捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

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5話 初仕事で悪目立ち

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 考えれば、エリクサーって貴重な霊薬だったよね。驚くのも当然か。
 勇者パーティに居た頃は当たり前のように作らされていたから、感覚がマヒしていたなぁ……今後は自重しないと。

「なぜアースはエリクサーを作れる探索者を放逐したのだ、理解できん」
「アースって人の話を聞かないからさ、ずっとポーションだと思ってたんだよね。彼らにしてみれば、普通よりよく効く薬程度にしか感じて無かったんだと思うよ」
「豚に真珠だな。時にシュウよ、荷物は重くないか? 私が代わってもいいぞ?」
「大丈夫だよ、心配しないで」

 僕は丸くなった鞄を背負いなおした。荷物持ちならずっとやってきたから慣れっこだ、時にはこれ以上の荷物を持たされたこともあったし、むしろ軽く感じるよ。

「なんか悪いな、アイテム係を任せちまって。その分戦うのは俺達に任せておきな、絶対守ってやるからさ」

 ロイドは背中の剣を示して、白い歯を見せて笑った。自信に満ちていて、人を安心させる人だな。

 改めて二人の装備を見てみる。ロイドの武器はグレートソード。身の丈を超える刀身が目を引く、重量で叩き壊す武器だ。小回りが利かないのが弱点だけど、籠手は格闘戦に耐えられるよう頑強な造りになってる。懐にもぐりこまれても打撃戦に切り替えられるようにしているんだ。

 ミスティはオーガボウ、見たところ最大飛距離は百メートルを超える武器だ。腰には矢筒の他にも薬品やアイテムが下げられているから、矢に付けて相手に色んなデバフを与える戦い方をするんだろうな。接近された時のサブウエポンに大型のナイフも装備してる。

 二人とも色んな状況に対応できるよう、装備に工夫を凝らしてるんだな。

「これから受ける依頼は、二人の力を見る意味もあるから、頑張ってね。ほら見えてきた」

 ミスティが示したのは、森の中にある洞窟だ。入口には緑の肌を持つ小鬼のモンスター、ゴブリンが見張っている。
 ギルドで受けたのはゴブリン退治の依頼で、アイアンランクの冒険者が最初に受ける、チュートリアルと呼ばれている依頼だ。

 といっても、簡単な仕事でもない。ゴブリンは下級モンスターだけど、徒党を組んで数で襲ってくる。いくら弱くても、無数の魔物に襲われたら、シルバーランクの冒険者でもひとたまりもない。油断してはいけない依頼だ。

「エルザ、心の準備は大丈夫?」
「なんの問題もない。ようはあいつらを根絶やしにすればいいのだろう?」
「簡単に言うけど、結構難しいわよ。油断した新人冒険者が何人も死んでいった姿を私、何度も見てきたもの」
「難しくなどないさ。ようはあの洞窟もろとも消し飛ばしてしまえばいいのだから」

 エルザが指を立てるなり、ブォン! と紫電を纏った黒い球体が作り出された。
 物凄い魔力を圧縮したボールを放り投げ、洞窟に当たるなり……地響きとともに深い闇の柱が立ち上がった。
 空まで届く高い柱に僕達は唖然とする。直上の雲を払い飛ばし、余波で木々が何本も倒れた。
 闇の柱が消え去ると、そこには……何もない。洞窟はもちろん、ゴブリン達は骨も残さず消滅していた。

「今の……何?」
「魔法だが。何をそんなに驚いている?」
「いや……あの……その……」

 そういや……エルザって、魔王だったっけ。魔王ってことはつまり、僕達の中では最強の存在ってわけで……。

「もしかして私、何かやってしまったか?」
『やっちまったなぁ……』

 明らかなるオーバーキル。犠牲になったゴブリン達、本当に……ごめんなさい。

  ◇◇◇

「どうなってんだミスティ、お前が拾ってきた奴ら、当たりなんてもんじゃないだろ」
「私も予想外の拾い物だわ。あんな凄い魔法見た事ないわよ」

 ギルドに戻って報告をしている間、僕達の話でもちきりだった。
 そりゃそうか、かたやエリクサーを量産できる探索者、かたや異常な魔法を使うウィザード。話題にならないほうがおかしい。

 互いに前いた環境が環境だったもんな、気を付けないと変に目立っちゃうよ。

「エルザ、今後は変に力を使うのは控えよう。僕達はそれぞれ知られちゃよくない組織に所属していたから、あまり暴れまわると勘繰られちゃうよ」
「そうだな……すまない、少々やりすぎた」

 エルザはしゅんとしている。魔王として力を使っていたから、加減がわからなかったんだろうな。

「けど、凄い魔法だったね。他にも使えるの?」
「うむ、見ているがいい」

 エルザは喧嘩し始めた冒険者の足元に指を向けた。
 そしたら、ビームが飛び出した。チュチュインと金属音がして、床が撃ち抜かれる。
 さらに指先から魔力で作った円盤を出し、冒険者の装備を切り裂いて素っ裸にしてしまう。見た事も聞いた事もない魔法が次から次へと飛び出していた。

 ……飛び火を受けた冒険者さん、ほんとすいません……。

「こんなものだろう。まだまだ引き出しは多いぞ」
「凄いな。僕は魔法使えないから、尊敬しちゃうよ」
「別にこのくらい、誰でも出来る。そう大したものではない」

「ううん、僕達人間じゃ到達できない技術だよ。勿論、そのレベルに行きつくまで相当な努力を重ねてきたんだと思う。エルザのそうした過程も含めた全てを、僕は尊敬するよ」
「そ、そうかそうか……悪い気分ではないな……!」

 エルザは腕を組んでもじもじしている。褒められたのが嬉しいのか、頬が赤く、緩んでいた。
 きっと、誰からも褒められた事とかなかったのかもしれない。魔王だから出来て当然って感じで、無視されていたんだろう。

 そう思うと、無意識に背伸びして、エルザの頭に手が伸びていた。気付くころにはすでに遅し、彼女をなでると、硬直してしまった。

「ごめん、体が勝手に、えと……」
「ん、んんんんんんんん!!??」

 エルザは頭から湯気を出して、ギルドの壁を粉砕しながら飛び出してしまった。
 しまった、失敗した。こんな調子で彼女と一緒に居られるのだろうか……。
 魔王との生活って、大変なんだなぁ……。

  ◇◇◇

「なぁミスティ、あいつらって……」
「うん、私が拾ったのもわかるでしょ」
「とてもよく。ああありがたや青春の一ページ」
『神よ、尊き者達をどうもありがとうございます』

 一方その頃、同好のコンビが両手を合わせて感謝の念をささげていた。
 ロイドとミスティの趣味、それは「いじらしき者の観察」である。
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