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27話 悪酔い魔王
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エルザとの休憩をはさんでから数時間、さらに僕は湖を泳がされた。
疲れた、とにかく疲れた……体から力が抜けて、もう動けないや。これは明日、筋肉痛かなぁ……まさか十キロも泳がされるなんて。
気づけば夕方だし、これじゃご飯の準備ができないや。そう呟いたら、マスターがギルドの酒場に連れて行ってくれた。夕飯をご馳走してくれるんだって。
「教え子が頑張ったのなら、きちんと褒美を与えなければならないからね。好きなだけ頼みなさい」
「ご馳走になります」
へとへとなせいで、何にも考えられない。なんだか体も重いし、いまにも眠ってしまいそう……って。
「エルザ、寄り掛からないで。疲れすぎてて君を支えられないんだ」
「おっとすまない、シュウが可愛いものでついな」
水泳の間構ってられなかったから、寂しかったんだろうな。ずーっと僕の傍に居続けている。疲れてなければ、ちゃんと相手できるのになぁ。
ダメだ、何にも考えられない……結局あの水練、何の意味があったんだろ?
「頭の中、空っぽになったみたいだね」
「え?」
「考えるな、感じろ、だよ。君はまじめで頭がいい、それゆえに悩みがちになってしまうんだ。それだけ疲れた今、悩む余裕はないだろう?」
「……まぁ、ええ……」
「答える余裕もないか、いい調子だ。おっと、ロイドが来たようだね」
マスターが手を振ってロイドを迎えた。今日彼は、僕達とは別行動で仕事を受けていたんだ。
「お帰り。失敗した?」
「成功したに決まってるだろ? 絶好調さ」
ミスティとロイドは軽口交じりに拳を合わせた。
いつ見ても二人は楽しそうだな、疲れてるからか、逆に他の人の事が見えてくる。
ミスティもロイドも、エルザも。全力で今を生きている。だからなのかな、生きているのを凄く楽しんでいるように思えるんだ。
「そっちも頑張ったみたいだな、ぐったりしてるじゃないか」
「湖を延々泳がされていたのよ。それでシュウ君すっかり疲れちゃってね、ぐったりしちゃってるのよ」
「そいつはお疲れさんだ。そんな時は酒でも飲んで寝るのが一番さ、よし! 俺が奢ってやるよ、好きなの頼みな」
「それは困るな、ワシが奢る事になっているからね。君の分もまとめて面倒見てあげよう」
「ならお願いします!」
「調子いいわねぇ、シュウ君に笑われるわよ」
「いや、僕はそんな……」
「知ってる? 最近ロイドって一人で仕事受ける事が多いでしょう、貴方に触発されて、改めて自分を鍛えてるんだって」
「……僕に?」
「ああ。オークの群れを蹴散らすお前の姿、随分な刺激になったよ。それに手合わせして、世界の広さも感じられた。どうも最近の俺は、ゴールドランクの肩書に胡坐をかいていたからな、一度ゼロから鍛え直さないと」
「いい意味で貴方は周囲に影響を与えているのよ、私だってそうだし、エルザもね。謙虚なのはいい事だけど、度が過ぎると卑屈になるわ。多少は馬鹿になっても、誰も悪く言わないわ。折角貴方は生きているのだから、人生を心行くまで楽しまないと」
「生きているか、僕は確かに、生きている……」
「そうだ。心を育てるには、まず生きるのを楽しまなきゃならない。不知火の太刀は愛する者を守るための刃なのは、ゲイルから教わっているだろう? けど俯いて苦しむだけの人間が、果たしてその刃を振るえるのかい? まずは自分を大事にする所から始めないとな。ゲイルが教えられなかった分を、エルザが教えてくれるだろう。生きる事の楽しさをな」
「…………」
目からうろこが落ちた気分だ。
エルザを守るためには、まず僕が幸せにならなきゃならない。単純だけど、大事な事だ。
