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18話 人として最低最悪の行い
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「ギゼフィルを呼んで来い」
衛兵に命じ、俺は目を閉じた。
いくら指示を出しても、勇者は一向に死ぬ気配はない。もういい加減堪忍袋の緒が切れた。奴ら任せにしていては、いつまで経っても勇者を討伐できない。
国内での俺の支持率は下がる一方、一刻も早く魔王としての功績を残さねばならない。
これではエルザの方が正しいと言っているようなものだ、それに醜態をさらし続ければ、奴の二の舞を踏む事になる。
この国は弱肉強食、弱みを見せれば食い殺される。四天王もいつ俺の地位を狙うかわからぬ以上、常に奴らからマウントを取り続けねばならない。
「お呼びにあずかりました魔王様」
考えている内にギゼフィルが来た。知性を感じぬけだもののような姿、いつ見ても醜悪な奴だ。
俺はオークが嫌いなんだ、勇者を殺した暁には、こいつを降格させて別の奴を四天王にしてやるか。崇高なる魔王の側近は、相応の容姿の者でなければならないからな。
「遅い! 俺が呼んだのならすぐに来い」
「はは、失礼いたしました。何しろ俺も忙しい身なものでして」
「黙れ。俺の話だけを聞いていろ」
「御意に。して、どのようなご用件で?」
「お前のギガントオーク隊を寄越せ。今度は俺直々に指示を出す」
「ほう! ついに魔王様が出られるのですね」
「遠隔でだがな」
悪臭を放つオークの傍になど一秒でも居られるものか、豚が。
だがオークどもの戦力は当てになる。特にギガントオークは知能がなく、本能のまま暴れるだけの連中だが、戦闘力だけは一級品だ。そこにこの俺という頭脳が合わさる事で、確実に勇者を狩る策が実現するのだ。
「勇者はこの俺が殺してくれる、その礎として貴様の部隊を使ってやるのだ、光栄に思うがいい。そうだな……対エルザ用に改良した装備を支給しておけ」
「はっ、ありがたき幸せ」
今に見ていろ勇者アースめ、貴様の悪運もここで尽きる。
奴の居場所は把握している、街の宿で体を休めているそうだ。そこを狙って、オークどもをけしかけてやる。いかに勇者と言えども、街や住民を守りながら戦う事は出来まい。
最後は英雄らしく、人々を守って死ぬがいい。勇者にふさわしい最期を演出してやろうじゃないか。
◇◇◇
街が燃え、崩壊していく。住民達が悲鳴を上げて逃げまどうが、攻め込んできたモンスターは容赦なく蹂躙し、殺戮を繰り広げた。
「た、助けてください……勇者様……!」
「ええい、どけ!」
俺に助けを求める連中を押しのけ、街からの脱出を図る。こいつらなど知った事か、自分の命が大事に決まっている。
やっとの思いで金を貯め、久しぶりに宿へ泊れたと思った矢先だ。滞在していた街に無数のギガントオークどもが攻め込んできた。
全長十メートルもの巨躯を誇る、オークの中でも最も強大なパワーを持つ種類だ。その代わり知性はなく、目の前の獲物をただ破壊するだけの、本能で生きるモンスターだ。
街の駐留軍、冒険者達が束になって防衛に回ったが、歯が立たなかった。ギガントオークには弱点がある、魔法耐性が低いから、魔法スキルで攻めれば撃退できる、はずだった。
オークどもはリフレクの鎧を装備し、あらゆる魔法を跳ね返してきた。弱点を克服されちゃあ、勝てる相手は誰もいない。勿論、勇者である俺も例外じゃない。
「逃げろ! この街は捨てるぞ!」
「ええ、あんな化け物相手にできませんわ!」
「命あっての物種だ、急いで脱出するに限る!」
だがオークが立ちふさがってきた。いや、気付いたら囲まれている……なんてこった、このままじゃ殺されちまう!
どうして、勇者の俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
勇者の死は国の損失だ、俺は断じてここで死ぬわけにはいかない、どんな犠牲を払おうと生き残ってやる!
