捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

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22話 歴史の影で受け継がれた刃

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 血を洗った後。エルザに諭されて、僕はベルゼンへと戻った。
 恐いけど、何も言わずに飛び出してしまったからね、きっとミスティとロイドも心配してくれている、はずだ。
 ……本当に、心配してくれているのかな。僕なんか、誰にも心配される価値のない人間じゃ、ないのかな。
 ベルゼンが見えてきて、足がすくんでくる。そしたら、ミスティとロイドが走ってくるのが見えた。

「シュウ君! よかった、戻ってきてくれたのね」
「心配かけさせるなよ、もう会えないかと思ってひやひやしちまったじゃないか」

 二人とも、僕が戻ってきたのを凄く喜んでいる。こんなにも僕なんかを、心配してくれていたんだ。

「ごめんなさい、急に……居なくなったりして……」
「戻ってきてくれたからいいわよ、それよりほら、早く戻りましょう。皆貴方の事を待ってるのよ」
「ベルゼンの冒険者全員が、お前の帰りを待っていたんだぞ」

 門を見ると、冒険者の皆が手を振っている。僕の姿を見ても、誰も恐れていないの?

「僕が、恐くないんですか?」
「そんな事を気にしていたの? むしろ逆よ、貴方のおかげでベルゼンは守られたんだから、もっと胸を張りなさい」
「……僕、ここに居ていいんですか?」
「ああ、いいんだよ。しかし凄い剣技だったな、今度俺にも教えてくれよ」

 誰も、僕を恐れていない。僕の影の姿を見ても、誰も怖がっていない。
 僕は、泣いてしまった。やっと僕の全てを、受け入れてくれた。凄く、嬉しかった。

「ほっほ、やっと主役が戻ってきたか。この剣も帰りを待ちわびていたぞ」
「ギルドマスター……それに、天帝……」

 マスターは僕に微笑むと、妖刀を差し出した。
 天帝は手に取れと言うように、柄を輝かせる。僕は刀を握りしめ、腰に差した。君のおかげでエルザを守れた。

「ありがとう、天帝」

 じんわりと刀が熱くなる。どういたしましてって、言ってくれてるのかな。

「いやはや、いい物を見れた。まさかあの剣術を使える者がこの世にいるとは」
「僕の流派を知っているんですか?」
「ああ、天帝に選ばれたのも納得できる。あの流派を修めた者ならば、妖刀が見初めるのも納得だよ」
「マスター殿、シュウの剣術はなんなのだ? 私もあのような剣術は初めて見る」

「あれは十六夜流。この世では廃れ、失われしつつある幻の流派。かつて世に平定をもたらした英雄が使っていた、天帝と所縁の深い剣術だ。何しろ、天帝の元々の持ち主は、その英雄なのだからね」

「では、シュウが持つのは運命だったということか。しかし、やはり耳慣れぬ流派だな」

「使い手を見なくなって久しい流派だからね。古い剣術だが、その力は現行の物とは一線を画す。気配察知による未来予知を駆使し、一撃必殺の刃を持って敵を屠る、極めれば常勝無敗を約束する剣と言われているんだ。ただし、習得難度が非常に高く、物にできる人間はごく僅かしかいない。今では剣聖ゲイル・クウラが最後の継承者と聞いているが」
「僕の、祖父です。亡くなって、随分経ちますけど」

 皆驚いたように僕を見やった。おじいさんが剣聖だなんて、僕も初めて聞いたよ。

「剣聖の孫だったのか、お前……どうりでナイフで岩を斬れるわけだ」
「なんで黙っていたのよ、水臭いなぁ」
「祖父がそんな人物だとは聞いてなかったので」

 おじいさん、自分の過去を話してくれなかったからな。多分、剣聖の孫と知られて、厄介ごとに巻き込まれないようにするためだったんだろう。

「探索者として優れていた理由も分かったな。剣聖の教えを応用して、各スキルの練度を大きく引き伸ばしていたわけだ」
「その若さで大したものだ。それで、君はどの太刀を? 十六夜流にはいくつかの、太刀と呼ばれる型があるはずだが」
「祖父は不知火の太刀を僕に授けました。居合斬りを軸にし、速度に重点を置いた、神速の型です。十六夜流は今では使い手が僕達の一族しか居ないから、この型しか残っていないそうです」

「そうか……ゲイルの奴、大した遺産を残したものだ」
「祖父をご存じなんですか?」
「知ってるよ、かつての盟友だからな。これでもワシも、元剣聖だぞ?」
『マスターが剣聖!?』

 誰も知らなかったみたいだ。というより、おじいさんと知り合いだったなんて、世間は狭いなぁ。

「ゲイルは中々気骨のある男だったよ。便りがないと心配していたが、そうか、惜しい男を亡くしたなぁ……」
「……マスターが、元剣聖……でしたら、もし教えをいただけるのであれば、できますか?」
「ほう?」

 おじいさんは剣を教える時、常にこう言っていたな。

『十六夜流は愛すべき者を守るための剣だ。シュウ、もしお前に愛すべき者が出来れば、必ずや剣を取らねばならない時が来る。いざ来るであろう時に備え、我が刃を修めておけ』

 おじいさん曰く、不知火の太刀はかつての英雄が愛した人の名を冠した物らしい。本当に自分が守りたい人のために振るう、絶対守護の剣なんだと。
 今なら僕は、おじいさんがどうして不知火の太刀を授けたのか、理解できる。

「天帝、僕についてきてくれるんだよね。なら……僕の決意を、受け止めてくれるよね」

 僕は……もう一度剣を握る。僕が好きになった人を守るために、おじいさんから受け継いだ刀を、今一度研がなければならない。

「僕を鍛えなおしてください、剣聖スラーブ様」

 僕もエルザと共にありたい。そのために絶対、強くなる。もう迷うものか。
 偉大なる人々から受け継いだ刃を、大事な人のために使う。僕は、決意したんだ。
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