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11話 充実の日々
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今日も僕は夜明け前に目を覚ます。小さい頃からの習慣だから、早起きは大して苦ではない。軽い体操をした後、朝食の準備を始めた。
ベルゼンに来てから一ヶ月が経った、この街での生活はとても充実している。
冒険者としての活動は順調で、たった一ヶ月で僕とエルザはブロンズランクに昇格していた。やっぱり魔王の力は凄まじい物で、討伐依頼は魔法一発で解決するし、希少素材の入手もこれまた魔法を使ってあっという間に解決してしまう。
彼女はすっかり冒険者ギルド期待のルーキーとして注目の的になっていて、なんだか遠い世界の住民になったような気がするよ。
「ふぁ……おはよーシュウ君、また朝ご飯作ってくれてるの? 当番制にしようって言ったじゃない」
「好きなんです、料理するの。今日はチーズオムレツですよ」
「あらまぁ朝から贅沢だこと。そうそう、エルザは今シャワー中よー」
「なんの報告ですかそれ……」
エルザの裸……いやだめだ、想像してはいけない。あんな、服越しにも分かる凶器を想像したら鼻血が出てしまう。
ミスティはこうして僕をからかってくる。僕は女性慣れしていないから、二人の入浴姿を想像しただけでも顔が赤くなってしまう。
「やっぱいじり甲斐があるわねぇ、いい子の証拠だわ」
「朝からからかわないでくださいよ、ミスティさんのだけ焦がしちゃいますよ」
「それは勘弁、半熟でお願いね」
でも、ミスティにからかわれるのは嫌いじゃない。アース達と違って悪意が一切なくて、親愛の情を感じるから。
「ふぅ……おお、シュウ。いつもすまんな」
ミスティと朝ご飯の用意をしていると、シャワーから上がったエルザが入ってきた。
少し濡れた赤髪をひとまとめにして、温まってほんのり赤くなったうなじが見えている。無防備な姿についつい見とれてしまった。
「どうした。あまり見られると恥ずかしいのだが」
「ごめん、なんでもないから……」
エルザはもう少し、自分がどれだけ美人なのか自覚するべきだ。一緒に生活していて心臓が持たないよ。
「ならば私から言わせてもらおう。お前は今日もかわいらしいな」
しかも平然とこんな事を言うし。僕よりも男らしくて困るんだけど。
ともあれ朝ご飯だ。チーズオムレツにパンにサラダ、それと牛乳。朝はきちんと食べないとね。
二人とも美味しそうに食べてくれている。この姿を見ると作ったかいがあるな。
「む、これは……」
エルザの顔が急に険しくなったかと思うと、サラダにフォークを突っ込んだ。
何かと思うと、グリーンピースをのけている。それとニンジンも。
「エルザ、好き嫌いはだめだよ」
「うっ! そう言われても、苦手な物は苦手なのだ……」
「しっかり野菜も食べないと、栄養偏っちゃうよ」
「うぬぅ……」
エルザはしゅんとなる。エルザは意外と好き嫌いが多くて、グリーンピース、ニンジン、それとピーマンが特に苦手みたいだ。
魔王様なんだけど、味覚が子供舌なんだよね。
「……そんなに私に野菜を食わせたくば、お前自身が食べさせればよいのではないか?」
「へ?」
「あー一理あるわね。絶対抵抗しちゃダメよエールザ?」
ミスティもにやにやしながら煽ってくる。エルザは期待の眼差しで僕を見つめていて……すんごく恥ずかしいんだけど。
パンにグリーンピースとニンジン、それにオムレツをのっけて、エルザの口に放り込む。
苦手な物を食べさせられて渋い顔をされるけど、すぐにご機嫌な顔になる。可愛すぎるでしょこの魔王……。
「むぅ、やっぱり苦手だが……お前が作ってくれた料理を無駄にするわけにもいくまい。この方法でなら食べてやってもいいだろう」
「ミスティさんが見てるんだけど……」
「あ、私は気にしないで。むしろガンガンやって。そんだけでパンをガツガツ食えるから」
なぜかミスティは僕らを眺めながらパンをかじっている。ミスティは僕らを煽って、こうした行為を強要する事が多いんだ。
……これ何のプレイなの?