それは自分を大事にするって事に他ならない。自分を傷つける人は、他の人まで傷つけてしまうから。
ふふ、余計な事を考えられないから、素直に受け入れられるな。
エルザの好意を受け止められなかったのは、どこかで僕が幸せになってはならないと思っていたからなんだろう。
迫害されていた過去は変えられない。でもベルゼンでの僕は、変えられる。
「お酒飲んでみてもいいですか?」
「おっ、ノリがいいね」
「たまには悪い事をしてみたくなったので」
「いいではないか、私が注いでやるぞ、グラスを出せ!」
エルザからエールをもらって飲んでみる。喉が熱くなって、頭がかーっとなる。これがお酒か、美味しいとは思えないな。
でも、いずれは美味しいと思えるようになるんだな。小さなことでも、未来がとても楽しみだよ、本当に。
◇◇◇
「んへへ~、シュウがなんか沢山いるなぁ~、よりどりみどりだにゃあ~」
「エルザ……これっぽっちの量で……」
「シュウ~いーつもーかわいーくすてーきーだぞー♪ だっはっは~!」
飲み会を始めてすぐ、エルザが泥酔した。
エルザが飲んだのはグラス一杯のビール。それだけで彼女は思い切り酔っ払って、僕に抱き着き、頬ずりをしていた。
……アルコールにめちゃくちゃ弱かったんだ、この元魔王……ろれつ回ってないし、へべれけになって自作の歌歌ってるし、どーしようこれ……どえらい酔っ払いモンスターが誕生しちゃったよ。
「うははは、なんかふわっふわするなぁ~、い~い気分だ~、シュウ~シュウ~わたしのシュウ~ずぇ~ったいにはーなさーんぞー♡ ってことでちゅーするぞちゅー♡」
「ちょ、やめてエルザ、恥ずかしいってば!」
エルザがキスしようと迫ってくる。甘え上戸な上にキス魔化するんだ彼女、力が強すぎて振り払えないんだけど。
「あの、見てないで助けてくれませんか!?」
「いいわねぇ、酔っぱらったお姉さんに迫られる少年の図、最高の構図だわぁ♪」
「だっはっは! やれやれぇ! 唇うばっちまえ! ほれキーッス! キーッス!」
「若いっていいねぇ……ワシなんか嫁に二度も逃げられるわ、モテると思って剣聖になったけど結局モテないし……散々な人生だなぁ……(泣)」
ミスティは素面なのに助けてくれないし、ロイドは酔っぱらって煽ってくるし、マスターは泣き上戸だし。なんだこの面子。
「お前になら私の全てを捧げてやってもいいぞぉ~だからお前も私に全部捧げろこんなろー♡ ほらベッド行くぞベッド! おねえさんと素敵な一夜をあかそーではないかー♪」
「せ、せめてムードを考えて! こんな形で貞操失いたくないよ!」
「うははは! 逃がさんじょ~!」
アポートで拘束から離脱し、逃げ出したけど、エルザは追いかけ続けてくる。疲れ切った体にはハードすぎる相手だよくそぉ!
もう、明日二日酔いになっても知らないからね!
疲れた、とにかく疲れた……体から力が抜けて、もう動けないや。これは明日、筋肉痛かなぁ……まさか十キロも泳がされるなんて。
気づけば夕方だし、これじゃご飯の準備ができないや。そう呟いたら、マスターがギルドの酒場に連れて行ってくれた。夕飯をご馳走してくれるんだって。
「教え子が頑張ったのなら、きちんと褒美を与えなければならないからね。好きなだけ頼みなさい」
「ご馳走になります」
へとへとなせいで、何にも考えられない。なんだか体も重いし、いまにも眠ってしまいそう……って。
「エルザ、寄り掛からないで。疲れすぎてて君を支えられないんだ」
「おっとすまない、シュウが可愛いものでついな」
水泳の間構ってられなかったから、寂しかったんだろうな。ずーっと僕の傍に居続けている。疲れてなければ、ちゃんと相手できるのになぁ。
ダメだ、何にも考えられない……結局あの水練、何の意味があったんだろ?
