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10話 虐げてきた者達の末路
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「ちくしょう、どうなってんだよこれは!」
今日、雑魚敵を前に逃走するのは、これで十回目だ。たかだかコボルトの群れごときに大敗を喫し、勇者パーティが撤退するなんて……とんだ笑い話だ。
この一ヶ月というもの、俺達勇者パーティの名声は落ち続けていた。
魔王軍からの攻撃が苛烈になったってのもあるが、ダンジョンを捜索するにも、モンスター討伐をするにも、全ての効率が悪くなっていた。
それまで楽に倒せていたはずのモンスターが妙に強くなり、歯が立たない奴が増えている。ダンジョンも変に難度の高い場所が増えて、攻略失敗を重ねていた。
「どれもこれも……お前のせいだぞリッド!」
「ええ!? あっしのせいですかぁ!?」
シュウの代わりに入った探索者、こいつが本当に使えない。
荷物持ちをやらせても「そんなに持てない」だの、飯作らせても「これっぽっちの予算と食材で作れない」だの、我儘ばかり言ってろくに働きやしない。戦闘もアサシンとして中途半端な能力しかないから足手まといだし……!
「勇者様ぁ、まだコボルトが追ってきますぜ! ひぃふぅみぃ……数え切れないですぜ!」
「ええいラクト! お前は戦士だろ、盾になって進撃を防げ!」
「無理っすよそんなの! 一人で相手できる数じゃない、あんなのに飲み込まれたら死んじまいまさぁ!」
「お前それでもゴールドランクの冒険者か! ドーラ! 結界を張れ! もしくは攻撃魔法で足止めしろ! お前は魔法使いの名家出身だろ、それくらいやってみろ!」
「もう魔力がありませんわ、それより私をおぶってくださいまし、魔力が尽きてもう動けないんですの……」
「ああもうどいつもこいつも! なんだってこう使えないんだ!」
俺は聖剣ヴァリアントに選ばれた勇者だぞ、国が認めた英雄なんだぞ! それなのに、周りの奴らが足を引っ張りやがってぇ!
「大体、あっしらに指示を出すんなら、勇者様がやりゃーいいでしょう! 勇者なんでしょ、あんな雑魚くらい簡単に倒せるでしょーが!」
「もう魔力がなくなってるんだよ! お前らは俺をフォローする義務があるだろうが!」
「俺達も正直限界なんだが! 勇者であるあんたがフォローすべきだろ!」
「ああもう、本当に役に立たない勇者様ですわねっ」
どいつもこいつも口ばかり、勇者である俺の言う事を聞け、俺がこのパーティの法律! 俺の言う事は絶対だぞ!
―ぐるああああっ! ゆうじゃ、ごろずぅぅぅっ!
「コボルトが凶暴化しましたわ! このままでは全滅ですわよ!」
「ええい、全員全力で逃げろ!」
これでは勇者パーティの名前が汚れるばかりだ、どうすればいい!
◇◇◇
「また勇者を取り逃したのか? この屑が! 何のために貴様に金を出していると思っている!」
部下からの報告を受け、俺は憤った。
エルザを追い返し、四天王から魔王に昇格したこの俺サガであるが、運営は上手く行っていない。
エルザが撤退後、政治方針を軍拡にシフトし、隣国侵攻への足掛かりを造るはずだった。
軍備増強のために国家総動員法を制定し、増税と徴兵制度によって民どもを戦力にしようとしたのだが、これに対し反発する者が続出。元老院からも反対された結果、国家総動員法は却下。軍拡の計画はまるで進んでいない。
なぜ分からない、圧倒的戦力で隣国を支配すれば、得られる富は莫大な物になる。そのためならば血を捧げるのが民の義務ではないのか。
「ええい、どいつもこいつも腑抜けばかりか!」
「今日も荒れていますねサガ。また勇者討伐を失敗したようですね」
気付けばローグがやってきている。奴は見下すように俺を眺め、くつくつと笑っていた。
「しっかりしてください、貴方はエルザに代わって魔王となったのです。そのような無様な姿を晒しては、他の者に示しがつきませんよ」
「そんな事は分かっている! マリアとギゼフィルはどうした!」
「貴方の指示で勇者の討伐に派遣されていますよ、お忘れですか? 支持率低迷に焦るのは構いませんが、口に出した言葉には責任を持っていただきませんと」
そう、俺の支持率は魔王就任一ヶ月で大きく下がっている。これを打破するには勇者討伐が何よりの近道と思い手を打っているのだが、成果は思わしくない。
勇者ごときに時間をかけるわけにはいかないというのに……このままでは、俺の地位が危うくなってしまう。
「なんとしても勇者を殺せ! それ以外に俺の地位を守る方法はないんだ、失敗は断じて許さんぞ!」
「御意に。それでは失礼いたします、魔王サガ様」
ローグは皮肉たっぷりに言い残し、去っていく。どいつもこいつもこの俺を馬鹿にして、俺は魔王だ! 全てを支配する者だ! 俺を見下し、馬鹿にする者は誰であろうと、断じて許さん!
