべき世界だ! 大切な世界を守るために! このエルザ……魔王の力を存分に奮わせてもらおう!」

 魔王であるならば、勇者を倒すべきだ。環が全身全霊を持ってして、アースと戦ってくれる!

「おいおい……魔王が勇者に勝てると思うなよ。お前の弱点も見えたよ、お前を狙わずとも、こいつらを狙えば勝手に当たってくれるだろう!」

 直後にアースがベルゼン目掛けてメテオスウォームを撃ち込んだ。奴め、無関係な市民を襲うだと? それが勇者のやる事か!
 隕石を私に集中させる。私ならばこの程度の魔法、全部粉砕できる!

「かかったな?」

 隕石が私に向かった瞬間、アースが私に魔力無効化の魔法をかけた。
 その一瞬により、私は隕石の直撃を受けてしまった。
 避けるわけにはいかぬ、避けてはベルゼンが、ロイドが、ミスティが……殺されてしまう。
 私の、大事な人達と、居場所を、奪われてなるものか……!
 私の得た大事な宝を、壊されたくはない……!
 私は……私は……大好きなこの場所と人々を……守るのだ!

「エルザ、エルザぁっ!」

 隕石を全て受け切った私に、シュウの悲鳴が届いた。どうやら、間に合わなかったようだ。
 だけど……奴の魔法は、全部受け切れた。私が守るべき人達は皆、無事だ。
 ならば、よかった。皆が守れたのなら私は、本望だ。
 満足した途端、血を吐いた。アースの攻撃を受けた代償は重く、立つのもやっとだ。
 でも、いい。ベルゼンを、シュウを守れたならば、私は……。
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