「頭の中、空っぽになったみたいだね」
「え?」
「考えるな、感じろ、だよ。君はまじめで頭がいい、それゆえに悩みがちになってしまうんだ。それだけ疲れた今、悩む余裕はないだろう?」
「……まぁ、ええ……」
「答える余裕もないか、いい調子だ。おっと、ロイドが来たようだね」
マスターが手を振ってロイドを迎えた。今日彼は、僕達とは別行動で仕事を受けていたんだ。
「お帰り。失敗した?」
「成功したに決まってるだろ? 絶好調さ」
ミスティとロイドは軽口交じりに拳を合わせた。
いつ見ても二人は楽しそうだな、疲れてるからか、逆に他の人の事が見えてくる。
ミスティもロイドも、エルザも。全力で今を生きている。だからなのかな、生きているのを凄く楽しんでいるように思えるんだ。
「そっちも頑張ったみたいだな、ぐったりしてるじゃないか」
「湖を延々泳がされていたのよ。それでシュウ君すっかり疲れちゃってね、ぐったりしちゃってるのよ」
「そいつはお疲れさんだ。そんな時は酒でも飲んで寝るのが一番さ、よし! 俺が奢ってやるよ、好きなの頼みな」
「それは困るな、ワシが奢る事になっているからね。君の分もまとめて面倒見てあげよう」
「ならお願いします!」
「調子いいわねぇ、シュウ君に笑われるわよ」
「いや、僕はそんな……」
「知ってる? 最近ロイドって一人で仕事受ける事が多いでしょう、貴方に触発されて、改めて自分を鍛えてるんだって」
「……僕に?」
「ああ。オークの群れを蹴散らすお前の姿、随分な刺激になったよ。それに手合わせして、世界の広さも感じられた。どうも最近の俺は、ゴールドランクの肩書に胡坐をかいていたからな、一度ゼロから鍛え直さないと」
「いい意味で貴方は周囲に影響を与えているのよ、私だってそうだし、エルザもね。謙虚なのはいい事だけど、度が過ぎると卑屈になるわ。多少は馬鹿になっても、誰も悪く言わないわ。折角貴方は生きているのだから、人生を心行くまで楽しまないと」
「生きているか、僕は確かに、生きている……」
「そうだ。心を育てるには、まず生きるのを楽しまなきゃならない。不知火の太刀は愛する者を守るための刃なのは、ゲイルから教わっているだろう? けど俯いて苦しむだけの人間が、果たしてその刃を振るえるのかい? まずは自分を大事にする所から始めないとな。ゲイルが教えられなかった分を、エルザが教えてくれるだろう。生きる事の楽しさをな」
「…………」
目からうろこが落ちた気分だ。
エルザを守るためには、まず僕が幸せにならなきゃならない。単純だけど、大事な事だ。
それは自分を大事にするって事に他ならない。自分を傷つける人は、他の人まで傷つけてしまうから。
ふふ、余計な事を考えられないから、素直に受け入れられるな。
エルザの好意を受け止められなかったのは、どこかで僕が幸せになってはならないと思っていたからなんだろう。
迫害されていた過去は変えられない。でもベルゼンでの僕は、変えられる。
「お酒飲んでみてもいいですか?」
「おっ、ノリがいいね」
「たまには悪い事をしてみたくなったので」
「いいではないか、私が注いでやるぞ、グラスを出せ!」
エルザからエールをもらって飲んでみる。喉が熱くなって、頭がかーっとなる。これがお酒か、美味しいとは思えないな。
でも、いずれは美味しいと思えるようになるんだな。小さなことでも、未来がとても楽しみだよ、本当に。
◇◇◇
「んへへ~、シュウがなんか沢山いるなぁ~、よりどりみどりだにゃあ~」
「エルザ……これっぽっちの量で……」
「シュウ~いーつもーかわいーくすてーきーだぞー♪ だっはっは~!」
飲み会を始めてすぐ、エルザが泥酔した。
エルザが飲んだのはグラス一杯のビール。それだけで彼女は思い切り酔っ払って、僕に抱き着き、頬ずりをしていた。
……アルコールにめちゃくちゃ弱かったんだ、この元魔王……ろれつ回ってないし、へべれけになって自作の歌歌ってるし、どーしようこれ……どえらい酔っ払いモンスターが誕生しちゃったよ。
「うははは、なんかふわっふわするなぁ~、い~い気分だ~、シュウ~シュウ~わたしのシュウ~ずぇ~ったいにはーなさーんぞー♡ ってことでちゅーするぞちゅー♡」
「ちょ、やめてエルザ、恥ずかしいってば!」
エルザがキスしようと迫ってくる。甘え上戸な上にキス魔化するんだ彼女、力が強すぎて振り払えないんだけど。
「あの、見てないで助けてくれませんか!?」
「いいわねぇ、酔っぱらったお姉さんに迫られる少年の図、最高の構図だわぁ♪」
「だっはっは! やれやれぇ! 唇うばっちまえ! ほれキーッス! キーッス!」
「若いっていいねぇ……ワシなんか嫁に二度も逃げられるわ、モテると思って剣聖になったけど結局モテないし……散々な人生だなぁ……(泣)」
ミスティは素面なのに助けてくれないし、ロイドは酔っぱらって煽ってくるし、マスターは泣き上戸だし。なんだこの面子。
「お前になら私の全てを捧げてやってもいいぞぉ~だからお前も私に全部捧げろこんなろー♡ ほらベッド行くぞベッド! おねえさんと素敵な一夜をあかそーではないかー♪」
「せ、せめてムードを考えて! こんな形で貞操失いたくないよ!」
「うははは! 逃がさんじょ~!」
アポートで拘束から離脱し、逃げ出したけど、エルザは追いかけ続けてくる。疲れ切った体にはハードすぎる相手だよくそぉ!
もう、明日二日酔いになっても知らないからね!
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