捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
9 / 34

9話 新しい門出だ

しおりを挟む
「んじゃ、新人冒険者の加入を祝して、かんぱーい!」
「いえー!」

 ベルゼンに戻ってから、僕達はギルド併設の酒場で宴を開いていた。
 ロイドとミスティの奢りで沢山の料理と酒が並んでいる。気付けば他の冒険者まで巻き込んでの大騒ぎになっちゃった。
 自分が主役になる事なんてなかったから、ちょっと戸惑ってしまうな。こんな時どうふるまえばいいんだろう。

「おいおい、何縮こまってるんだよ。ほら注いでやるから飲めって」
「おとと……こぼれちゃう」

 ロイドからソフトドリンクを注いでもらった。こんなに歓迎されて、いいのかなぁ。
 エルザも緊張しているのか、ジュース一杯で終わらせていた。

「やぁやぁ始めているようだね。君たちの事は聞いたよ、随分な活躍だったそうじゃないか」

 しれっとギルドマスターが話に入ってきた。
 マスターはじっと僕を見つめて、口の端を持ち上げる。この人、僕の心を見透かしているような気がして少し苦手だな。

「崖崩れに巻き込まれても無傷とは、悪運も兼ね備えているようだね。これは将来有望な若者だ」
「どうも……」
「おいマスター殿、やらしい目でシュウを見ないでもらおうか。怯えているであろう」

 エルザが庇ってくれた。マスターは顎を撫でると、片目を閉じた。

「君たちには期待しているよ。特にシュウ君、君には大きな期待をさせてもらうよ」
「はぁ……」
「見つけた! こらマスター! まだ仕事終わってないんですよー!」
「おおっとまたまた見つかった! それでは諸君、またのーっ」

 ギルドマスターはすたこらさっさと逃げてしまう。剽軽なんだか、本当に只者じゃないのか、よくわからない人だな……。

「でもほんと、二人とも予想以上の実力だったわね。エルザの魔法はそこらのウィザードなんか目じゃないし、シュウ君もすごく優秀な探索者だし。これは今後の仕事が楽になるわ」
「私達の力を認めてくれて感謝する。できる限り、足手まといにならぬよう努力しよう」

 そう話すエルザはどこか不安そうだった。
 実の所、僕も不安で仕方がない。何しろ僕達は……互いに裏切られ、捨てられた経験がある。こうした集団に所属するのに、拭いきれない恐怖があるんだ。

 今は優しくても、後でアースのように横柄な態度をとったりしないか、四天王みたいに襲ってこないか。猜疑心でいっぱいになってしまう。
 特に、この数日は凄く楽しかった。人生で一番と言えるくらい……。

 僅かな希望を見せられてからの裏切りは、心に二度と治らない傷を作るんだ。だから、ロイドとミスティ、それにエルザが……万一裏切ったりしたら僕は……きっと立ち直れない。

「震えているのか」
「え? あ……はは、なんでもないよ」

 困ったな、人の輪に入りたいのに、いざ入ろうとするとしり込みするなんて。
 この世で一番恐いのは、モンスターなんかじゃない。人の心だ。

「……シュウよ、お前の考えている事がなんとなくわかる。私もお前と同じ目に遭った者だ、私もこの中の誰かが裏切るかと思うと、不安で夜も寝れなくなる」
「エルザもなの? 魔王だったのに」

「魔王だからこそさ、頂点に立つ者ほど孤独な存在はない。魔王の地位を狙って、幾人も甘言や謀略を用いて私を責め立て、その結果が追放だ。とても誰かを信じる気にはなれん。だがな、私はお前だけは、信じる事ができる」
「えっ?」

「お前はあの洞窟で、行き倒れていた私を助けてくれた。私を助ければ全てを敵に回し、何の得にもならないのに。あの時お前がくれた優しさを、私は決して忘れられない。だからこそ誓おう、私はお前がくれた優しさを、絶対に裏切りはしない。例え世界の全てが裏切ったとしても、この私だけはお前の味方であり続けると誓おう。もしまた一人で苦しむ事があれば、迷わず私を頼れ。一人より二人の方が、苦しみが小さくてすむだろう」

「……それは、本心?」
「私の心からの言葉だ。僅か一週間ほどだが、共に過ごした者の言葉が信じられないか?」

 エルザと過ごしたのは、確かにほんの一週間だけだ。
 でも彼女は、ずっと僕を励まし続けてくれた。不安に押しつぶされそうになった僕に寄り添ってくれたし、僕が危険な目にあった時には、誰よりも心配して一番に駆けつけてくれた。
 うん、間違いなく、今の僕にとって最も信用できる人だ。

「ねぇシュウ君、君は前のパーティでどんな扱いを受けていたの? 聞く限りじゃ、ろくでもない奴の下で働かされていたみたいだけど」
「それは……」
「そいつらの事もあるから、俺達も簡単には信じてくれないみたいだな。けどおかげで、君の行動の理由がわかったよ」

「何か、変な事しましたっけ?」
「異常なまでの献身的な態度だよ。君は積極的に仕事をするけど、勝手に斥候へ向かったり、自分の身を無視して行動する事がある。まるで自分で自分を傷つけるようにね」
「周りから酷い目に遭わされすぎて、それが当たり前になってしまっているのね。でもね、そんな事をしても誰も喜ばない。もっと自分を大事にして、お願い」

 ……自分を大事にするなんて、考えたこともなかったな。
 家族が居なくなってから、村から追い出されて、勇者達から奴隷のような扱いを受けて……僕を心配したり、大事にしてくれる人は、誰もいなかった。

 だからいつの間にか、僕はこう感じていた。僕なんか生きる価値なんかないんだって。それでも誰かに僕を覚えてほしかったから、認めてもらいたかったから、自分を犠牲にしてでも頑張ろうって思うようになったんだ。

 けど、エルザもミスティもロイドも、皆僕を心配してくれている。僕が傷ついて、悲しんでいる。

「僕は、ここに居ていいんですか?」
「何言ってるんだ、当たり前だろ」
「僕はちゃんと役に、立っていますか?」
「とてもね。貴方のおかげで凄く助かったもの」
「……僕、生きていて、いいんですか?」
「ああ。お前は私に必要な男だ。シュウ」

 思わず僕は、泣いていた。
 誰からも必要とされなかった僕の、初めての居場所ができた。初めて誰かに、認められた。ただそれだけの事が、こんなにも嬉しいだなんて。

「さぁシュウ! 今日は我らの新たな門出だ、存分に楽しむぞ!」
「うん! 乾杯だ!」

 明日から、きっといい日が続く。僕は未来への期待に胸を膨らませていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...