◇◇◇
「よう、来たな」
ギルドに行くと、ロイドが迎えてくれた。何枚かの依頼書を持っていて、今日の仕事を選んでくれたみたいだ。
「今日も粒よりな仕事が出ていたから、先に確保しておいたぞ」
「ありがと。さて、どれから手を付けましょうかね」
仕事はミスティとロイドに任せている。僕らよりも経験豊富だから、仕事の選択は二人に任せておけば間違いない。
僕らは二人の期待に応えられるよう、全力を尽くすだけだ。
でも、その前に気になる事があるな。
「お二人とも、武器の整備はどうしますか?」
「問題ないぞ。毎日ちゃんと手入れしてるからな」
「私もシュウ君が整備してくれてるから、前より調子がいいくらいよ」
二人は武器を見せた。ミスティはオーガボウ+48、ロイドはグレートソード+54。どちらも見事な得物だ。
武器や防具には練度が存在している。名前の後についている+と数字がそうだ。
武器防具は練度が一つ上がる度、性能が五パーセント上昇していくんだ。練度を上げるには鉱石などの素材が必要で、鍛冶師に鍛えてもらって向上していくんだよ。
シルバーランクまでの冒険者だと大体+20がせいぜいだから、二人の武器は相当な業物に鍛え上げられていることになる。
でも、見た感じ……ちょっとガタが来てるみたいだな。
ちゃんと整備してあげないと、仕事中にトラブルを起こしてしまうかもしれない。素材なら確か、一ヶ月の仕事で結構なストックがあったっけ。
僕は探索者だから、狩人のスキル「採取」と海賊のスキル「レアドロップ」を使える。この二つを利用して、沢山の素材を手にできるんだ。
「お二人とも、武器を僕に預けてもらえませんか? これまで手にした素材で、もっと武器を強化できるかもしれません」
「練度の向上もできるのか?」
「はい。どうしますか?」
「じゃあお願いしようかな。シュウ君ならちゃんとやってくれそうだしね」
二人から信頼されて武器を任された。任せておいて、腕によりをかけて整備するからね。
ベルゼンに来てから一ヶ月が経った、この街での生活はとても充実している。
冒険者としての活動は順調で、たった一ヶ月で僕とエルザはブロンズランクに昇格していた。やっぱり魔王の力は凄まじい物で、討伐依頼は魔法一発で解決するし、希少素材の入手もこれまた魔法を使ってあっという間に解決してしまう。
彼女はすっかり冒険者ギルド期待のルーキーとして注目の的になっていて、なんだか遠い世界の住民になったような気がするよ。
「ふぁ……おはよーシュウ君、また朝ご飯作ってくれてるの? 当番制にしようって言ったじゃない」
「好きなんです、料理するの。今日はチーズオムレツですよ」
「あらまぁ朝から贅沢だこと。そうそう、エルザは今シャワー中よー」
「なんの報告ですかそれ……」
エルザの裸……いやだめだ、想像してはいけない。あんな、服越しにも分かる凶器を想像したら鼻血が出てしまう。
ミスティはこうして僕をからかってくる。僕は女性慣れしていないから、二人の入浴姿を想像しただけでも顔が赤くなってしまう。
「やっぱいじり甲斐があるわねぇ、いい子の証拠だわ」
「朝からからかわないでくださいよ、ミスティさんのだけ焦がしちゃいますよ」
「それは勘弁、半熟でお願いね」
でも、ミスティにからかわれるのは嫌いじゃない。アース達と違って悪意が一切なくて、親愛の情を感じるから。
「ふぅ……おお、シュウ。いつもすまんな」
ミスティと朝ご飯の用意をしていると、シャワーから上がったエルザが入ってきた。
少し濡れた赤髪をひとまとめにして、温まってほんのり赤くなったうなじが見えている。無防備な姿についつい見とれてしまった。
「どうした。あまり見られると恥ずかしいのだが」
「ごめん、なんでもないから……」
