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23話 坂を転げ落ちるような姿
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なんで誰も、パーティに加入しようとしないんだ!
勇者パーティを再編すべく、冒険者ギルドで新しいメンバーの募集をかけたのに、誰一人として近寄ろうとしない。
なんでだ? この勇者アースのパーティに入るなんて名誉は他にないんだぞ、どうして全員避けているんだ。
とりあえず、女っ気がないとな。丁度いい女のウィザードが居るし、こっちから誘ってみるか。
「おいそこのお前、俺のパーティに入らないか? 俺は勇者アース、名前は聞いた事あるだろう?」
「勇者アース……! ごめんなさい、他を当たってください」
ウィザードはそそくさと逃げ出してしまう。それどころか、俺の存在を知るなり、他の冒険者達が距離を置き始めた。
「おい、なんだお前達! 俺は勇者だぞ、なのに随分態度が悪いじゃないか」
「……勇者アース、あんたの評判は聞いているよ。魔王軍がヒュンメルを襲った時、一目散に逃げ出したんだって」
「……は?」
なんでそんな最新情報を知っているんだ? あの街の生き残りは誰もいなかったはずだ。
「しかも仲間を囮にして、見殺しにしたそうじゃないか」
「その前には事故死に見せかけて、仲間を谷に突き落としたって噂もあるわ」
「慰安金目当てに仲間を殺したのか? 酷いなそれは!」
「そんな奴のパーティになんか入るものか、とっとと出ていけ!」
『出ていけ!』
『出ていけ!』
『出ていけぇ!』
あちこちからブーイングが起こってくる。なんだこれ、どうしてこんな事になっているんだ? というか誰だ、そんな噂をリークした奴は!?
あまりのバッシングに俺は逃げ出した。これではこの街に居られない、とっとと逃げなければ。幸い金はある、死んでった連中の慰安金がな。
仕方ない、この金を元手に、別の街でパーティを集めるしかない。
と思ったら、東の空が黒くなり始めた。ワイバーンの群れが街に近づいてきているんだ。
くそ、魔王軍の先兵だな。だったらまた街を囮にして逃げればいい……。
「皆、早くこいつを追い出すんだ!」
「あのワイバーンは勇者が狙いだ、勇者さえ追い出せば街に被害は出ないはずだ!」
「お、おい!?」
冒険者が一斉に襲い掛かり、俺を街から追い出した。
一人街から追い出された俺にワイバーンが大挙し、火球を吐いて襲い掛かってくる。くそ、誰か俺を守れ!
……いや、誰もいない、俺の周囲には仲間が誰もいない!
「リッド! ラクト! ドーラ! いないのか!?」
居るわけない、全員死んだから。俺を救う奴は誰もいない、どこにも居ない。
どうしてだ、どうして誰も俺の傍にいないんだ! 俺は勇者だ、皆から守られ、あがめられるべき男だ!
どうして全員俺を見捨てたんだ、勇者をなんだと思っているんだ、畜生がああああああ!
◇◇◇
勇者討伐作戦の報告を聞き、俺は鼻を鳴らした。
「ふん、無い知恵を絞りだして、勇者に有効な策を思いついたようだな」
「はっ、お褒めに預かり光栄です」
ローグ達はどこか皮肉めいた笑みで敬礼してきた。相変わらず腹の立つ連中だが、今回はまずまずの成果だ。
前回の失策を逆手に取り、勇者を社会的に抹殺する作戦だ。草を利用し、隣国中に勇者の悪評を広めることで奴を孤立させ、弱らせた所を殺す。時間はかかるが、奴を確実に仕留める作戦だ。
案の定、奴は自分の行動が跳ね返り、街々から拒絶されている。仲間を失い、まともな補給もできず、激化する攻撃に消耗されるばかり、確実に奴は削られていた。
ようやくアースを殺すことが出来る。落ちに落ちた支持率だが、やっと回復させられそうだ。勇者殺しの名声を持って、俺の理想たる軍事国家を作り上げられるだろう。
……俺ではなく、四天王の立てた作戦で実現したのが、甚だ不本意ではあるがな。
「今回は褒めてやる、後で褒美をくれてやろう。下がっていいぞ」
「はっ、それではまた、魔王様」
ローグ達はやはり俺を見下したような顔をしている。俺の失態を見下して、そんなに楽しいか。
部屋に戻り、いら立ちのままテーブルを蹴り飛ばす。木端微塵に砕け、木片が散った。
「どこまでも不愉快な連中めが!」
民は指示を聞かない、部下どもは俺を馬鹿にする、勇者は嘲笑うように俺の手をすり抜ける……魔王になれば何もかもが思い通りになるんじゃなかったのか、むしろ生きてきた中で最も上手く行っていない気がする。
なぜエルザにできた事が俺にできない。あんな腑抜けた女如きが務まる役職なのだから、より強く、力のある俺に務まらぬわけがない。奴と俺とで、一体何が違うというのだ!
「ええい、死してなお俺を愚弄するか、エルザぁ!」
魔王城から脱走したはいいが、奴には食事を与えず痛めつけ、衰弱させていた。どうせどこかで野垂れ死んでいるだろう。
……あいつの事だ、どうせあの世で俺を眺め、腹を抱えて笑っているんだろうな。
全く、どいつもこいつも俺を馬鹿にして。俺は魔王だ、民から畏怖され、敬愛されるべき男だ。どうも奴らからは、俺に対する敬意を感じられない。
魔王をなんだと思っているんだ、屑どもめが!