「おいリッド、喜べ。お前が役に立つ瞬間が来たぞ」
「こんな状況であっしに何をしろと言うんすか」
「こうするのさ!」
役立たずの探索者をオークの群れに放りだし、俺達は逃げ出した。
オークどもはリッドに気を取られ、一瞬俺から視線を外した。その隙に街から抜け出し、住民と街を見捨てて走り去る。
足止めは成功した、かと思ったが……幾匹のオークが追いかけてくる。くそ、脳みそが詰まった奴が居たようだな。仕方がない。
ドーラ、ラクトの足を斬り、動けなくする。こうすれば、囮として役に立つだろう。
「ゆ、勇者様、何を!?」
「じゃあな、オークの胃の中でゆっくり休んでいてくれ」
「そんな! ま、待ってくれぇ!」
オークの餌を残し、俺は走り出した。
弱い奴のために戦うなんてごめんだ。誰かのために戦うなんて馬鹿のやる事、本当に賢い奴は、他人をどれだけ上手く使いこなすかを知っているものなのさ。
走ってる途中、二人の断末魔が聞こえた。どうやらオークは餌に食いついたようだ。二人は死んだが、俺は生きている。それだけで最高の結果だ。
パーティは全滅しても、問題ない。もう一度優秀な奴らを集めて、パーティを再編すればいい。代わりなんていくらでもいるんだ、俺さえ、勇者さえ生きていればそれでいいんだ。
俺が生きていれば、全てよしなのさ!
◇◇◇
「失敗だと!?」
「は、はい! 勇者は街と仲間を犠牲に逃走、加えてギガントオークは「凶暴化」の魔法をかけていましたので制御不能につき、回収できませんでした……」
馬鹿な、奴には勇者としての誇りがないのか?
計算外だった、まさか、守るべき者達を見捨てるとは……!
「おやおや、この失敗は大きいのでは? 魔王様直々の作戦でしたからね」
「黙れギゼフィル!」
「そう言われましても、私の大事な部隊を丸々一つ無駄にしてこの結果では、文句の一つも言いたくなりますよ」
くそ、オークごときに見下される羽目になるとは……! おのれ勇者アース! 貴様のせいで俺の立場がより危うくなったではないか!
ギガントオークどもなど知った事か、どこへでも流れて野たれ死んでしまうがいい!
どいつもこいつも、どうして俺の思い通りにならないんだ!
衛兵に命じ、俺は目を閉じた。
いくら指示を出しても、勇者は一向に死ぬ気配はない。もういい加減堪忍袋の緒が切れた。奴ら任せにしていては、いつまで経っても勇者を討伐できない。
国内での俺の支持率は下がる一方、一刻も早く魔王としての功績を残さねばならない。
これではエルザの方が正しいと言っているようなものだ、それに醜態をさらし続ければ、奴の二の舞を踏む事になる。
この国は弱肉強食、弱みを見せれば食い殺される。四天王もいつ俺の地位を狙うかわからぬ以上、常に奴らからマウントを取り続けねばならない。
「お呼びにあずかりました魔王様」
考えている内にギゼフィルが来た。知性を感じぬけだもののような姿、いつ見ても醜悪な奴だ。
俺はオークが嫌いなんだ、勇者を殺した暁には、こいつを降格させて別の奴を四天王にしてやるか。崇高なる魔王の側近は、相応の容姿の者でなければならないからな。
「遅い! 俺が呼んだのならすぐに来い」
「はは、失礼いたしました。何しろ俺も忙しい身なものでして」
「黙れ。俺の話だけを聞いていろ」
「御意に。して、どのようなご用件で?」
「お前のギガントオーク隊を寄越せ。今度は俺直々に指示を出す」
「ほう! ついに魔王様が出られるのですね」
「遠隔でだがな」
悪臭を放つオークの傍になど一秒でも居られるものか、豚が。
だがオークどもの戦力は当てになる。特にギガントオークは知能がなく、本能のまま暴れるだけの連中だが、戦闘力だけは一級品だ。そこにこの俺という頭脳が合わさる事で、確実に勇者を狩る策が実現するのだ。
「勇者はこの俺が殺してくれる、その礎として貴様の部隊を使ってやるのだ、光栄に思うがいい。そうだな……対エルザ用に改良した装備を支給しておけ」
「はっ、ありがたき幸せ」
今に見ていろ勇者アースめ、貴様の悪運もここで尽きる。