エルザはもう少し、自分がどれだけ美人なのか自覚するべきだ。一緒に生活していて心臓が持たないよ。
「ならば私から言わせてもらおう。お前は今日もかわいらしいな」
しかも平然とこんな事を言うし。僕よりも男らしくて困るんだけど。
ともあれ朝ご飯だ。チーズオムレツにパンにサラダ、それと牛乳。朝はきちんと食べないとね。
二人とも美味しそうに食べてくれている。この姿を見ると作ったかいがあるな。
「む、これは……」
エルザの顔が急に険しくなったかと思うと、サラダにフォークを突っ込んだ。
何かと思うと、グリーンピースをのけている。それとニンジンも。
「エルザ、好き嫌いはだめだよ」
「うっ! そう言われても、苦手な物は苦手なのだ……」
「しっかり野菜も食べないと、栄養偏っちゃうよ」
「うぬぅ……」
エルザはしゅんとなる。エルザは意外と好き嫌いが多くて、グリーンピース、ニンジン、それとピーマンが特に苦手みたいだ。
魔王様なんだけど、味覚が子供舌なんだよね。
「……そんなに私に野菜を食わせたくば、お前自身が食べさせればよいのではないか?」
「へ?」
「あー一理あるわね。絶対抵抗しちゃダメよエールザ?」
ミスティもにやにやしながら煽ってくる。エルザは期待の眼差しで僕を見つめていて……すんごく恥ずかしいんだけど。
パンにグリーンピースとニンジン、それにオムレツをのっけて、エルザの口に放り込む。
苦手な物を食べさせられて渋い顔をされるけど、すぐにご機嫌な顔になる。可愛すぎるでしょこの魔王……。
「むぅ、やっぱり苦手だが……お前が作ってくれた料理を無駄にするわけにもいくまい。この方法でなら食べてやってもいいだろう」
「ミスティさんが見てるんだけど……」
「あ、私は気にしないで。むしろガンガンやって。そんだけでパンをガツガツ食えるから」
なぜかミスティは僕らを眺めながらパンをかじっている。ミスティは僕らを煽って、こうした行為を強要する事が多いんだ。
……これ何のプレイなの?
◇◇◇
「よう、来たな」
ギルドに行くと、ロイドが迎えてくれた。何枚かの依頼書を持っていて、今日の仕事を選んでくれたみたいだ。
「今日も粒よりな仕事が出ていたから、先に確保しておいたぞ」
「ありがと。さて、どれから手を付けましょうかね」
仕事はミスティとロイドに任せている。僕らよりも経験豊富だから、仕事の選択は二人に任せておけば間違いない。
僕らは二人の期待に応えられるよう、全力を尽くすだけだ。
でも、その前に気になる事があるな。
「お二人とも、武器の整備はどうしますか?」
「問題ないぞ。毎日ちゃんと手入れしてるからな」
「私もシュウ君が整備してくれてるから、前より調子がいいくらいよ」
二人は武器を見せた。ミスティはオーガボウ+48、ロイドはグレートソード+54。どちらも見事な得物だ。
武器や防具には練度が存在している。名前の後についている+と数字がそうだ。
武器防具は練度が一つ上がる度、性能が五パーセント上昇していくんだ。練度を上げるには鉱石などの素材が必要で、鍛冶師に鍛えてもらって向上していくんだよ。
シルバーランクまでの冒険者だと大体+20がせいぜいだから、二人の武器は相当な業物に鍛え上げられていることになる。
でも、見た感じ……ちょっとガタが来てるみたいだな。
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「お二人とも、武器を僕に預けてもらえませんか? これまで手にした素材で、もっと武器を強化できるかもしれません」
「練度の向上もできるのか?」
「はい。どうしますか?」
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