捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

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19話 エマージェンシー・コール

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 ギルドでロイドとミスティを待ちながら、僕はエルザにある頼みごとをしていた。

「よし、これで登録できたぞ」
「ありがとうエルザ」

 僕はレンタルマジックを握りしめた。先日ロイドから譲ってもらったアイテムに、彼女のスキルを入れてもらったんだ。
 スキル名は「アポート」、十メートル以内の短距離を瞬間移動できる、初級の移動用スキルだ。自分以外の人には使えないし、他の物質を移動させられないけど、その分消費が極少ないのが強みなんだ。

「「アポート」でいいのか? もっとより高度な魔法を登録してもよかったのだぞ」
「あまり強すぎても、僕じゃ使いこなせないよ。それに消費が激しすぎて、すぐに魔力がなくなっちゃう。控えめなのが丁度いいんだ。移動系の魔法は汎用性が高いし、凄く助かるよ」
「むぅ、シュウがいいなら構わないが……やはり対痴女自衛用にオートで発動するスキルを登録しておくべきだろう。例えばジャジメントとか魔神拳とか」
「スライムにメテオスウォーム打ってるようなもんじゃない?」

「何を言うか! 万一シュウが痴女に連れ込まれて服を脱がされてあんな事やそんな事をされてしまったら、私は怒りでベルゼンを滅ぼすぞ!」
「前提がおかしいから……心配性だなぁ」
「慎重すぎるくらいで丁度いいのだよ。いいか、絶対私から離れるなよ。さっきから、痴女どもの視線を感じるからな」

 エルザは僕を後ろから抱きすくめた。ものすごく恥ずかしいんだけど、彼女の好意の手前、払えない……。
 ここ最近、エルザの過保護が強くなってる気がする。
 一緒に一晩明かしてから、エルザがぐいぐい押してくるようになった。こうやって抱きすくめてくるし、移動する時も手を繋いでくるし、僕をとても大事にしてくれている。

 とても嬉しいけど、胸が苦しくなる。僕は誰から大事にされるほどの人間じゃないんだ、だから、あまり大事にしないでほしい、大切にしないで、普通に接してほしい。
 天帝を手にして以来、僕の中に不安が生まれて、何度も夢を見るようになった。僕がまた剣を取り、戦う夢だ。
 悪い予感はよく当たってしまう、もしあの夢が実現したらまた、人が離れてしまう。きっと、エルザも。そんなのは嫌だ、もう誰からも拒絶されたくない、独りになりたくないんだ。

「どうしたシュウ、暗い顔をして。腹でも空いたか。よし! たまには私が馳走してやる、酒場に行くぞ」
「いいよそんな、悪いって」
「遠慮するな。私とシュウの中ではないか」

 エルザに強引に連れていかれてしまう。彼女にはかなわないなぁ。
 酒場は昼はランチをやっていて、色んな人が利用しに足を運んでいる。結構味も良くて評判いいんだ。
 さて、今日のランチは何があるかなっと。

「むっ、こ、これは……」
「気になるのがあった?」
「夢のようなメニューがあった!」

 エルザは興奮した様子で注文した。ウェイターが一瞬苦笑いしたけど、なに頼んだんだろう。
 程なくしてやってきたのは、鮮やかなプレートだ。ハンバーグにエビフライ、ナポリタン、オムレツ、フライドポテト、チキンライス、それとミニゼリー。これって……。

「お子様ランチ?」
「見てくれシュウ! 私の好物が全部盛り付けられているんだ、こんな幸せな食い物があっていいのか!? 贅沢すぎる、贅沢すぎるぞ、全く持ってけしからん!」

 目に星を浮かべて、大喜びで食べ始めた。エルザって、結構な子供舌なんだよね。ケチャップつけた唐揚げが大好物だし、今夜のご飯にしようかな。
 ……長身でプロポーション抜群の美女で、元魔王って肩書まであるのに、大好物がお子様ランチって……ギャップの落差が凄いなぁ……。

「今度、作ってあげようか」
「なんだと!? そんな業の深い事が……許されていいのか? こんな神の造りし聖遺物をシュウの手で作ってしまったら、天変地異が起こるぞ!?」
「大げさだなぁ」
「大げさな物か! だが心揺さぶられる誘惑なのも事実……よし! 大仕事が成功した時に頼む! このような贅沢を何度もしては罰が当たってしまうからな、特別な時にのみ食べるようにしよう!」
「あはは、了解」

 反応が面白くて、つい笑ってしまう。エルザは見ていて飽きないや。

「あ、頬にご飯ついてるよ」
「む、どこだ?」
「ここ、じっとしてて」

 エルザの頬についたご飯を取ってあげる。もったいないし、食べちゃうか。
 と、ここでエルザが目を丸くした。やっと僕も自分のした事を理解して、照れてしまった。

「大胆な男め、私の胸をそんなに揺さぶって、魔性が過ぎる。そんなのだから他の女どもから性的な目で見られてしまうのだぞ、言っておくが私に寝取られ趣味などないのだからな」
「何を言ってるのエルザ」
「要するにだ、お前を他の女にやるつもりなど毛頭ないと言っている。だからシュウよ、私の傍にいろ。離れるなど、断じて許さぬぞ」

 真正面から言い切れるのは、魔王だったからかな。絶対に僕を傍に置いておくって意思が伝わってくる。……米粒だらけの顔と、手元のお子様ランチがなければ威厳に溢れた光景なんだけどな。

「私には、お前が一番大事だ。だから、その……なんだ」
「はは……僕にとっても、うん……君は……」

 大事な人だ。そう言いたいのに、喉の奥に閊えて出てこない。
 僕は彼女に守られてばかりで、何もできない。それに彼女は元魔王だ、僕なんかが傍にいていいのか、自信がないんだ。
 会話が途絶えて、気まずい空気が流れる。その時だった。
 警鐘が鳴り響き、冒険者達が顔色を変えた。これは、緊急事態の合図。ベルゼンに凶悪なモンスターが迫った時になる鐘だ。
 冒険者達は武器を持ち、一斉に走り出す。その中をかき分けて、ロイドとミスティが駆け寄ってきた。

「シュウ! エルザ! 緊急事態だ、すぐに来てくれ!」
「ロイドさん、それにミスティさん。そんなに慌てて、どうしたんです?」
「のんきな事言ってないで! エルザ、戦闘準備よ! 厄介な連中が現れたわ!」
「貴公らが焦るほどの相手、何者だ」

 お子様ランチを一気に頬張り、エルザが立ち上がった。
 ロイドとミスティの表情はとても険しい、それほどのモンスターが来てるっていうの?




 ……嫌な予感がする。
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