勇者討伐にかける予算をより増やし、戦力も増強する必要がある。金と戦力さえかければ、勇者なんぞ簡単に倒す事ができるはずだ。
見ていろエルザ、俺は貴様の生ぬるいやり方なんぞ認めない。
この俺の、力による支配こそが正しいのだと証明してやる。お前の理想なんぞ全部否定して、ごみのように踏みにじって痰を吐きつけてくれる!
対話による和平など所詮、幻想にしか過ぎないのだからな!
今日、雑魚敵を前に逃走するのは、これで十回目だ。たかだかコボルトの群れごときに大敗を喫し、勇者パーティが撤退するなんて……とんだ笑い話だ。
この一ヶ月というもの、俺達勇者パーティの名声は落ち続けていた。
魔王軍からの攻撃が苛烈になったってのもあるが、ダンジョンを捜索するにも、モンスター討伐をするにも、全ての効率が悪くなっていた。
それまで楽に倒せていたはずのモンスターが妙に強くなり、歯が立たない奴が増えている。ダンジョンも変に難度の高い場所が増えて、攻略失敗を重ねていた。
「どれもこれも……お前のせいだぞリッド!」
「ええ!? あっしのせいですかぁ!?」
シュウの代わりに入った探索者、こいつが本当に使えない。
荷物持ちをやらせても「そんなに持てない」だの、飯作らせても「これっぽっちの予算と食材で作れない」だの、我儘ばかり言ってろくに働きやしない。戦闘もアサシンとして中途半端な能力しかないから足手まといだし……!
「勇者様ぁ、まだコボルトが追ってきますぜ! ひぃふぅみぃ……数え切れないですぜ!」
「ええいラクト! お前は戦士だろ、盾になって進撃を防げ!」
「無理っすよそんなの! 一人で相手できる数じゃない、あんなのに飲み込まれたら死んじまいまさぁ!」
「お前それでもゴールドランクの冒険者か! ドーラ! 結界を張れ! もしくは攻撃魔法で足止めしろ! お前は魔法使いの名家出身だろ、それくらいやってみろ!」
「もう魔力がありませんわ、それより私をおぶってくださいまし、魔力が尽きてもう動けないんですの……」
「ああもうどいつもこいつも! なんだってこう使えないんだ!」
俺は聖剣ヴァリアントに選ばれた勇者だぞ、国が認めた英雄なんだぞ! それなのに、周りの奴らが足を引っ張りやがってぇ!
「大体、あっしらに指示を出すんなら、勇者様がやりゃーいいでしょう! 勇者なんでしょ、あんな雑魚くらい簡単に倒せるでしょーが!」
「もう魔力がなくなってるんだよ! お前らは俺をフォローする義務があるだろうが!」
「俺達も正直限界なんだが! 勇者であるあんたがフォローすべきだろ!」
「ああもう、本当に役に立たない勇者様ですわねっ」
どいつもこいつも口ばかり、勇者である俺の言う事を聞け、俺がこのパーティの法律! 俺の言う事は絶対だぞ!
―ぐるああああっ! ゆうじゃ、ごろずぅぅぅっ!
「コボルトが凶暴化しましたわ! このままでは全滅ですわよ!」
「ええい、全員全力で逃げろ!」
これでは勇者パーティの名前が汚れるばかりだ、どうすればいい!
◇◇◇
「また勇者を取り逃したのか? この屑が! 何のために貴様に金を出していると思っている!」
部下からの報告を受け、俺は憤った。
エルザを追い返し、四天王から魔王に昇格したこの俺サガであるが、運営は上手く行っていない。
エルザが撤退後、政治方針を軍拡にシフトし、隣国侵攻への足掛かりを造るはずだった。
軍備増強のために国家総動員法を制定し、増税と徴兵制度によって民どもを戦力にしようとしたのだが、これに対し反発する者が続出。元老院からも反対された結果、国家総動員法は却下。軍拡の計画はまるで進んでいない。
なぜ分からない、圧倒的戦力で隣国を支配すれば、得られる富は莫大な物になる。そのためならば血を捧げるのが民の義務ではないのか。
「ええい、どいつもこいつも腑抜けばかりか!」
「今日も荒れていますねサガ。また勇者討伐を失敗したようですね」
気付けばローグがやってきている。奴は見下すように俺を眺め、くつくつと笑っていた。
「しっかりしてください、貴方はエルザに代わって魔王となったのです。そのような無様な姿を晒しては、他の者に示しがつきませんよ」
「そんな事は分かっている! マリアとギゼフィルはどうした!」
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そう、俺の支持率は魔王就任一ヶ月で大きく下がっている。これを打破するには勇者討伐が何よりの近道と思い手を打っているのだが、成果は思わしくない。
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