奴の居場所は把握している、街の宿で体を休めているそうだ。そこを狙って、オークどもをけしかけてやる。いかに勇者と言えども、街や住民を守りながら戦う事は出来まい。
最後は英雄らしく、人々を守って死ぬがいい。勇者にふさわしい最期を演出してやろうじゃないか。
◇◇◇
街が燃え、崩壊していく。住民達が悲鳴を上げて逃げまどうが、攻め込んできたモンスターは容赦なく蹂躙し、殺戮を繰り広げた。
「た、助けてください……勇者様……!」
「ええい、どけ!」
俺に助けを求める連中を押しのけ、街からの脱出を図る。こいつらなど知った事か、自分の命が大事に決まっている。
やっとの思いで金を貯め、久しぶりに宿へ泊れたと思った矢先だ。滞在していた街に無数のギガントオークどもが攻め込んできた。
全長十メートルもの巨躯を誇る、オークの中でも最も強大なパワーを持つ種類だ。その代わり知性はなく、目の前の獲物をただ破壊するだけの、本能で生きるモンスターだ。
街の駐留軍、冒険者達が束になって防衛に回ったが、歯が立たなかった。ギガントオークには弱点がある、魔法耐性が低いから、魔法スキルで攻めれば撃退できる、はずだった。
オークどもはリフレクの鎧を装備し、あらゆる魔法を跳ね返してきた。弱点を克服されちゃあ、勝てる相手は誰もいない。勿論、勇者である俺も例外じゃない。
「逃げろ! この街は捨てるぞ!」
「ええ、あんな化け物相手にできませんわ!」
「命あっての物種だ、急いで脱出するに限る!」
だがオークが立ちふさがってきた。いや、気付いたら囲まれている……なんてこった、このままじゃ殺されちまう!
どうして、勇者の俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
勇者の死は国の損失だ、俺は断じてここで死ぬわけにはいかない、どんな犠牲を払おうと生き残ってやる!
「おいリッド、喜べ。お前が役に立つ瞬間が来たぞ」
「こんな状況であっしに何をしろと言うんすか」
「こうするのさ!」
役立たずの探索者をオークの群れに放りだし、俺達は逃げ出した。
オークどもはリッドに気を取られ、一瞬俺から視線を外した。その隙に街から抜け出し、住民と街を見捨てて走り去る。
足止めは成功した、かと思ったが……幾匹のオークが追いかけてくる。くそ、脳みそが詰まった奴が居たようだな。仕方がない。
ドーラ、ラクトの足を斬り、動けなくする。こうすれば、囮として役に立つだろう。
「ゆ、勇者様、何を!?」
「じゃあな、オークの胃の中でゆっくり休んでいてくれ」
「そんな! ま、待ってくれぇ!」
オークの餌を残し、俺は走り出した。
弱い奴のために戦うなんてごめんだ。誰かのために戦うなんて馬鹿のやる事、本当に賢い奴は、他人をどれだけ上手く使いこなすかを知っているものなのさ。
走ってる途中、二人の断末魔が聞こえた。どうやらオークは餌に食いついたようだ。二人は死んだが、俺は生きている。それだけで最高の結果だ。
パーティは全滅しても、問題ない。もう一度優秀な奴らを集めて、パーティを再編すればいい。代わりなんていくらでもいるんだ、俺さえ、勇者さえ生きていればそれでいいんだ。
俺が生きていれば、全てよしなのさ!
◇◇◇
「失敗だと!?」
「は、はい! 勇者は街と仲間を犠牲に逃走、加えてギガントオークは「凶暴化」の魔法をかけていましたので制御不能につき、回収できませんでした……」
馬鹿な、奴には勇者としての誇りがないのか?
計算外だった、まさか、守るべき者達を見捨てるとは……!
「おやおや、この失敗は大きいのでは? 魔王様直々の作戦でしたからね」
「黙れギゼフィル!」
「そう言われましても、私の大事な部隊を丸々一つ無駄にしてこの結果では、文句の一つも言いたくなりますよ」
くそ、オークごときに見下される羽目になるとは……! おのれ勇者アース! 貴様のせいで俺の立場がより危うくなったではないか!
ギガントオークどもなど知った事か、どこへでも流れて野たれ死んでしまうがいい!
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