勇者パーティを再編すべく、冒険者ギルドで新しいメンバーの募集をかけたのに、誰一人として近寄ろうとしない。
なんでだ? この勇者アースのパーティに入るなんて名誉は他にないんだぞ、どうして全員避けているんだ。
とりあえず、女っ気がないとな。丁度いい女のウィザードが居るし、こっちから誘ってみるか。
「おいそこのお前、俺のパーティに入らないか? 俺は勇者アース、名前は聞いた事あるだろう?」
「勇者アース……! ごめんなさい、他を当たってください」
ウィザードはそそくさと逃げ出してしまう。それどころか、俺の存在を知るなり、他の冒険者達が距離を置き始めた。
「おい、なんだお前達! 俺は勇者だぞ、なのに随分態度が悪いじゃないか」
「……勇者アース、あんたの評判は聞いているよ。魔王軍がヒュンメルを襲った時、一目散に逃げ出したんだって」
「……は?」
なんでそんな最新情報を知っているんだ? あの街の生き残りは誰もいなかったはずだ。
「しかも仲間を囮にして、見殺しにしたそうじゃないか」
「その前には事故死に見せかけて、仲間を谷に突き落としたって噂もあるわ」
「慰安金目当てに仲間を殺したのか? 酷いなそれは!」
「そんな奴のパーティになんか入るものか、とっとと出ていけ!」
『出ていけ!』
『出ていけ!』
『出ていけぇ!』
あちこちからブーイングが起こってくる。なんだこれ、どうしてこんな事になっているんだ? というか誰だ、そんな噂をリークした奴は!?
あまりのバッシングに俺は逃げ出した。これではこの街に居られない、とっとと逃げなければ。幸い金はある、死んでった連中の慰安金がな。
仕方ない、この金を元手に、別の街でパーティを集めるしかない。
と思ったら、東の空が黒くなり始めた。ワイバーンの群れが街に近づいてきているんだ。
くそ、魔王軍の先兵だな。だったらまた街を囮にして逃げればいい……。
「皆、早くこいつを追い出すんだ!」
「あのワイバーンは勇者が狙いだ、勇者さえ追い出せば街に被害は出ないはずだ!」
「お、おい!?」
冒険者が一斉に襲い掛かり、俺を街から追い出した。
一人街から追い出された俺にワイバーンが大挙し、火球を吐いて襲い掛かってくる。くそ、誰か俺を守れ!
……いや、誰もいない、俺の周囲には仲間が誰もいない!
「リッド! ラクト! ドーラ! いないのか!?」
居るわけない、全員死んだから。俺を救う奴は誰もいない、どこにも居ない。
どうしてだ、どうして誰も俺の傍にいないんだ! 俺は勇者だ、皆から守られ、あがめられるべき男だ!
どうして全員俺を見捨てたんだ、勇者をなんだと思っているんだ、畜生がああああああ!
◇◇◇
勇者討伐作戦の報告を聞き、俺は鼻を鳴らした。
「ふん、無い知恵を絞りだして、勇者に有効な策を思いついたようだな」
「はっ、お褒めに預かり光栄です」
ローグ達はどこか皮肉めいた笑みで敬礼してきた。相変わらず腹の立つ連中だが、今回はまずまずの成果だ。
前回の失策を逆手に取り、勇者を社会的に抹殺する作戦だ。草を利用し、隣国中に勇者の悪評を広めることで奴を孤立させ、弱らせた所を殺す。時間はかかるが、奴を確実に仕留める作戦だ。
案の定、奴は自分の行動が跳ね返り、街々から拒絶されている。仲間を失い、まともな補給もできず、激化する攻撃に消耗されるばかり、確実に奴は削られていた。
ようやくアースを殺すことが出来る。落ちに落ちた支持率だが、やっと回復させられそうだ。勇者殺しの名声を持って、俺の理想たる軍事国家を作り上げられるだろう。
……俺ではなく、四天王の立てた作戦で実現したのが、甚だ不本意ではあるがな。
「今回は褒めてやる、後で褒美をくれてやろう。下がっていいぞ」
「はっ、それではまた、魔王様」
ローグ達はやはり俺を見下したような顔をしている。俺の失態を見下して、そんなに楽しいか。
部屋に戻り、いら立ちのままテーブルを蹴り飛ばす。木端微塵に砕け、木片が散った。
「どこまでも不愉快な連中めが!」
民は指示を聞かない、部下どもは俺を馬鹿にする、勇者は嘲笑うように俺の手をすり抜ける……魔王になれば何もかもが思い通りになるんじゃなかったのか、むしろ生きてきた中で最も上手く行っていない気がする。
なぜエルザにできた事が俺にできない。あんな腑抜けた女如きが務まる役職なのだから、より強く、力のある俺に務まらぬわけがない。奴と俺とで、一体何が違うというのだ!
「ええい、死してなお俺を愚弄するか、エルザぁ!」
魔王城から脱走したはいいが、奴には食事を与えず痛めつけ、衰弱させていた。どうせどこかで野垂れ死んでいるだろう。
……あいつの事だ、どうせあの世で俺を眺め、腹を抱えて笑っているんだろうな。
全く、どいつもこいつも俺を馬鹿にして。俺は魔王だ、民から畏怖され、敬愛されるべき男だ。どうも奴らからは、俺に対する敬意を感じられない。
魔王をなんだと思っているんだ、屑どもめが!
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